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謀略の行方
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「ヒィィィ!!」
アルケディア王のいる天幕から響き渡る悲鳴を聞きつけ、ファイア・ウォールは緊急事態だと思い、何も言わずに、中へ飛び込んだ。
「若造! 不敬にも程があるぞ!!」
背後からワンドリッターが、若い騎士の肩を掴む手が、樹族にしては分厚い肩に弾かれた。
「僕は若造という名前じゃありませんよ。私はクロス地方の騎士、ファイア・ウォール。それよりも、ワンドリッター閣下もブライトリーフ閣下も何をやってたんですか! 陛下がバートラのゴブリンに囲まれているじゃないですか!」
一人称が「僕」になって拗ねた顔で振り返って睨む若造に、ウルグ・ワンドリッターは計画が狂った事で怒りをぶつける。
「黙れ、小僧! (余計な真似をしおって。折角の王権交代のチャンスを・・・)」
地走り族が多く、過去に聖騎士が一人いたくらいで、その他は王軍に守られてばかりで、腰抜けしか生まれない領地の騎士め、と内心で馬鹿にする。国の最北にあるため、グランデモニウム王国との激戦区。一応、国軍直轄の領地となっているが、侯爵は誰も欲しがらない土地でもある。
「失礼ですが、閣下。今は言い争っている暇はありません!」
若さと立身に燃えるウォールは、魔棍・永久機関を振り回し、ゴブリンに飛びかかった。
勿論、ゴブリンたちは影に沈んで調度品などの陰に混ざる。暗殺者が前衛寄りの樹族の騎士に勝てるわけがないからだ。後衛寄りの樹族の騎士になら圧倒的に有利だっただろうが。
「陛下は椅子を背に!」
少しウェーブのかかった長髪の長身の王は、ファイアの指示に黙って頷くと椅子の前にしゃがんだ。
国王の緑の髪を照らす魔法の明かりは、彼の背後にあるので、影は前に伸びている。つまり、ゴブリンが出てくるとすればここしかないのだ。
が、バートラのゴブリンも馬鹿ではない。そう易々と敵の標的になるつもりはない。
「ロードか聖騎士の【閃光】があれば、ゴブリンを簡単に陰から追い出せるのに」
勿論、それ以外の手段もある。陰の中のゴブリンは無敵というわけでないからだ。魔法や攻撃を当てる事さえできれば、それなりのダメージを与えられるが、普段の攻撃よりは威力が弱くなる。そこで戦士の倍打や、メイジのレジスト貫通のスキルが役に立ってくるのだが、殆どの獣人の戦士は砦の外で死体になっている。レジスト貫通がのスキルが使えるメイジもそうそうはいない。
「残念だが、カズンは鉄傀儡と戦闘の最中だ。貴様も背後の影を気にしたらどうだ? 周囲に気を配れ、若造」
ワンドリッターは、ファイア・ウォールの背後から現れた黒装束のゴブリンを【切り裂きの風】で切り刻む。
(チィ。こうなったらアルケディア王を助けるしかないか。死ねば、近衛兵の落ち度にするつもりだったのにな)
その近衛兵は、バートラのゴブリンから致命傷を受けたり、続々と侵入してきたオーガやオークと戦い、なんとか一時的に辛勝したが、手足を千切り飛ばされた者もおり、スカン・カズンの治療を受けている。手足がくっつかどうかは本人の運次第、カルマ次第だ。
グランデモニウム軍の後続軍はまだいる。今は生き残った獣人も騎士も、王を守らんが為に、この野営地に集まっている最中の状態だ。
(前門のグランデモニウム軍、後門の鉄傀儡。くそ! ろくに魔法も覚えていない、無能の王を守る意味がどこにあるのか。ただただ神話の時代から、血筋が続いているというだけで王と名乗れるのならば、ワンドリッター家やブラッド家にも、その権利はあるはずだ)
