料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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笑いに包まれて

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「で、出た―――!!」

 魔王城に到着するやいなや、貧乳ビキニアーマー魔王フェルが俺に飛びついてきた。

「ちょ、なに?」

 フェルに驚きつつも、横をちらりと見るとサーカが俺を睨みつけている。嫉妬される事に悪い気がしないと思いつつも、魔王少女の話を聞く。

「出たのだ! 悪魔キリマルが!」

 お前も悪魔だろ。キリマルを化け物みたいにいうなよ。まぁ実力値666の化け物だけども。

「ほら、あそこ!」

 魔王少女の指さす先で、キリマルは時空の裂け目から顔だけを出して、こっちを窺っている。

「映画のシャイニングかよ!」

 俺は思わずツッコんで、キリマルのトンカチのような頭を叩く。

「クハハハ! 俺が何の真似しているのか、よくわかったな、オビオ」

 腕を組んでため息をつくと、顔が殆ど鋭い牙の口である黒い悪魔を睨んだ。

「で、キリマルはフェル達を殺しに来たのか?」

「おうよ。そいつらは俺様に喧嘩を売ったからな。上手く霧に紛れて異世界に逃げてきたようだが、俺様は執念深い。どこまでも追いかけて必ず殺す」

「悪いけど、フェル達は俺と契約することになってんだ。殺されたら困る」

「知ったことか」

 まぁこいつならそう言うわな。だがな・・・。

「あれ、そんな口きいていいの? キリマルはもう地球に戻れないんだろ?」

 そう、この人修羅はマナの少ない地球にずっといると、徐々に自我を失うという弱点がある。

「あぁ? だからなんだ?」

 俺は亜空間ポケットから、水戸銘菓の吉原殿中を取り出して、キリマルの鼻先でゆらゆらと揺らした。

「あっ! 吉原殿中! くれ!」

 くっくっく。キリマルは日本の菓子に飢えている事を知っている。この水あめともち米と砂糖ときな粉で出来たお菓子が、さぞかし魅力的に見えることだろう。

「この星ではもち米が結構貴重でなぁ。この菓子を作るのは結構大変なんよ」

「てめぇ! たかが菓子如きで、この俺を買収するつもりか?」

「その通り。これから契約する悪魔の命と吉原殿中は等価だ。どうする?」

「足もと見やがって~!」

「勿論これ一本だけなんてケチな事はいわないよ。1ダース渡そう。1ダースもあれば、ビャクヤの家族にも分け与える事ができる。きっと皆、大喜びするよ~? どうしますかぁ? 旦那様ぁ~」

 悪徳商人のような笑みを浮かべて、次元の切れ目から顔を出したままのキリマルの前で吉原殿中を齧った。

「アァッ!」

 キリマルはゴクリと喉を鳴らして、吉原殿中のきな粉の香りをフガフガと嗅いでいる。

「チィーー! わかった! 今回は見逃してやっから、早くそれを寄越せ!」

「契約成立! 毎度あり~!」

 吉原殿中をキリマルの大きな手に渡すと、彼は「クハハ!」と嬉しそうな笑い声をあげて、時空の切れ目の奥に引っ込んだ。そして、そのうち切れ目も消えていく。

「え! キリマルを追い払ったのか?!」

 小さなフェルは、いつの間にか肩車のような形で俺の肩の上に乗って、頭をペシペシと叩いてくる。

「そうだ。あいつを倒せる奴なんて、この世のどこにもいないんだ。よく喧嘩なんて売ったなぁ。命知らずにも程があるぞ」

「ただのグレーターデーモンだと思ってたからな。それにしてもオビオは凄いな! お菓子だけでキリマルを説得するなんて!」

 フェルは俺から降りて、目をキラキラさせながら、こちらを見上げている。

「まぁ、キリマルだから上手くいったとも言えるかな? あいつは日本のお菓子に飢えてんだ。他の奴なら難しかったかもしれない」

 そこまで言って、俺の背筋が寒くなった。今頃になってキリマルに対する恐怖がやってきたのだ。彼に殺されると抗いがたい恐怖を植え付けられる。

 それに今後、奴はお菓子を貰いに次元の向こう側からやってきそうだ。

 ブルブルっと身震いしていると、フェルがハッとした顔をした。

「契約者はオビオなのだな?」

「そうだけど」

「皆の者、参れ!」

 フェルがそう喚くと、キリマルに怯えていた悪魔たちがどこからともなく現れて、主の後ろに集まってくる。

「なんだなんだ? どうしたオビオ」

 街道からトウスさんやピーターやムクがやって来た。きっと冒険者ギルドで俺たちが魔王城に向かったのを知ったのだろう。

「オビオ様!」

 突然、フェルが跪く。そして真っすぐと俺を見つめる。

「我々をキリマルから救って頂き、誠にありがとうございます!」

「えっ?! あ、うん。これから契約するのに死なれちゃ困るからな」

「それでも、あの強大な悪魔を追い返すなんて、誰にでもできる事ではありません。貴方様は、我らの上に立つ実力が十分にあると認識しました。これからよろしくお願いします、主様」

 正直、契約するにも一悶着あるかと思ったけど・・・。案外あっさりと事が運んだな。

 キリマルに吉原殿中を渡したら、悪魔軍団が素直に従った。これなんていうラノベ?

