未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(48)

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―――遺伝子に刻み込まれているのか、樹族に虐げられた種族は生まれながらにして彼らを憎む。ゴブリン然りドワーフ然り。今日こんにち、闇側と呼ばれ蔑まされる種族達の一部はサカモト神と邪神が倒れてからも少しの間は樹族と協力関係にあった。が、元々樹族と相性が悪かったゴブリンやオーガやオークは早々に彼らの元を離れ、ドワーフ達も神の消滅が樹族にあると知り、彼らの地を後にした。魔人族も魔法において樹族を上回る為、国から追放されていた。結局、樹族が住む国に残ったのは召使や愛玩用に作られた種族だけである―――

 何も無いと思われていたダンティラスの住んでいた遺跡の目立たない場所に隠し扉があり、その扉を進んだ奥の部屋にあった台座の上にその書物が置いてあった。

 隠し扉をいとも簡単に見つけたコロネは着々と適正職のスカウト或いはレンジャーに成長している。

「ウメ・・・ウィスプの言ってた話と符合するところがある。これは邪神を倒してから十数年後に書かれた書物みたい」

 イグナは他にヒジリを捕らえる”時の呪縛“から開放出来るヒントなどは書いていないかを調べたが、あったのは当時の研究者達の多くが眠る遺跡の場所を見つけるのみだった。

 書物に書いてある地図と、手持ちの地図を見比べて遺跡の場所を探る。イグナが地図で他の遺跡の場所を調べている間、のんびりとした声が遺跡内に響いた。

「地走り族ってペットとか召使い扱いだったんだ?ちょっと嫌な気分だわぁ~。あ、でも今もそんなに変わらないかしら・・・」

 聖騎士見習いのフランは姉のタスネが質屋で手に入れた格安の鎧を弄りながらそう言う。

「その鎧、黄鉄鉱で出来てるから湿気などで劣化し易い。しかしそれを防ぐ為の保存の魔法が掛けられておる。だったら最初から錆止めを塗った鉄の鎧を強化した方がいいのに変な事するのう」

 鉱山を部下に任せ、たまたま冒険者募集の張り紙を見て参加してきたドワイトはフランの黄鉄鉱で出来た黄金色の鎧を見て難しい顔をする。

「凄い!ドワイトじいちゃん、何ですぐに解ったんだ?」

 コロネが隠し部屋で見つけた短剣を鞘から抜いて、自力で鑑定しようと片目を瞑って舌を出しながら見つめてそう言った。

「識別の指輪のお陰じゃ。恐らくその鎧はふざけた鍛冶屋がお遊びで作ったのを符魔師に譲るか買い叩かれるかして、符魔の練習台にされたんじゃろう。鎧の製作者は・・・どれどれ」

 ドワーフは情報を読み取ろうとフランの鎧を触った途端、製作者の名前が頭に浮かぶ。

 ―――ドワーム・ステインフォージ―――

 ドワイトは駄作中の駄作である黄鉄鉱の鎧が息子の作った物だと知って鼻に皺を寄せた。

「(バカ息子が!ステインフォージ家は代々鍛冶が得意じゃないとワシは何度も言ったぞ!)・・・て、帝国の無名鍛冶屋のものだな。全く馬鹿な鍛冶屋もいたもんじゃわい。こんな駄作など作りくさってからに。ほれ、コロネ、そのダガーを貸してみぃ」

