未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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禁断の箱庭と融合する前の世界(119)

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「巻物を持つウィザードを発見出来なければ、明後日にはエルダーリッチが樹族国の首都アルケディアで召喚されるとホッフは言っておりました」

 ゴデの街に派遣した取調官の報告を聞いたナンベルは、頬杖をついて余裕があるように見せているが心中では不安が嵐のように吹き荒れていた。

(エルダーリッチ・・・。数百年から数千年に一度、世界の何処かに現れては国を滅ぼして異界に帰る大災害のような存在・・・。確かその巻物はヒー君がエルダーリッチを追い返した後、白紙になり樹族国にて厳重に保管されていたはず・・・。こんなに短いスパンで・・・しかも近い場所にエルダーリッチが現れるのは聞いたことが無いネェ)

「それでホッフはどうしました?ツィガルには連れて来なかったのですか?」

「はい。シルビィ様がもう少し取り調べをしたいとの事でしたので」

「そうですか。ホッフは催眠術の使い手なのでしょう?大丈夫なのですか?」

「手足を拘束しておりますし、牢番をドワーフにさせております」

「ああ、ドワーフですか。彼らは頑固で疑り深いですから催眠術は効きませんよねぇ。小生もそれで過去に苦労した思い出があります」

 ナンベルは暗殺者になりたての頃、ターゲットの護衛にいたドワーフに催眠術をかけようとしたが効果がなく、逆に斧で頭をかち割られそうになった出来事を思い出した。

「ご苦労様でしタ。下がって良いですよ取調官殿」

「ハッ!」

 樹族や地走り族と同じく死に際近くまで老化しない魔人族の皇帝は、それでも国を動かす苦労で白髪の多くなった髪を何気なく弄ってぼんやりと考える。

(エルダーリッチの目が帝国に向かないという保証はありませんし、有事に備えて帝国からも選りすぐりの者を送りますか・・・。凡庸な者を大量に送ったところでエルダーリッチの魔法の餌食になるだけですしねぇ)

 凡庸な者・・・と自分で言った言葉にナンベルは笑った。

「うちの騎士団は百戦錬磨の戦闘馬鹿ばかりで決して凡庸ではないのですが、相手がエルダーリッチとなるとこちらも化け物級を派遣しないと駄目でしょう」

 ナンベルの頭に真っ先に思い浮かぶのは勿論神の子ヤイバだった。能力値の全てが驚異的な数値な上に、世界で唯一無二の虚無の力に目覚めつつある。が、彼の父ほどの安心感・安定感はない。しかしそれはまだ十代半ばの経験の浅い若い騎士なのだから当然なのだ。

 それに格闘家として戦闘経験をどんどんと積んでいったヒジリと違って、ヤイバはメイジと鉄騎士を均等に成長させている。故に成長速度が遅いのだ。今のところ、天性の才能や能力だけで強引に敵を倒しているようなものである。

(まぁどんな欠点があれ、帝国中の誰よりも彼の力は頼りになります)

「魔法防御・魔法回避の高いヤイバ君は当然アルケディアに行ってもらうとして・・・。後は魔法無効化能力のある砦の戦士のワロちゃん・・・。他には同じく魔法無効化能力のある召喚師のマサヨちゃんに魔物を沢山召喚させて使い捨てのゴリ押しなんかも・・・いや、賢いエルダーリッチの事。真っ先に貧弱なマサヨちゃんを物理攻撃で狙うでしょうから止めておきますか・・・」

 うーんと唸ってからナンベルは頭を抱えて白髪を掻き毟った。

「帝国には対エルダーリッチ戦で使える駒が少ない!いや、どんな国でも少ないか。魔法攻撃力と魔法防御力が帝国騎士団の中で一番高い魔法騎士団ですらエルダーリッチの前では無力に等しいでしょう。あの化物がアンデッドならフランちゃんに退治を頼めるのですが、あれは人の身を捨てた強力な魔法使いであってアンデッドでは有りませんし・・・」

