料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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嫉妬するオビオ

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 冴えない無名の科学者が知的生命体の住む星を発見した。

 これは人類史上初の快挙で、41世紀になってようやく成し遂げられた偉業なのである。その功績に肩を並べる者はいないと言われる程の。今なお仕組みが解明されていないサカモト粒子を発見した、あのハイヤット・ダイクタ・坂本博士ですら足元にも及ばないだろう。

 なのでここ数カ月、道を歩く誰もがその話ばかりをしている。

 かく言う俺もその話題がずっと頭の中をぐるぐると巡っているし、凄く羨ましいのだ。

 なぜここまで気にするかと言うと、我々地球人は自身が課した研究課題を無限の時間を使って追究し続ける性質を持っているからである。科学技術が進歩したおかげで地球人は自身が望まない限り死ぬ事はない。だから永遠に一つの課題を追求できる。

 惑星と知的生命体を発見したこの話題の科学者は、これからずっと研究材料に埋もれて生きていく事になるだろう。

 死んでも記憶を持ったまま何度でも蘇る現代の地球人にとって、それはなんにでも応用が利く希少な金属、コスモチタニウムの塊を見つけるより幸運だと言える。

 もう一度言う。大神聖おおがひじりとかいう能力数値がオールBの平凡な、そして無名の科学者は、自分の名前を付けた惑星で一生涯研究や観察をし続ける事ができ、データも集め放題なのだ。これを羨ましくないと思う奴は諦めと無関心で心が死んでいるに違いない。

「お? 帯雄おびお。顔に悔しさが滲み出てるぞ。いつまでホログラムニュースを食い入るように見つめてんだよ。感情を顔に出す性格、直しといた方がいいぞ」

 悪友の田中がにやけた顔で俺の肩を叩いた。

 今日も田中のポマードでテカったオールバックが、不潔感を目立たせている。こいつの頭から漂って来るそのポマードの臭いは軽く吐き気を催す。不潔さは料理人にとって大敵だというのに。

「いや誰だってこのニュースを見れば悔しがるだろ。っていうかお前もそうだろ? 田中ァ」

「ああ、悔しいと言うか羨ましい。けどさ、その科学者はそもそも俺らとはジャンルが違うわけだし、別に良いんじゃね? 帯雄や俺みたいな感性特化型とは真逆だしな。それに噂によれば、彼は万能型の能力値の限界であるオールBの壁を突破したらしいぞ。俺たち地球人がいくら遺伝子操作で強くなったからといっても、彼のように危険な星で未知の怪物を倒すのは並大抵な事じゃない。なのにヒジリは難なく怪物を打ちのめした。彼の送ってきた公開データを閲覧してみろよ。パワードスーツを着てようが、一撃でペシャンコにしてくる怪物がゴロゴロいる世界で、何食わぬ顔をして生きている」

「嘘くせぇわ。万能型がオールBの壁を突破するなんてありえないから。万能型は中途半端な能力値で有名だろ。特化型の隙間を埋めてナンボの存在だから、我が子を万能型に選ぶ親も少ない。あー、わかったぞ! あれだ! 一回決めた能力タイプは変えられないから、中途半端で役立たずな能力な分、神様が大神聖とやらに惑星と知的生命体を見つけさせたんだわ」

 俺が嫉妬してそう言うと、田中は憎らしい顔でニヒヒと笑っている。

「お前、神様なんて信じてるのかよ、プスス。まぁ彼には宇宙船の援護と高性能なアンドロイドがついているから自力だけで困難を打破してるわけじゃないだろうけど」

 うるせぇ。俺は信心深いんだ。神様の存在を信じて何が悪い。まぁ神様っていうか、精神生命体な。

「はぁ・・・このヒジリとかいう奴はまじで糞羨ましい。歳だって俺達よりも二歳上なだけだろ? 今の俺達が移民星の土地を手に入れるのにどれだけBP(Boranthia pointo なぜかローマ字表記)を稼がないとだめか。あぁぁ! くそ! 未知なる惑星にどんな食材と料理があるのか気になるなぁ? 田中ぁ!」

 田中の肩を掴んで顔を引き寄せる。きっとこいつだって瞳の奥で、嫉妬と羨望の炎を宿しているはずだ。俺はそれを見抜いてやるからな?