 優しいお爺ちゃんの顔をするドワイトを見て、コロネは短剣を鞘にしまって素直に渡した。

「なになに・・・分身の短剣じゃと?攻撃時に一斉に分身する魔法がかかってある。振ってみぃ」

 短剣を渡されてコロネがその辺の壺を敵と見立てて攻撃すると、壺の後ろから半透明のもう一人の自分が現れて攻撃をした。壺が割れて破片が飛び散る。

「分身は一体しか出なかったよ」

「お前さんが成長すれば、分身は増える。正面から不意打ちが出来るだけでも十分強力な武器じゃな」

「いいなぁ~コロネ。私もお姉ちゃんやコロネみたいな魔法の武器防具が欲しい」

 不満気に言うフランの横で、地図を眺めて遺跡の場所を特定したイグナが口を開いた。

「困った・・・。はっきりと場所が解る遺跡は獣人の国にある・・・」



 夏も終わりに近いというのに日差しは強く、湿気もあり鎧を脱ぎたい衝動を抑えてシルビィは胸元を扇いだ。そして少しでも涼しい空気を送り込むように木陰を選んで歩く。

「どんなに独立性が高く、強い権限を持ってようが所詮は何でも屋。皆すまないな、任務の為とはいえこんな辺境にまで・・・」

「ほんとだぜ、シルビィの部下はあちこち連れ回されて大変だな」

 シルビィの夫であるシオは王国近衛兵独立部隊の騎士達に同情する。

「君を呼んだ覚えは無いのだが、何故ついて来たのだね?シオ殿?今回はアンデッドが相手ではなく、獣人が相手だぞ?」

 シルビィの他人行儀な物言いにシオは若干傷つきながらも、部下たちには聞こえないような声で呟く。

「お前の事が心配だからだよ!」

「ば、馬鹿・・・」

 シルビィはこれまでの人生でこれほどまでに男から愛された事が無いので、シオのツンデレのデレの部分を見ると顔を赤くして戸惑ってしまう。

「それにしても一時流れたあの噂は何だったんだろうな。聖下が封じられたって話。再び現れたと思ったら魔王のように怖くなっていたらしいぞ」

 部下たちの話にシルビィはハハッ!と笑って答える。

「聖下も何か考えがあってやったのだろう。帝国内の反乱分子をあぶり出す為とか、敵対する周辺国はいないかの様子見として流した噂なんじゃないかな」

 笑いながらも、いつ飛び出してくるか判らない民間人を装った獣人の便衣兵を警戒し、邪魔な木の枝を切り払って進む。国境付近はあまり整備されていないので道の端の林から木の枝が飛び出している。

 後ろで何かを話そうとする部下の声が急に消えた。

 誰かが【沈黙】の魔法を放ったのだ。

 無音の中、シルビィ達は円陣を組んで背中合わせになり、動く影は無いかと目を凝らす。

「ヨッシャー!獲物がかかったで!お前たちは樹族国の騎士にも関わらず国の命令で獣人国へ領土侵攻をしてきてるんやろ?これは戦争の十分な取っ掛かりになるで!」
 
 木の上からサルのような獣人が此方を見て指差す。

 領土の境目には結界が張ってあり、それを破って樹族の領土に踏み入ってきたのは明らかに獣人国の連中だったが、こちらが喋れないことを良い事に適当な罪をでっち上げているのだ。

「あ~樹族の方々に逆らうのはやっぱり罪悪感が凄いわ~。何でか解るか?」

(わかるか!そんな事!)

 シオが声にならない声で答える。獣人は唇の動きで読んだのか、ふむふむと白々しく頷く。

「判らんのかいな!お前らが俺等をそういう風に作ったからやで。まぁ君らみたいなペーペーに、樹族のウィザード達も詳しくは教えてくれへんのやろうな。可哀想に。これから君らは民間の自警団に捕まるんやで。獣人国の兵士に捕まるんやないで。あくまで自警団に捕まるんや。お前ら、やれ」

 魔法を封じられたシルビィ達は、手のサインだけで発動する無詠唱の魔法を唱えようとしたが、木の上から一斉に投網が投げられ、部隊は捕まってしまった。そして直ぐに獣人たちの手によって手際よく猿ぐつわを噛まされ手を縛られる。

「あ~可哀想にな、獣人の領土に侵攻してきたばっかりに・・・」

 嘘くさい同情にシルビィが怒り、リーダー格のサル人を睨みつける。

「おおぉ!こわっ!美人が台無しや!ほないくで」

 大きなサル人が騎士たちの入った投網ごと担いで国境を越え、自分たちの領土に運んでいく。

 そしてとある村を見てシルビィ達は驚いた。村人であろう獣人達の死体がそこかしこにあったからだ。

(こいつら!同胞を手にかけたのか?)

 するとサル人のリーダーが魔法水晶に向かって大袈裟なサル芝居を始めた。

「見てくれ!こいつらが!村人を!オエッ!村人を虐殺しよった!樹族の騎士が獣人国に侵攻してなんの罪もない村人を殺しよったんや!わしら自警団が着いた頃には既にこうやった!苦戦の末、何とか敵を投網で捕まえたんやけど、他にも何処かに潜んでるかもしれへん!いつ襲いかかってくるかわからへんのや!誰か助けてくれ!」

