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禁断の箱庭と融合する前の世界(17)
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チョールズ・ヴャーンズが自分の能力の片鱗を垣間見たのは、貧民街の路地裏でオークの強盗に襲われた時であった。
どうか殺さないでくれと懇願する駆け出しのゴブリンメイジは大した金を持っておらず、オークはこの縮こまって怯える男を、苛立ちの慰みとして殺すつもりでいた。
しかしどういう訳か慈悲を乞う目の前のゴブリンを殺す気にはならない。
立ち去るオークを見て驚きつつも杖と新しく買った呪文書を拾って、新米メイジは一か八かの賭けに出た。ヴャーンズはオークのその背中に【闇の炎】を放ったのだ。
不意打ちさえ喰らわなければメイジは強い。が、炎は火傷を負わしはしたが強盗の体を燃え尽くす程の威力は出ずレジストされた事が解る。
オークの殺意に満ちた目が此方に向くのが解った。オークはダガーを逆手に構え、次の呪文を詠唱される前に左手でゴブリンの口を塞いで喉元を狙った。
しかし確実にゴブリンの喉を掻き斬れたその攻撃は、ダガーを持った拳によるパンチに変わっていたのだ。
オークは首を傾げながら舌打ちをする。どうもこのゴブリンを殺そうとすると催眠術にかかったように体が言うを事きかなくなる。
「わぁぁぁ!こっちに来るな!死ね死ね死ね!」
顎を殴られ尻餅をつき、口から一筋の血を流して狼狽するヴャーンズは杖を振って威嚇する。
するとオークの目から光が消え路地の暗闇に向かって歩きだし、悪臭を放つ垢塗れの強盗はダガーを心臓に突き刺し自害した。
ヴャーンズは困惑しながら立ち上がると、暫く考えこんだ後、自分に何かしらの能力が授かったのだという考えに至る。
そして天に向かって手をかざし、能力を授けてくれた神に感謝した。
「ありがとうございます!ありがとうございます!神様!ありが・・ヒャハハハ!」
「わぁぁぁ!こっちに来るな!死ね死ね死ね!」
オーガの軽いビンタで鼻から血を出して狼狽する皇帝は尻もちをついて後ずさりする。
死ねと言っても下僕になれと言っても目の前のオーガは言葉に従わなかった。回復の指輪は直ぐに鼻血を止めるも小さなゴブリンの恐怖と混乱までは癒せない。
(考えろ、何か策はあるはずだ。闇属性じゃないオーガなんて滅多にいないのに!このオーガはそうなのか?しかも彼は魔法を完璧に無効化する。多くの魔法を捨て、メイジが寿命の際まで【反魔法】の詠唱の練習を繰り返してようやく覚えられる―――覚えるにはあまりに多くの時間を犠牲にしてしまう非効率的なアンチ魔法を若いオーガメイジ如きが覚えられるだろうか?そういったアイテムを持っているのか?そこまで強力なアイテムは地下迷宮の奥深くまで行き、到底人類では太刀打ち出来ないような強力な魔物を数百体倒して、それでも手に入るかどうかだ。もし何かの幸運で魔法無効化のアイテムをあっさりと手に入れたのなら、これ以上無い幸運の持ち主と言えよう。・・・認めんぞ!そんな偶然が重なってなるものか!馬鹿者!)
混乱した頭でグルグルと思考をめぐらせて結局、自分に振りかかる運命を呪っただけであった。
「エ、エクセレント!」
尻もちをついた姿勢で片手を出し、もうそれ以上の攻撃はやめてくれという意思表示をして立ち上がると汚れていないローブのお尻をパンパンと叩いてを払った。
猫背で指先を合わせつつ、ちらりとウェイロニーを見ると彼女は信じられないという顔で立ち尽くして皇帝を見つめていた。
(私だって信じられるか!)
