未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(34)

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 艷やかでしっとりと湿った厚い唇が、なるべく歯を当てないよう最新の注意を払ってソレを口いっぱいに頬張る。

 そして口を離すと先から溢れ出る蜜を下から掬い取るように舐め上げ、また雄々しくいきり立つソレをジュプジュプと舐め始めた。ゴルドンは恍惚の表情でそれを見下ろしている。

(ああ、フランさん、なんていやらしい・・・)

「ゴルドンも欲しいのか?座りなさい」

 シルビィはウメボシがデュプリケイトした棒状の蜜入りバニラアイスキャンディーを部屋に入ってきたゴルドンに差し出した。

「こんなに美味しい氷菓子初めて食べたわぁ~」

 フランの陽気でおっとりとした声が部屋に響き渡る。

「魔法を使って作ろうと思えば作れるのではないかな?」

 ヒジリが言うも直ぐにシルビィに否定される。

「【氷の槍】を【切り裂きの風】で削ってかき氷とかか?それは無理だなダーリン。魔法は自然現象を擬似的に作り出しているだけだから一定時間経つと消える。その魔法に因る影響は多少残るが魔法自体は消える。炎系なら周辺を焼いた火が残るし、氷系なら冷気が霜を作る程度だ」

「もし作れたとしても冷凍庫が無いのは不便だな。自然の洞窟を利用した氷室は使わないのか?」

「夏に涼しい思いをしているのは王族だけだな。我々外様出身の貴族は氷室を持てない。例え自領土に風穴を利用した氷室があっても王族に献上しなくてはならないのだ。だから王族に媚を売りたい貴族以外は誰も風穴を利用しないし氷室にもしない」

「魔法の力を永続的に封じ込めたアイテムを使えばいつでもアイスクリームくらいなら作れるのでは?」

「マスター、アイスクリームのために誰が家を買えるほどのお金を払うのでしょうか?」

「ハハハ!それもそうだな!」

「世間知らずのお坊ちゃまも度が過ぎると・・・ん、可愛いぃぃ!」

 そう言ってシルビィはヒジリの膝の上に座って抱き着いた。

 ヒジリはシオに申し訳ないと思いながら彼を見ると彼は赤ちゃんをずっと見てニコニコしている。完全に母親の顔だ。

「シオはお母さんみたいだな・・・」

 ヒジリが悪意なくそう呟くとシオがピクリとする。

 彼の座るソファーの近くに置いてあった聖なる杖がゲラゲラと笑った。

「相棒にそれはご法度だぜ?ヒジリの旦那。ウォール家の親戚からは”シルビィがついに嫁を貰った!“と言われてんだからよ」

 シオが怒って杖を蹴飛ばそうとしたその時、扉が開いて筋肉ダルマとシルビィの母親が入ってきた。

「やぁ!これは聖下!ご機嫌麗しゅう!」

 リューロックはニコニコ顔でヒジリとの挨拶もそこそこにヌリの顔を覗き込んだ。完全に孫を見に来たお爺ちゃんである。

「ようやっと孫が出来たというのに滅多にこの可愛らしい顔を拝むことが出来んとは・・・。全く南方の獣人共め!(はぁヌリもシオも可愛い)」

 父性の他にいやらしい何かを感じ取ったサフィがリューロックの尻を抓った。

 間近でギッ!と声をあげて義父が変な顔をしたのでシオはビクっとする。

「獣人連合国は何か仕掛けてきたのですか?リューロック殿」

 ヒジリは紅茶を一口飲んで喉を滑らかにしてから聞いた。

「うむ、領土侵入をしては引き上げての挑発行為を繰り返しておってな。どうも戦争の火種が欲しいみたいなのだが、周辺国へ示す大義も失いたくないようでな。樹族国が手出しをするのを待っているようなのだ。樹族国の南方は獣人が多い。下手に手出しをして仲間を殺すことを懸念して手は出してはこないが、追い払っても何度も舞い戻ってくるコバエのように厄介な奴らでな。おっと!それよりもシオ、ヌリを抱かせてくれまいか」

