244 / 331
笑いに包まれて
しおりを挟む
「で、出た―――!!」
魔王城に到着するやいなや、貧乳ビキニアーマー魔王フェルが俺に飛びついてきた。
「ちょ、なに?」
フェルに驚きつつも、横をちらりと見るとサーカが俺を睨みつけている。嫉妬される事に悪い気がしないと思いつつも、魔王少女の話を聞く。
「出たのだ! 悪魔キリマルが!」
お前も悪魔だろ。キリマルを化け物みたいにいうなよ。まぁ実力値666の化け物だけども。
「ほら、あそこ!」
魔王少女の指さす先で、キリマルは時空の裂け目から顔だけを出して、こっちを窺っている。
「映画のシャイニングかよ!」
俺は思わずツッコんで、キリマルのトンカチのような頭を叩く。
「クハハハ! 俺が何の真似しているのか、よくわかったな、オビオ」
腕を組んでため息をつくと、顔が殆ど鋭い牙の口である黒い悪魔を睨んだ。
「で、キリマルはフェル達を殺しに来たのか?」
「おうよ。そいつらは俺様に喧嘩を売ったからな。上手く霧に紛れて異世界に逃げてきたようだが、俺様は執念深い。どこまでも追いかけて必ず殺す」
「悪いけど、フェル達は俺と契約することになってんだ。殺されたら困る」
「知ったことか」
まぁこいつならそう言うわな。だがな・・・。
「あれ、そんな口きいていいの? キリマルはもう地球に戻れないんだろ?」
そう、この人修羅はマナの少ない地球にずっといると、徐々に自我を失うという弱点がある。
「あぁ? だからなんだ?」
俺は亜空間ポケットから、水戸銘菓の吉原殿中を取り出して、キリマルの鼻先でゆらゆらと揺らした。
「あっ! 吉原殿中! くれ!」
くっくっく。キリマルは日本の菓子に飢えている事を知っている。この水あめともち米と砂糖ときな粉で出来たお菓子が、さぞかし魅力的に見えることだろう。
「この星ではもち米が結構貴重でなぁ。この菓子を作るのは結構大変なんよ」
「てめぇ! たかが菓子如きで、この俺を買収するつもりか?」
「その通り。これから契約する悪魔の命と吉原殿中は等価だ。どうする?」
「足もと見やがって~!」
「勿論これ一本だけなんてケチな事はいわないよ。1ダース渡そう。1ダースもあれば、ビャクヤの家族にも分け与える事ができる。きっと皆、大喜びするよ~? どうしますかぁ? 旦那様ぁ~」
悪徳商人のような笑みを浮かべて、次元の切れ目から顔を出したままのキリマルの前で吉原殿中を齧った。
「アァッ!」
キリマルはゴクリと喉を鳴らして、吉原殿中のきな粉の香りをフガフガと嗅いでいる。
「チィーー! わかった! 今回は見逃してやっから、早くそれを寄越せ!」
「契約成立! 毎度あり~!」
吉原殿中をキリマルの大きな手に渡すと、彼は「クハハ!」と嬉しそうな笑い声をあげて、時空の切れ目の奥に引っ込んだ。そして、そのうち切れ目も消えていく。
「え! キリマルを追い払ったのか?!」
小さなフェルは、いつの間にか肩車のような形で俺の肩の上に乗って、頭をペシペシと叩いてくる。
「そうだ。あいつを倒せる奴なんて、この世のどこにもいないんだ。よく喧嘩なんて売ったなぁ。命知らずにも程があるぞ」
「ただのグレーターデーモンだと思ってたからな。それにしてもオビオは凄いな! お菓子だけでキリマルを説得するなんて!」
フェルは俺から降りて、目をキラキラさせながら、こちらを見上げている。
「まぁ、キリマルだから上手くいったとも言えるかな? あいつは日本のお菓子に飢えてんだ。他の奴なら難しかったかもしれない」
そこまで言って、俺の背筋が寒くなった。今頃になってキリマルに対する恐怖がやってきたのだ。彼に殺されると抗いがたい恐怖を植え付けられる。
それに今後、奴はお菓子を貰いに次元の向こう側からやってきそうだ。