「確かになー。ある意味、やりたい放題だもんな。まぁでも手に入らないないものは気にしてもしょうがなくね? っていうか顔を合わせたら惑星ヒジリの事ばかり言ってんな、お前」

 田中のくせにあっさりしてる。朝摘みの新鮮なキュウリを齧った時の様に、無駄にさっぱりしている。逆を言えば諦めが早い。

 俺は・・・。なんかやっぱり悔しい。俺も惑星ヒジリに行って新たな食材を見つけて皆を驚かせたい!

「お? まだ諦めていないって顔してるじゃねぇか、帯雄。何とかして惑星ヒジリに侵入しようとか考えるなよ。 惑星間巡回船が、大神聖の監視兼守護の名目で惑星軌道上に居座っちまったからな。旧型だけど、性能は悪くない。宇宙船カプリコンは俺らのような、隠密に全く向いていないタイプが星に入り込めば、一発で見つけるだろうよ」

「解ってるさ・・・」

 俺は悔しさを一旦心の奥底に押しこめて、料理研究のための食材の買い出しに出かけた。




 研究し尽くされた感のある41世紀の料理研究分野はマイナーなジャンルだ。

 それでもまだ見つけていない味覚や食感、香りなどを求めて研究をする人の為に市場は存在する。

 デュプリケーターで食事を済ます人が多い昨今、こうやって新鮮な野菜や肉を用意してくれる農家の人達には頭の下がる思いである。

 農家と言っても、彼らは一流の研究者。提供してくれる物は、どれも極限まで磨き上げた一級品の農産物である。

「このトマト、良い香りがするな~! 完熟してるのに身はしっかりしてる。ゲッ! ボランティアポイント、4ポイント・・・。めちゃくちゃ高い」

 高い技術を使用して作られた物は、ボランティアポイントというものが必要となる。このポイントで研究者たちは更なる技術を手に入れて、より良いものを作り出すのだ。我々のような底辺は、よほどの成果を出さない限り常にポイントを支払う側である。

 今月は一回も奉仕活動をしていない・・・。残り少ないBP(ボランティアポイント なぜかローマ字読み)でこれを買ってしまえば他の食材が買えない。

 俺はそっとトマトを棚に戻そうとしたが、トマトは路地裏の方へと転がっていってしまった。

「田中ぁ! 俺、ちょっとトマト追いかけてくる!」

「トマトを追いかけるってなんだよ。まぁ気をつけてな」

 トマトに傷が付かないか、俺はヒヤヒヤしながら追いかけると、路地裏の暗がりでトマトは動きを止めた。

「こいつめ! 悪いトマトだ! 傷は無いな? ふぅ~危うく弁償させられるところだった」

 ふと、トマトから路地裏の暗がりに目をやると、何者かの視線を感じる。薄暗い中で白衣を着た者のギョロ目が四つ光っていた。

「あぎゃ! 誰かいるぜ! 兄貴!」

「ほぎゃあ! 見つかってしまったな! 弟!」

 お、こいつら”ナチュラル“だ。遺伝子操作で生まれていない、珍しい人類なのだ。っていうか、生まれて初めて見た。自然主義の人達は一定数いるらしいけど、情報が一切入ってこないんだよなぁ、不思議な事に。

 低い背丈、整っていない個性的な顔。これはこれでいいもんだ。俺は好きだぜ。

 ん? なんだ、あの装置は。何かのゲートか? 形からしてホログラム空間生成装置に似ている。

「兄貴! こいつで実験しましょうぜ!」

「ん~、でもな~」

「なんで俺たちヴィランが、悪さを気にする必要があるんですかね? 兄貴」

「だな~。大神聖の認証や政府への申請を待ってたら何年も経っちまうし。仕方ねぇ!」

 この手の科学者はヤバい。研究に没頭するあまり善悪の判断がつかなくなっている輩が多い。ここは三十六計逃げるに如かず。

「ヒヒヒヒ! 残念だな! 逃げられねぇよ!」

 ―――ピシュッ!!

 くそ! パラライザーか! なんで一般人が持ってるんだよ! あ~、ダメだ・・・。体が動かねぇ。っていうか目の前が真っ暗になってきた・・・。俺の人生ここで終わりなのか? くそっ!