 シオが少し残念そうにリューロックにヌリを渡す。

「あ!僕、キウピーと遊ぶ約束していたのだった!それでは行ってきます!」

 アイスキャンディーを食べ終わったゴルドンはフランを見て元気になった暴れん坊を誤魔化すために叫ぶ。

「ガウォーク形態!」

 腰を曲げて手を広げ、羽を広げた飛行機のような格好で彼は部屋から出て行った。

 シルビィが不思議そうに聞く。

「なんだ?ガウォーク形態って・・・」

 ヒジリは嬉しそうに答える。

「ああ、こないだゴルドンに私の故郷の子供向け番組を見せたのだ。そこに出てくる鉄傀儡が、空を飛ぶ時にああいった形になるので真似をしたのだろう」

「そうなのか。ハハッ!まだまだ子供だなゴルドンも!」

 ウメボシは知っていた。彼の暴れん坊が怒りん坊なのを。ゴルドンはいつまでも子供ではありませんよ?フフフと心の中で笑うのであった。

 ゴルドンが外に出ると夏の日差しの中でイグナとコロネがケルベロスと遊んでいる。

 二人は汗を垂らして夢中になってケルベロスを追い掛け回しているのでゴルドンは彼女達に叫んだ。

「おーーい!中に美味しい氷菓子があるぞー!急げー!」

 真っ先にコロネが反応し、慣性の法則を無視して急に方向転換をして玄関に向かった。

 イグナが後を追って来て玄関のゴルドンに聞く。

「何の氷菓子?」

「甘い蜜の入ったバニラアイスキャンディーだったよ」

 瞬間、フランがそれを舐める姿を思い出す。

「いやらしい」

 イグナの突き刺さる視線と言葉にゴルドンは抗議する。

「いい加減、人の心ばかり読むのは止めろ馬鹿!」

 イグナはアカンベーをして屋敷に入っていった。

「全くもう!」

「それはこっちの台詞だよ。ゴルドン。門前で待っていたのに結局ここまで来る羽目になったじゃないか。遅いぞ!」

 キウピーが【高速移動】でやってきた。二人は旧市街にある使われていない下水道跡を探検する約束をしていたのだ。探検と言っても整備されており、入り口でお金を払って探検気分を味うだけだ。所々、幻術で幽霊を見せる人が潜んでいる。

「なぁダメ元でフランさんとイグナ誘ってみようじゃないか」

「フランさんはともかく、イグナはなぁ・・・」

 キウピーの本命はイグナである。お互い本の趣味が似ており、共通の話題も有る。しかし、親友は心を読んでくるイグナを嫌っている。

「じゃあ俺はイグナを誘ってくるから、君は君でフランさんを誘うといいよ」

(こいつ、前からこんなに男らしかっただろうか?ただの尖った前髪を持つ大人しい奴だと思っていたが以外にも積極的だ。腹が立つなぁ)

 そんな事を思いながら屋敷に入っていく友人の背中をゴルドンは見つめた。

 キウピーが屋敷に入って暫くするとフランが現れる。金色のポニーテールがの後ろからは同じくポニーテールのヒジリがアイスキャンディーを頬張るイグナを抱いて現れた。

 ゴルドンは鼻水を吹いて驚く。

「せ、聖下!聖下も行かれるのですか?」

「うむ。旧市街の地下下水道とやらに興味がある」

 他にもコロネやウメボシ、シルビィやシオまでついて来た。

 リューロックとサフィは孫を独占したくてシルビィやシオにもついていくよう命じたのだ。

「凄いことになってきたな・・・」

 一番最後に現れたキウピーは生唾を飲み込んだ。有名な貴族の他に現人神までが一緒について来るのだから。

 一同は馬車に乗って旧市街地を目指した。ヒジリとウメボシはホバリングしながら並走する。

 最初はゴルドンもキウピーもヒジリの真似をして【高速移動】で走っていたが直ぐに魔力が尽きて結局ウメボシに牽引してもらうことになった。

「ははは!見ろ!キウピー!人が溶けた油絵のようだ!」

 流れていく風景や人を見て優越感に浸りながらゴルドンは言う。

「君の力ではないだろう。あまり威張るなよ・・・」

 突然、馬車の走る前に地走り族の子供が飛び出てきた。

 ヒジリはすかさず馬車の前に進み出て子供を抱き上げると、先に行ってくれと御者に言いギュルンとUターンをして母親を探し始めた。ウメボシも共に母親を探す。当然だが牽引されている二人もその場に留まる。

 人混みから母親が不安そうな顔をして現れヒジリの前で土下座をした。貴族の馬車の前に飛び出す一般市民は轢き殺されても文句は言えないどころか、往来妨害で親族が罰せられる事もある。

