料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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旧友

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 馬上から魔法の鉄球で敵をなぎ倒しながら、ムダンはやはり落胆する。

「なんと戦い甲斐の無い相手か。神殿騎士は槍の扱いには長けているが、それだけだ。メイジも魔法の練度が低く、簡単にレジストできてしまう」

「ひぃ! 父上! お助け!」

 背後で息子の悲鳴が聞こえた。振り返ると、神殿騎士のハルバードに必至になってロングメイスで応戦するガノダが見える。

「はぁ・・・。ガノダに加勢せよ! 大胆なる鉄球!」

 ムダンがそう叫ぶと、前方に鎖を伸ばしていた鉄球が、急に向きを変えてガノダのいる場所まで飛んでいき、神殿騎士を打倒した。

「部屋で揚げじゃがいもばかり食べているから、こうなるのだぞ」

「すいません、父上」

「お前も、この魔法の武器を手に入れられるだけの実力があればな」

「狂った魔法使いの住むダンジョンの9階に潜らないと見つからないような魔法の武器を探すなんて、僕には到底無理ですよ」

「それにしても・・・」

 ガノダは周囲を見渡し、またもやため息をつく。ガノダ騎士団が次々と敵を叩きのめして、自分の戦う相手が見つからない事に残念がったのだ。

「砦の戦士達が懐かしい。寧ろ愛着が湧いてくる程に」

 グランデモニウム王国の戦士ギルドの一団、砦の戦士。オーガで構成されており、ツィガル帝国のエリートオーガにも負けない実力の持ち主達。

 そんな彼らと、かつて死闘を繰り広げたのは今は昔。グランデモニウム王国と休戦状態になって、もう二十年は経つだろうか? 樹族の騎士団に痛手を与えた軍師ナンベル・ウィンに、未だ一矢報えていない。

 それどころか、こんな素人達を一方的に嬲っている自分が恥ずかしくなる。

「とはいえ、ケジメはケジメ。家臣であるカズン家の娘と、ウォール家の所有物に手出しをした責任は、とってもらわねばな。・・・それにしても、カズン家か」

 カズン家には跡継ぎがいない。サーカの祖父カズン・カズン子爵が死ねば、領地は没収となる。そこでサーカの母親はジブリット伯爵の妾となり身籠ったが、生まれた子供が女だった。

 それで短気な伯爵に全てを反故にされ、妾の立場を失ったサーカの母親は気が狂い、今はカズン家で療養しているのである。

「あの娘も気苦労が絶えなかっただろう」

 サーカ・カズンの後見人となった今、ムダンはガノダをカズン家の養子にしようと考えている。つまり結婚させようと考えているのだ。

「この四男坊の居場所が見つかって良かった。同期のシルビィ・ウォールのように数々の武功を上げるでもなく、ステコ・ワンドリッターのように、貴族として騎士としての才能があるわけでもなく・・・」

「何か言いましたか? 父上」

「なんでもない。敵は殆ど倒してしまったようだな。これより、カク・カクイがいる教会に向かう。各自馬を進めよ!」

 ――――クハハハ!!