「・・・君の勝ちだ。皇帝の座は譲ろう。ただ皇帝になるにはある試練が必要でな。この試練を乗り越えた者がその器を認められて初めて皇帝として臣民に認識される。こればかりは伝統なので仕方がない事だ。ガードナイト!試練の三面鏡を持って来い」
全身鎧を纏ったガードナイトのオーガが部屋の隅に綺麗な刺繍を施した布を被せてある巨大な三面鏡を抱えて持ってくると、ヒジリの前に広げて置いた。
「さてさて、鏡の中は何が見えるかな?ヒジリ殿」
ガードナイトが布を取り去ると最初は自分の全身が映っていたが、段々と何かが見えてくる。
黒いローブを来た金髪の男が悪魔、あるいは邪神の類に拷問を受けている姿だった。金色の瞳の中に砂時計を宿したその男は苦痛に悶絶するも声を出して無様に叫んだりはしない。
ヒジリは黒いローブの男に同情しながらも目を逸らさずに見つめている。
「悪魔か何かに拷問を受ける黒ローブの男が見える」
「ほう。その鏡に映るのは異世界の地獄。君の試練はその男を救い出す事のようだな。さぁ入りなさい。勇気を臣民に示すのだ」
これで主殿の住む樹族国が安泰になるのならばと一歩踏み出そうとしたが、ふと滝の野営地でオークの呪術師から聞いた予言を思い出した。
(旦那が今やろうとしている事は悪手も悪手、大悪手でさぁね。このまま進めば孤独がその身を引き裂くことになりやす。一旦そこに身を置くともう引き返せはしやせん)
ヒジリはヴャーンズの顔を見る。
無表情で背筋と首を伸ばして、指先を何度も合わせては離し、を繰り返している。
彼からは努めて冷静さを保とうする違和感を感じる。
続いてサキュバスを見た。淫靡なオーラは消えておりこれまた無表情だった。何かを期待しているような空気を二人から感じる。
「私がライトノベルや漫画の熱血主人公であれば、受けて立つぜ等と言ってこの三面鏡に飛び込み、見事苦境を乗り越え帰って来るのであろうが・・・。残念ながら私は熱血主人公には向かない変人クーデレタイプだ」
ウメボシは驚いて茶化す。
「え?変人は解りますがクーデレだったのですか?このウメボシにいつデレてくれるのですか?え?・・・おっと!感情が昂ってしまいました。失礼しました。・・・それにしてもクーデレはイグナの専売特許だと思っておりましたが」
訳の判らない会話を始める二人にヴャーンズとウェイロニーは顔を見合わせて困惑している。
ヒジリは二人の困惑を無視して話しかけた。
「確か闇側の掟では力こそ全てだったはず。そして私は力を示した」
ヴャーンズにまだ無表情を努めているが分厚い魔法のローブの下は汗が滝のように流れ落ちている。
「ああ、勿論だとも。しかしこれは慣例というか伝統というか・・・」
ヒジリは顎を擦って右眉を上げて唸る。
「はて。鉄の掟を上回る強制力がその伝統とやらにはあるのかね?力を持つものが全てを決める。それが闇側の理だったと思うが違っただろうか?皇帝陛下。いや、元皇帝陛下」
「しかし、これは歴代の皇帝が通ってきた道・・・」
ヴャーンズは何とかしてこのオーガを三面鏡の中へ誘い異界送りにしたい。しつこく押し問答をして食らいついているとイービルアイが突然間に割り込んできた。可愛らしい一つ目がじっと此方を見つめてくる。
「スキャン機能は万全ではありませんが、貴方が嘘を付いている可能性が高いとウメボシのコンピュターが判断しております」
急に場面が変わる。
タスネの屋敷でイグナは自室にてゴキブリを見つけてしまい恐怖に身を震わせていた。
ゴキブリは怖がるイグナを知ってか知らずか触覚をワサワサと動かし、テカテカと光る体をカサッ!カサッ!と動かして机の上に避難するイグナに迫る。
今から悲鳴をあげて召使を読んでも果たして間に合うだろうか?自分の声は思ったより通らないし小さい。黒い瞳に闇が伴わない、混乱した渦を浮かべイグナは対応策を考える。
結局少女はワンドをゴキブリに向けてあっちいけと振り回したが、効果はなくゴキブリは飛ぶぞと言わんばかりに羽をパタパタと羽ばたかせ始めた。
とうとうイグナの恐怖が頂点に達した。「わわーーわわーー!」と感情の篭っていない悲鳴を上げると、猛烈に魔力を高め始めた。
首にペンダントのように掛けたノームモドキの装置がマナの供給を受けピーピーと鳴り出した。
たかがゴキブリされどゴキブリ。羽の準備運動を終えて突然イグナの顔面目掛けて飛びかかる!
