料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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謎の薬と銃

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 常夏のレオンの太陽が、俺の手にはめた手錠に熱を帯びさせる。街道の土から湿気た空気が沸き上がり、息をすると土と何かが腐敗した臭いがする。臭ぇ。

 手錠には、紐が付いており、その端をマリーが申し訳程度に持っている。

 猫人に扮する彼女が耳をピコピコと動かし、振り返って言った。

「いいのかニャ? オビオの作戦を最後まで聞かずに出発してしまって」

 俺は目深に被ったフードの下から、周囲を警戒しつつ、マリーやシンゾウに歩幅を合わせて歩く。こいつらの歩みは遅い。

「いいんだ。ビャッコのオッサンには、聖下とオビオがついている。それよりも、俺はフレアや親父を説得して連れ戻さなければならねぇ。一刻も早くな」

 そうだ。別れてから時間が経ち過ぎた。一年半以上か? その間に、親父やフレアはギンガー以外の武将や部下に情が移っていてもおかしくない。

 そうなると説得は困難になってくる。やもすれば、俺たち家族の絆も危ういかもしれねぇ。

「そういえば、トウス殿は出かけしなに、聖下からこっそりと何かを貰っていたでござるが・・・。なんでござろうか?」

 俺は手錠が付いたままの両手で、胸元のペンダントを出して、シンゾウに見せた。

「星型のペンダントだが」

「なんと! 神から直接、信者として認められたでござるか?! そのペンダント、神学庁の連中が聞いたら、涎を垂らして欲しがるでござるよ」

「聖下から信者の証を貰った奴なんて、結構いるんじゃねぇのか? 聖地巡礼をしている高位の坊さんなんて山ほどいるだろうしよ」

「いや、拙者が知る限りでは、ヒジリ聖下から直接手渡しで貰ったのは、トウス殿だけでござる。そのペンダントの事は、ウィング殿やパン殿には内緒にした方がいいでござるよ。きっと、欲しがるでござろうから」

「そんなに良い物なら、黙っておくか。ガハハ」

「それがいいでござる」

「そろそろ、ギンガーの宮殿が見えてきたニャ。口を紡ぐニャ」

「そうだな。急に猿の匂いが濃くなってきやがった。もうこっからは監視されていると思った方がいい」

「御意」

 俺たちは黙って歩く。あらゆる情報を相手に与えない為もあるが、仲良くお喋りなんかしてたら、猿が怪しむ。

 宮殿の前まで来ると当然、門番に止められた。門番はサイ族だ。

「止まれ」

 お決まりのようにそう言って、サイ族の門番はもう一人の相方を目の合図だけで、奥にやらせる。

「そんな回りくどい事しなくても、猿どもはもう俺に気が付いてんだろうがよ」

 奴ら暗殺者特有のねちっこい視線を、俺は嫌と言うほど感じている。

「お前は黙ってるニャ」

 マリー、今はニャットと呼んでおこうか。ニャットが手錠の縄を強く引っ張った。まぁ、その程度では俺はびくともしねぇんだけどな。

 そうこうしているうちに、門番は戻ってきて、相方に顎で入れていいぞと合図する。寡黙な部族なのは知っているが、お前らは言葉を持たねぇのか。もっと喋れよ。

「入れ」

 お許しを頂いたので、俺たちは宮殿の前庭に足を踏み入れた。そのまま進み、玉ねぎみたいな門をくぐって、中庭まで来ると、ニャットとニャンゾウが不意に飛び退いた。

 地面にはクナイが何本か刺さっている。

「よくもノコノコとやってこれたな。トウス」

 白面の長か。白い仮面にビャクヤのような表情はない。目と口に穴が開いているだけだ。

 長が地面に刺さったクナイを回収しようとして、それが無い事に気づく。

 ニャンゾウが全て回収してしまったのだ。抜け目がねぇな。まぁ、クナイも安くねぇからな。

「チッ!」

 白々しく口笛を吹くニャンゾウを睨みつけ、長はニャットを値踏みをする。何せ二人とも、魔法の装備で身を固めているからな。

「ふん、冒険者にしてはマシな方か。ほら、さっさと報酬を受け取って帰れ」

 白面長は地面に金貨の入った袋を二つ投げる。地面に撒きあがる土埃を見るに、十分過ぎる報酬だ。

「これっぽっちかニャ?」

「なに?」

 うん? ニャットは何を考えているんだ?

「この程度に金貨では納得がいかんでござるな」

 ござるまでどうした?