ブルブルっと身震いしていると、フェルがハッとした顔をした。
「契約者はオビオなのだな?」
「そうだけど」
「皆の者、参れ!」
フェルがそう喚くと、キリマルに怯えていた悪魔たちがどこからともなく現れて、主の後ろに集まってくる。
「なんだなんだ? どうしたオビオ」
街道からトウスさんやピーターやムクがやって来た。きっと冒険者ギルドで俺たちが魔王城に向かったのを知ったのだろう。
「オビオ様!」
突然、フェルが跪く。そして真っすぐと俺を見つめる。
「我々をキリマルから救って頂き、誠にありがとうございます!」
「えっ?! あ、うん。これから契約するのに死なれちゃ困るからな」
「それでも、あの強大な悪魔を追い返すなんて、誰にでもできる事ではありません。貴方様は、我らの上に立つ実力が十分にあると認識しました。これからよろしくお願いします、主様」
正直、契約するにも一悶着あるかと思ったけど・・・。案外あっさりと事が運んだな。
キリマルに吉原殿中を渡したら、悪魔軍団が素直に従った。これなんていうラノベ?
「じゃあさ、取り合えずカズン領を守りつつ、村人を助けてやってくれないかな? それから沼にある鉄球カボチャを切るのを手伝ってくれ。あれ、村の名物にしたいんだ」
「あの美味しいスープですね!」
「そう! 報酬としてフェル達も貰うといいよ。そうだ! 村まで行って流れを実践するか。じゃあフェルも一緒に来てくれよ。今後の指示をだすからさ」
「御意!」
「なぁ、いつまでこの村にいるつもりなんだよ」
不動聖山のメンバーは冒険者ギルドの酒場で、地走り族に絡まれていた。
「あっちいってくれませんか?」
不機嫌な不動聖山リーダーであるパンの言葉に、地走り族達は一瞬驚いて動きを止め、またニヤニヤして話しかける。
「俺たちの放った聖なるどんぐり以下の不動聖山さん。今の気分はどんな気分? まさか報酬は貰ったりしたの?」
依頼を失敗した冒険者に報酬などあろうか。
どの種族にも性格の悪い者はいる。殊更、樹族にそれが多いだけで、陽気な地走り族も例外はない。
「あっちにいって―――」
パンが声を荒げたその時、カランカランとギルドのドアベルが鳴る。
腰に魔剣必中を携えた白獅子トウスだ。ということは、バトルコック団が帰ってきたのだと誰もが知る。
トウスの後から、ピーター、ムク、オビオ、サーカ、そして悪魔城で一戦を交えた魔王フェルがいた。いや、一戦を交えたと言えるだろうか? バトルコック団も魔王の能力で一方的に拘束されただけだったというのに。
「英雄様のお帰りだぁ! 手下にした魔王を引き連れて!」
どこかでカズン家前での一件を詩人が見ていたのだろうか。既に冒険者ギルドには情報が知れ渡っていた。
さっきまで不動聖山を馬鹿にしていた地走り族が、バトルコック団の周りに集まる。
「外からでも聞こえていたぞ。詰まんねぇ事すんな」
トウスは一度不動聖山を見てから、彼らを嘲笑していた地走り族の額を指で弾いた。
「いてっ! だって!」
「だっても糞もねぇ。お前らはオビオの料理の力で悪魔に有利だったってだけだ。あまり調子をこくな。もし、不動聖山がオビオの料理を食っていたら、魔王だって無事だったかどうか」
トウスの優しい擁護に、パンは嬉しく思いながらも下唇を噛む。
(あの能力の前では、帰還の祈りも効果を発揮する前に磔だ。料理で強化されても魔王の前では無意味だろう)
そんな様子を見ていたオビオが、パンを励ますように肩を叩く。パンはオーガを見上げて口ごもった。
「オビオさん・・・、私は・・・」
「まぁまぁ、元気出しなよ。今からこの村の名物食わせてあげるからさ」
「名物? はて、こんな辺境の村に名物なんかありましたか?」
「これから伝説の名物が生まれるんだよ」