「お許し下さい聖下。我が子が聖下の行手を邪魔してしまって・・・」

 母親は震えている。相手は星のオーガという現人神でツィガル帝国の皇帝だ。

「何を言うのかね。子供は未来の宝だ。こちらこそすまない。危うく轢き殺すところだった」

「そんな・・・。聖下が謝るなんて恐れ多い!」

 近くにいた僧侶達が母親に鋭い視線を向ける。この地走り族の母親は神に謝らせるという無礼を働いているからだ。

「この子に我が祝福あれ!」

 僧侶の咎める視線を見てヒジリは彼女に敵意が向かないように子供を掲げ、突然祝福をした。

 例の如くウメボシが子供を光り輝かせるエフェクトをかける。今回はサービスで白い鳥の羽と小さな天使が舞い降りてくる映像付きだ。

 ここまでやって何も効果がないのも恥ずかしいのでウメボシはナノマシンを子供に幾らか付着させる。これで傷の治りも早くなり病気にも強くなるだろう。

 ヒジリは子供に飴玉を握らせ母親に渡すと急いで馬車の後を追った。あまりこの場に留まると祝福をくれと民衆が騒ぎ出すからだ。

 先程まで地走り族の母親を咎めるように睨んでいた僧侶たちは、ヒジリと祝福された子供に祈りを捧げており、母親は祝福された我が子を抱いて泣いて喜んでいた。

 今後この子供は神より祝福されし子として周りから様々な支援を受けるからだ。子供が受け取った飴玉は後の世まで保存され聖物として扱われることとなる。

「くぅ!泣けてきた。神様の奇跡って凄いや・・・」

 ウメボシに牽引されながら地面を滑るキウピーは目の当たりにした奇跡に感動して薄っすらと泣いていた。

「僕達ってやっぱり相当凄い立ち位置にいるよな?キウピー」

「そりゃそうだろう。僕は王都に来るまでは家柄は良いが影の薄いただの貴族だった。それがどうだい!君と知り合って聖下に目にかけてもらうようになり、女子にはモテモテだし、ちょっとした失敗なら教師にも許してもらえる!家族との会話も増えた!」

 ※これはあくまでも個人の感想です、とウメボシが小さい声で言った。

 良い事だらけの友人に対してゴルドンは自分が褒められたかのように自慢顔をして頷く。

 そうこうしているうちにヒジリ達は旧市街の下水道跡に到着した。下水道跡は涼しいので涼を求めて行列が出来ていた。

 馬車で先についていたイグナ達はもう既に入り口近くに並んでいた。

 コロネがすぐにヒジリを見つけて手を振る。

「先に入ってるねー!ヒジリ!」

 大きなドラ声がヒジリに向かって飛ぶと、周りの人々はヒジリの名を聞いてギョッとする。まさかここに現人神が現れるとは思っていなかったのだ。

 徐々に人集りが出来て騒ぎになりだしたのでヒジリは人が減るまでその場を離れる事にした。誰も来ないであろう寂れた墓地のベンチに座る。

「すまないな、二人共。巻き込んでしまって」

「と、とんでもないです聖下」

 キウピーは畏まる。暫く何かを考えていたゴルドンはポンと手を打ってヒジリに進言した。

「聖下、ここの墓地には確か地下下水道に繋がる地下墓地があったはずです。正規ルートではありませんが中で皆に会えるかもしれません!」

「そうかね。よし!行ってみるか!」

 ゴルドンはヒジリを案内し地下に通じる霊廟を降りていった。



「おい!シルビィ!あまりくっつくな!歩きにくいだろ!さっきの幽霊は幻術だ、馬鹿」

「シオは対アンデッドのエキスパートだろう?私はそうではないから幻術か本物かの区別はつかない。怖がって当然だろう」

 以外にもシルビィは幽霊が苦手だった。下水道跡に入る前は幽霊なんか屁でもないわと豪語していたのだが、中に入るとこれだった。更に幻の壁などの仕掛けで皆とはぐれてしまいより一層怯えている。

「中々本格的な仕掛けだな。ここも通れるじゃねぇか」

 彼方此方に有る幻の壁を見つけてシオは言う。

「待ってくれ!私を置いていくんじゃない!」

 慌てて駆け寄ってきたシルビィは躓いてシオに寄りかかる。

「こんな女らしいシルビィを見るのは初めてかもしれんなぁ」

 シオの男としての嗜虐心が持ち上がる。

「離れないで下さい、旦那様って言ってみ?言ってみ?」

 シオは意地悪な顔をしてシルビィに言う。

「ふざけるな!貴様のような女男に・・・!」

 シオはあっそと言って先に進みだした。シルビィはわぁぁ!と半泣きでシオにしがみつく。そして小さな声で言う。

「離れないで下さい・・・旦那様・・・」

 きたーー!シオの背筋がブルブルと震える。いつも杖にお嬢ちゃん扱いされている自分が今は旦那様と呼ばれている!しかも聖なる杖は眠っているのか茶化してこない!