ゆっくりと時間は動きイグナはゴキブリをワンドで指すと【死】を唱えた。
挑発的だったゴキブリは空中で腹を見せて次の世界へと旅立った。
しかしゴキブリは死に際に腹から卵をブリブリと産み、自分の生きた証を残したのだった。
微妙にピクピクと動く小豆のような卵と動かなくなったゴキブリが椅子の上にゆっくりと落ちる。
三十分後、コロネが部屋にやってきてキャハハと笑いながら卵を指先で潰し、ゴキブリの死骸を窓の外に放り投げるまでイグナは青い顔をして机の上で半ば失神していたのだった。
「マスター。今しがたカプリコンとの繋がりが回復しました。どうやらイグナが強力な魔法を使ったようです。マナが装置に注がれました。遮蔽フィールドの穴がここまで広がったようです。スキャン機能のエラーを修復。修復完了」
「イグナが強力な魔法を?危険な目に遭っていないだろうな?」
「イグナの体に付着しているナノマシンからは危険信号は出ておりません。ところでそこのゴブリンが嘘を付いている事が異常な発汗と心臓の鼓動によりウメボシには完璧に解ります」
ヒジリはズンズンとゴブリンの皇帝に近づく。サキュバスも皇帝も必死になって魔法を唱えているが地球人であるヒジリには見えないし効果もない。
ネック・ハンギング・ツリーで釣り上げられたヴャーンズは喉仏を圧迫されて苦しそうに藻掻いている。
「やめてよぉ!やめたげてよぅ!」
心の底からヴャーンズを愛しているウェイロニーがぽかぽかとヒジリの背中を叩く。
ヒジリが凶暴なオーガを演じサキュバスにウガァ!と威嚇するとサキュバスはへたり込み目と下腹部から生温い水を流した。
ガードナイトのオーガ達は大盾で床を叩いて囃し立てている。
「力こそ全て!力こそ全て!」
「我に従え、前皇帝よ。逆らえばこのまま三面鏡に放り込む」
「カ・・・カハァ、はい!従います」
闇側の掟を呪文のように唱え、今まで誰も逆らうことが出来なかったゴブリンの皇帝が負けを認めた事をオーガのガードナイト達は喜んだ。そして自分たちと同じ種族が帝国の頂点に立った事を誇りに思う。
うぉぉぉー!と雄叫びを上げ、ガードナイト達が跪いて天を仰ぐと、グランデモニウム城の魔法水晶でこの様子を見ていたシルビィもガードナイトと同じポーズをとった。
「停戦の合図を出せ。恐らくこの様子は帝国軍側の魔法水晶にも映っているはずだ!」
ジュウゾはこの役目を誰にも譲るまいと停戦合図用の花火のある中庭まで走っていった。
シルビィは走って城のバルコニーから外を眺める。
ヴャーンズの負けと新しい皇帝の誕生の瞬間を魔法水晶で見ていた両軍からほぼ同時に停戦の花火が打ち上がる。
「ヨッシャァァァ!」
喜ぶシルビィにジュウゾの部下が近づいて来た。
「お喜びの所悪いのですが、お耳をお貸し頂けますでしょうか」
「こんな時に間の悪い奴だ、全く!」
と言いつつもシルビィは耳を貸す。
「実は、アルケイディア城の拷問部屋の牢からシディマとマギンが逃げ出しました。シディマは姿をくらまし、マギンはここへ向かっているとの事です。・・・今まさに!」
アイスピックのような麻痺毒の塗られた刺突武器がシルビィの脚絆の隙間から食い込んでくる。
ジュウゾの部下だと思っていた人物の顔が醜く歪み始めた。変装の魔法を解いたのだ。
「き、貴様・・・。マギンか・・・」
「当たり~、チョベリグ~!」
ナンベルがふざけた時によくやるタップを踏んで、魔人族のマギンはシルビィを抱えると転移石で自分のアジトまで飛んだ。
「シルビィ様!おや・・・?これは血・・・?」
暫くして王座の間にやって来たジュウゾは血から匂うシビレホグウィードという植物の独特な匂いを嗅ぎ分けた。
直ぐに部屋にいたはずの部下達に「何をしていたのか!」と怒鳴るも返事はない。それもそのはず部下たちは吹き矢を受け【変装】の魔法で調度品に化けたまま麻痺毒で動けなくなっていたのだ。
「折角のお祝いムードが微妙なものになってきたぞ」
大将であるシルビィを心配するジュウゾの元へゲルシの使い魔である知性を持った鷹が現れ、嘴を動かさずに喋りだした。
「ゲルシ様から伝令です。マギンとシディマが拷問室から逃げ出しました!」
覆面の口の部分が息でふわっと膨れた。大きな溜息をついたからだ。
「遅いわ。馬鹿者が。恐らく大将を攫ったのはそのマギンであろう。ゲルシめ・・・。陛下のお気に入りだからと慢心したか。私もゲルシも処分は免れんぞ」
我が身の心配半分、シルビィの無事を祈る気持ち半分、これからどうしたものかと途方に暮れジュウゾは王座に至る階段に項垂れるように座った。
外から聞こえる勝利に酔いしれる自軍の歓声が”裏側“の長には心をざわめかす雑音にしか聞こえなかった。
意識があるのに体が動かない。シルビィの目にはマギンが金縛りの時に見る幽霊のように思えた。
実際、拷問で形の歪になったマギンの顔はおとぎ話に出てくる恐ろしく醜い幽霊のようで以前のような真面目臭い顔の面影はない。
全く髪の生えなくなった凸凹とした頭を擦りながら片頬しか上がらなくなった口元を歪ませてマギンは笑う。
「アチシを苦しませようと下手に生かしたのが裏目になったっていうか~。ねぇ?シルビィさん」
動けないシルビィの綺麗な赤色の髪を撫でる。そして十本ほどの毛を強引に引き抜く。
「こうやって毎日毎日少しずつ毛を抜くと面白いかも~。同じ場所ばかりを何度も毟るっていうか~。生えてくる傍から抜いていくっていうか~。生えてこなくなるまで執拗に抜いて~完璧に禿げたら次の場所~。合間合間に爪を剥いだり歯を無理やり抜いたりして~。クフフフ」
恐怖の感情を訴えるシルビィの目を見て、マギンは心の奥底から流れ来る快楽に身を震わせた。
「何年もかけてゆっくりゆっくりと正気を保たせたまま、グヒッ!体の彼方此方を駄目にしていくのは楽しいだろうな~。れろれろれろ」
何の脈絡もなく、マギンはシルビィの頬を舐める。
ナンベル以上の彼女の狂気は次に何をしでかすか判らないという恐怖をシルビィの心に植え付けていた。
「何もそんなに怯えなくても良いっていうか~。アチシは~アンタとぉ~同じ様な事をしようとしてるだけっす。すっすすっす」
シルビィはこれから待ち受ける運命に怯え、雷雪が吹雪くあの夜に体を交わしたヒジリの事を思い出す。
あの時の嫌な予感はこの事だったんだ、死を予感したからこそ、あんなにヒジリの事を自分は欲したのだと。
(助けてダーリン!思い残すことはないなんて言っていたけど、やっぱりダーリンともっと色々なことがしたい!!)
