料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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優しさが人を殺める

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 日本茶で喉を湿らせたビャクヤは、味が気に入らなかったのか、仮面の表情が微妙だった。

「んん、では。まずはどこから話しましょうか。ああ、そうだ。星のオーガであるオビオ君ならばッ! 多次元宇宙論を知っているので解ると思いますがッ! ズバリ申しますと、我々はこの宇宙の住人ではありませんヌッ!」

「そうだったとしても別に驚かないよ。異世界人がいるこの星では」

 俺は当然だと思ったのでそう答える。他のメンバーも特に驚いた様子はない。何せ霧の向こう側から魔物や人が来る世界だからな。

「いやッ! 厳密に言えばッ! 我々はッ! この宇宙内の人間なのですがッ! この宇宙内で創造されたッ! 実体を持った幻だったと言うべきかッ?!」

 ちょっと何を言っているのか、わからないな。

「こまけぇこたぁいいんだよ、ビャクヤ」

 キリマルがチマチマと羊羹を齧りながら言う。

「そうですねッ! まぁ簡単に言うならばッ! かつて、この世界の物語を綴るペンと、本と、消しゴムがあったとしましょう。我輩やキリマル、そしてッ! あなた達はッ! その本の物語に出てくる登場人物だったのですッ!」

「馬鹿を言え」

 サーカが目をぐるりと回してから呆れて、話に関心を持たなくなった。

「別に信じなくても構いませんがッ! この話は心の隅っこにでもッ! 留めておいて下さいッ! そのペンと本と消しゴムは意思を持っておりッ! 書き込んだ内容がこの宇宙に影響しまんすッ! しかし、彼らは中途半端に意思を持っていた存在だった為、遂には心が疲れ果ててしまいましたッ! なんつたって本のページは有限で、最後まで書き込むと、また1ページ目に戻るのですからッ!」

 ビャクヤの喋り方は帝国訛りが酷く、時々言葉がおかしいので、話の内容を頭で咀嚼するのに時間が掛かる。

「それじゃあ、ページはいつか真っ黒になるじゃねぇか」

 トウスさんが、俺の思っていた事を代弁してくれた。

「そうならないように、消しゴム役の人がいるんだろ?」

 ピーターはビャクヤの話を疑ってなさそうだ。

「いやっ! 話はそんなに単純ではないのですがッ! まぁ消す役目だったのは確かにそうです。しかし彼女はッ! 役目を果たそうとしなかった。 この世界の人々が気に入っているとかでッ!」

「優しい人だな、その人」

 俺がそう言うと、ビャクヤは溜息をついて首を横に振った。

「はぁ~。まぁ、そうなのですがッ! 中略ッ! なんやかんやありましてッ! 結局彼女――――、Qはッ! 本が作りだした世界を消す事にしたのですッ! 彼女自身はッ! 別宇宙にッ! 転生して逃げてッ!」

「ずるーい!」

 ムクが怒って、ベッドの上で脚をジタバタさせている。

「だがしかしッ! ペンの物語を具現化させし本がッ! それを許しはしませんでしたッ! なんと! 虚無に消えゆく本の世界にッ! 彼女をッ! 呼び戻したのですッ!」

「ふん、因果応報だな」

 サーカはビャクヤの話に興味が戻ってきたのか、聞き入っている。

「まさに因果応報ッ! しかし樹族に転生したQは最早ッ! 何も知らない幼女と化していましたッ! そしてッ! 彼女を殺す事がッ! 世界の消滅を回避する知識をッ! 本が授けてくれる条件だったのです!」

 なんて残酷な条件なんだ。とはいえ、本はQにケジメをつけさせようとしたのだろうけども・・・。

「それで?」

 半信半疑のトウスさんはお茶を啜って、話の続きを待った。

「その場には、ヒジリ・・・猊下とッ! ウメボシとッ! 自由騎士とッ! それからッ! オビオ君やサーカ殿、ピーター君もいたのですッ! 吾輩とッ! キリマルはッ! 別の場所でッ! 虚無の侵攻を食い止める作戦をッ! 遂行中でしたのでッ! 本の居る場にはおりませんでしたッ!」

 その場に居なかった出来事を、何で知っているんだと思ったけど、大魔法使いの力や、色々と見通すキリマルの目があれば、容易く手に入れられる情報なんだろうさ。

「へぇ、俺らは、そんな大事な場所にいたんだ?」

 ピーターは、世界の運命に関わる物語の中に自分の名がある事が、どこか誇らしげだった。

「はいッ! ですがッ! 幼女となったQを殺すのを、良しとしない者がいたのですッ! さて、誰でしょう~かッ!」

 急にクイズかよ。しかも答えは出てるだろ。さっき答えを言ってたしな。

「オビオだろ?」

 サーカとトウスさんとピーターが同時に俺を指差した。

「正解ッ! 正解者にはッ! 豪華なプレゼントをッ!」

 そう言って、ビャクヤは三人に魔法の指輪を渡した。

「何の指輪?」

「はい、これね、奥さんッ! なんとッ! おならが臭わなくなる魔法の指輪ッ! 素敵ッ!」

「い、いらねー」

 ピーターがあからさまに嫌そうな顔をしている。でも、一応魔法の指輪だし、売れば高いかもよ?