秀でた内政と外交力、人望と後ろ盾。アルケディア王は人柄が良く、誰からも好かれやすい性格をしている。しかも、国民の代弁者である元老院とも友好関係にある。自分にはないものを持っている王が、ワンドリッターの憎しみを駆り立てるのだ。とはいえ今、表立って王になると言えば、敵を増やすだけだ。
ゆえの身代わり。ブラッド家の血筋から、傀儡の王を探している現在。未だ候補は見つからず。
「しかし、厄介だな。このまま硬直状態が続けば、こちらが不利だ」
今まで黙っていたワンドリッターの陰気な声に、ウォールは少し苛立つ。
「回復した近衛兵を呼んだらどうです? ワンドリッター閣下」
「馬鹿が。この狭い場所に近衛兵を呼んでも、ゴブリンに有利なだけだ。天幕に入ってきた途端、味方は次々と陰の餌食となるだろう」
自分の影に警戒しつつ、ワンドリッターは、実力こそあれど戦いの知識が浅い若い騎士に指摘した。
「では、我々でゴブリンを駆逐するしかないのですね? ご指示を、閣下」
素直に指示を仰いだつもりだったが、ウルグはファイアの言葉を皮肉と受け止めた。
「ふん。暗殺者の陰潜りは外界の影響を受ける。陰を突き刺せば、ゴブリンは死ぬだろう。一つ一つ陰を突き刺すのだな。まぁ、その間にゴブリンは他所の陰に逃げるだろうが」
無謀で困難な提案をして、嫌味で返したつもりだったが―――。
その言葉を聞いたファイアのこちらを見る視線に尊敬の念を感じたのは、ワンドリッターの気のせいだろうか。
「流石は閣下! 知識の乏しい若輩者の私に、知恵を授けてくれるとは! しかも百を言わず、自ら考える試練を与えてくれました! 一騎士としての先輩の助言に感謝致します!」
そんなつもりはなかったが、勝手に感動し何かをしようとするファイアに、ウルグは知ったかぶりをし、不遜に頷いて見せた。
(何をするつもりかは知らんが、見せてもらおうか。貴様の思い付きを)
「【閃光】を唱えられないのであれば! 全てを焼き払え! 【大炎柱】!!」
「ば! 馬鹿か! 貴様・・・・! くっ! こやつ、詠唱が早い!」
白々しくそう言うウルグが止める間もなく、詠唱は完成し、ファイアは国王の天幕の中で、永久機関をぐるぐると回した後、地面に突き立てた。
途端に辺り一面を火柱が立ち、味方以外のあらゆるものを焼き尽くした。天幕も調度品も机も、そして地面の絨毯も。
「ギャギャッ!!」
全ての陰を焼かれて、ゴブリンが飛び出してくる。その殆どが、火傷で死亡していたが、生き残った暗殺者たちは、任務を遂行すべく、火傷から滲出液と血液を飛び散らしながら、アルケディア王へと飛びかかった。
「他国の傭兵とは思えぬほどの執念! 流石はバートラのゴブリンか! チィ! 詠唱が間に合わん!」
ウルグは敢えて大声でそう言って、まごついて見せた。
(今度こそ王が死ぬ最後のチャンスだが・・・)
黒騎士の願いとは裏腹に、案の定、ファイア・ウォールは風のように素早く動いてしまい、ゴブリンたちを確実に叩きのめし、王を守ると、また大の字になって倒れてしまった。筋肉量が多く自分の体重も考えずに、素早く動いた代償が、アキレス腱断裂である。
(このドサクサに紛れて、この若い芽を摘んでおくか・・・。いや、無理だな。陛下の目がある。なら、いっそ王ごと・・・)
どちらから止めを刺すか、ワンドの先で迷っていると、ブライトリーフが近くで小さく囁いた。
「お止めになった方が賢明ですぞ、ワンドリッター殿。今や視界を遮る天幕は焼けてありませんゆえ。目的のために、少々視界が狭くなり過ぎですな。それよりも、ギャンとカズンを援護した方がよろしいかと」
