料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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最古の一族

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「あいつはギルド内でも、Cランクだったはずだろ!」

 東リンクス共和国の草原で、暗殺者たちが月光を浴びながら慄く。スネアはギルド内で高い地位にない。だから見張り役として満足していたのだと、誰もが侮っていたからだ。

「能ある鷹は爪を隠すってね」

 声はすれども姿は見えず。スネアを探して、夜の闇を暗視する者、マジックアイテムで魔法探知をする者。その誰もが索敵に失敗する。

「残念だが、この名刀無傷は証拠を残さない刀なんでさぁな、先輩方。鞘から抜いている間は、誰も俺を見ることができねぇ。手札の隠し合いはお互い様なので、恨まないでおくんなまし」

「ぐぁぁ!」

「ひぎぃぃ!」

 一人、また一人、暗殺ギルドの大物が倒れていく。そこにギルド長の怒号が飛ぶ。

「倒れた仲間の傷口を見て、攻撃パターンを調べろ! ギルド総出でこの結果は、恥さらしもいいとこだぞ!」

 自分が狙われないようにと祈り動く暗殺者達は、影に潜ったり、分身を出したりして、スネアの攻撃から身を守ろうとするが、それでもバタバタと死んでいく。

「そもそも傷口がねぇんだよ! どこから攻撃しているのかわかんねぇ!」

 そう喚いた暗殺者が次の瞬間、糸の切れたマリオネットのように地面に横たわる。これが普通の街中であれば、心臓発作か何かで死んだと周りの人々は思うだろう。

 しかし、今は明らかに殺意を持った裏切り者のゴブリンが、谷底の暗殺ギルドを潰しにかかっている。

「触媒の少女を狙え」

 暗殺者達と行動を共にするウノ・ブラッドが冷酷な声でそう命令した。

「しかし、そうなると触媒が取れなくなりやすぜ? ブラッドの旦那」

 そうはさせまいと、スネアが牽制する。残った暗殺者達も、それを聞いて一瞬躊躇するが、それがまた隙を生んで、一人倒れた。

「構わんよ。あれは能力だからな。あの少女が死んだら、また誰かにその能力が宿るだけじゃ。手間はかかるが、能力者をまた探せばいい」

「チッ!」

 舌打ちの聞こえた方に、暗殺者の一人が投げナイフを投げたが、手応えはなかった。

「おい、スネア! 生きて故郷に帰れると思ってんのか!」

「へぇ、その自信はありやす、ギルド長」

「お前の妻と娘は、我が手中にある。故郷に帰ってどうするつもりだ? 芋虫と一緒に、女房子供の死体を見物しにいくのか?」

 ギルド長はスネアの心を揺さぶろうと、心理戦を仕掛けてくる。

「おやおや、互いの素性を調べないのが暗殺者のルールでげしょう。それに嘘は通じませんぜ、ギルド長。バートラと言えば、暗殺者の本場。モティ出身のあんたらが行ったところで、何もできねぇさ」

 ギルド長の樹族は、口を覆う布の下で小さく「くそが」と囁いた。

 スネアの言う通りだ。ツィガル帝国にあるバートラは、有名な暗殺者を多く輩出する地域。その出身地のゴブリンがお国自慢をしても、誰も異論を唱える者はいない。

「早く触媒の少女を狙え。何をしておる、ギルド長?」

 ギルド長はウノが本気で、触媒の少女を狙えと言っているわけではないと考え、彼女を囮にする事にした。

「ふん! 錬金術師の爺が気軽に言ってくれる」

 バガー兄弟を除いて、谷底の暗殺ギルドで最後の生き残りとなった長は、素早く少女の近くまで駆けると、誰かを応援するかのように、空に向かって手を振った。

「何の真似でさぁ? ギルド長」

「バートラの暗殺者が知らない技を使っているのさ」

「そうですかい。ですが、あっしも馬鹿じゃねぇんでさぁ」

 闇の中から苦無がギルド長に向かって、音もなく飛んでくる。が、苦無は縦半分に割れて地面に転がった。

「やっぱり! その技は魔力妖斬糸でげしょう? 魔力で切れ味を鋭くした糸を、周囲に張り巡らしてると見ましたが」

「なぜこの技を知っている?!」

「だから言ったでしょう。あっしも馬鹿じゃねぇんでさぁな」

 樹族国には裏側と呼ばれる隠密集団がいる。東の大陸の忍者を真似た彼らは、奇妙な技を多用する。元は異世界の暗殺者の技とも言い伝えられているそれは、幻術、隠遁術、薬学、体術、剣術を極めた暗殺者といった感じか。