「まぁまぁッ!」

 そう言ってビャクヤは強引に三人に指輪をはめてしまった。邪魔なアイテムを押し付けたな?

「でもさぁ。そうなると現人神様と自由騎士様相手に、オビオは戦う羽目になったんじゃないの? 自由騎士様はどうか知らないけど、現人神様は目的の為なら、手段を選ばなさそうじゃん」

「ええっ! その通りです、ピーター君ッ! ですがッ! その時のオビオ君はッ! 赤古竜に変身出来る術を持っていましたので、二人と対峙してもッ! そう簡単にはやられませんでしたッ! それにサーカ殿がオビオ君を守ろうとしてッ! 必死に抵抗しましたのでねッ!」

 赤古竜になれるってスゲェな、そん時の俺。赤竜なんか目じゃないほど強いぞ。

「生死のやり取りをしてる時にまで、イチャイチャしてんじゃねぇよ!」

 それは別に仲間なんだし、いいだろ。ピーター・・・。

「刻一刻と虚無が迫りくる中ッ! 膠着状態が続きッ! とうとう動いたのがッ! 邪悪なるピーター君だったのですッ! 彼はQをバックスタブであっという間に殺してしまいました! 世界を端から消す虚無を恐れるあまりにッ! その時のオビオ君はかなりブチ切れておりッ! ピーター君を殺そうとさえしていましたッ!」

「だろうな・・・」

 バトルコック団の誰もが腕を組んで納得した。

「ちょ! なんだよ! 俺のお陰で、本から知識を得られたんだろ? じゃあいいじゃんか!」

 何も知らない幼女を躊躇なく殺せるとは流石、混沌なる邪悪属性。でも何だかんだ言って、これまで要所要所で活躍をしてるな、ピーターは。ちょっと嫉妬するわ。

「はい。ピーター君の判断は間違いではありませんでしたッ! 条件はQを殺す事ッ! 蘇生をしてはならないとはッ! 本もッ! 一言も言っておりませんでしたのでッ! 即座にヒジリ・・・。ペッ! 猊下がッ! 幼女を生き返らせましたッ! 無事、知識も得られ、オビオ君の正義と優しさも貫く事ができたのです! あの現人神はッ! 見事ッ! 本を出し抜きました!」

 ツバを吐いてまで現人神を嫌わなくてもいいだろ。ビャクヤの狂気の呪いを解いてくれたのもヒジリだろ?

「で、世界はどうなったんだ?」

 半信半疑だったトウスさんも七割ぐらいは、ビャクヤの話を信じているように見える。

「世界は色んな可能性の宇宙とまぜこぜとなりましたが、崩壊する事なく、今現在に至っています」

 ハッピーエンドだな。いや、待て。

「でもさ、Qは今もどこかにいて、存在消しの触媒を落とし続けているんだろ?」

「ええ、オビオ君の優しさのせいでッ! 彼女は何度も輪廻転生をしてねッ!」

「――――うわぁぁぁぁ!!」

 急にメリィが鬼の形相で、俺に飛びかかってきた。

「それって! オビオが! Qを庇わなければ! 運命は変わっていたかもしれないって事でしょ! Qが死んだままだったら! お姉ちゃんも! ウィングも! 消えずに済んだんだ!」

 く、苦しい。首を絞めないでくれ、メリィ・・・。お前、結構力があるんだぞ・・・。

「優しさが! 優しさが人を殺めた! いや、人を消したんだ! オビオの優しさが! お姉ちゃんとウィングを消した!」

 悔恨の念に渦巻くメリィの言葉は重い。ビャクヤの話が本当なら、俺は余計なことをしたかもしれない。でも間違った事をしたと言うつもりはないぞ!

「スタァァプッ!! メリィさんッ!」

 ビャクヤがビジュアル系バンドのボーカルみたいなポーズで、メリィを止めようとしている。

 いや、物理的に止めてくれよ・・・。

「オビオ君をッ! 憎むにはッ! 時既に遅し! お寿司ッ!」

 おい! 時既に遅しとか言うな! メリィの首を絞める力が増したぞ。ってか、誰か彼女を止めてくれって。

「いや、憎むのは早計ッ!」

「どっちだよ!」

 ようやっと、トウスさんがメリィを俺から引き離してくれた。俺は少し空気を吸ってから、ビャクヤにそうツッコむ。

「言ったはずですッ! 吾輩はッ! この話がッ! バトルコック団の今後の旅路の参考になればとッ!」

「お前たちはこれから、何を望む?」

 ビャクヤの言葉の後に、キリマルが間髪入れず質問をしてきた。羊羹を食い終わって、話にも飽きてきたようだ。

「そんなの決まっているだろ! メリィのお姉さんと、ウィングの存在を取り戻す事だ!」

「そうだろう? そして、その可能性はある。天才なる我が主様が、それに気づいてくれた事を感謝するのだな、バトルコック団の諸君? クハハ!」

 なんだその貴族みたいな喋り方は。ムカつくなぁ。

 トウスさんに羽交い締めにされたままのメリィが、困惑顔で悪魔と仮面のメイジを交互に見ている。この話が本当かどうか不安なんだろうな・・・。もし嘘だったら、今度こそ彼女は暗黒騎士になるだろう。

 さて、消された二人をこの世界に戻す方法を教えてもらおうじゃないか、天才魔法使いのビャクヤ!
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