ドアベルが鳴ると、泥だらけの没落貴族兄弟が、一個の大きな鉄球カボチャを持って入ってきた。
「沼のカボチャを持ってきたよ!」
「ご苦労さん!」
オビオはそう言うと、片手でカボチャを受け取り、もう片方の手で500銅貨をピンと兄弟に投げた。
「やったー!」
兄弟達は嬉しそうにお金を受け取ると飛び跳ねた。
「ちょっと待って下さい」
ギルドのカウンターに座っていた吟遊詩人のナニー・シットンが割り込んでくる。オビオは煩いのが現れたと嫌な顔をする。
「もしかしてカボチャ一個に冒険者ギルドは500銅貨も払うんですか? じゃあスープは500銅貨以上もするじゃないですか。そんな高いスープ、誰が飲むのです?」
「一個で二人前以上はできるから問題ないよ。それに食べ終わったカボチャの皮は鍋や器として利用できる。ある程度、フェル達に加工してもらって道具屋に卸すんだ。さぁ、フェル。カボチャを切ってくれ」
「御意、我が主様」
ジャキンと伸びた爪が、鉄のように硬いカボチャを羊羹のように切った。
魔王が切ったカボチャを受け取ると、オビオはカボチャの種をくりぬき、身をかき混ぜながらコンロで温める。
暫くしてカボチャの甘い匂いが漂いだすと、塩を入れて、不動聖山のリーダーの前に置いた。
「召し上がれ、男塾名物! アツアツ! 地獄のカボチャスープ!」
「男塾・・・? カズン村名物じゃないんですか?」
意味不明な事を言うオビオを怪訝な顔で一瞥してから、パンは美味しそうなスープに手を付ける。
オレンジ色のマグマのようなドロッとした液体が、スプーンの上で湯気を立てている。息をかけて冷ましてからそれを口に入れると、パンの顔が明るくなった。
「う、美味い!! 塩だけの味付けで、これなにも美味くなるものなんですか?」
「なーるんです。で、どうかな? 名物になりそうですか? パンさん」
パンはもう一口二口、スープを飲んでから答える。
「ええ、これはいけますよ! 魔王城ではろくに活躍できなかったので、せめて旅先でこのスープの宣伝しておきますね!」
「不動聖山が宣伝してくれたら、大流行間違いなし! なにせ、聖なるパーティが、名前に地獄と付いたスープを宣伝してくれるんだからね。インパクトあるよ!」
オビオがそう言って笑うと、ナニーが一端、酒場の隅の暗闇に入ってから、ハープをわきに抱え、手をゆっくりと叩きながらオビオの前に出てきた。
「クックック。流石はバトルコック団のリーダー。脅威だった悪魔を手下にして、貧困者を救う為の雇用を生み出しました。この村の問題を一気に解決するなんて・・・、これは私からの賛美に値する出来事ですね」
何故か上から目線のナニーに、オビオは「何様だよ!」とツッコんで、彼女の持っていたハープを意味なくかき鳴らす。
素っ頓狂な不協和音が辺りに流れて、酒場は笑いに包まれた。
魔王城に到着するやいなや、貧乳ビキニアーマー魔王フェルが俺に飛びついてきた。
「ちょ、なに?」
フェルに驚きつつも、横をちらりと見るとサーカが俺を睨みつけている。嫉妬される事に悪い気がしないと思いつつも、魔王少女の話を聞く。
「出たのだ! 悪魔キリマルが!」
お前も悪魔だろ。キリマルを化け物みたいにいうなよ。まぁ実力値666の化け物だけども。
「ほら、あそこ!」
魔王少女の指さす先で、キリマルは時空の裂け目から顔だけを出して、こっちを窺っている。
「映画のシャイニングかよ!」
俺は思わずツッコんで、キリマルのトンカチのような頭を叩く。
「クハハハ! 俺が何の真似しているのか、よくわかったな、オビオ」
腕を組んでため息をつくと、顔が殆ど鋭い牙の口である黒い悪魔を睨んだ。
「で、キリマルはフェル達を殺しに来たのか?」
「おうよ。そいつらは俺様に喧嘩を売ったからな。上手く霧に紛れて異世界に逃げてきたようだが、俺様は執念深い。どこまでも追いかけて必ず殺す」