「わかっておるわ。動ける近衛兵は陛下を囲んで守れ!!」
細目の坊主頭を見て現実に戻り、ファイアを一瞥すると申し訳程度に光魔法ではなく水魔法の【再生】をかけて、ムダンとカズンの背後に迫るオーガやオークを追撃するために、詠唱を開始した。
「馬鹿の一つ覚えみたいに、脚ばかりを狙ってんじゃないよ。お前たちのヘナチョコな武器でどうにかなる装甲じゃないってーの!」
ムダンやカズンの攻撃を受けながら、老婆は喚く。そして、操縦席を後ろに下げると、モニター前に空間ができる。そこに立つとどこからか端子が伸びてきて、操縦者の手足にくっついた。
その間にも、カズンのメイスやムダンの魔法の鉄球が、しゃがんだままのビコノカミの膝を叩いている。
「ワシら脳筋ができる事といえば、これくらいだ。ガッハッハ! 樹族国の悩みは、樹族の騎士に前衛タイプが少ない事だ。それにしても、女機工士。マナが尽きて動けないのに、中々善戦するではないか。感じ入った!」
髭を揺らして笑うムダンの鉄球は魔法の武器のせいか、ただの鉄球の威力しか出ていない。
ロードのカズンがメイスで脚部を攻撃しに来る度に、デカイは腕を動かして振り払う。
「やっと神経と端子が繋がったか。反撃開始だよ。アタシが焼け死ぬのが先か、あんたらが切り刻まれるかのどっちかだっ!」
両腕に付いている盾の下からビームサーベルを突出させ、まずはカズンに一突きを狙うが・・・。
「カハッ!」
その動作だけで内臓が焼ける感覚がした。それでもデカイはギャギャギャと笑う。
「どのみち寿命なんだ。これぐらいなんだってんだい!」
デカイは動作を続行するも、陰から現れたゴブリンの死体が身代わりになった。
「小賢しいね! 死霊使いめ!」
ゾンビの群れがビコノカミ・プロトタイプに群がって絡みつく。それを切り払う度に、老婆のマナは消費され、ダメージが蓄積する。
「でかした! モズク!」
ムダンが自分ではなく直接、奴隷を褒めたことに、カズンは下唇を噛んで嫉妬をしたが、弱りかけの鉄傀儡に止めを刺すべく特攻をかける。
盾を捨て、メイスを両手持ちにして、カズンは走り出した。
「うぉぉぉ!!」
しかし、群がるゾンビと一緒くたにされて、シールドバッシュで吹き飛んだ。
「もはや、光の剣は使えないようですな、あの鉄傀儡は」
ブライトリーフの言葉を聞くまでもない。見ればわかる事だと内心で馬鹿にし、彼の言葉を無視して、ワンドリッターは呟く。
「カズンめ。先走りおって。あれでは、ファイア・ウォールと変わらんではないか」
だが、ただの樹族の騎士ではなく、カズンはロードなので自己回復ができる。一瞬で祈り終えると打撲のダメージが消えてなくなっていた。
新陳代謝を促して治る原理の回復の祈りは、体重が減り、腹が減る。なので、栄養価の高いナッツを頬張っていると、どこからか戦場に似つかわしくない子供の声が聞こえてきた。
「お祖母ちゃん!」
どうやってこの激戦区に来たのか。そこにはゴブリンの子供がいて、手に何やら黒い長方形の箱を持っている。
「ああいう、イレギュラーな存在が戦場を厄介にさせる」
ブライトリーフの標的がオーガから、ゴブリンの子供に向かったので、ウルグ・ワンドリッターはブギブギとうるさいオークたちに【吹雪】で対応しながら叫ぶ。
「止めろ、ハッパ! 相手は子供だぞ!」
「おや、貴方がそんな事をお言いだなんて、夕立の前触れですかな? 私の勘は馬鹿にできませんよ? あれは間違いなく、死神の使い。現実的な事を言えば、こちらを躊躇させる為に【変化】の魔法を使っている斥候かもしれませんぞ、ウルグ殿」