 水差しから水をコップに注ぐと、道化師皇帝はごくごくと飲んで自分を落ち着かせてまた思考を巡らす。

「エルダーリッチに有効なのは魔法を無効化して強烈な物理攻撃を与える戦士。ヤイバ君は魔法防御力は高いですが、魔法無効化能力を持っていない。となると頼みの綱はワロちゃんだけって事になりますねぇ・・・。でももし彼女を死なせる事があればヒー君の亡霊に呪われそうですなぁ・・・。あとヤイバ君には絶対恨まれそうだし・・・。十代の若者に国の命運を負わせるのは心苦しい!嗚呼!頭が痛い!そして時間がない!とにかく急いでヤイバ君達を送りますか。樹族国への支援の通達もその時でいいでしょう」

 ブツブツと呟いて悶える皇帝を、玉座の間を守るガードナイト達が兜の下で怪訝な目で見つめるのだった。




 巻物をとり返すべく王都アルケディアに着いたマサヨはシルビィに疑問をぶつけた。

「なぁ確か魔法に【読心】ってのが無かったか?それでホッフの心を読んだらどうだ?」

「あれは対処が簡単なのだ。心を読まれていると気がついたらどうでも良い事を考えれば対策ができてしまう。或いは心を無にするとかな。しかも相手が自分の欲しい情報を考えているとは限らない。使い所が難しく習得難易度が高いのであの魔法を覚えるものは少ない」

