料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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仮面のメイジ再び

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「盾役、やれよ!」

 ピーターは覇気の無くなったサーカに怒号を飛ばす。しかし、サーカは木を背にして膝を抱えて座ったままだ。

「チッ! これだから、お嬢様は! この人数を俺一人にやらせるのか!」

 追手である五人の神殿騎士相手に、盗賊が真っ向勝負で敵うわけがない。このままサーカを捨てて逃げるか? と心のどこかで声がする。

(いや、俺はもう逃げねぇぞ。これまで、逃げずに生きてきた事があったか? ないだろ?)

 虚言癖、盗み癖が酷く、利己的で欲望に忠実。そんな自分を捨てた親もまた、俺から逃げていたのだ。

 逃げてばかりの一族。自分をその一族の一人にした運命の神を、ピーターは呪う。

「負の連鎖は、俺で終わりだ!」

 リュウグから貰ったかんしゃく玉をポーチから取り出して、神殿騎士のいる手前で破裂させる。

 閃光と小さな爆発に神殿騎士が気を取られた間に、ピーターは自分の影に潜った。そしてすぐに、騎士の影から現れて、上鎧と腰鎧の隙間に、刺突武器を差し込む。

「ぐあぁ!」

 悲鳴を上げて苦しみ悶える仲間を見た神殿騎士の一人は、ハルバードを捨て、剣でピーターに襲いかかった。

 こうなってしまっては、盗賊は無力だ。対面の戦闘は例え格下相手であっても、絶望的なのだ。

「ひぃぃ!」

 影に潜む間もなく、ピーターは逆手に持った刺突武器で、剣を往なして躱す。そこに他の神殿騎士の持つハルバードが突き出された。

(くそ、ここまでか!)

「ンンンッ! 【氷の壁】!」

 ピーターの周りを分厚い氷の壁が覆って、神殿騎士達の一突きが弾き返された。

「うわ! あの時の仮面野郎!」

 いつぞやの刺客が、透明な氷の向こう側で歪んで見える。

 シルクハットを被り、感情を映す仮面を装着し、黒マントで体を覆うメイジが、そこにいた。

「キリマルのッ! 気配を追うとッ! 必ずやッ! この時代に来てッ! しまうんごッ!」

 奇妙なポーズを取りながら、意味不明な事を言うメイジを、神殿騎士は取り囲んだ。

「貴様! 何者だ! ローブを着ていないということは、はぐれメイジか?」

「いえ、吾輩はッ! 善良なるメイジ。ローブは、アイテム枠を少なからず占領するのでッ! 着ていないだけでんすッ! んバッ!」

 仮面のメイジ、ビャクヤはマントを振り払い、ビキニパンツ一枚の姿を晒した。

 黒いビキニパンツのすぐ上には魔法を帯びたベルト、腕には魔法の腕輪、そして全ての指には、魔法の指輪がある。首にも魔法の首飾りがいくつもあった。膝上まである黒いブーツも、何らかの魔法を帯びている。