オークの移動速度を【吹雪】で遅らせ、継続ダメージを与えて一息ついたワンドリッターは、衛兵と戦うオーガを警戒しながら、ゴブリンの子供のオーラを見る。
「聞け、ブライトリーフ。あれは斥候ではない。鉄傀儡の周辺に多漂う虚無の霧を忘れたか。魔法は使えないのだ。なので間違いなくメイジ。オーラは赤だ。だが、胆力の無さが子供のそれだろう。戦場で戦う覚悟がない。あれば、素早く任務を遂行しているはずだ」
確かにゴブリンの子供は、ゾンビにたかられているビコノカミ・プロトタイプに驚いて恐怖に震え、動けないように見える。が、それでもハッパはウルグにあの子供を殺す道理を解く。
「こちらへの魔法が打てず、動けないのでしょう」
「だとしてもだ。あの黒い箱が気になる。恐らくは鉄傀儡のパーツの一つ。あの子供は老婆の孫だろう。お祖母ちゃんと言っていた。この流れは僥倖。上手くやれば王を・・・」
ハッパはため息を一つ漏らし、首を振った。
「のんびりと王権交代をすると言ってみたり、チャンスを逃すまいと必死になってみたり。我らが黒騎士殿の心は、猫人の瞳の大きさの如しですなぁ。で、どうするのです?」
「こうするのだ・・・。おい、カズン! 貴様の奴隷の魔法傀儡をここに呼べ! ゾンビは近衛兵の援護に向かわせろ!」
そう言われたカズンは、一応従うふりをするも、疑問で返す。
「それは構いませんが、どうするおつもりで? あれは対人において無敵ですが、傀儡同士の戦いでは分が悪いようにみえます」
「いいから、やれ!」
戦闘に夢中で雑音の聞こえていないムダンをチラリと見て、カズンは静かに頷いた。
片手でロングスタッフを振り回し、ゾンビを操っていた後方のモズクをカズンが見ると、二人の話を聞いていたのか、彼は主と目が合うとサムアップした。
「ふっ」
息が合うとはこの事だろうか。スカン以外でそうなるのは、モズクが初めてだ。
「シズク! 来い!」
モズクはただそう言っただけだ。砦の下で騒音の中、敵と戦っているであろう魔法傀儡に本当に聞こえているのか? カズンは少し疑って砦の壁の方を横目で見る。
するとどうだろう。オーガ二人とオーク一人に手足や体を掴まれながらも、易々と壁を飛び越えてくる魔傀儡がいるではないか。
「よし、ゾンビを下がらせろ! モズク! それから召喚のリキャストタイムを教えろ!」
「ゾンビを下げます! 召喚はいつでもできます!」
ワンドリッターがカズンに近づき、片頬笑いをして彼の肩を叩いた。
「よくやった。あとは、あのゴブリンの子供のやりたいようにやらせるんだ。いいな? 邪魔するなよ?」
カズンは一瞬にして、ワンドリッターの謀略を見抜いた。
無駄に冒険者をやってわけではない。冒険者というものは、どの職業よりも情報に敏い。冒険者ギルドの居酒屋にいれば、モンスターの居場所から、王族のスキャンダル、そして御上の政治的駆け引きまで何でも耳に入ってくる。
(ワンドリッターが王権交代を狙っているという噂は本当だったのか。ということは、だ。それが上手くいけば、私にもおこぼれが回ってくる可能性があるという事だな)
「フハハハ!」
開いた翼飾りの装飾が額にある、白いフルフェイスの下で、カズンが急に笑ったので、ウルグは少し驚いて体を震わせる。
「なんだ?」
「いえ、仰せのままに。閣下。モズク! シズクをムダン閣下の援護に回せ! 閣下の武器はどこぞの赤い騎士のようにはいかんからな! ただし、ムダン閣下の顔は立てるように! あくまで援護に徹しろ。守るのだ!」
「はっ!」