「悪いけど、フェル達は俺と契約することになってんだ。殺されたら困る」
「知ったことか」
まぁこいつならそう言うわな。だがな・・・。
「あれ、そんな口きいていいの? キリマルはもう地球に戻れないんだろ?」
そう、この人修羅はマナの少ない地球にずっといると、徐々に自我を失うという弱点がある。
「あぁ? だからなんだ?」
俺は亜空間ポケットから、水戸銘菓の吉原殿中を取り出して、キリマルの鼻先でゆらゆらと揺らした。
「あっ! 吉原殿中! くれ!」
くっくっく。キリマルは日本の菓子に飢えている事を知っている。この水あめともち米と砂糖ときな粉で出来たお菓子が、さぞかし魅力的に見えることだろう。
「この星ではもち米が結構貴重でなぁ。この菓子を作るのは結構大変なんよ」
「てめぇ! たかが菓子如きで、この俺を買収するつもりか?」
「その通り。これから契約する悪魔の命と吉原殿中は等価だ。どうする?」
「足もと見やがって~!」
「勿論これ一本だけなんてケチな事はいわないよ。1ダース渡そう。1ダースもあれば、ビャクヤの家族にも分け与える事ができる。きっと皆、大喜びするよ~? どうしますかぁ? 旦那様ぁ~」
悪徳商人のような笑みを浮かべて、次元の切れ目から顔を出したままのキリマルの前で吉原殿中を齧った。
「アァッ!」
キリマルはゴクリと喉を鳴らして、吉原殿中のきな粉の香りをフガフガと嗅いでいる。
「チィーー! わかった! 今回は見逃してやっから、早くそれを寄越せ!」
「契約成立! 毎度あり~!」
吉原殿中をキリマルの大きな手に渡すと、彼は「クハハ!」と嬉しそうな笑い声をあげて、時空の切れ目の奥に引っ込んだ。そして、そのうち切れ目も消えていく。
「え! キリマルを追い払ったのか?!」
小さなフェルは、いつの間にか肩車のような形で俺の肩の上に乗って、頭をペシペシと叩いてくる。
「そうだ。あいつを倒せる奴なんて、この世のどこにもいないんだ。よく喧嘩なんて売ったなぁ。命知らずにも程があるぞ」
「ただのグレーターデーモンだと思ってたからな。それにしてもオビオは凄いな! お菓子だけでキリマルを説得するなんて!」
フェルは俺から降りて、目をキラキラさせながら、こちらを見上げている。
「まぁ、キリマルだから上手くいったとも言えるかな? あいつは日本のお菓子に飢えてんだ。他の奴なら難しかったかもしれない」
そこまで言って、俺の背筋が寒くなった。今頃になってキリマルに対する恐怖がやってきたのだ。彼に殺されると抗いがたい恐怖を植え付けられる。
それに今後、奴はお菓子を貰いに次元の向こう側からやってきそうだ。
ブルブルっと身震いしていると、フェルがハッとした顔をした。
「契約者はオビオなのだな?」
「そうだけど」
「皆の者、参れ!」
フェルがそう喚くと、キリマルに怯えていた悪魔たちがどこからともなく現れて、主の後ろに集まってくる。
「なんだなんだ? どうしたオビオ」
街道からトウスさんやピーターやムクがやって来た。きっと冒険者ギルドで俺たちが魔王城に向かったのを知ったのだろう。
「オビオ様!」
突然、フェルが跪く。そして真っすぐと俺を見つめる。
「我々をキリマルから救って頂き、誠にありがとうございます!」
「えっ?! あ、うん。これから契約するのに死なれちゃ困るからな」
「それでも、あの強大な悪魔を追い返すなんて、誰にでもできる事ではありません。貴方様は、我らの上に立つ実力が十分にあると認識しました。これからよろしくお願いします、主様」
正直、契約するにも一悶着あるかと思ったけど・・・。案外あっさりと事が運んだな。
キリマルに吉原殿中を渡したら、悪魔軍団が素直に従った。これなんていうラノベ?