「変態、と言いたいところだが、こいつはかなりの実力者だ。どうする?」

 魔法の武器防具も実力の内とされるこの世界で、これだけの装備を見せつけられれば、騎士たちも怖気づく。

「しかも魔人族。オーラは闇色。化け物だ・・・。撤退して、宗教庁に報告だ」

「吾輩がッ! あなた達をッ! このまま逃がすとッ! お思いかッ!」

 横を向き、人差し指だけを騎士に向けて、爪先立つ魔人族は、クックックと笑いながらゆっくりと顔を向ける。

「弱き者はッ! 立ち去れィ!」

「どっちだよ!」

 氷の壁の中から、思わずピーターがツッコむ。

「きょ、狂人め!」

 神殿騎士は鎧の下で、大量の汗を流しながら、捨て台詞を吐いて逃げ出した。

 ピーターが安堵して、へたり込むと氷の壁が砕け散る。

「た、助かったぁ~」

 背骨が折れそうなぐらい仰け反った魔人族が、額の汗を拭うピーターを指差している。

「貴方ッ!」

 咄嗟にピーターは「やべぇ」と心の中で叫んだ。以前、このメイジから魔法書を盗んだからだ。その魔法書も使ってしまい、今はもう無い。

「キリマルと関わりが深いですねッ?」

 そんな事かと胸を撫で下ろして、ピーターは逆ギレする。

「あんな化け物と、関わりが深くてたまるか!」

「ンンンッ! それはそうでしょう! 彼は人殺しが大好きですからねッ! だがしかし! 貴方からはッ! キリマルの匂いがしまんすッ!」

 いつの間にか自分の耳元でスーハースーハーと匂いを嗅ぐビャクヤに、ピーターは寒気が走った。

「わぁぁ! きめぇ! 離れろよ、変態仮面!」

「貴方がッ! 泣いて謝るまでッ! 吾輩はッ! 離れまてん!」

「なんで泣いて謝らなければならないんだよ! あまり俺を見くびるなよ! 俺はキリマルに、一撃を食らわせた事があるんだぞ!」

 精一杯邪悪な顔で、ピーターは虚勢を張った。威嚇スキルを上乗せして。

「ヒィィッ!」

 ビャクヤは、ブリッジの体勢で驚いている。いや、本当に驚いているのかどうかわからない。狂人のやることは理解不能だ。

「あのッ! キリマルに?!」

「そうだ! 俺がやった! 俺が俺が俺が俺が!」

 ブリッジの体勢から跳ね起きて、ビャクヤはビシッとピーターを指差した。

「ではッ! 邪悪なるピーター君! 吾輩はッ! 暫くッ! 貴方と行動を共にしたいと思いますッ! 多分、キリマルはッ! 貴方のことをッ! 気に入ったでしょうからッ! また貴方のもとにッ! 影のごとくッ! 現れると思いまんモスッ!」

 変なのが一時の仲間になったなぁと、ピーターは眉をひそめる。

(しかし、待てよ・・・?! こいつ頭おかしいけど、キリマルと知り合いだ! って事は!)

 アンテナのようなアホ毛をピーンと立てて、ピーターはサーカに声をかけた。

「サーカ! オビオを生き返らせるチャンスが巡ってきたぞ!」

 膝に顔を埋めていたサーカが頭を上げて、ピーターのもとに駆け寄って来る。

 期待と疑いの混じった表情で、サーカは地走り族の両肩を掴んで揺さぶった。

「本当だろうな? どうやって生き返らせる?」

「あいつだよ! 人修羅のキリマル! 矛盾の悪魔!」

 脳が揺れて、ピーターは白目をむきながら答えた。

「どこだ? どこにいる? 変態メイジしか見当たらないが?」

「変態メイジが言うには・・・」

「変態とは失敬な! ビャクヤ! 我が名はビャクヤ! 現世と幽世の間で生きるッ! 過去からやってきたッ! 時の旅人!」

 色々なポーズをして、最終的にガニ股でアヘ顔ダブルピースに落ち着いたビャクヤの自己紹介を聞いて、サーカの顔から見る見る生気が失われていく。

「狂人の戯言に・・・。付き合うつもりか? ピーター」

「でも、このビャクヤってメイジ、キリマルの知り合いだぞ!? な?」

「うむッ! 吾輩こそがッ! 実力値666の人修羅の支配者にしてッ! 契約者なりッ!」

「だったら、キリマルに頼んで、この指からオビオを蘇らせるってのも、簡単な話だよな?」

「そんな事ッ! お茶の子さいさいッ!」

 二人のやり取りを見ていたサーカは、また座って俯いた。

「嘘くさい・・・。変態、一緒に来たいなら好きにしろ。私は一度樹族国に戻る。シルビィ隊長にこれまでの事を、報告しなくてはならないしな・・・。あの方であれば、現人神様に頼んで、オビオを生き返らせてくれるかもしれない。それにしても、樹族国は遠い・・・」

「で、でもさ。オビオはヒジリ様にあまり頼りたくなさそうだったじゃん。ウメボシに見つかると、祖国に帰されるとかなんとか言ってなかったか?」

「そんなものは、奴の中二病設定だ! そこの狂人と同じくな! あいつは、どこぞの国の、坊っちゃんオーガだ」

 相変わらず、膝に顔を埋めるサーカは、下着が見えるのもお構いなしで鼻を啜った。

「樹族の騎士のッ! 純白の下着にかけて! 吾輩はッ! 狂人ではないッ! 取り敢えずッ! 樹族国にゆけば良いのでしょう? ならばッ! テレポーテーションぬッ!」

 いきなり転移魔法を発動させたメイジに驚いて、顔を上げたサーカは、自分が既にアルケディア城の前にいることに気がついた。

「馬鹿な! いともたやすく樹族国の転移結界を突破するなんて!」

 立ち上がったサーカは、これが夢ではないのかと自分の頬をつねり、現実であることを知る。そして、仮面のメイジの常人離れした魔力に心底恐怖した。
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