「モティに出稼ぎに来る前に見たんでさぁ。裏側の長がそれを俺に使ってくるのを。まぁ全力で逃げやしたけど」

 ただ通過するだけの樹族国で戦う意味などない。裏側の長ジュウゾと戦ってもリスクしかないのだ。

「ここを突破して国境を越えれば、またジュウゾに出会うかもしれないな。いっそその前に死んでしまえ」

「お断りしやす」

 ギルド長の指先の糸のテンションがどんどんと緩んでいく。プツプツと糸が切れているのだ。

「馬鹿め」

 糸は張り巡らせるだけではない。相手の動きに合わせて揺らめく糸を見て、ギルド長はスネアの動きを計算する。

「そこだ!」

 僅かに指先を動かして、糸をしならせると、手応えを感じて長は笑った。

「今、お前の手足の腱を斬ったぞ!」

「いえ、斬れてませんぜ。俺を斬れたなら、大したもんでやす。斬れたのは薄皮一枚」

 ――――ズン! と胸を貫かれる感覚に、ギルド長は目を見開く。

「最期に何か言い残すことはありやすかい? おっと、即死でしたか。すいやせん」

 勢い余って長の心臓を貫いてしまったスネアが謝ったと同時に、ジリジリと音がして焦げ臭さが漂う。

「嫌な別れの挨拶でさぁな。やめてもらいてぇ」

 スネアはギルド長の襟首を掴むと、ウノ・ブラッドに放り投げた。

「カッカ」

 笑うウノの周りで空間が歪み、肉片と血しぶきと爆炎を飲み込んで、エネルギーを上空に逃した。

「羨ましい能力ですねぇ」

 俺も能力者になりたかった、と密かにスネアは思うが、聖魔の武器を持っているだけでも相当な幸運だと考え直す。

「その腕なら出稼ぎしなくても、稼げただろうに」

「俺は相棒のバスと、楽して稼ぎたいだけだったんでさぁ。同じ仕事でも、モティは帝国なんかよりも報酬がいいですからねぃ」

「ああ、そうか。お前らバートラの者はヴャーンズ皇帝に嫌われておったんじゃった。確か、皇帝の親と妹を殺したのが、お前らの一族だったか?」

「へぇ。そうです。よくご存知で。一応和解はしましたがね。これもヒジリ猊下のお陰でさぁ」

「なのにお前らは金さえ貰えば、かの現人神を狙う。皮肉なもんじゃな。カッカ」

「それはそれ、これはこれ。では、旦那。俺らはここいらで、行かせてもらいやす」

 樹族国で遭遇した裏側の長同様、厄介な者の相手をいつまでもする必要はない。

 目を見開いて震え、夜空を見上げる触媒の少女を抱き上げると、スネアは「大丈夫だ」と安心させて、影に潜ろうとした。

「カッカッカ」

 負け惜しみの笑いかと鼻で笑いつつ影に潜るスネアは、急に胸が苦しくなって地面に戻る。

「毒・・・? いつの間に魔力妖斬糸に毒を塗っていたんですかい? 俺はこれまで、毒が効かないよう訓練してきたつもりなんですがぁ・・・」

「ワシが何者か忘れたか? 先祖代々錬金術師を生業とする家系じゃぞ? ハイヤット・ダイクタ・サカモト神の時代からいた一族じゃ。お前らの耐性を上回る毒を作るなぞ、造作もない事」

 ハァハァと荒い息を吐きながら、スネアはゆっくりと触媒の少女を地面に寝かすと、自分もその横に寝転がった。

「すまねぇ、嬢ちゃん。オーガの始祖神に誓って・・・、俺は上手く逃げ切るつもりだったんだ。バスがくれた命と、この刀さえあれば、ハァハァ、バートラに戻れると・・・」

 瞳孔が開きかけのスネアの目が、恐怖を宿した触媒の少女の目と合う。

「・・・けて」

 後ろ手を組んで余裕の表情で、歩み寄ってくるウノは、こちらを向いた少女に冷たい視線を送った。

「お前を助けようとしたゴブリンは、今、猛毒で死にかけている。なのに、この期に及んで、まだ命乞いをするのか。まぁ、結局。誰も彼も自分の命が一番大事だからのう、仕方がない事か。カッカ」

 腕も脚もない少女は、肩や僅かに残った足の付根を動かして、スネアによじ登った。

「・・・たすけて」

 ウノはサイコパスのような笑みを浮かべて、まだ手つかずの少女の髪や頭を撫でる。

「おうおう。まるで、餌を待てない飢えた子猫のように可愛いのう。そうそう、そうやって自分の命が一番重要である、とアピールするのは良いことじゃ。その生きようとする力が、触媒をより多く落とすやもしれん」

 しかし、少女はウノの手に噛み付いてから、力いっぱい叫んだ。

「ゴブリンのおじちゃんを助けて!!」
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