アルケディア王のいる天幕から響き渡る悲鳴を聞きつけ、ファイア・ウォールは緊急事態だと思い、何も言わずに、中へ飛び込んだ。
「若造! 不敬にも程があるぞ!!」
背後からワンドリッターが、若い騎士の肩を掴む手が、樹族にしては分厚い肩に弾かれた。
「僕は若造という名前じゃありませんよ。私はクロス地方の騎士、ファイア・ウォール。それよりも、ワンドリッター閣下もブライトリーフ閣下も何をやってたんですか! 陛下がバートラのゴブリンに囲まれているじゃないですか!」
一人称が「僕」になって拗ねた顔で振り返って睨む若造に、ウルグ・ワンドリッターは計画が狂った事で怒りをぶつける。
「黙れ、小僧! (余計な真似をしおって。折角の王権交代のチャンスを・・・)」
地走り族が多く、過去に聖騎士が一人いたくらいで、その他は王軍に守られてばかりで、腰抜けしか生まれない領地の騎士め、と内心で馬鹿にする。国の最北にあるため、グランデモニウム王国との激戦区。一応、国軍直轄の領地となっているが、侯爵は誰も欲しがらない土地でもある。
「失礼ですが、閣下。今は言い争っている暇はありません!」
若さと立身に燃えるウォールは、魔棍・永久機関を振り回し、ゴブリンに飛びかかった。
勿論、ゴブリンたちは影に沈んで調度品などの陰に混ざる。暗殺者が前衛寄りの樹族の騎士に勝てるわけがないからだ。後衛寄りの樹族の騎士になら圧倒的に有利だっただろうが。
「陛下は椅子を背に!」
少しウェーブのかかった長髪の長身の王は、ファイアの指示に黙って頷くと椅子の前にしゃがんだ。
国王の緑の髪を照らす魔法の明かりは、彼の背後にあるので、影は前に伸びている。つまり、ゴブリンが出てくるとすればここしかないのだ。
が、バートラのゴブリンも馬鹿ではない。そう易々と敵の標的になるつもりはない。
「ロードか聖騎士の【閃光】があれば、ゴブリンを簡単に陰から追い出せるのに」
勿論、それ以外の手段もある。陰の中のゴブリンは無敵というわけでないからだ。魔法や攻撃を当てる事さえできれば、それなりのダメージを与えられるが、普段の攻撃よりは威力が弱くなる。そこで戦士の倍打や、メイジのレジスト貫通のスキルが役に立ってくるのだが、殆どの獣人の戦士は砦の外で死体になっている。レジスト貫通がのスキルが使えるメイジもそうそうはいない。
「残念だが、カズンは鉄傀儡と戦闘の最中だ。貴様も背後の影を気にしたらどうだ? 周囲に気を配れ、若造」
ワンドリッターは、ファイア・ウォールの背後から現れた黒装束のゴブリンを【切り裂きの風】で切り刻む。
(チィ。こうなったらアルケディア王を助けるしかないか。死ねば、近衛兵の落ち度にするつもりだったのにな)
その近衛兵は、バートラのゴブリンから致命傷を受けたり、続々と侵入してきたオーガやオークと戦い、なんとか一時的に辛勝したが、手足を千切り飛ばされた者もおり、スカン・カズンの治療を受けている。手足がくっつかどうかは本人の運次第、カルマ次第だ。
グランデモニウム軍の後続軍はまだいる。今は生き残った獣人も騎士も、王を守らんが為に、この野営地に集まっている最中の状態だ。
(前門のグランデモニウム軍、後門の鉄傀儡。くそ! ろくに魔法も覚えていない、無能の王を守る意味がどこにあるのか。ただただ神話の時代から、血筋が続いているというだけで王と名乗れるのならば、ワンドリッター家やブラッド家にも、その権利はあるはずだ)
秀でた内政と外交力、人望と後ろ盾。アルケディア王は人柄が良く、誰からも好かれやすい性格をしている。しかも、国民の代弁者である元老院とも友好関係にある。自分にはないものを持っている王が、ワンドリッターの憎しみを駆り立てるのだ。とはいえ今、表立って王になると言えば、敵を増やすだけだ。
