料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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不穏な日本

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 大きな交差点のど真ん中に放り出された俺は、咄嗟に信号を見る。

 ――――黄色!

 確か赤になると、車が沢山走ってきて危険なやつだ、これ。

 未来の世界において車に乗る人なんて殆いない。大体はテレポッドで移動が済む。勿論短距離なら健康のために歩く。

「皆、道の端に寄れ!」

 しかし、誰も俺の指示に従おうとしなかった。

「なんでだ? オビオ。馬車の往来を気にしているのなら、その心配は無いぞ。それにしても大きな道だな。地面も安定している」

 サーカがアスファルトを不思議そうに触っている。

「ほんとだ。車がどこにもない。それどころか人すらいない」

 なんだ? 無人の世界に来てしまったのか? 魔筆は二十一世紀の日本とは異なる次元に住んでいるのか?

「ほんぎゃ~!」

 赤ちゃんの鳴き声が、歩道から聞こえてくる。それがビルに響き渡って不気味に感じた。

「赤ちゃんが、どこかで泣いているよ?」

 ムクが心配そうに辺りを見渡した。

 声のする方を見ると、乳母車があった。

「あ! あそこからだ!」

 ムクが走り出そうとするが、その手を掴んで止める。

「待て、なんか怪しい。赤ちゃんの声に、僅かながら音割れのような歪み成分を感じる」

 どこか不自然なのだ。高音質のスピーカーから声がしていると、俺は感じた。

「ピーター、影分身の一つで、あの乳母車を見て来てくれないか?」

「やだよ。何か嫌な予感がするし」

「その予感は恐らく当たる。生身で行けば多分、死ぬだろうさ」

「そう思うなら尚更嫌だね。加速でも使って確かめてこいよ」

「加速が使えねぇから言ってんだろ! 影分身なら死ぬことはないし、いいから行ってこいよ!」

「仕方ねぇなぁ。じゃあ、金貨一枚で引き受けるよ!」

 がめつい。が、ここはこの盗賊を頼るしかない。俺はピーターの小さな手に金貨一枚を握らせる。

「へへ! 毎度あり!」

 そう言うとピーターの分身が、乳母車の陰から現れた。そして乳母車の中身を確認する。

「なんだこれ? 赤ちゃんの代わりに、人形が入って・・・」

 ――――ボカン!!

 ピーターの分身が、赤ちゃんに似せた人形を持ち上げた途端、爆発は起きた。

「ぎゃー!!」

 俺の横に居た本体が、驚いて地面に腰をつく。

「だから嫌なんだよ、分身を使うのって。感覚がリンクしてるからさぁ・・・」

 そんなピーターを誰も気にせず、皆が俺の周りに集まってくる。

「さっきの爆発は何の意味がある? オビオ。神の国は平和なんじゃないのか?」

 トウスさんの質問が、なぜか四十一世紀の人間である俺の心に突き刺さる。

「わかんねぇ・・・。多分、平和だったはずなんだけどなぁ、この時代は」

 アンドロイド戦争はまだまだ先だし、天変地異もまだ先だ。

 くそぅ。二十一世紀のサブカルチャーは詳しくても、歴史には通じていない自分が憎い。

「戦争中なのかなぁ?」

 メリィの勘は正しいと思う。

「多分、戦争中なのかもしれねぇ・・・。今、歴史を思い出すからちょっと待って・・・」

 えーっと、確か・・・。

 ――――チュイーン!!

 サーカが常駐させている魔法、【弓矢そらし】が何かを弾いた。

「やべぇ! どっかから狙撃されているぞ! あの路地裏まで走れ!」

 ビルの隙間を指差してから走ると、仲間は黙って俺についてきた。

「あーー!! 思い出した! 確かこの時代、ロシアがウクライナを侵攻した後に、中国が日本攻め入ってきたんだった!」

「つまり、メリィの言う通り、戦争中ってわけか」

 トウスさんが腕を組んで、やれやれという仕草をした。

「神の国も大した事ねぇなぁ」

 ドヤ顔で言う事か、ピーターめ!

「まぁ、まだ発展途上中の神の国だから、お前らの世界とそう価値観は変わらない」

「で、どういう状況なんだ?」

 サーカに訊かれて、俺は上手く答えられるかどうか心配だった。

「えーっと・・・。確かこの時代の日本って国は、政治家の決断力が鈍いんだ。政治家ってのは元老院の奴らみたいなもんでさ・・・」

「王はいないのか?」

「王というか皇帝・・・? 天皇陛下がいる。が、彼は政治には関わってこない。その代わりに、元老院が治世している」

「なんとも嘆かわしい。樹族国もいつそうなることやら・・・」

 サーカは、樹族国王であるシュラスをあまり信用していないのか、日本に樹族国の不安を重ね見た。

「いや、別にこれはこれで上手くいっているからいいんだよ。問題は、さっきも言った通り、政治家の判断が鈍い事なんだ。あれこれ言い合っている内に、軍隊が動けなくなってしまい・・・。それでどうなったんだっけかな?」

「もう、肝心な時に役に立たねぇなぁ、神の眷属様は」

「うるせぇよ、ピーター。俺はこの世界の遥か先の未来から来てんだよ。だからこの時代の政治的な事には、あまり詳しくねぇの!」

 そういや、俺が未来人だとしたら、こいつらも未来人だな。

「それを役立たずとして、何を役立たずと言おうか~!」

 なんだよ、その偉そうな言い方はよ、ピーターが段々、皮肉屋だった頃のサーカに見えてきた。

「あのねぇ、オビオ」

 メリィが何か言おうとしている。今度こそちゃんと聞かなくては。

「私達、どこの誰を探せばいいのかなぁ?」

「・・・」

 あぁぁーーー!! 肝心な事をキリマルから聞いてなかった!

 ――――ズドド!!

 大通りに背中を向ける俺の背中に、数発の銃弾がめり込んだ。が、即、それらは体外に排出される。

「いってぇ~~!!」

「ツマホェシー! ターマーダー!」

 何語かわからねぇ言葉が、どこからか聞こえてくる。まぁ十中八九、中国語だ。

 背中に残る衝撃と痛みに悶絶する俺の横を、トウスさんが剣を持って通り過ぎた。

「【透明化】の魔法を使ってやがるようだが! ニンニク臭がプンプンするぜぇ!」

 魔剣必中が刺した先は、何もなく・・・。いや、背景に馴染んだカメレオンが本来の色に戻るような感じで、銃を持った重装備の軍人が現れた。その腹に、深々とトウスさんの魔剣が刺さっている。

「こりゃあ、魔法じゃねぇな。簡単な遮蔽装置を使って姿を隠してんだ!」

 絶命して倒れる軍人を見やり、もっと何処か身を隠せる場所を探さねばと、辺りを見渡す。

「あんたら、何やってんだ! この時世にコスプレなんかして、我が社に来るなんて、正気の沙汰じゃない! 早くこっちに来い!」

 ビルの裏口から、サラリーマンっぽい男が、手招きしている。

「助けに船とはこの事だ。皆、行くぞ」

 俺がそう言うと、メリィがサラリーマンを見て疑っている。

「あの人が味方である証拠はぁ?」

「正直言うと、無い。だが、少なくとも彼は軍人ではないし、日本語を喋っている。さらに言えば、俺の勘が安全だと言っている」

「オビオの勘がそう言うなら問題ねぇな。お前らは先にいけ。殿は俺とオビオが引き受ける」

 トウスさんの言葉に渋々承知したメリィはムクの手を握って、男のもとへと走っていった。
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