「ほう? 何故だ?」

「貴殿は、いきなり襲ってきたでござる。それは報酬を渡す前に殺す意図があったという事でござるよ。契約違反をしたのだから、せめて一晩くらいは、もてなしてもらわないと」

「あの程度、避けないでどうする。今度は生ぬるいけん制ではなく、本気の投擲というものを見せてやってもいいのだが?」

「そんな事したら、冒険者ギルドを敵に回すようなもんだニャ。戦争の時に雇う冒険者がいなくなってもいいなら、やるがいいニャ」

「ゴミの吹き溜まりが! 調子に乗るなよ!」

 なんだ、なんだ? 白面長を挑発してどうするつもりだ?

「しずまれぃ!」

 奥からギンガーが現れた。なるほど、大騒ぎして、本命を呼び寄せるって事か。

 見たところ近くにレプタリアンはいなさそうだな。てっきり一緒に行動していると思っていたが。

「報酬は私から渡すと言ったはずだぞ、白面長」

 銀色のギンガーは、咄嗟に跪く白面長をねめつけ、地面の金貨袋を拾い、奥へ投げた。

「しかし、トウスは一号を・・・」

「一号は弱いから負けた。ただそれだけの事だ。復讐とはお前らしくないな、白面長」

「ぐぬぅ」

 あんまり意思疎通は出来てねぇようだな、白面とスルターンは。

「冒険者よ。報酬は何が良いか?」

「魔法の武器を失ったので、忍者と盗賊に使える得物を下さると助かるでござる」

「よかろう。そこなもの! この二人を奥の宝物殿へ案内せよ」

 ギンガーは近くにいたメイドに二人を案内させた。

 中庭に残るのは、ギンガーと悔しそうな顔を仮面の下で浮かべているであろう白面長だけだ。

「して、どうやって捕まったのだ? トウス」

 んん? そういう話は決めてなかったな。適当こくか。

「忍者の捕縛術と盗賊兼魔法使いの幻術にやられたのよ」

「信じられんな。ビャッコの宮殿で、それをあの二人はやってのけたというのか?」

「冒険者ってのは、どんな手でも使う。それで説明は十分じゃねぇか?」

「フハハ! 確かに」

「で、親父とフレアはどこだ?」

「そんなに気になるか?」

「あぁ。捕まった以上、あいつらと共に道を行く覚悟は決めたからな」

「随分とあっさりしているな。ビャッコは厚遇してくれなかったのか?」

「いや、そんな事はねぇよ。ビャッコのオッサンは、今も俺を息子のように思ってくれている」

「ではなぜ、裏切る?」

「同盟部族より、家族の方が大事だって事だ」

「なるほど。しかし、お前はその家族を捨てて逃げたではないか」

「もうあの頃の俺じゃねぇってこったな。逃げねぇと決めたんだ」

「素晴らしい心構えだ。だが、一度裏切った者は何度でも裏切る。もし私に仕える覚悟があるなら・・・」

 そう言って、ギンガーは懐から小瓶を出した。その中には薬のような物が何個か入っている。

「これを飲めるはずだ」

「なんだぁ? それは」

 オビオの作った薬なら喜んで飲むが、お前のはなぁ・・・。

「まぁ百聞は一見にしかず。白面長。少し離れた場所でこれを飲んでみろ」

「・・・。御意」

 一瞬、白面長から殺気のような者を感じたな。誰に向けた殺意だ? 普通なら俺だが、どうもそんな感じはしねぇ。

 白面長は中庭の端まで歩き、薬を仮面の口に押し込んだ。

 その直後。

「死ねぃ! トウス!」

 白面長は薬を飲んでいねぇな、こりゃ。

 奴は薬を投げ捨て、クナイの二刀流で真っ先に俺に襲い掛かってきた。

「悪いが、俺はまだ死ぬ気はねぇぜ!」

 俺は手錠を力任せに壊し、スルターンの腰にあった儀礼用のショートソードを借りた。

 キンッ! と音を立ててクナイを弾いたが、右から左から来る攻撃は、戦闘向きではないショートソードを、少しずつ破壊していく。

 ならば!

「オビオ式投げ技!」

 ショートソードを捨て、俺は白面長の襟元を掴むと、投げ飛ばさずに地面に叩きつけた。

 受け身を取らなかった白面長は、頭を地面にバウンドさせ、背中をこれでもかと打ちつける。

「そろそろか」

 襲われているにも関わらず、妙に冷静なスルターンがそう言うと、白面長の体が、ガスの弾った鯨のように膨らんで、破裂してしまった。

 破裂する白面長の血を浴びるわけにはいかねぇ。白い毛並みが台無しだからな。

 俺は大きく跳躍して、その場から飛び退くと、血まみれのギンガーを見た。

「銃・・・、か?!」

 銃にしてはおかしい。ノームのリュウグの持っていたソレとは似て非なるものだ。

 奴の手には、穴の無い黒いラッパ銃のようなものが握られていた。
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