「じゃあさ、取り合えずカズン領を守りつつ、村人を助けてやってくれないかな? それから沼にある鉄球カボチャを切るのを手伝ってくれ。あれ、村の名物にしたいんだ」
「あの美味しいスープですね!」
「そう! 報酬としてフェル達も貰うといいよ。そうだ! 村まで行って流れを実践するか。じゃあフェルも一緒に来てくれよ。今後の指示をだすからさ」
「御意!」
「なぁ、いつまでこの村にいるつもりなんだよ」
不動聖山のメンバーは冒険者ギルドの酒場で、地走り族に絡まれていた。
「あっちいってくれませんか?」
不機嫌な不動聖山リーダーであるパンの言葉に、地走り族達は一瞬驚いて動きを止め、またニヤニヤして話しかける。
「俺たちの放った聖なるどんぐり以下の不動聖山さん。今の気分はどんな気分? まさか報酬は貰ったりしたの?」
依頼を失敗した冒険者に報酬などあろうか。
どの種族にも性格の悪い者はいる。殊更、樹族にそれが多いだけで、陽気な地走り族も例外はない。
「あっちにいって―――」
パンが声を荒げたその時、カランカランとギルドのドアベルが鳴る。
腰に魔剣必中を携えた白獅子トウスだ。ということは、バトルコック団が帰ってきたのだと誰もが知る。
トウスの後から、ピーター、ムク、オビオ、サーカ、そして悪魔城で一戦を交えた魔王フェルがいた。いや、一戦を交えたと言えるだろうか? バトルコック団も魔王の能力で一方的に拘束されただけだったというのに。
「英雄様のお帰りだぁ! 手下にした魔王を引き連れて!」
どこかでカズン家前での一件を詩人が見ていたのだろうか。既に冒険者ギルドには情報が知れ渡っていた。
さっきまで不動聖山を馬鹿にしていた地走り族が、バトルコック団の周りに集まる。
「外からでも聞こえていたぞ。詰まんねぇ事すんな」
トウスは一度不動聖山を見てから、彼らを嘲笑していた地走り族の額を指で弾いた。
「いてっ! だって!」
「だっても糞もねぇ。お前らはオビオの料理の力で悪魔に有利だったってだけだ。あまり調子をこくな。もし、不動聖山がオビオの料理を食っていたら、魔王だって無事だったかどうか」
トウスの優しい擁護に、パンは嬉しく思いながらも下唇を噛む。
(あの能力の前では、帰還の祈りも効果を発揮する前に磔だ。料理で強化されても魔王の前では無意味だろう)
そんな様子を見ていたオビオが、パンを励ますように肩を叩く。パンはオーガを見上げて口ごもった。
「オビオさん・・・、私は・・・」
「まぁまぁ、元気出しなよ。今からこの村の名物食わせてあげるからさ」
「名物? はて、こんな辺境の村に名物なんかありましたか?」
「これから伝説の名物が生まれるんだよ」
ドアベルが鳴ると、泥だらけの没落貴族兄弟が、一個の大きな鉄球カボチャを持って入ってきた。
「沼のカボチャを持ってきたよ!」
「ご苦労さん!」
オビオはそう言うと、片手でカボチャを受け取り、もう片方の手で500銅貨をピンと兄弟に投げた。
「やったー!」
兄弟達は嬉しそうにお金を受け取ると飛び跳ねた。
「ちょっと待って下さい」
ギルドのカウンターに座っていた吟遊詩人のナニー・シットンが割り込んでくる。オビオは煩いのが現れたと嫌な顔をする。
「もしかしてカボチャ一個に冒険者ギルドは500銅貨も払うんですか? じゃあスープは500銅貨以上もするじゃないですか。そんな高いスープ、誰が飲むのです?」
「一個で二人前以上はできるから問題ないよ。それに食べ終わったカボチャの皮は鍋や器として利用できる。ある程度、フェル達に加工してもらって道具屋に卸すんだ。さぁ、フェル。カボチャを切ってくれ」
「御意、我が主様」
ジャキンと伸びた爪が、鉄のように硬いカボチャを羊羹のように切った。
魔王が切ったカボチャを受け取ると、オビオはカボチャの種をくりぬき、身をかき混ぜながらコンロで温める。
暫くしてカボチャの甘い匂いが漂いだすと、塩を入れて、不動聖山のリーダーの前に置いた。