 シルビィは馬鹿かコイツらと内心で思う。死体を【知識の欲】で調べれば最後に触れた者の情報が出てくるというのに、と。

「よし、撮影用水晶を止めたな?こんなもんでええか。死体は焼け。証拠は残すなよ?」

 躊躇なく部下に命令する自称自警団のリーダーは不愉快な笑顔で振り向くと言う。

「さ、君らはアジトの方について来てくれるか?樹族国の情報が得られそうなら絞り取るし、コマに使えそうやったら使う。役に立たんのやったら殺す。暫く不便やろうけど、地下牢で過ごしてもらうで。ウキキッ!」

 また投網ごと担がれてシルビィ達はアジトに連れて行かれてしまった。




 アルケイディアの城ではリューロックとシュラスが獣人国の罠に嵌ったシルビィ達の映像の一部始終を魔法水晶で見ていた。

「やられたな、リューロックよ」

「・・・申し訳ありません、陛下。獣人国に大義を作らせてしまいました。獣人国が繰り返す領土侵攻の証拠を掴む為に国境付近に送ったシルビィ達がまさか逆に利用されるとは・・・」

「いや、軽く見ておったワシらにも責任はあるよ。直ぐに獣人国に使いを送り交渉を開始する。同時に冒険者を送り込もう。堂々と騎士や貴族を救援に向かわせるわけにもいかんのでな」

「ハッ!早速冒険者ギルドで募集をかけます」

 王の間から出て関係各所に指示を出しに行くリューロックの背中をシュラスは見ながら溜息をつく。

(はぁ、また元老院のジジイどもの小言を聞かされるのか。今度はウォール家に敵対する貴族とつるんで来そうじゃ。いっそ、ヒジリ聖下が獣人国に出向いてくれりゃ直ぐに解決しそうなんじゃがのう。・・・あぁ、ゲルシや聖下が懐かしい。楽しかったな・・・。あの頃は)

 ぶつくさとボヤいて柔らかい栗毛を掻き毟った。掻き毟りながら命令を出す。

「ジュウゾよ、おるんじゃろ?君の友人夫婦がピンチじゃぞ。裏側も行ってくれるか?」

「御意」

 どこからか声がして直ぐに気配が消えた。



 イグナは王都の酒場で冒険者を探していた。シルビィの救出ついでに遺跡の情報を得るチャンスだと思ったからだ。前回の遺跡の時のように姉妹はいない。今日は前回と違って休日ではなく、平日で学校があるからだ。いても今回は危険度が高いので誘いはしなかったが。

 王都の冒険者ギルドは田舎から名を上げようとやって来る低レベルの冒険者が多い。更に闇魔女の顔を見て誰も目を合わそうとはしなかった。もし【読心】を使っていればあちこちから彼女を怖がる声が聞こえてきただろう。

「イグナお嬢ちゃん。ワシらだけでも行くか。ここの腰抜け冒険者では役に立ちそうにないぞ」

 フルアーマーに兜を被ったドワイトは魔斧”息切り“の刃先を布で拭きながら言う。

 一応ドワイトは樹族国の許可を得て王都に入っているが、闇ドワーフを見ていい顔をする冒険者はいないので鎧を着込んでいるのだ。

 兜を被り鎧を着てしまえば、マッチョな樹族なのか、体格のいい地走り族なのか、闇ドワーフなのかは判らない。

 突然イグナがギルドに入って来た獣人を指さす。

「あれ!」

「誰じゃ?」

「ネコ・・・」

 イグナの視線に気がついた猫人が音もなくスッと近づいてくる。

「おっとその名前はここで言うな。っていうか、何でヒジリに関わる奴らは簡単に俺を見つけるんだ?」

 何の変哲もない何処にでもいるような雉虎の猫人は迷惑そうに言う。癖なのか長い尻尾を左右にブラブラと揺らして更に聞いてきた。

「お前らもシルビィ救出クエを受けるのか?俺は参加するつもりだ」

「でも、ネコキャ・・・貴方はシルビィのおばちゃんに追われてるじゃないの?」

「だからさ!ここで一生頭の上がらない貸しを作っておくんだ。だから是が非でも俺は今回のクエストに参加したいんだが、ここの冒険者は新米が多いから困ってたわけよ。ベテラン勢は大抵固定パーティを組んでて俺のような一匹狼ならぬ一匹猫の盗賊は冒険者のように動く時に苦労するぜ」