こんな状況でもシルビィは愛しいヒジリの事を思い浮かべる。彼なら突然現れて助けてくれるような気がしたのだ。彼はこれまで不可能を可能にしてきた男だ。私を助けるぐらいなんて事はないはずだと絶望の中に希望を見出そうとした。
果たしてその願いは現人神である彼に届いたのか。
―――シュバ!―――
突然マギンの後ろで何かが光り音がした。
麻痺で体の動かないシルビィは光った方を見る事すらできない。しかし、耳には愛しい人のいつもの声が聞こえてきた。
囁くような、それでいて芯のある声は戸惑っているように聞こえる。
「どこだね、ここは・・・。転移先の誤差修正データをちゃんとカプリコンに送ったのかね?ウメボシ。ここは確実にグランデモニウム城ではないぞ!」
ウメボシは憤慨する。
「勿論です!ウメボシはそんな凡ミスを犯しません。とてもプライドが傷つきました!」
「悪かった。今日は両手で抱えて寝てやるから許してくれ」
「寝る前にチュッチュもお願いしますからね!ツーン!」
「解った解った」
ツーンと拗ねたフリをしながら内心でウメボシは喜ぶ。
マギンは突然現れて恋人同士のような会話をするヒジリとウメボシを見てギャァァァ!と悲鳴を上げた。
マギンはこのオーガに尽く邪魔をされてきたのだ。エリムスを使ってなんとか間接的に倒したが、その後シルビィに復讐され拷問を受けて幽閉された。
今ある全ての元凶はこのヒジリとウメボシなのだ。
当然二人はマギンを見つけ、その後ろに縛られて動けないシルビィを発見する。
「どういう状況かはわからんが、シルビィ殿を攫うとは中々やるな。直ぐにマギンを捕縛しろ」
捕縛しろの”ろ“の時には既に人工蜘蛛糸がマギンの全身を覆っていた。
寝る前のチュッチュを約束してくれた主に忠誠を見せんとウメボシはハッスル(死語)していたのだ。
「大丈夫かシルビィ殿。動けないようだな。ウメボシ、回復してやってくれ」
「アラマンチュー!」
調子に乗ったウメボシは目からいつもの癒やし光線を出すとシルビィの麻痺毒を取り除く。
「こんの、糞マギンがぁ!」
憤怒のシルビィは起き上がると涙目で―――蜘蛛糸に巻かれて魔法は疎か、身動きも息もし難いマギンの腹を蹴る。
「まぁまぁ、落ち着きたまえよ」
ヒジリがそう言うとウメボシの目を気にせずシルビィは愛しいオーガに飛びつき、顔中にキスをしだした。
「まるでご都合主義の三文ドラマみたいなタイミングの登場だったが、妻の危機に現れてくれるとは流石私の夫!」
さっきまで浮かれていたウメボシは目を真っ赤にして頭から煙を出して怒る。
「なんで勝手にマスターを夫にしているんですか?シルビィ様!」
「当然だろう。ゴニョゴニョしたのだからな、私とダーリンは」
シルビィはヒジリから飛び降りると照れながらマギンをコンコンと蹴って答える。
「声が小さくて聞こえませんね!」
一つ目の球体はギュルギュルと高速回転し、風の音で自分の聴覚センサーを機能させなくしていた。本当は聞こえていたのだが。
「だって私はダーリンとエッチしたのだから!きゃはー言っちゃった!ね?ダーリン!」
激しく照れながらシルビィはボコォ!とマギンの腹を尖ったブーツの先で蹴って顔を真っ赤にする。
ヒジリは段々とシルビィの話の内容が飲み込めてきたので、それに比例するように顔もどんどんと青くなっていった。
(まさかと思うが・・・シオが・・・、あの夜に・・・?)
グランデモニウム城で項垂れるジュウゾ以上に、ヒジリは項垂れてその場に両手両膝をついた。
これからどう言い訳するか、どうこのピンチを切り抜けるか、いっそ正直に語るか。彼女と一夜を共にしたの自分ではなくシオ男爵だったと正直に言えばシルビィはどれ程怒るだろうか。そしてどれ程傷つくだろうか。
ツィガル帝国の新皇帝はゴデの街の貧民街の外れにある小屋の地下室で、地面に横向きに寝転び、今にも失神しそうな勢いで白目でエビ反りになっていた。
どうか殺さないでくれと懇願する駆け出しのゴブリンメイジは大した金を持っておらず、オークはこの縮こまって怯える男を、苛立ちの慰みとして殺すつもりでいた。
しかしどういう訳か慈悲を乞う目の前のゴブリンを殺す気にはならない。
立ち去るオークを見て驚きつつも杖と新しく買った呪文書を拾って、新米メイジは一か八かの賭けに出た。ヴャーンズはオークのその背中に【闇の炎】を放ったのだ。
不意打ちさえ喰らわなければメイジは強い。が、炎は火傷を負わしはしたが強盗の体を燃え尽くす程の威力は出ずレジストされた事が解る。
オークの殺意に満ちた目が此方に向くのが解った。オークはダガーを逆手に構え、次の呪文を詠唱される前に左手でゴブリンの口を塞いで喉元を狙った。
しかし確実にゴブリンの喉を掻き斬れたその攻撃は、ダガーを持った拳によるパンチに変わっていたのだ。
オークは首を傾げながら舌打ちをする。どうもこのゴブリンを殺そうとすると催眠術にかかったように体が言うを事きかなくなる。
「わぁぁぁ!こっちに来るな!死ね死ね死ね!」
顎を殴られ尻餅をつき、口から一筋の血を流して狼狽するヴャーンズは杖を振って威嚇する。
するとオークの目から光が消え路地の暗闇に向かって歩きだし、悪臭を放つ垢塗れの強盗はダガーを心臓に突き刺し自害した。
ヴャーンズは困惑しながら立ち上がると、暫く考えこんだ後、自分に何かしらの能力が授かったのだという考えに至る。
そして天に向かって手をかざし、能力を授けてくれた神に感謝した。
「ありがとうございます!ありがとうございます!神様!ありが・・ヒャハハハ!」
「わぁぁぁ!こっちに来るな!死ね死ね死ね!」
オーガの軽いビンタで鼻から血を出して狼狽する皇帝は尻もちをついて後ずさりする。
死ねと言っても下僕になれと言っても目の前のオーガは言葉に従わなかった。回復の指輪は直ぐに鼻血を止めるも小さなゴブリンの恐怖と混乱までは癒せない。
(考えろ、何か策はあるはずだ。闇属性じゃないオーガなんて滅多にいないのに!このオーガはそうなのか?しかも彼は魔法を完璧に無効化する。多くの魔法を捨て、メイジが寿命の際まで【反魔法】の詠唱の練習を繰り返してようやく覚えられる―――覚えるにはあまりに多くの時間を犠牲にしてしまう非効率的なアンチ魔法を若いオーガメイジ如きが覚えられるだろうか?そういったアイテムを持っているのか?そこまで強力なアイテムは地下迷宮の奥深くまで行き、到底人類では太刀打ち出来ないような強力な魔物を数百体倒して、それでも手に入るかどうかだ。もし何かの幸運で魔法無効化のアイテムをあっさりと手に入れたのなら、これ以上無い幸運の持ち主と言えよう。・・・認めんぞ!そんな偶然が重なってなるものか!馬鹿者!)
混乱した頭でグルグルと思考をめぐらせて結局、自分に振りかかる運命を呪っただけであった。
「エ、エクセレント!」
尻もちをついた姿勢で片手を出し、もうそれ以上の攻撃はやめてくれという意思表示をして立ち上がると汚れていないローブのお尻をパンパンと叩いてを払った。
猫背で指先を合わせつつ、ちらりとウェイロニーを見ると彼女は信じられないという顔で立ち尽くして皇帝を見つめていた。
(私だって信じられるか!)
「・・・君の勝ちだ。皇帝の座は譲ろう。ただ皇帝になるにはある試練が必要でな。この試練を乗り越えた者がその器を認められて初めて皇帝として臣民に認識される。こればかりは伝統なので仕方がない事だ。ガードナイト!試練の三面鏡を持って来い」
全身鎧を纏ったガードナイトのオーガが部屋の隅に綺麗な刺繍を施した布を被せてある巨大な三面鏡を抱えて持ってくると、ヒジリの前に広げて置いた。
「さてさて、鏡の中は何が見えるかな?ヒジリ殿」
ガードナイトが布を取り去ると最初は自分の全身が映っていたが、段々と何かが見えてくる。
黒いローブを来た金髪の男が悪魔、あるいは邪神の類に拷問を受けている姿だった。金色の瞳の中に砂時計を宿したその男は苦痛に悶絶するも声を出して無様に叫んだりはしない。
ヒジリは黒いローブの男に同情しながらも目を逸らさずに見つめている。
「悪魔か何かに拷問を受ける黒ローブの男が見える」
「ほう。その鏡に映るのは異世界の地獄。君の試練はその男を救い出す事のようだな。さぁ入りなさい。勇気を臣民に示すのだ」
これで主殿の住む樹族国が安泰になるのならばと一歩踏み出そうとしたが、ふと滝の野営地でオークの呪術師から聞いた予言を思い出した。
(旦那が今やろうとしている事は悪手も悪手、大悪手でさぁね。このまま進めば孤独がその身を引き裂くことになりやす。一旦そこに身を置くともう引き返せはしやせん)
ヒジリはヴャーンズの顔を見る。
無表情で背筋と首を伸ばして、指先を何度も合わせては離し、を繰り返している。
彼からは努めて冷静さを保とうする違和感を感じる。
続いてサキュバスを見た。淫靡なオーラは消えておりこれまた無表情だった。何かを期待しているような空気を二人から感じる。
「私がライトノベルや漫画の熱血主人公であれば、受けて立つぜ等と言ってこの三面鏡に飛び込み、見事苦境を乗り越え帰って来るのであろうが・・・。残念ながら私は熱血主人公には向かない変人クーデレタイプだ」
ウメボシは驚いて茶化す。
「え?変人は解りますがクーデレだったのですか?このウメボシにいつデレてくれるのですか?え?・・・おっと!感情が昂ってしまいました。失礼しました。・・・それにしてもクーデレはイグナの専売特許だと思っておりましたが」
訳の判らない会話を始める二人にヴャーンズとウェイロニーは顔を見合わせて困惑している。
ヒジリは二人の困惑を無視して話しかけた。
「確か闇側の掟では力こそ全てだったはず。そして私は力を示した」
ヴャーンズにまだ無表情を努めているが分厚い魔法のローブの下は汗が滝のように流れ落ちている。
「ああ、勿論だとも。しかしこれは慣例というか伝統というか・・・」
ヒジリは顎を擦って右眉を上げて唸る。
「はて。鉄の掟を上回る強制力がその伝統とやらにはあるのかね?力を持つものが全てを決める。それが闇側の理だったと思うが違っただろうか?皇帝陛下。いや、元皇帝陛下」
「しかし、これは歴代の皇帝が通ってきた道・・・」
ヴャーンズは何とかしてこのオーガを三面鏡の中へ誘い異界送りにしたい。しつこく押し問答をして食らいついているとイービルアイが突然間に割り込んできた。可愛らしい一つ目がじっと此方を見つめてくる。
「スキャン機能は万全ではありませんが、貴方が嘘を付いている可能性が高いとウメボシのコンピュターが判断しております」
急に場面が変わる。
タスネの屋敷でイグナは自室にてゴキブリを見つけてしまい恐怖に身を震わせていた。
ゴキブリは怖がるイグナを知ってか知らずか触覚をワサワサと動かし、テカテカと光る体をカサッ!カサッ!と動かして机の上に避難するイグナに迫る。
今から悲鳴をあげて召使を読んでも果たして間に合うだろうか?自分の声は思ったより通らないし小さい。黒い瞳に闇が伴わない、混乱した渦を浮かべイグナは対応策を考える。
結局少女はワンドをゴキブリに向けてあっちいけと振り回したが、効果はなくゴキブリは飛ぶぞと言わんばかりに羽をパタパタと羽ばたかせ始めた。
とうとうイグナの恐怖が頂点に達した。「わわーーわわーー!」と感情の篭っていない悲鳴を上げると、猛烈に魔力を高め始めた。
首にペンダントのように掛けたノームモドキの装置がマナの供給を受けピーピーと鳴り出した。
たかがゴキブリされどゴキブリ。羽の準備運動を終えて突然イグナの顔面目掛けて飛びかかる!
ゆっくりと時間は動きイグナはゴキブリをワンドで指すと【死】を唱えた。
挑発的だったゴキブリは空中で腹を見せて次の世界へと旅立った。
しかしゴキブリは死に際に腹から卵をブリブリと産み、自分の生きた証を残したのだった。
微妙にピクピクと動く小豆のような卵と動かなくなったゴキブリが椅子の上にゆっくりと落ちる。
三十分後、コロネが部屋にやってきてキャハハと笑いながら卵を指先で潰し、ゴキブリの死骸を窓の外に放り投げるまでイグナは青い顔をして机の上で半ば失神していたのだった。
「マスター。今しがたカプリコンとの繋がりが回復しました。どうやらイグナが強力な魔法を使ったようです。マナが装置に注がれました。遮蔽フィールドの穴がここまで広がったようです。スキャン機能のエラーを修復。修復完了」
「イグナが強力な魔法を?危険な目に遭っていないだろうな?」
「イグナの体に付着しているナノマシンからは危険信号は出ておりません。ところでそこのゴブリンが嘘を付いている事が異常な発汗と心臓の鼓動によりウメボシには完璧に解ります」
ヒジリはズンズンとゴブリンの皇帝に近づく。サキュバスも皇帝も必死になって魔法を唱えているが地球人であるヒジリには見えないし効果もない。
ネック・ハンギング・ツリーで釣り上げられたヴャーンズは喉仏を圧迫されて苦しそうに藻掻いている。
「やめてよぉ!やめたげてよぅ!」
心の底からヴャーンズを愛しているウェイロニーがぽかぽかとヒジリの背中を叩く。
ヒジリが凶暴なオーガを演じサキュバスにウガァ!と威嚇するとサキュバスはへたり込み目と下腹部から生温い水を流した。
ガードナイトのオーガ達は大盾で床を叩いて囃し立てている。
「力こそ全て!力こそ全て!」
「我に従え、前皇帝よ。逆らえばこのまま三面鏡に放り込む」
「カ・・・カハァ、はい!従います」
闇側の掟を呪文のように唱え、今まで誰も逆らうことが出来なかったゴブリンの皇帝が負けを認めた事をオーガのガードナイト達は喜んだ。そして自分たちと同じ種族が帝国の頂点に立った事を誇りに思う。
うぉぉぉー!と雄叫びを上げ、ガードナイト達が跪いて天を仰ぐと、グランデモニウム城の魔法水晶でこの様子を見ていたシルビィもガードナイトと同じポーズをとった。
「停戦の合図を出せ。恐らくこの様子は帝国軍側の魔法水晶にも映っているはずだ!」
ジュウゾはこの役目を誰にも譲るまいと停戦合図用の花火のある中庭まで走っていった。
シルビィは走って城のバルコニーから外を眺める。
ヴャーンズの負けと新しい皇帝の誕生の瞬間を魔法水晶で見ていた両軍からほぼ同時に停戦の花火が打ち上がる。
「ヨッシャァァァ!」
喜ぶシルビィにジュウゾの部下が近づいて来た。
「お喜びの所悪いのですが、お耳をお貸し頂けますでしょうか」
「こんな時に間の悪い奴だ、全く!」
と言いつつもシルビィは耳を貸す。
「実は、アルケイディア城の拷問部屋の牢からシディマとマギンが逃げ出しました。シディマは姿をくらまし、マギンはここへ向かっているとの事です。・・・今まさに!」
アイスピックのような麻痺毒の塗られた刺突武器がシルビィの脚絆の隙間から食い込んでくる。
ジュウゾの部下だと思っていた人物の顔が醜く歪み始めた。変装の魔法を解いたのだ。
「き、貴様・・・。マギンか・・・」
「当たり~、チョベリグ~!」
ナンベルがふざけた時によくやるタップを踏んで、魔人族のマギンはシルビィを抱えると転移石で自分のアジトまで飛んだ。
「シルビィ様!おや・・・?これは血・・・?」
暫くして王座の間にやって来たジュウゾは血から匂うシビレホグウィードという植物の独特な匂いを嗅ぎ分けた。
直ぐに部屋にいたはずの部下達に「何をしていたのか!」と怒鳴るも返事はない。それもそのはず部下たちは吹き矢を受け【変装】の魔法で調度品に化けたまま麻痺毒で動けなくなっていたのだ。
「折角のお祝いムードが微妙なものになってきたぞ」
大将であるシルビィを心配するジュウゾの元へゲルシの使い魔である知性を持った鷹が現れ、嘴を動かさずに喋りだした。
「ゲルシ様から伝令です。マギンとシディマが拷問室から逃げ出しました!」
覆面の口の部分が息でふわっと膨れた。大きな溜息をついたからだ。
「遅いわ。馬鹿者が。恐らく大将を攫ったのはそのマギンであろう。ゲルシめ・・・。陛下のお気に入りだからと慢心したか。私もゲルシも処分は免れんぞ」
我が身の心配半分、シルビィの無事を祈る気持ち半分、これからどうしたものかと途方に暮れジュウゾは王座に至る階段に項垂れるように座った。
外から聞こえる勝利に酔いしれる自軍の歓声が”裏側“の長には心をざわめかす雑音にしか聞こえなかった。
意識があるのに体が動かない。シルビィの目にはマギンが金縛りの時に見る幽霊のように思えた。
実際、拷問で形の歪になったマギンの顔はおとぎ話に出てくる恐ろしく醜い幽霊のようで以前のような真面目臭い顔の面影はない。
全く髪の生えなくなった凸凹とした頭を擦りながら片頬しか上がらなくなった口元を歪ませてマギンは笑う。
「アチシを苦しませようと下手に生かしたのが裏目になったっていうか~。ねぇ?シルビィさん」
動けないシルビィの綺麗な赤色の髪を撫でる。そして十本ほどの毛を強引に引き抜く。
「こうやって毎日毎日少しずつ毛を抜くと面白いかも~。同じ場所ばかりを何度も毟るっていうか~。生えてくる傍から抜いていくっていうか~。生えてこなくなるまで執拗に抜いて~完璧に禿げたら次の場所~。合間合間に爪を剥いだり歯を無理やり抜いたりして~。クフフフ」
恐怖の感情を訴えるシルビィの目を見て、マギンは心の奥底から流れ来る快楽に身を震わせた。
「何年もかけてゆっくりゆっくりと正気を保たせたまま、グヒッ!体の彼方此方を駄目にしていくのは楽しいだろうな~。れろれろれろ」
何の脈絡もなく、マギンはシルビィの頬を舐める。
ナンベル以上の彼女の狂気は次に何をしでかすか判らないという恐怖をシルビィの心に植え付けていた。
「何もそんなに怯えなくても良いっていうか~。アチシは~アンタとぉ~同じ様な事をしようとしてるだけっす。すっすすっす」
シルビィはこれから待ち受ける運命に怯え、雷雪が吹雪くあの夜に体を交わしたヒジリの事を思い出す。
あの時の嫌な予感はこの事だったんだ、死を予感したからこそ、あんなにヒジリの事を自分は欲したのだと。
(助けてダーリン!思い残すことはないなんて言っていたけど、やっぱりダーリンともっと色々なことがしたい!!)