ゆえの身代わり。ブラッド家の血筋から、傀儡の王を探している現在。未だ候補は見つからず。
「しかし、厄介だな。このまま硬直状態が続けば、こちらが不利だ」
今まで黙っていたワンドリッターの陰気な声に、ウォールは少し苛立つ。
「回復した近衛兵を呼んだらどうです? ワンドリッター閣下」
「馬鹿が。この狭い場所に近衛兵を呼んでも、ゴブリンに有利なだけだ。天幕に入ってきた途端、味方は次々と陰の餌食となるだろう」
自分の影に警戒しつつ、ワンドリッターは、実力こそあれど戦いの知識が浅い若い騎士に指摘した。
「では、我々でゴブリンを駆逐するしかないのですね? ご指示を、閣下」
素直に指示を仰いだつもりだったが、ウルグはファイアの言葉を皮肉と受け止めた。
「ふん。暗殺者の陰潜りは外界の影響を受ける。陰を突き刺せば、ゴブリンは死ぬだろう。一つ一つ陰を突き刺すのだな。まぁ、その間にゴブリンは他所の陰に逃げるだろうが」
無謀で困難な提案をして、嫌味で返したつもりだったが―――。
その言葉を聞いたファイアのこちらを見る視線に尊敬の念を感じたのは、ワンドリッターの気のせいだろうか。
「流石は閣下! 知識の乏しい若輩者の私に、知恵を授けてくれるとは! しかも百を言わず、自ら考える試練を与えてくれました! 一騎士としての先輩の助言に感謝致します!」
そんなつもりはなかったが、勝手に感動し何かをしようとするファイアに、ウルグは知ったかぶりをし、不遜に頷いて見せた。
(何をするつもりかは知らんが、見せてもらおうか。貴様の思い付きを)
「【閃光】を唱えられないのであれば! 全てを焼き払え! 【大炎柱】!!」
「ば! 馬鹿か! 貴様・・・・! くっ! こやつ、詠唱が早い!」
白々しくそう言うウルグが止める間もなく、詠唱は完成し、ファイアは国王の天幕の中で、永久機関をぐるぐると回した後、地面に突き立てた。
途端に辺り一面を火柱が立ち、味方以外のあらゆるものを焼き尽くした。天幕も調度品も机も、そして地面の絨毯も。
「ギャギャッ!!」
全ての陰を焼かれて、ゴブリンが飛び出してくる。その殆どが、火傷で死亡していたが、生き残った暗殺者たちは、任務を遂行すべく、火傷から滲出液と血液を飛び散らしながら、アルケディア王へと飛びかかった。
「他国の傭兵とは思えぬほどの執念! 流石はバートラのゴブリンか! チィ! 詠唱が間に合わん!」
ウルグは敢えて大声でそう言って、まごついて見せた。
(今度こそ王が死ぬ最後のチャンスだが・・・)
黒騎士の願いとは裏腹に、案の定、ファイア・ウォールは風のように素早く動いてしまい、ゴブリンたちを確実に叩きのめし、王を守ると、また大の字になって倒れてしまった。筋肉量が多く自分の体重も考えずに、素早く動いた代償が、アキレス腱断裂である。
(このドサクサに紛れて、この若い芽を摘んでおくか・・・。いや、無理だな。陛下の目がある。なら、いっそ王ごと・・・)
どちらから止めを刺すか、ワンドの先で迷っていると、ブライトリーフが近くで小さく囁いた。
「お止めになった方が賢明ですぞ、ワンドリッター殿。今や視界を遮る天幕は焼けてありませんゆえ。目的のために、少々視界が狭くなり過ぎですな。それよりも、ギャンとカズンを援護した方がよろしいかと」
「わかっておるわ。動ける近衛兵は陛下を囲んで守れ!!」
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「馬鹿の一つ覚えみたいに、脚ばかりを狙ってんじゃないよ。お前たちのヘナチョコな武器でどうにかなる装甲じゃないってーの!」