 突如、しわがれた声が辺りに響く。

 転移の魔法陣が、ムダンの騎士の近くの地面で光り、そこから身長が三メートルはあろう悪魔が浮かび上がってきた。

「これまで上手く行き過ぎていたんだ・・・」

 ガノダが恐れ慄いて、呟く。あまりに敵が弱すぎて、裏があるのではないかと勘ぐっていたが、それが現実となった。

「悪魔か・・・」

 ムダンは悪魔のオーラを見極める。

「魔法はあまり得意ではないようだな。オーラは黄色。あの悪魔が何者かわかるものは?」

「グレーターデーモンでは?」

 騎士の一人が答える。

「グレーターデーモンなら、オーラは赤い。魔法も得意とするからな」

「では格下のレッサーデーモンかもしれません」

 目に希望を宿して、あの悪魔が弱い格下だと期待する若い騎士に、ムダンは首を横に振った。

「姿形が違う。それに奴から放たれる絶望のオーラを感じよ。恐怖で徐々に戦意を失くす者もいる」

 実際、ロングメイスを馬上から落として、失禁する騎士もいた。

「あれは厄災レベルの悪魔だ。田舎司祭がどうやって、あのような悪魔を使役しているのはわからんが、死を覚悟せよ、ガノダ」

「ひぃぃぃ!」

 下膨れの顎を震わせて、ガノダは神に祈る。

「せめて、童貞を卒業してから死にたかった・・・。どうか、美女を抱いてから死ねますように」

 樹族の神がそれを聞き入れる事は恐らくない。かの名無しの神は、厳格で冷徹な性格をしていると言われているからだ。

「お前らぁ! 抗え! 抗って俺様を喜ばせろ! 俺様は反逆と矛盾の悪魔! 俺様に傷一つでも付けた奴は生かしておいてやる!」

 ハンマーのように長い頭の黒い悪魔は、両手を大きく広げて、長い爪を伸ばして喚く。

「ならば! 我こそは! ムダン・ムダン! 反逆と矛盾の悪魔よ! 名を名乗れぃ! 一騎打ちを所望する!」

 ムダンの名を聞いて、悪魔に動揺の気配をガノダは感じた。

「なに? ムダン家だと・・・? やりやがったな! 運命の神ヤンスめ!」

 わけのわからない事を言う悪魔に、ムダンは今一度言う。

「名乗れ!」

「いいだろう。俺様の名はキリマル! 人修羅のキリマルだ!」

 戦意を失ったムダンの騎士を無視して、悪魔は跳躍し、ストンとムダン侯爵の前に立った。そしてガノダに顔を向ける。

「久しぶりだなぁ。ガノダ。お前との冒険の日々は楽しかったぜ、おデブちゃん。あの頃と全然変わってねぇじゃねぇか。シュラスの息子を殺しにいったのを覚えてねぇか?」

 ムダンは驚いて、息子を見る。まさか悪魔に知り合いがいるとは思わなかったからだ。

「えっ? はっ? そ、それは極秘任務だったはず。父上も知らないのだぞ。それを知っているのは・・・。あの時の樹族の剣士か?」

「そうだ。俺様はシュラスに頼まれて息子殺しの任務についてたんだよ。姿を樹族に変えてな。結局、シュラスの弟と妹を殺す羽目になったが」

「あ、あまりべらべらと喋らないでくれたまえ。父上の前だ」

 ムダンの鋭い視線に怯えながらガノダは、死が遠ざかっていくような安堵感を取り戻しつつあった。この悪魔がかつての冒険仲間だとしたら、交渉の余地はある。

「な、なぁ。キリマル。カクイとはどういう条件で、君と契約したんだい?」

 キリマルは言うべきかどうか迷ったが、自分の望みの可能性を広げる為に喋ることにした。

「呪い解除のマジックアイテムを、俺様は欲したんだわ」

「だったら、魔法具店にでも行けばあるだろう? 少し値は張るが。それだったら僕が金を出すよ」

「その程度なら俺様にも買える。そうじゃねぇんだわ。もっと強力な呪いでな。事象を曲げる魔剣を俺様は持っているのだが、それは暗黒騎士か俺様ぐらいしか持てねぇ。それ以外が持つと、強烈な狂気に侵される」

「だったら、僧侶に頼んで・・・」

「それも無駄だった。だからよぉ、ありとあらゆる狂気を取り除く、強力なマジックアイテムが必要なんだわ」

「その呪いを受けた者は、今も狂気に苛まれているのかい?」

「いいや。呪いは・・・。腹立たしい事にヒジリの奇跡で解けた」

「だったら、二度と魔剣を触らせなければいいじゃないか」

 息子の言葉にムダンも頷く。

「魔剣を封印しておけばよかろう」

 すると悪魔は、腰の横に浮く刀をトントンと指先で叩いた。

「こいつは俺様から離れねぇ。どんなに遠くにいようが、飛んでくる。それにビャクヤは、その時の最善の行動を躊躇なくする奴だ。またいつ魔剣天の邪鬼を手に取るかわからん」

 仮面のメイジ、ビャクヤの名前が出てきたので、ガノダもムダンも驚くが、今は交渉を優先する事にした。

「じゃあ、またヒジリ様に呪いを解いてもらうとか」

 ガノダがそう言うと、悪魔の体中にあるひび割れから、赤い光が発せられた。

「ふざけるな! 俺ぁ、あいつが大嫌いなんだよ。そのうちシバキにいくつもりだ」

 現人神は悪魔に対して六倍のダメージボーナスを持つと噂で聞いた事がある。いくらキリマルが強くても、勝ち目はないと思いつつも、ムダンは自分の知識の底を探った。

「影人・・・。呪いを治すアイテムではないが、影人なら時間を巻き戻すアイテムを持っていると聞く。それなら狂気に侵される前の状態に戻せるのではないのかな?」

「なにッ?!」

 驚くキリマルの開いた口からサメのような牙が見えた。

「それに策略ばかり巡らすカクイが、キリマル殿の望みを聞くとは思えないのだがな」

「つまり、あの司祭はアイテムを持っていないと?」

「事象を曲げる魔剣に匹敵するアイテムを、そこいらの司祭が持っていると思うかね?」

 ムダンは黒に近い緑色の立派な髭を撫でて、片眉を上げる。

「う~む。やっぱ持ってねぇ気がするなぁ。だが契約は契約だ。お前らには死んでもらわねぇと。その後、事実を確かめりゃあいい。嘘だったら、あの四角い顔を細切れにする」

 ここでムダンの息子、ガノダはニヤリと笑った。

「契約は、ムダン騎士団を全滅させる事だろう? 全滅させた後の事は?」

 それを聞いて、キリマルが頭を空に向けて笑った。

「クハハハ! 何も聞いてねぇな」

「つまりムダン騎士団はでいいんだ?」

「そういう事だな。さぁお前ら。首を差し出せ。死は一瞬だ。五分後にはお早う御座います、だな」
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