「ふーん」

「ではそろそろ巻物の捜索を開始する。クロスケ、何か手がかりは見つかった?」

「う~ん、どうもホッフって人は用心深かったみたいやね。手袋でもして巻物を触ってたんやないかな。反応無しや」

「かーーー!役に立たねぇなぁグロちゃんは!」

「ワワワー!グロくないっ!クロちゃんです!ってコレばっかりは仕方ないでしょうが!」

「いや、待てよ!巻物って俺も触ってるじゃん。デイだって触ってる!」

「ああ、ほんまや!何でそんな事に気が付かんかったんやろ。ホッフの手垢ばかり探してましたわ。ほなら今から二人の手垢が着いた巻物の形状をした物を探しますぅ」

 二人のやり取りを見ていたコロネは退屈そうにして周りを見ると、ジリヒンがブツブツと何かを言いながら歩いているのを見つけた。

「おーい!ジリヒンさーん!」

 コロネのどら声に気がついたジリヒンが小さく手を振って近づいてきた。

「やぁ久しぶりだな、コロネ君。おや、クロスケ君もいるじゃないか。今日はどうしたのかね?」

 クロスケが突然叫び出す。

「巻物、めっさ近くにありまっせ!」

「巻物ってこれの事かな?」

 そう言って地走り族のウィザードはローブの袋状になった袖から巻物を取り出して見せた。

「それだーー!」

 デイが叫んで巻物を受け取ろうとしたが、突然ジリヒンの目が虚ろになり魔法を詠唱しだした。

 黒い雲が現れ辺り一面を威嚇するように雷が落ち、皆が驚いている間にジリヒンは巻物を開いていた。

 沢山の落雷を身に受けるのも気にせずクロスケは突進し、巻物に体当たりをして召喚を中断させようとしたが、時既に遅く恐怖の魔法使いは地面に光る魔法陣から現れた。
 
「なんて事だ・・・。誰かが巻物を受け取ろうとしても催眠状態になるのか・・・。迂闊だった・・・。くそう!ホッフめ!」

 今頃牢屋でほくそ笑んでいるかもしれないホッフを思い浮かべつつも、シルビィは災害級の強力な魔法使いを見た。そして別の意味で驚く。

「ちょっと待て・・・。何だこいつは・・・。ははっ・・・。ただのリッチじゃないか!」

 ねずみ色のローブを着た骸骨のような男は困惑したようにジリヒンに尋ねた。

「で、誰と戦えばいいんですかね?私、忙しいので早くしてもらえます?研究の途中だったんですよ」

 正気に戻ったジリヒンもいつの間にか現れたリッチを見て困る。

 異世界のリッチは以外にも生者に対して憎しみを抱いていない。

「ふむ・・・。誰かね君は。特に用はない。君を研究させてくれるのなら暫くいて欲しいのだが?」

「それはちょっと・・・。じゃあ用が無いようなので帰りますね」

 そう言うとリッチは薄っすらと消えていった。

 暫く空虚感と沈黙がその場に漂う。

 しかし、シルビィがその沈黙を破った。

「マサヨ、デイ!四つん這いになって尻を高く上げぃ!」

「え?」

「四つん這いになって尻を高く上げい!!」

 腕を組んだ身長百六十センチ程のシルビィが凄く大きく見える。気迫に気圧されて二人はアワアワしながら四つん這いになって臀部を高く持ち上げた。

―――ズバーーン!ズバーン!―――

 シルビィの鋭い蹴りが二人の尻をムチのように叩いた。

「いてぇ!」

 デイは痛みのあまり悲鳴を上げる。

「オホォーーー!ありがとうございまずぅっ!」

 ドMのマサヨは痛みと快楽に涎を垂らした。

 シルビィは今までエルダーリッチの恐怖による不安に苛まれていた自分を思い出し、無駄な時間を過ごしたと深くため息をつく。

「ハァァァァァァ!お前らなぁ・・・。散々ケジメがどうの言って盛り上がっていたのになんなのだ!この肩透かしは!」

「俺は悪くねぇよ!」

 そう言いながらデイがズビシ!とマサヨを指差した。

「こいつが全ての元凶だよ!俺だってこいつに振り回されて散々巻物探していたんだぞ!なぁコロネ!」

「そーだなー」

 コロネはどうでも良いといった感じで鼻を穿っている。

「ば、ばか!俺は巻物を出しただけでエルダーリッチとは一言も言ってねぇよ!お前が勝手に勘違いしたんだろうが。お前が言うから俺もエルダーリッチの巻物だと思ったんだよ!」

「まぁまぁまぁ」

 さり気なく鼻くそをデイの革鎧に擦り付けながらコロネが間に入る。

「結局何事も無かったんだし、いいじゃないの。な?はいはい解散解散」

「はぁ・・・。そうだな。実にバカバカしい事に付き合わされたものだ。我々は国民の税金で動いているのだぞ。今日死ぬ覚悟をして私について来た部下達もタダじゃないのだ。お前たちには何かしらのペナルティを負ってもらう。・・・そうだな。部下十人分の日給を払って貰おうか。金貨四枚だ。さぁ払え」