ムダンやカズンの攻撃を受けながら、老婆は喚く。そして、操縦席を後ろに下げると、モニター前に空間ができる。そこに立つとどこからか端子が伸びてきて、操縦者の手足にくっついた。
その間にも、カズンのメイスやムダンの魔法の鉄球が、しゃがんだままのビコノカミの膝を叩いている。
「ワシら脳筋ができる事といえば、これくらいだ。ガッハッハ! 樹族国の悩みは、樹族の騎士に前衛タイプが少ない事だ。それにしても、女機工士。マナが尽きて動けないのに、中々善戦するではないか。感じ入った!」
髭を揺らして笑うムダンの鉄球は魔法の武器のせいか、ただの鉄球の威力しか出ていない。
ロードのカズンがメイスで脚部を攻撃しに来る度に、デカイは腕を動かして振り払う。
「やっと神経と端子が繋がったか。反撃開始だよ。アタシが焼け死ぬのが先か、あんたらが切り刻まれるかのどっちかだっ!」
両腕に付いている盾の下からビームサーベルを突出させ、まずはカズンに一突きを狙うが・・・。
「カハッ!」
その動作だけで内臓が焼ける感覚がした。それでもデカイはギャギャギャと笑う。
「どのみち寿命なんだ。これぐらいなんだってんだい!」
デカイは動作を続行するも、陰から現れたゴブリンの死体が身代わりになった。
「小賢しいね! 死霊使いめ!」
ゾンビの群れがビコノカミ・プロトタイプに群がって絡みつく。それを切り払う度に、老婆のマナは消費され、ダメージが蓄積する。
「でかした! モズク!」
ムダンが自分ではなく直接、奴隷を褒めたことに、カズンは下唇を噛んで嫉妬をしたが、弱りかけの鉄傀儡に止めを刺すべく特攻をかける。
盾を捨て、メイスを両手持ちにして、カズンは走り出した。
「うぉぉぉ!!」
しかし、群がるゾンビと一緒くたにされて、シールドバッシュで吹き飛んだ。
「もはや、光の剣は使えないようですな、あの鉄傀儡は」
ブライトリーフの言葉を聞くまでもない。見ればわかる事だと内心で馬鹿にし、彼の言葉を無視して、ワンドリッターは呟く。
「カズンめ。先走りおって。あれでは、ファイア・ウォールと変わらんではないか」
だが、ただの樹族の騎士ではなく、カズンはロードなので自己回復ができる。一瞬で祈り終えると打撲のダメージが消えてなくなっていた。
新陳代謝を促して治る原理の回復の祈りは、体重が減り、腹が減る。なので、栄養価の高いナッツを頬張っていると、どこからか戦場に似つかわしくない子供の声が聞こえてきた。
「お祖母ちゃん!」
どうやってこの激戦区に来たのか。そこにはゴブリンの子供がいて、手に何やら黒い長方形の箱を持っている。
「ああいう、イレギュラーな存在が戦場を厄介にさせる」
ブライトリーフの標的がオーガから、ゴブリンの子供に向かったので、ウルグ・ワンドリッターはブギブギとうるさいオークたちに【吹雪】で対応しながら叫ぶ。
「止めろ、ハッパ! 相手は子供だぞ!」
「おや、貴方がそんな事をお言いだなんて、夕立の前触れですかな? 私の勘は馬鹿にできませんよ? あれは間違いなく、死神の使い。現実的な事を言えば、こちらを躊躇させる為に【変化】の魔法を使っている斥候かもしれませんぞ、ウルグ殿」
オークの移動速度を【吹雪】で遅らせ、継続ダメージを与えて一息ついたワンドリッターは、衛兵と戦うオーガを警戒しながら、ゴブリンの子供のオーラを見る。
「聞け、ブライトリーフ。あれは斥候ではない。鉄傀儡の周辺に多漂う虚無の霧を忘れたか。魔法は使えないのだ。なので間違いなくメイジ。オーラは赤だ。だが、胆力の無さが子供のそれだろう。戦場で戦う覚悟がない。あれば、素早く任務を遂行しているはずだ」