 誰かが俺の頬をペチペチと叩いている。小さい手だな。子供か? 珍しい。今現在、地球に幼児は数人しかいないはずだぞ。

 永遠の命を持つ我々が、子供を作る権利を得るのはかなり難しいからな。一等しかない宝くじの当選を待つようなもんだ。かくいう俺や田中も、十八歳の若造。幸運な親の賜物なのである。

 あれ? 待てよ? 俺はどうなった? 確か狂気の科学者兄弟にパラライザーで撃たれて・・・。

「ママー。オーガが起きたよー」

「いいいい、いいから離れなさい! チッチ! 逃げるわよ!」

 やべぇ。こいつら何言ってるかわからねぇ。

 誰だこの小さい奴らは。俺らのように遺伝子操作をしていない”ナチュラル”にしても小さすぎる。あの木の向こうに隠れているのはママか? ママも子供みたいな見た目じゃねぇか!

 こういう時は、とりあえず笑顔で子供の頭でも撫でときゃいい。

「やぁ! こんにちは」

 見よ! 俺の会心の笑顔を! ふふふ、子供は笑顔で返してくれている。どうだ! 俺の爽やかフェイスは! 何人もの女を振り向かせた(だけで終了)のこの清潔感溢れる顔には逆らえまい!

 それにしても、この女の子可愛いな~。茶色のくりくり巻き毛に、ぷにぷにほっぺ!

「誰かの奴隷オーガかしら? こんなところにポツンといるってことは捨てられたか、逃げてきたのね」

 お、ママが近寄って来たぞ! ハッハー! やはり俺の笑顔は誰にでも通用する。っていうかここはどこだ?

「ママ―。このオーガちゃん、お家に連れて帰ろうよー。ほっといたら可哀想だよー」

「そうね~。でも餌代もかかるし、村に入れる許可証代も高いわ・・・。困ったわね」

 だから何語だそれ! あ、俺、翻訳デバイス持ってたよな。どこだ・・・。あったあった。今時インフラに頼らずにこんなデバイスを持ってるのって俺ぐらいだな。

 なんでこれを手に入れたんだっけかな? そうそう。確か猫の言葉を翻訳できるんじゃないかと思って手に入れたんだった。

 まぁ結局猫語の翻訳は出来たけど、腹減ったとか撫でろとかそんなのばっかで、すぐに飽きて亜空間ポケットに放り込んだんだった。では押しますよ、翻訳機。ポチっと。

「ねぇ~、ママ―お願い! このオーガちゃん、連れて帰ろうよー!」

 おほ! 何を言っているか分かるぞ。ん? それにしても翻訳が早過ぎるな。既に誰かが翻訳データを地球に転送していたようだ。送ったのは誰だ? ウメボシ? ああ、ヒジリ所有のお世話アンドロイドか。

 地球にいた時に悔しくて惑星ヒジリの情報を全部脳内メモリにダウンロードしておいたんだが、その中に翻訳データがあったいうわけだ。時間をかけて翻訳する楽しみがない・・・。

 というか翻訳機自体要らなかった。まぁでも翻訳を意識しないと脳内のデータは起動しないのだから翻訳機はそういう意味では必要だったかな。なんか腹立つなぁ・・・。

 う~ん、それにしても。ここは惑星ヒジリをシミュレートしたホログラム空間か?でも悪人科学者がその程度で済ますかな? ここが仮想空間だとしても、ろくでもないシナリオになっているはずだ。

 色々考えていると目の前で、ママが困った顔をして、顎に人差し指を当てている。

「駄目よ、チッチ。うちは貧乏ってほどでもないけど、お金に余裕があるわけでもないんだから!」

 ああ、なるほど。中流ですね。わかります。我々地球人も、成果を出さないで怠けていると、中流家庭並みの生活になります。まぁそれ以下はないんですけどね。

「あの・・・、俺の事はお構いなく」

「ヒィ!」

 なんだ? そんなに怯える程の事か? 俺が喋ったらいかんのか? あ? でも親子の目線が俺の後ろだな。ん? 俺の体が大きな影に入ってる。

「ブモォォォ!」

 うわっ! うるせぇし、息がくせぇ! そして、でけぇぇぇ! イノシシ? 二本角の生えた猪なんて初めて見たわ!

 っていうかやべぇ! 俺、サポートスーツしか着てねぇよ。これ動力が無いから体の負担を軽減するだけなんだわ。やれるか? いや、無理でしょう。

 しかぁぁし! 食らえ俺の不意打ち! 振り向き様の渾身のアッパーカット!