 デイが抗議する。

「おいおい、お前らは年棒制だろ。何だよ日給って」

「日給換算したらそれぐらいになる!私の分を含めていないだけありがたいと思え!それとも牢屋がいいか?」

「わかったよ!そう怒鳴るなって。じゃあ後は頼んだぞマサヨシ。払っとけよ」

「えっ!」

 マサヨが驚いている間にデイは隠遁スキルを使って人混みに消えていった。それを見送って振り返るとシルビィがニコニコしながら手を出している。

「ははは・・・。シルビィさんって綺麗だし色気ありますね・・・。赤い髪も素敵でつ・・・」

 マサヨは手もみしながらシルビィを褒めてゴマを擂ってみたが、赤い髪の隊長の返事は素っ気ない。

「褒めてもビタ一文もまからんぞ?さぁ払え」

「チィー!五金貨コインしかないから一金貨お釣りくれ」

 そう言ってシルビィに五金貨を渡すとシルビィは金貨を掲げた。

「おい!お前たちィ!星のオーガ様から労い金が出たぞ!今日は仕事が終わったら全員で飲みに行くとしよう!フハハー!」

「ちょ!お釣り!」

 マサヨはお釣りを催促しようとしたが、騎士たちに囲まれて胴上げされてしまった。

「星のオーガ様!ばんざーい!」

「うわぁ!怖い!止めて!」

 何度も胴上げをされてマサヨは恐怖する。止めろ!と強く言うと騎士たちは急に止めて立ち去っていった。

 ドサっと敷石の上に横向きに落ちてマサヨは痛みに呻く。

「大丈夫か?」

 コロネはまた鼻くそを穿りながらマサヨを見下ろしているが助け起こす気は無さそうだ。

 マサヨは立ち上がると元気なく言う。

「大丈夫だぁ・・・」

 ネタ振りだと思ったコロスケが嬉しそうに飛んできて、ここぞとばかりに張り切って言い放った。

「だっふんだ!」


 


「ではエルダーリッチはただのリッチだったんですか?」

 ヤイバがエルダーリッチの件で、樹族国内での戦闘許可を貰おうとリューロックを訪ねた頃にはシルビィはウォール家で寛いでいた。ヤイバの驚く顔を見てソファでクスクスと笑っている。

 しかしヤイバはシルビィの笑いに安堵した。

 自分は魔法防御力が高いとはいえ、ワロティニスのように悪意ある魔法を完全に無効化できるわけでもない。幾らか死を覚悟して重い気持ちでアルケディアにやって来ていたのだから、悲壮な顔をした自分を笑われたところで怒ることもない。寧ろ何事も無くて良かったと安堵して当然だ。

 ここに来る馬車の中で沈んだ顔をして妹と来世を語り合い、死ぬ時は一緒だと約束したのが可笑しく思えてきた。

「ブハッ!ハハハ!なんだか可笑しいな?ワロ!」

「アハハ!ほんとだね!馬車の中で泣きそうな顔してた私達って馬鹿みたい!」

 兄妹の笑い声につられてシルビィの声も明るくなる。

「ハハッ!ほんと肩透かしもいいとこだ!どうもマサヨが持っていたリッチの巻物を、デイがエルダーリッチの巻物だと勘違いして喋っていたのをホッフが聞いていたらしい。で、盗まれたというわけだ。催眠術を掛けられたジリヒンという名のウィザードが巻物を開いた時は生きた心地がしなかったが、現れたリッチはこの世界のリッチと違って話の通じる良い奴だった」

「ちょっと回収した巻物を見せて貰っていいですか?」

「ああ、これだ。リッチの絵は消えているぞ。説明だけは残ってたはずだが私は説明を読んではいない」

 ヤイバは渡された巻物を広げて読む。

「ふむ、これは確かにエルダーリッチですね。エルダーという名前のリッチ・・・。つまりリッチのエルダーさん・・・」

「私も適当に読んだら勘違いしたわね・・・」
 
 ヤイバに寄り添って巻物を覗き込むルビーにワロティニスはムッとする。魔法は専門外なので巻物を見たところで理解できない。なので除け者にされたような気分になりむくれる。

 紅茶を飲んでヤイバの説明を聞いていたシルビィは咽た。

「リッチのエルダーさんだと!?ブハハハ!ゴボォ!」

 ヤイバは飛んでくる紅茶の飛沫を避けて苦笑いする。

「良い笑い話の種になりますね。じゃあ僕達は帝国に帰ろうか・・・ワロ」

「まぁ待て。折角アルケディアまで来たのだ。街で遊んでいったらどうだ?ナンベル皇帝陛下には私から言っておく。どうせお前たちは死ぬ覚悟でやってきたのだろう?未来ある十代の若者に全てを託した道化師陛下も負い目が有るだろうから許してくれるさ。行ってきなさい」

「でも・・・」

「子供が遠慮するもんじゃないぞ。さぁ行った行った!でも小遣いはやらんぞ!お前らは大金持ちだからな。私はお前たちの活躍を色々とジュウゾから聞いているからな、自由騎士殿。そう言えばジュウゾはお前の”ドォォォン!“をとても気に入っていたぞ。私が何か失敗するたびに、背後に現れてあの低い声でドォォン!と言ってチョップしてくるのだ。昔はもっと無感情で冷たい奴だったんだが・・・最近はふざけるようになったよ、全く」