「じゃあ私達と一緒に行くべき」

「闇魔女と組めるのは良いが・・・。そっちの鎧達磨も仲間か?」

「彼はドワイト。優秀な戦士」

「斧を見りゃ解るよ。宜しくな、ドワイトさん」

「うむ」

 ネコキャットはドワイトと拳を合わせる。

 ドワイトの識別の指輪がネコキャットの手袋を瞬時に識別し、名前を知る。

「宜しく、ネコキャ・・・」

「今はネコ吉で頼む。ドワイトのおっさん」

「何者かは知らんが解った」

 他に目ぼしい冒険者はおらず、結局この三人で行く事になった。

 ミッションは情報収集と救出の二つがあって殆どの冒険者が情報収集を選んでいる。イグナは迷わず救出に丸を付けて書類を提出する。

 受付が救出に丸をつけた冒険者の顔を一応確認しようと、普段は手元しか見えない受付口の窓を内側に開いてイグナの顔を確認する。が、イグナを見た途端、恐怖で顔を凍りつかせて慌てて窓を閉めた。

「ワシも昔は冒険者じゃったが、今となっては鉱物の相場に関わる動向以外には疎くなってのう。受け付けはお嬢ちゃんの顔を見てえらく驚いておった。お嬢ちゃんは何をやったんじゃ?」

 イグナは肩を竦める。姉たち曰く、自分は謀反人だった魔法院院長のチャビン老師を倒しているらしいが、そんな記憶はない。

 ナンベルに聞いても、少し心病んでいたらしい自分を、仇討ちと称して勝手に魔法院へ連れ出したシルビィへの恨み言を言うだけで詳しく話そうとはしてくれなかった。

 ナンベル相手に【読心】は直ぐに察知されてしまうので、結局姉妹の心を読んで詳細を知ったのだ。

 姉妹たちの頭に浮かぶ自分は確かにチャビンを倒し、頭髪が半分ほど白髪になって心を壊していた。

 何も知らないドワイトにネコキャットは闇魔女の由縁を教える。

「イグナは樹族国最強のメイジを闇魔法で倒しているから闇魔女と呼ばれて恐れられているんだよ、おっさん」

「ああ、こっちでは闇魔法は禁忌扱いだったか。魔法の使えないワシからしてみれば、どんな魔法も同じじゃがな」

 イグナが恐れられる理由はそんな下らん事かといった様子で冒険者ギルドから出ると、ドワイトは他の冒険者同様、南に向かう馬車を呼び止める。

「獣人国への国境まで幾らじゃ?」

 御者は足元を見ているのかニヤニヤしながらふっかける。

「金貨一枚です、旦那様。ヘヘヘ」

「金貨一枚は高いなぁ?イグナお嬢ちゃん」

「高い」

 イグナの顔を見て御者は顔を凍りつかせた。

「(や、闇魔女!)じょ、冗談ですよ、旦那。千銅貨五枚です」

 クエストで引く手数多の馬車の御者はこれでもかというくらいに運賃を上げていたが、闇魔女相手にこれは不味いと思ったのか通常運賃に戻した。

「王都の馬車も質の悪いのが増えたからな。さっさと乗ろうぜ」

 ネコキャット改めネコ吉が頑丈そうな馬車に乗り込んで、中で毛づくろいを始めた。その横にイグナが座り、向かいに樽のように幅を取るドワイトが座る。

「久々の冒険で胸躍るわい。でもこないだ嬢ちゃん達と行った遺跡の前で吸魔鬼がいきなり出てきた時は死ぬほど驚いたわい。結局あのダンティラスとかいう吸魔鬼はヒジリの知り合いじゃったから問題なかったが。吸魔鬼があの辺りの人々を守ってるってのも何か変な感じがするわい」

「ドワイトおじいちゃんは何でまた冒険しようと思ったの?」

「鉱山に篭って土を掘るのに飽きたんじゃ。”死者の大行進“の時にゾンビと戦って冒険者だった頃を思い出してな。あの後、鉱山の仕事に戻ったが冒険をしたいという気持ちが日毎に大きくなった。で、ゴデの街を襲って来た異界からの海賊オーガをウメボシと一緒に倒した時、冒険者に戻る決心をしたんじゃ」

「出戻り冒険者か~。足引っ張るなよ?オッサン」

「ハッハ!猫の手を借りたくなるほど、自分の事に忙しくはないぞ。心配するな。少なくとも嬢ちゃんを守るくらいの余裕はある」

「ハッ!猫の手!それって俺の事だろ?上手い事言うじゃねえか、おっさん」

 イグナは相性は悪くなさそうだと二人を見つめた後、シルビィ達の身に何もなければ良いけどと心配して、景色の流れる窓の外を眺めた。
 
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