 ―――ドカッ!!

「ブヒィィ!」

(よし! ヒット! 遺伝子操作で、昔の地球人の二倍の強さを持つ俺のパンチは伊達じゃないぞ! 戦闘向きじゃない感性特化型の俺でさえ、これだけのパンチを打てるんだ! 恐れ慄けぃ!)

 と言いつつも、俺は踵を返す。自分の不向きな分野や土俵で戦う馬鹿はいない。

「逃げるぞ! 二人とも!」

 猪がフラフラしている間に、俺は二人を抱きかかえると無我夢中で走りまくった。

 地球の猪と同じ習性であれ。猪突猛進という言葉を頭に思い浮かべ、対策としてグネグネと方向を変えながら走る俺。

 その俺を追いかけようとした猪は、とうとう明後日の方向へと突進して、木にしこたま顔面をぶつけて絶命してしまった。ハッハ! 所詮は獣! 南無ぅ。

「はぁはぁ、助かった。それにしても・・・。このイノシシ、食材として使えそうだな。でもデカ過ぎて解体するのに時間がかかるし、普通に持って運ぶのはもっと無理だな。(というか解体なんてしたことないけど)亜空間ポケットにも入らん。これホログラムの幻だった場合、何とかポケットに入れたとしても、数時間で中の肉は消えてしまうだろうし。変な二人組の運んでたゲートは、違法な仮想空間関連のなんかだろうから、やるだけ無駄か・・・」

 時々いるんだよな。違法な空間作って、地球上で禁止されてるシミュレートや、実験をする場を提供する奴らが。早く抜け出さないと、俺も誤解されて捕まる可能性が出てくる。

「助けてくれてありがとう、オーガの・・・。あなた、お名前は?」

「俺? 俺の名はオビオ。ミチ・オビオ」

「ビチ・ビチオ。なんだか汚らしい名前ね・・・」

「ミチ・オビオですよ、お母さん! なんです? その下痢みたいな名前~!」

 俺がお母さんのボケにツッコんでいると、娘が俺をニコニコと見上げている。

「お兄ちゃん、オーガなのに弱いね。逃げるオーガなんて初めて見たよ。闘技場のオーガは絶対逃げなかったよ」

「え? オーガ? 俺ってオーガなの?」

「そうだよ、オーガだよ?」

「じゃあ君はなんて種族?」

「私は地走り族のチッチだよ。お兄ちゃん、何も知らないんだね」

 おいおい、なんだ? 地走り族って。大昔にいたピグミー族の仲間か何か? 惑星ヒジリの住人ってもしかしてちびっ子ばかりなのか?

「お母さん、俺はこの子の言ってる事がよく分かりません」

「あらあら、オビオは記憶喪失なのねー。困ったわ~。こんな森の中に置いていくのも可哀想だし」

「だったら村に連れて帰ろうよ! それに吟遊詩人が道端で歌っていたよ。森で拾った優しいオーガは持ち帰れって。お金払って村に入れよう? お母さん」

「あの歌は本当かしらね~? エポ村の少女がオーガを拾ったら、あっという間に貴族になってお金持ちになったって話。サヴェリフェ子爵様は魔物使いの才能が元々あったって歌もあるし・・・」

 俺の意見は? 俺は行かないぞ? 大体ここはどこだ? まずはそれを調べないと。今のところ違法性のあるバーチャル空間には見えないな。よくあるファンタジーゲームの世界だ。

 惑星ヒジリはファンタジーみたいな星だとは聞いていたけど・・・。惑星ヒジリを模したファンタジーゲームの中の世界なのか? あーもう、わけわからん。誰かこのわからんちんをとっちめちんしてくれ!

 ただのゲーム世界を作っただけなら、あの狂人科学者兄弟は何でコソコソとしてたんだ? 俺のナチュラルに対する偏見がそう見させたのか? で、俺をこの仮想空間に入れた理由はなんだ? あのナチュラル兄弟はどこかで俺を見て笑ってるのか?

「あのー、俺は色々と調べる事があるので、これで・・・」

「駄目だよ! オーガのお兄ちゃん! オーガが一人でウロウロしたら冒険者に討伐されちゃうよ!」

 はいはい、そういう設定ね。もう無視無視。

 
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