 嗜虐心と同時に劣情も沸き起こり、シルビィの口を塞ぐ。

「おい・・・シオ・・・こんな所でそういう事は無理だ!無理だからぁ・・・ん!あぁ・・」

「ここは人の来ないルートっぽいから大丈夫だって・・・。好きだぁ!大好きだシルビィ!」

 地下下水道跡という変わった場所で二人の愛は激しく燃え上がるのであった。



 もう一人幽霊を怖がる者がいた。イグナであった。皆が出かけると言うからついて来たので、事前に情報はなかった。なのでここに来るまではただの下水道跡かと思っていたのだ。

 オバップやら血塗れの幽霊が壁から現れては消える。そこかしこから客の悲鳴やスタッフの出すうめき声が聞こえてくる。

 コロネはガハハハと笑っているがイグナは恐怖以外のなにものでもない。

「安っぽいオバケねぇ・・・」

 フランは退屈そうに消えては現れる幽霊を見ている。しがみつくイグナの頭を撫でて落ち着かせようとしているが妹はずっと震えっぱなしだ。

「大丈夫よ、イグナ。どれも幻術だから」

 しかしイグナは【読心】で読み取った雑多な思念の中から本物を読み取っていたのだった。

(辛いよぉ~。何で俺だけこんな目に合わないといけねぇんだよぉ~。彼女に振られて雨の中歩いていたら陥没して空いた穴に落ちて死ぬなんて寂しいよぉ~。誰か俺の死体を見つけて埋葬してくれよぉ~・・・)

 本物の幽霊をの声は明らかに生者のものとは違う。

「お姉ちゃん・・・いる・・・。本物の幽霊がどこかにいる!」

「何馬鹿なこと言ってるのこの子はぁ。全部幻術だって言ってるでしょう?」

「違う!【読心】で本物の幽霊の声が聞こえた・・・」

「何処にいるってのよぉ!幽霊なんて!」

 フランがそう言うと彼女の耳元で嗄れた男性の声がした。

「ここだよ!」

 フランは気を失いそうなるが何とか意識を保って後ろを振り向いた。

 そこには青白い顔をした樹族の青年の幽霊が居た。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 フランもイグナも、コロネまでもが驚いて逃げ出した!

 コロネは足が速いので案内板に従ってさっさと出口の方に向かって走って逃げる。

 タスネよりは幾分マシだが足の遅いフランとイグナは腰を抜かして尻もちをついてしまった。

 幽霊はゆらゆらと二人に近づいて今まさに、冷たい手で触ろうとしていた。

「やだぁぁぁ!助けて!ヒジリーーーっ!」

 フランが叫ぶと壁の向こう側からくぐもった声が聞こえてきた。

「誰かの悲鳴に咽び泣く男、ヒジリーマッ!」

「咽び泣いてどうするんですか、マスター」

 ―――ドカァ!―――

 近くの壁が壊れヌーっと大きなオーガとピンクのイービルアイが現れた。

 ついでにゴルドンとキウピーが、チョキにした手を顔の前で振って格好をつけながら現れる。
 
「一体どうしたのかね?フラン」

「本物の幽霊がそこに!」

 フランの指差す方を見るが微かに靄のようなものが見えるだけでそれ以外は何も見えない。

 幽霊はマナで体を構成するため魔法的要素が強くヒジリやウメボシには見え辛いのだ。ヒジリが取り敢えずその靄をかき消そうと手を出した所、イグナが震えながら止める。

「待って、ヒジリ。その幽霊さん、何だか可哀想。誰かに死体を見つけて欲しいんだって。幽霊さん、案内して」

 青白い顔の男はコクリと頷くと近くの隠し通路を通って袋小路に有る自分の死体を指差した。

 幽霊を追いかけてきたヒジリ達はそこに服を着た綺麗な白骨死体を見つける。

 彼が落ちた穴は小さく、丁度彼を飲み込む程度の大きさしか開かなかったためか、穴の底を確認することもなく道路は直されてしまっていたのだ。

 頭蓋骨の後頭部が凹んでおり、落下時に頭を強く打ったことが解る。

「こんな所で死を迎えるのは寂しかっただろうな・・・。ウメボシ」

「かしこまりました」

 強烈な光が白骨死体を包み込みそれは人の形を作っていく。光が収まるとそこにはボロボロの服を着た樹族の男が寝転んでいた。

「服も直してやれ」

 ヒジリがそう言うとウメボシは服を新品同様に直した。

「ねぇ!ヒジリ!幽霊さん、まだ消えていない!」

 近くに居たキウピーにしがみついて、イグナが震えながら幽霊を指差す。キウピーはどさくさに紛れてイグナの肩をそっと抱きしめ喜びつつも、心を読まれまいと【読心】をレジストする。