「じゃあさ、取り合えずカズン領を守りつつ、村人を助けてやってくれないかな? それから沼にある鉄球カボチャを切るのを手伝ってくれ。あれ、村の名物にしたいんだ」

「あの美味しいスープですね!」

「そう! 報酬としてフェル達も貰うといいよ。そうだ! 村まで行って流れを実践するか。じゃあフェルも一緒に来てくれよ。今後の指示をだすからさ」

「御意!」



「なぁ、いつまでこの村にいるつもりなんだよ」

 不動聖山のメンバーは冒険者ギルドの酒場で、地走り族に絡まれていた。

「あっちいってくれませんか?」

 不機嫌な不動聖山リーダーであるパンの言葉に、地走り族達は一瞬驚いて動きを止め、またニヤニヤして話しかける。

「俺たちの放った聖なるどんぐり以下の不動聖山さん。今の気分はどんな気分? まさか報酬は貰ったりしたの?」

 依頼を失敗した冒険者に報酬などあろうか。

 どの種族にも性格の悪い者はいる。殊更、樹族にそれが多いだけで、陽気な地走り族も例外はない。

「あっちにいって―――」

 パンが声を荒げたその時、カランカランとギルドのドアベルが鳴る。

 腰に魔剣必中を携えた白獅子トウスだ。ということは、バトルコック団が帰ってきたのだと誰もが知る。

 トウスの後から、ピーター、ムク、オビオ、サーカ、そして悪魔城で一戦を交えた魔王フェルがいた。いや、一戦を交えたと言えるだろうか? バトルコック団も魔王の能力で一方的に拘束されただけだったというのに。

「英雄様のお帰りだぁ! 手下にした魔王を引き連れて!」

 どこかでカズン家前での一件を詩人が見ていたのだろうか。既に冒険者ギルドには情報が知れ渡っていた。

 さっきまで不動聖山を馬鹿にしていた地走り族が、バトルコック団の周りに集まる。

「外からでも聞こえていたぞ。詰まんねぇ事すんな」

 トウスは一度不動聖山を見てから、彼らを嘲笑していた地走り族の額を指で弾いた。

「いてっ! だって!」

「だっても糞もねぇ。お前らはオビオの料理の力で悪魔に有利だったってだけだ。あまり調子をこくな。もし、不動聖山がオビオの料理を食っていたら、魔王だって無事だったかどうか」

 トウスの優しい擁護に、パンは嬉しく思いながらも下唇を噛む。

(あの能力の前では、帰還の祈りも効果を発揮する前に磔だ。料理で強化されても魔王の前では無意味だろう)
 
 そんな様子を見ていたオビオが、パンを励ますように肩を叩く。パンはオーガを見上げて口ごもった。

「オビオさん・・・、私は・・・」

「まぁまぁ、元気出しなよ。今からこの村の名物食わせてあげるからさ」

「名物? はて、こんな辺境の村に名物なんかありましたか?」

「これから伝説の名物が生まれるんだよ」

 ドアベルが鳴ると、泥だらけの没落貴族兄弟が、一個の大きな鉄球カボチャを持って入ってきた。

「沼のカボチャを持ってきたよ!」

「ご苦労さん!」

 オビオはそう言うと、片手でカボチャを受け取り、もう片方の手で500銅貨をピンと兄弟に投げた。

「やったー!」

 兄弟達は嬉しそうにお金を受け取ると飛び跳ねた。

「ちょっと待って下さい」

 ギルドのカウンターに座っていた吟遊詩人のナニー・シットンが割り込んでくる。オビオは煩いのが現れたと嫌な顔をする。

「もしかしてカボチャ一個に冒険者ギルドは500銅貨も払うんですか? じゃあスープは500銅貨以上もするじゃないですか。そんな高いスープ、誰が飲むのです?」

「一個で二人前以上はできるから問題ないよ。それに食べ終わったカボチャの皮は鍋や器として利用できる。ある程度、フェル達に加工してもらって道具屋に卸すんだ。さぁ、フェル。カボチャを切ってくれ」

「御意、我が主様」

 ジャキンと伸びた爪が、鉄のように硬いカボチャを羊羹のように切った。

 魔王が切ったカボチャを受け取ると、オビオはカボチャの種をくりぬき、身をかき混ぜながらコンロで温める。

 暫くしてカボチャの甘い匂いが漂いだすと、塩を入れて、不動聖山のリーダーの前に置いた。

「召し上がれ、男塾名物! アツアツ! 地獄のカボチャスープ!」

「男塾・・・? カズン村名物じゃないんですか?」

 意味不明な事を言うオビオを怪訝な顔で一瞥してから、パンは美味しそうなスープに手を付ける。

 オレンジ色のマグマのようなドロッとした液体が、スプーンの上で湯気を立てている。息をかけて冷ましてからそれを口に入れると、パンの顔が明るくなった。

「う、美味い!! 塩だけの味付けで、これなにも美味くなるものなんですか?」

「なーるんです。で、どうかな? 名物になりそうですか? パンさん」

 パンはもう一口二口、スープを飲んでから答える。

「ええ、これはいけますよ! 魔王城ではろくに活躍できなかったので、せめて旅先でこのスープの宣伝しておきますね!」

「不動聖山が宣伝してくれたら、大流行間違いなし! なにせ、聖なるパーティが、名前に地獄と付いたスープを宣伝してくれるんだからね。インパクトあるよ!」

 オビオがそう言って笑うと、ナニーが一端、酒場の隅の暗闇に入ってから、ハープをわきに抱え、手をゆっくりと叩きながらオビオの前に出てきた。

「クックック。流石はバトルコック団のリーダー。脅威だった悪魔を手下にして、貧困者を救う為の雇用を生み出しました。この村の問題を一気に解決するなんて・・・、これは私からの賛美に値する出来事ですね」

 何故か上から目線のナニーに、オビオは「何様だよ!」とツッコんで、彼女の持っていたハープを意味なくかき鳴らす。

 素っ頓狂な不協和音が辺りに流れて、酒場は笑いに包まれた。
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