「召し上がれ、男塾名物! アツアツ! 地獄のカボチャスープ!」
「男塾・・・? カズン村名物じゃないんですか?」
意味不明な事を言うオビオを怪訝な顔で一瞥してから、パンは美味しそうなスープに手を付ける。
オレンジ色のマグマのようなドロッとした液体が、スプーンの上で湯気を立てている。息をかけて冷ましてからそれを口に入れると、パンの顔が明るくなった。
「う、美味い!! 塩だけの味付けで、これなにも美味くなるものなんですか?」
「なーるんです。で、どうかな? 名物になりそうですか? パンさん」
パンはもう一口二口、スープを飲んでから答える。
「ええ、これはいけますよ! 魔王城ではろくに活躍できなかったので、せめて旅先でこのスープの宣伝しておきますね!」
「不動聖山が宣伝してくれたら、大流行間違いなし! なにせ、聖なるパーティが、名前に地獄と付いたスープを宣伝してくれるんだからね。インパクトあるよ!」
オビオがそう言って笑うと、ナニーが一端、酒場の隅の暗闇に入ってから、ハープをわきに抱え、手をゆっくりと叩きながらオビオの前に出てきた。
「クックック。流石はバトルコック団のリーダー。脅威だった悪魔を手下にして、貧困者を救う為の雇用を生み出しました。この村の問題を一気に解決するなんて・・・、これは私からの賛美に値する出来事ですね」
何故か上から目線のナニーに、オビオは「何様だよ!」とツッコんで、彼女の持っていたハープを意味なくかき鳴らす。
素っ頓狂な不協和音が辺りに流れて、酒場は笑いに包まれた。
0
あなたにおすすめの小説
僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~
めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。
しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。
そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。
その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。
(スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
あたし、料理をする為に転生した訳ではないのですが?
ウサクマ
ファンタジー
『残念ながらお2人の人生は終わってしまいました』
なんてよくあるフレーズから始まった、ブラコンで狂信者な女の子の物語。
アーチャーのシスコン兄を始めとして出会っていく仲間……タンクのエルフ、マジシャンのハーフエルフと共に、時に王様や王様の夫人…更に女神や眷属まで巻き込みつつ旅先で料理を広めてゆく事に。
※作中は以下の要素を含みます、苦手な方はご注意下さい
【近親愛・同性愛(主に百合)・クトゥルフな詠唱】
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
役立たずとパーティーからもこの世からも追放された無気力回復師、棚ぼたで手に入れたユニークスキル【銀化】で地味にこつこつ無双する!!
佐藤うわ。
ファンタジー
超ほのぼの追放・ユニークスキルものです。基本は異世界ファンタジーギャグラブコメ、たまに緩い戦闘がある感じです。(ほのぼのですが最初に裏切ったPTメンバー三人は和解したりしません。時間はかかりますがちゃんと確実に倒します。遅ざまぁ)
最初から生贄にされる為にPTにスカウトされ、案の定この世から追放されてしまう主人公、しかし彼は知らずにドラゴンから大いなる力を託されます……途中から沢山の国々が出て来て異世界ファンタジー大河みたいになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる