未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(19)

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 コロネは屋敷の壁に大量に張り付いていたてんとう虫を蟻地獄のすり鉢状の巣に入れて暇を潰していた。

 てんとう虫は動かず、アリジゴクも初春の寒さで地中に潜っているせいか反応しない。

 何も起こらなくて退屈で、手に山盛りになるほど持っていたてんとう虫を全て蟻地獄の巣に入れてその場を立ち去った。

「なんだよもー。戦えよー!てんとう虫とアリジゴクー。あー冬休みって退屈だなぁ~」

 いつも興味のあることを運んできてくれるヒジリはツィガル帝国の皇帝になってしまったので、以前のように樹族国のサヴェリフェ家の屋敷を訪ねてこなくなった。

 何か面白いものはないか周りをキョロキョロしながらドラ声が不満を言う。

「タスネお姉ちゃんはいつも仕事で忙しい、フランお姉ちゃんはヒジリが好きだと言ってる割に毎日取っ替え引っ替えで男子とデートしてるし。土食いトカゲは冬眠しちゃったし、レディは美味しいドラゴンフライを持ってこないと遊ばないって言うし・・・。そうだ!イグナお姉ちゃんがいた!影が薄くていっつも忘れちゃうんだよな!」

 コロネの動きの速さは姉妹の中でも一番である。花壇に水をやる庭師の横を風のように走り抜け裏口から屋敷に入った。

 台所を抜けエントランスまで来ると一気に階段を駆け上がって廊下を曲がり一番奥の角部屋のドアをノックもせず開ける。

 するとイグナが今まさに転移石でどこかに出かけようとしていた。

 コロネの小さな目が姉を観察する。黒いクロークに紺色のワンピース、脚には黒くて生地の分厚いタイツを履いていた。

「ナンベルのおっちゃんのとこ行くんでしょ!私も行くぞ!」

「解った。ゴデの街は寒いから着替えてきて」

 イグナは退屈そうにしていた妹を窓から見ていたので連れていくことにした。ゴキブリから救ってくれた借りもある。

 コロネはウハァ!と目を輝かせ、その後に疑う声で釘を刺す。

「着替えてる間に先に行ったら駄目だぞ!」

 イグナは今まで一度もコロネを騙して転移石でいなくなった事は無かったのだが、妹はこの退屈から逃れるチャンスを手放したく無いと必死だった。木枯らしの如き素速さで自室に向かうとモコモコのフードが付いた革のコートと手袋を着けてイグナの部屋に戻ってきた。

 直ぐに姉のクロークを掴むと元気な声で前を指さした。

「出発進行ー!」

 それに合わすようにイグナは転移石を握りしめて孤児院へと向かう。




―――ドン!―――

 転移部屋に誰かがいたのか、転移してきたイグナとコロネに弾かれて、何者かは壁に激突する。

「アタァ!イグナちゃんいらっしゃい!コロネちゃんも来てくれたんですねぇ。おじちゃん嬉しいヨ!」

 掃除中だったのかナンベルが箒を杖のようにして、頭を振りながら立ち上がった。

「冬休みだから遊びに来た」

「冬休みで退屈だったから来てやった!」

 イグナとコロネはそれぞれそう言うと転移部屋から出て、魔人族の子供たちに混じって外で遊びだした。

「ん!そういえば今日はヒジリ君がハナを生き返らせに来てくれる約束の日!兄が朝からソワソワしていたわけですよぉ。イグナちゃん達も久しぶりにヒジリに会えるので嬉しいでしょうな。秘密にしておきますか。キュッキュ」

 ナンベルは懐から思い出の石版を取り出して、そこに映る妻と娘を見る。

 せめて髪ぐらいは残しておけば自分も妻と娘を復活させてもらえたかもしれなかったと悔やむも、二人の亡骸は火葬にしてしまったのだ。灰は彼女達が大好きだったミト湖に散骨して手元にはない。

 もう少し早くヒジリと出会えていたらという思いを振り払い、石版をしまうとドォスンを探しに庭に出た。

 ドォスンは子供たちにびっしり集られており、次々と魔人族の子供達を乱暴に放り投げている。

 皆【浮遊】(浮遊とは名ばかりで実際はゆっくりと落下するだけ)を覚えているので怪我をすることはない。

「お~い、ドォスン!ちょっと買い物に行ってきてくれませんか?お客様に出すお茶とお菓子が足りなくてネ」

 ドォスンは子供の群れから離れてナンベルの前に来るとメモを受け取った。コロネがドォスンの近くに来て言う。

「私も買い物に付き合う!街が見たい!」

「ん~、まぁ街は区画整理やら何やらで綺麗になったし治安も良くなったからドォスンがいれば大丈夫かな?ドォスン、コロネちゃんの事宜しく頼みましたよ」

「わがった」

 ドォスンはワクワクしているコロネを片手で抱きかかえると孤児院を後にした。

「ね、ドォスンってどこから来たんだ?」

 タスネの部下だった頃のシオがインフラ計画を立て、ドワーフを雇って舗装した石畳の道をドォスンがノシノシと歩いていると唐突にコロネは質問した。

「ん~。ここじゃないどこかだ。気が付くとこの世界にいた」

「この世界?ヒジリみたいに星の国のオーガなのか?」

「ほしのおーがってのじゃねぇど。ヒジリみたいな”ニンゲン“が引っ切り無しに襲い掛かってくる恐ろしい世界から来た。だからおで、最初闘技場の牢屋でヒジリを見た時はおっかなかった」

「そういえばヒジリって他のオーガよりスラっとしてて頭も小さいなぁ」

「あではおでの世界ではニンゲンって呼ばれている凶暴な生き物だ。ニンゲンにしては大きいけどヒジリはオーガじゃないど。ヒジリは優しいニンゲンだけど、おでの世界のニンゲンたちはおでたちを見ると殺そうとしてくどぅ。おでたち何も悪さしてないのに」

「じゃあドォスンはニンゲンに追われて逃げて来たの?」

「んだ。霧の中を逃げて逃げて逃げまくったらお前たちの言う迷いの森から出てきたんだ。ここはニンゲンがいなくて素晴らしいところだ。言葉を覚えるのが大変だったけど」

「良かったな、ドォスン」

「信じるのか?おでの話。皆、法螺話だって笑ってるど」

「だってヒジリみたいなのがいるんだから、ドォスンみたいなのがいてもおかしくないじゃん」

「んだな。ガハハハハ!」

 ドォスンとコロネは一緒になってガハハハと笑う。そうこうしている内に商店街の通りに着いた。 

 ヒジリ自らがゴデの街を色んな所で宣伝したせいか、帝国からの旅行者も多く、樹族や地走り族も数は多くないがいる。

 ゴブリン達はあまり良い顔をしないが金払いが良いので樹族国の旅行者を無下にはしない。

 ドォスンは早速紅茶を買い、ついでに売っている茶菓子も買った。

 コロネは既にドォスンから降りて、色んな店を見て回っている。食いしん坊の目は小さなアップルタルトに釘付けだ。

「二つくで」

「はいよ!」

 ドォスンは以前に得た報酬で二つ注文するとポケットから無造作に小銭を出して数えた。すると小汚いターバンを巻いたオークがドォスンの手の中の小銭を引ったくって逃げていった。逃げ際に振り返って泥棒は言う。

「うすのろオーガのくせにいっちょ前に金持ってるじゃねぇか!あばよ!」

 コロネの眉毛と頭の上の短いちょんまげ二つがピンと立つ!大好きなトラブルに首を突っ込まない理由はない。

「コラー!待てドロボー!」

「追いかけねぇでいいど!端金だかだ!」

 コロネはドォスンの話を聞かずにオークを追いかけた。

 それをドォスンも見失うまいと追いかける。

 オークは西門を抜け街道の脇に逃げ込んだ。崖に生えている太い蔓を器用に登っていく。

 コロネも太い蔓を登って追いかけた。

 ドォスンは崖上に通じる急な坂をコロネを視界に入れながら息を切らして走って駆け上がっているが、レンジャーとスカウトの素質が生まれつきある地走り族のコロネに追いつけるわけもなく、彼女はスルスルと蔓を登って崖上に到着し森の中に入っていった。

  スタミナを切らす事無くずっと追いかけてくるタフな地走り族の少女にオークは焦りだした。

(ハァハァ。やべぇ。あいつ意外と足が速いし、体力が尋常じゃねぇぞ!こんな端金で捕まりたくねえ。そういやここいらにの滝に洞窟があったはずだ。いなくなった赤銅竜の洞窟が。そこに身を隠すか)

 口を真一文字に閉じ目を大きく見開いて執拗に追いかけてくる地走り族の少女とその少女を止めようと走ってくるオーガを巻こうと、オークの盗人は滝まで走り滝の横から洞窟に入っていった。

 オークは洞窟の入り口でふぅと一息ついていると、洞窟に続く森の中からドラ声が聞こえてくる。

「早く早く!ドォスンこっち!泥棒はこの洞窟に入ってった!」

(ゲェー!巻けたと思ったのに、追いかけてきやがった!狩猟犬か何かかよ!)

 追い詰められたオークはヒカリゴケや怪しく光るキノコのお陰で薄っすらと明るい洞窟の奥を目指して入っていった。

(岩陰に潜んでいりゃ、いい加減諦めて帰ってくれるだろ)

 しかし、少女は諦めなかった。止めるオーガを無視して洞窟の中にズンズンと入って来る。

(しつけぇ!)

 オークは更に洞窟を忍び足で奥へ奥へと向かった。そして足を止めて、目の前の不穏な気配に大きな声を出すまいと必死に口を押さえた。

 そこに居たのは縄張りを捨てた赤銅竜の代わりに青銅色をした竜が寝そべっていたのだ。地面に頭をつけたままオークを小動物か虫を見るような目で見ている。

 キーンと耳鳴りのような音がして盗人オークの頭のなかに念話が響く。

「お前は何かを盗んでここに逃げてきた。そうだな?次はここの宝を盗み逃げるつもりか?」

 竜の周辺を見ると、薄っすらと赤く光る魔法の武器や防具が無造作に転がっていた。盗人はゴクリと喉を鳴らしそれらを見つめる。

(一つで豪邸が何軒も建つお宝だ・・・)

「そう、お前たちにとっての宝はどういうわけか我々にとっても宝なのだ。不思議だな」

 竜はオークの心を読んでそう答えた。

「いたーー!」

 オークを見つけたコロネがドォスンと共にドラゴンの寝転ぶ広い空間に入ってきた。

「お金、返せよ!豚野郎!」

 オークは観念したのかポケットから小銭を出すとオーガに渡して立ち去ろうとした。

 その立ち去ろうとするオークにドラゴンは突然襲い掛かった。頭を下げた姿勢から竜は首を伸ばして、オークに噛みついたのだ。

 日本刀のように鋭い牙は簡単に太ったオークの胴体を貫く。

 絶命したオークのズボンには宝の山から盗んだ魔法の短剣が挟んであったのだ。

 不味いものを口に入れたという顔で口を開け、死体を地面に落とす。

 コロネやドォスンの頭に声がキーンと響いた。

「オークの愚かさにはいつも驚く。臆病な割に心を読まれても尚、宝を盗もうとする頭の悪さときたら・・・」

「わぁー!ドラゴンだ!ドォスン!ドラゴンだ!」

「危ないかだ、あまり近づくな」

 コロネは頭のなかで想像する。ドラゴンを小さくしてアリジゴクと戦わせたらどっちが強いかな、と。

「ファファファ。面白いことを考える子供だ。アリジゴクとは何か?」

 ドラゴンはコロネの無邪気な思考を読み取りドラゴンは笑う。

「アリジゴクはな、砂に穴掘ってアリとかダンゴムシを待ち構える凄い奴なんだぞ!」

 ドラゴンはいよいよ牙を剥きだして笑う。

「左様な小さき生き物がそんなに凄いのか。我は気にしたこともない。目の付け所が珍妙である。ファファファ!」

 コロネは足元に転がる大きな宝石の付いた指輪を見つけた。

「でっけー宝石が付いた指輪みっけー!」

「ま、待て!それは・・・」

 ドラゴンが静止するのも聞かずにコロネは指輪を着けてしまった。ボンと煙が立ち上ったかと思うとコロネの居た場所にコロネの顔そっくりの大きなトロールがいた。

「わぁぁぁ!すっげー!私、トロールになった!」

「馬鹿な子供だ。それはトロールリングといって凄まじいヒーリング効果と引き換えに容姿がトロールになるという呪いの指輪だ。それは簡単に外れないぞ。ここから出ようとすれば我はお前を盗人として攻撃を開始する」

「ええー!私はお使いの途中だから早く帰らないと駄目なんだよ!帰ろドォスン」

 コロネが背中を向けた途端、竜はオークの時同様噛み付いてきた。

「あぶない!」

 ドォスンがコロネの手を引っ張るとドラゴンの牙は胴体ではなく彼女の右手右足を食い千切っていた。

「いたぁぁぁい!」

 コロネが泣き叫ぶと食い千切られた手足の肉は内側に潜りこむようにして再生していく。

「やめでくで!おでたちは盗む気なんてねぇだ!呪われているんだかだ、仕方ないだど!」

 ドォスンが両手を広げてコロネの前に立つ。

「竜には竜のルールがある。そしてここは私の住処だ。客人ですら無いお前たちに拒否権はないぞ。殺してでも指輪は返してもらう」

 火炎袋と呼ばれる器官に炎の性質を持ったマナをドラゴンは溜めている。

 猫が喉を鳴らすようにゴロゴロと音をさせ、牙の隙間から炎が漏れているのがドォスンには見えた。

(逃げても間に合わねぇど!どうする!ドォスン!トロールは火に弱い。もし竜の息に当たっただ、火傷で回復出来なくなるど!)

 考えながらドォスンは無意識に体が動いていた。今まさに炎を吐き出そうとする口をヘッドロックのように押さえこみ火炎を逆流させる。

 鼻孔から炎を出して体内を焼き、ドラゴンは体から煙を出して倒れた。

「あぶねかったど、コロネ。今のお前は火傷したらおしまいだ」

「すげぇな!ドォスン!ドラゴン倒しちゃったぞ!」

「おでも必死だったかだな。今回は何とか・・・・ウグッ!」

 スパーリングの時にスカーやベンキを唸らせた、やたらと硬いドォスンの鋼の筋肉をドラゴンの尻尾の先にある毒針が突き刺していた。

「中々機転の利くオーガだが、油断したな。我は火に耐性がある。それでも内蔵に大ダメージは受けたがな」

 時期に毒が回って死ぬであろうオーガを無視して醜いトロールと化したコロネをドラゴンは睨めつけた。

 今度こそ即死させんとばかりに胴体を狙って頭を横にして噛み付いてきた。

 いつも元気なコロネだったが今回ばかりは自分の死を受け入れたのか

「ドォスン・・・」

 と呟き毒で苦しむオーガを見て迫り来る運命を目を閉じて待った。

―――ドゴン!―――

 鈍い打撃音を聞いた。

 目を開けるとコロネの手前でドラゴンの横っ面が吹き飛んでいた。

 掌底を完璧なタイミングで受けてしまったドラゴンの目からは目玉が飛び出している。

 コロネはヒジリが助けに来た!と直感で思い洞窟内を探す。

 が、ヒジリはおらず掌底打ちを放ったのがドォスンだと気付く。

「ハァハァ、この技、ヒジリに教えて貰ったんだど。凄いだろ」

 鋼の腕から絶妙なタイミングで繰り出された掌底打ちは見事致命傷となっており、手の腹から放たれた衝撃波はドラゴンの脳を豆腐のように潰していたのだ。

「ドォスン!しっかりしろ!私が街まで運んでやるからな!死ぬなよ!」

 トロールと化したコロネは意識が朦朧とするドォスンを肩に担いて、その辺にあった護符や指輪やペンダントをドォスンの腰の小袋に入れて洞窟を飛び出した。

 コロネは魔法効果を狙ったのだ。ヒーリング、毒の遅延効果、毒浄化。どれでもいいからドォスンの命を救って!とべそをかいて願いながらコロネは街に向かって走りだした。




 カンカンカン!

「トロールだ!トロールの襲撃だぞ!ヘカティニス様か砦の戦士を呼べ!」

 ゴブリン達は慌てて右往左往する。

 トロールは残虐で亜人の類ではない。人型のモンスターと言っていい。人類にとって彼らはサイクロプスやミノタウロスと同類だった。

「誰か!ハァハァ!誰かドォスンを!お願いだから!診てやってくれよ!」

 ゴブリンの自警団に弓矢で攻撃され、矢からドォスンを守りながらコロネは叫んだ。

 しかし最早コロネの声は誰にも伝わらなかった。共通語になっていなかったのだ。ただ涙を流してオウオウ喚く怪物がそこにいるだけだった。

 ゴブリン達の通報で現れたスカーは気を失っているドォスンを見て怒り狂う。

「ドォスンを離せ!醜いトロールめ!そいつは最近砦の戦士になった、うちの二等兵だぞ!」

 オーガにしては軽い―――他種族には重いスカーの拳の連打がトロールに打ち込まれる。

 トロールはオウオウと泣くばかりで何もしてこない。ダメージも直ぐに回復してしまう。

 スカーは不気味に感じて距離を置いた。何かをしてくると勘違いしたのだ。

 場が急に騒がしくなりゴブリン達の歓声が上がる。グランデモニウム王国各地の視察を終えたヒジリとウメボシが丁度西門に高速移動で現れたのだ。

 いつも恐れ知らずのコロネは怯えていた。ヒジリ達の目には自分は残虐な化物にしか映っていないだろう。目の前の強力なオーガメイジとイービルアイは敵として対峙するとこんなに恐ろしいものなのかと幼い心は震え上がった。

 気を失って倒れているドォスンにトロールが何か危害を加えるのではないかとスカーはヒヤヒヤしている。

 仲間を心配するスカーの様子を見てコロネは地団太を踏む。

(そうだ!私の事よりもドォスンを早く治せ!早くしろウンコ達!)

 突然ヒジリはツカツカとコロネに歩み寄ってきた。コロネはあの電撃の拳で殴られると思い首を引っ込める。親しかったヒジリに自分は殺されるに違いない。そう思うと悲しくなってコロネの目から涙がポロポロと零れた。

「何をしているのかね?コロネ。ウメボシ、ドォスンの状態を調べて回復だ」

 ヒジリには私が解る!コロネは喜びのあまりオウオウと泣きながらヒジリに抱きついた。

 どこから現れたのか解説役ゴブリンのヤンスが声を張り上げる。

「ああぁーっと!トロールが神皇帝に組み付いた~!これでトロールが電撃で消し炭になることは必至ーーー!間抜けなトロールよ、さようならー!」

 魔法による変身はヒジリやウメボシには通用しない。

 コロネの体はヒジリに触れた途端元通りになり指輪が指から外れた。ヒジリはコロネを片手に抱いて屈むと指輪を拾いまじまじと見つめる。

「魔法の効果が見えないから判らないが、もしこの指輪が変身系ではなく、徐々に肉体を改造していくタイプの指輪だったら私にもコロネは見分けられなかったかもな」

 親指で指輪の台座から宝石を弾いて飛ばし道端に投げた。

 ゴブリン達が拾おうと一斉に宝石に飛びかかる。

 それをヤンスがスライディングで割り込み拾って走り去っていった。ゴブリン達が追いかけていくのを見てヒジリは呟く。

「宝石だけだとトロールにはならないのか」

 コロネはドォスンが意識を取り戻して頭を振って立ち上がったのを見て、喜んでヒジリから飛び移る。

「ドォスンありがと!ドォスンって凄いんだぞ!私を守ってドラゴンを倒したんだぞ!」

 スカーが純粋に驚く。

「おいおい、嘘だろ?何色だ?まさか黒竜じゃないだろうな?」

 ドォスンは頭をポリポリ掻きながら答える。

「青銅だど」

「なんだ青銅かよ。まぁ・・・青銅でもドラゴンを一人で倒したのは凄いんだけどな・・・。こりゃあうかうかしてるとドォスンはあっという間に上等兵くらいにはなるかもな。やべぇやべぇ!ヒジリも次、砦の戦士として戦闘に参加したら一気にベンキの参謀の地位を横取りしてしまうだろうし。最近の新人は大したもんだ!ハッハ!」

 スカーは笑いながらドォスンとヒジリの背中をどんどんと叩いた。

 するとチャリチャリと音をさせてドォスンの小袋からは魔法の指輪や護符が落ちる。

 コロネはそれを見て言う。

「それ私が入れたんだ。回復魔法の効果があるんじゃないかなって。もしかしたらそれでドォスンは生き延びたのかもしれないぞ!」

 丁度ヒジリを門まで迎えに来ていたゲルシが【知識の欲】で何気に指輪などを見る。ブッ!と水っぱなを飛ばして鑑定結果に驚く。

「持っているだけでダメージを回復する護符に全状態耐性五割アップの指輪、怪力の指輪に防御のペンダント。全部売れば大金持ちですね・・・これ・・」

 マギンとシディマの件で責任を追及され、シュラス王の擁護及ばず化外の地であるグランデモニウム自治区に左遷されてしまった。ゲルシは、ウォール家に”嫁いだ“シオ男爵の代わりに総督を命ぜられた。短い期間でヒジリからシオ、そしてゲルシに総督は変わっている。

 ゲルシの鑑定結果にドォスンもコロネも満足そうに頷く。

「私はそういうの要らない。面白いガラクタが好きだから」

「そうか。ならそでは砦の戦士たちで使ってくで。おでは孤児院のお使いを済ませてくるかだ」

 スカーは焦る。

「おい・・・、まじで言っているのか?砦の戦士ギルドへマジックアイテムを寄付するだと?その貢献度だと少尉くらいまで一気に昇進だろ・・・。もっとか?これからは俺たちはお前に敬礼しないとダメになるな・・・。くそったれめ!ハッハ!」

「君たちが階級を気にして敬礼などをしてる姿を見たことが無いのだがね」

 ヒジリはそう言って半笑いの横目で見つめる。

 スカーは誤魔化すように笑ってヒジリの肩を叩いた後、受け取ったマジックアイテムを持ってゴールキ将軍の元に報告へ向かった。

「ドォスン、主の妹を助けてくれて感謝するよ。ありがとう」

 ヒジリはドォスンに謝意を述べてから握手をし、コロネに向くと意地悪く泣き真似をしてみせた。
 
「オウオウ!オウオウ!」

「あー!馬鹿にしたな!コラー!」

 意地悪に笑うヒジリはコロネに追いかけながら、用事のあった孤児院へと逃げ込んだ。

 孤児院からはホクベルが飛び出し、ヒジリを引っ張るようにして医務室まで連れて行く。

 暫くして孤児院からは驚きの声と喜びと感謝に咽び泣く声が上がり、コロネのドラ声で何度も「良かったな!良かったな!」と聞こえてきた。

 今回の出来事で自身の命の危機になにか思う所があったのか、ハナの復活に喜ぶコロネの”良かったな!“はいつもより重みがあった。
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