こんな状況でもシルビィは愛しいヒジリの事を思い浮かべる。彼なら突然現れて助けてくれるような気がしたのだ。彼はこれまで不可能を可能にしてきた男だ。私を助けるぐらいなんて事はないはずだと絶望の中に希望を見出そうとした。
果たしてその願いは現人神である彼に届いたのか。
―――シュバ!―――
突然マギンの後ろで何かが光り音がした。
麻痺で体の動かないシルビィは光った方を見る事すらできない。しかし、耳には愛しい人のいつもの声が聞こえてきた。
囁くような、それでいて芯のある声は戸惑っているように聞こえる。
「どこだね、ここは・・・。転移先の誤差修正データをちゃんとカプリコンに送ったのかね?ウメボシ。ここは確実にグランデモニウム城ではないぞ!」
ウメボシは憤慨する。
「勿論です!ウメボシはそんな凡ミスを犯しません。とてもプライドが傷つきました!」
「悪かった。今日は両手で抱えて寝てやるから許してくれ」
「寝る前にチュッチュもお願いしますからね!ツーン!」
「解った解った」
ツーンと拗ねたフリをしながら内心でウメボシは喜ぶ。
マギンは突然現れて恋人同士のような会話をするヒジリとウメボシを見てギャァァァ!と悲鳴を上げた。
マギンはこのオーガに尽く邪魔をされてきたのだ。エリムスを使ってなんとか間接的に倒したが、その後シルビィに復讐され拷問を受けて幽閉された。
今ある全ての元凶はこのヒジリとウメボシなのだ。
当然二人はマギンを見つけ、その後ろに縛られて動けないシルビィを発見する。
「どういう状況かはわからんが、シルビィ殿を攫うとは中々やるな。直ぐにマギンを捕縛しろ」
捕縛しろの”ろ“の時には既に人工蜘蛛糸がマギンの全身を覆っていた。
寝る前のチュッチュを約束してくれた主に忠誠を見せんとウメボシはハッスル(死語)していたのだ。
「大丈夫かシルビィ殿。動けないようだな。ウメボシ、回復してやってくれ」
「アラマンチュー!」
調子に乗ったウメボシは目からいつもの癒やし光線を出すとシルビィの麻痺毒を取り除く。
「こんの、糞マギンがぁ!」
憤怒のシルビィは起き上がると涙目で―――蜘蛛糸に巻かれて魔法は疎か、身動きも息もし難いマギンの腹を蹴る。
「まぁまぁ、落ち着きたまえよ」
ヒジリがそう言うとウメボシの目を気にせずシルビィは愛しいオーガに飛びつき、顔中にキスをしだした。
「まるでご都合主義の三文ドラマみたいなタイミングの登場だったが、妻の危機に現れてくれるとは流石私の夫!」
さっきまで浮かれていたウメボシは目を真っ赤にして頭から煙を出して怒る。
「なんで勝手にマスターを夫にしているんですか?シルビィ様!」
「当然だろう。ゴニョゴニョしたのだからな、私とダーリンは」
シルビィはヒジリから飛び降りると照れながらマギンをコンコンと蹴って答える。
「声が小さくて聞こえませんね!」
一つ目の球体はギュルギュルと高速回転し、風の音で自分の聴覚センサーを機能させなくしていた。本当は聞こえていたのだが。
「だって私はダーリンとエッチしたのだから!きゃはー言っちゃった!ね?ダーリン!」
激しく照れながらシルビィはボコォ!とマギンの腹を尖ったブーツの先で蹴って顔を真っ赤にする。
ヒジリは段々とシルビィの話の内容が飲み込めてきたので、それに比例するように顔もどんどんと青くなっていった。
(まさかと思うが・・・シオが・・・、あの夜に・・・?)
グランデモニウム城で項垂れるジュウゾ以上に、ヒジリは項垂れてその場に両手両膝をついた。
これからどう言い訳するか、どうこのピンチを切り抜けるか、いっそ正直に語るか。彼女と一夜を共にしたの自分ではなくシオ男爵だったと正直に言えばシルビィはどれ程怒るだろうか。そしてどれ程傷つくだろうか。
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