確かにゴブリンの子供は、ゾンビにたかられているビコノカミ・プロトタイプに驚いて恐怖に震え、動けないように見える。が、それでもハッパはウルグにあの子供を殺す道理を解く。
「こちらへの魔法が打てず、動けないのでしょう」
「だとしてもだ。あの黒い箱が気になる。恐らくは鉄傀儡のパーツの一つ。あの子供は老婆の孫だろう。お祖母ちゃんと言っていた。この流れは僥倖。上手くやれば王を・・・」
ハッパはため息を一つ漏らし、首を振った。
「のんびりと王権交代をすると言ってみたり、チャンスを逃すまいと必死になってみたり。我らが黒騎士殿の心は、猫人の瞳の大きさの如しですなぁ。で、どうするのです?」
「こうするのだ・・・。おい、カズン! 貴様の奴隷の魔法傀儡をここに呼べ! ゾンビは近衛兵の援護に向かわせろ!」
そう言われたカズンは、一応従うふりをするも、疑問で返す。
「それは構いませんが、どうするおつもりで? あれは対人において無敵ですが、傀儡同士の戦いでは分が悪いようにみえます」
「いいから、やれ!」
戦闘に夢中で雑音の聞こえていないムダンをチラリと見て、カズンは静かに頷いた。
片手でロングスタッフを振り回し、ゾンビを操っていた後方のモズクをカズンが見ると、二人の話を聞いていたのか、彼は主と目が合うとサムアップした。
「ふっ」
息が合うとはこの事だろうか。スカン以外でそうなるのは、モズクが初めてだ。
「シズク! 来い!」
モズクはただそう言っただけだ。砦の下で騒音の中、敵と戦っているであろう魔法傀儡に本当に聞こえているのか? カズンは少し疑って砦の壁の方を横目で見る。
するとどうだろう。オーガ二人とオーク一人に手足や体を掴まれながらも、易々と壁を飛び越えてくる魔傀儡がいるではないか。
「よし、ゾンビを下がらせろ! モズク! それから召喚のリキャストタイムを教えろ!」
「ゾンビを下げます! 召喚はいつでもできます!」
ワンドリッターがカズンに近づき、片頬笑いをして彼の肩を叩いた。
「よくやった。あとは、あのゴブリンの子供のやりたいようにやらせるんだ。いいな? 邪魔するなよ?」
カズンは一瞬にして、ワンドリッターの謀略を見抜いた。
無駄に冒険者をやってわけではない。冒険者というものは、どの職業よりも情報に敏い。冒険者ギルドの居酒屋にいれば、モンスターの居場所から、王族のスキャンダル、そして御上の政治的駆け引きまで何でも耳に入ってくる。
(ワンドリッターが王権交代を狙っているという噂は本当だったのか。ということは、だ。それが上手くいけば、私にもおこぼれが回ってくる可能性があるという事だな)
「フハハハ!」
開いた翼飾りの装飾が額にある、白いフルフェイスの下で、カズンが急に笑ったので、ウルグは少し驚いて体を震わせる。
「なんだ?」
「いえ、仰せのままに。閣下。モズク! シズクをムダン閣下の援護に回せ! 閣下の武器はどこぞの赤い騎士のようにはいかんからな! ただし、ムダン閣下の顔は立てるように! あくまで援護に徹しろ。守るのだ!」
「はっ!」
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そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
キャンピングカーで、異世界キャンプ旅
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