 相変わらずヒジリには薄い靄にしか見えない。

「それは幽霊ではない。彼の死に際に放った強烈な思念が自然界に存在する記憶媒体・・・まぁ簡単に言うと無念な気持ちがその辺の石に染み付いた結果生まれた幻だ。そのうち消える」

 ヒジリの言葉通り、残像思念は自分の体が起き上がるのを確認すると自身の存在がおかしい事に気がついて消え去ってしまった。

「あれ?俺は確かここに落ちて・・・」

 フランがにっこりとほほ笑んで現状を説明する。

「貴方はヒジリとウメボシの【蘇り】で生き返らせてもらったのよぉ?」

「【蘇り】の触媒代金貨十枚になります」

 ウメボシは容赦なく請求した。簡単に生き返らせてもらったという噂が広まれば厄介な事になるからだ。

「そ、そんな・・・」

「ローン払い、あるいは物々交換でもいいぞ?」

 ヒジリが助け舟を出すが彼は助かった気はしない。

「俺は貧乏貴族の息子なんだぞ!こんなガラクタしか持っていない!」

 彼が差し出したのはノームモドキの装置であった。

「君!それを何処で?」

 凄い勢いでヒジリが食いついてきたのでびっくりして装置を落としてしまった。ウメボシがそれを浮かせる。

「誰かが庭に捨ててったから拾ったんだ。こんなものでもお金になるかなと思って」

「やだあ、貴方うちのお姉ちゃんみたいなことするのねぇ」

 フランは姉を想像して言う。地走り族は落ちているものを拾う習性がある。タスネは今でもどんぐりを無意識に拾うのだ。

「よし、ではその装置で手打ちとしてやろう。あと、この事は他言無用だぞ?長いこと記憶を失って放浪していたと家族には言うのだ。良いな?」

「わかった。それにしても偉そうなオーガだな、お前!でも生き返らせてくれてありがとう!この事は秘密にして墓にまで持って行くよ!」

 一同は隠し通路から本道に戻り出口についた。コロネとシルビィとシオが駆け寄ってきた。

「今コロネに聞いたのだが本物の幽霊が出たそうじゃないか。大丈夫だったのか?」

「彼が元幽霊だ」

 シルビィとシオは、少し疲れた顔をして(本当は疲れてなどいない)ヒジリに抱きかかえられているウメボシを見て彼を生き返らせたのだと納得する。

 樹族の青年は手を振ってもう一度お礼を言うと駆け足で立ち去っていった。

「しかし、イグナがいなかったら彼はずっとあそこで幻の幽霊と間違われて死体も見つからないままでいたのだろうなぁ。良い事をしたなイグナ!」

 シルビィが褒めるもイグナは浮かない顔をしていた。

「どうしたのだ?」

「もうひとつ怖い声を聞いた。イグー!イグー!って女性の声。きっとあの世に行きたくて苦しそうに叫んでいたんだと思う。助けてあげられなくて可哀想・・・。暫く【読心】を使うのは止める・・・。今日は沢山の声を聞き過ぎたから」

 ポロリとイグナは泣いた。キウピーがまた肩を抱き寄せて慰める。

「今回は無理でもいつか僧侶様が成仏してくれるさ。今度教会に行った時、僕がここを浄霊するように頼んでおくよ」

「ありがとう、キウピー」

 イグナはしょんぼりと答える。

 ウメボシは急激に体温の上がるシルビィとシオを感知してヒジリの腕の中から二人を見る。

 二人は何故か顔を真っ赤にしてそわそわしていた。そんな二人を気遣ってウメボシは言う。

「二人共暑そうですね。アイスキャンディーをデュプリケイトしましょうか?棒タイプとカップに入った物とどっちがいいですか?」

 ”イグー“の声の原因であるシルビィとシオは、アイスクリームの形は二人の情事を皮肉っていると勘違いし、余計に顔を赤くして押し黙るのだった。
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