 まさか冷酷無比の裏側の長がそこまであの技を気に入り、尚且つふざけて真似をするとは思っていなかったのでヤイバは驚く。

「実はあの技はどうやって出せるのか僕も判らないのです。解るのは頭に血が昇っている時に出やすいと言う事だけです」

 虚無の力に興味はなかったのかルビーが二人の話を無視して話しかけてきた。

「え!ヤイバって大金持ちなの?」

 これまでの魔物討伐の報奨金や倒した敵の素材を売ったお金、戦利品等でヤイバもワロティニスも懐は潤っている。

「ま、まぁ。普通の家ぐらいは建てられるかな。僕もワロも」

 ルビーが目を丸くし、飛び跳ねてヤイバに抱きつく。

「私、今からヤイバと遊んできまーす!」

 明らかにヤイバにおねだりしようとしているのが見え見えである。

 嫉妬したワロティニスがルビーを兄から引き剥がすかどうか悩んでいるとシルビィがピシャリと言う。

「何が遊んできますだ?ルビー見習い騎士。君とそう歳の違わないヤイバは既に鉄騎士団の中でもトップクラスの実力者だし、自由騎士の称号まで貰っているんだぞ?それに比べて・・・お前と来たら!」

「ふえぇぇ!ヤイバと比べるのはズルっ子だよぉ!?」

 逆切れして母の首を締めながらブンブン振るルビーは半泣きだ。

 娘の攻撃を振り払いシルビィは言う。

「うるさい!今日は午後からヌリと共に街の見回り任務があるだろう!さっさと準備をしてこい!それから見回り中に偶然ヤイバと出会ったので行動を共にした、なんて報告をしたら許さんぞ」

「何よ!お母さんの・・・・えっと・・・・ケチンボの耳長っ!」

 罵倒語の語彙が少ないルビーは少し悩んだ挙句、母を耳長と罵ったが、それは自分も同じである。

「それは他種族が樹族を罵る時に使う言葉だろう・・・」

 シルビィが言うもルビーは聞いておらず部屋から怒りながら出ていった。

「家族の恥ずかしい所を見せてしまったな」

 シルビィは鼻の根元に僅かにあるそばかすをポリポリと掻いて恥じらう。

「いえ、何だかざっくばらんな親子関係で羨ましく思いました。僕は割りと母上と距離があるほうなので・・・」

「まぁ君と母上の立場なら仕方ないだろうな。リツ殿と君は団長と団員でもあるのだから。少しでも優遇すれば依怙贔屓えこひいきだ何だと煩く騒ぐ輩が出てくるだろうしな。元老院・・・じゃなかった、帝国では議員と呼ぶのだったか?その議員もここ数年で力をつけてきているというではないか。君の母上も迂闊な事をすれば彼らに足を引っ張られるだろう。何だかその辺は段々と樹族国に似てきたな。私も貴族同士の政治的駆け引きにはいつも苦労しているよ。個人的には昔の帝国のような力こそ全てという考え方は嫌いじゃないのだがね。おっと長話が過ぎたな。さぁ遊んできなさい」

「はい!ありがとうございます。行ってきます」

 ヤイバがそう言って立つと直ぐに妹も立ち上がった。

 ルビーを追い払ってくれたシルビィにワロティニスはニコニコしながら手を振る。

「行ってきま~す!」

「いってらっしゃい!」

 兄の腕をクンクンと匂ってルビーの匂いが着いている!と喚くワロティニスと、そんな匂いはしないと否定しながら部屋を出ていくヤイバの後ろ姿を見てシルビィは微笑んだ。

(ダーリンの子供たちはまっすぐに育っているぞ。・・・でも少しばかり兄妹の仲が良過ぎるのが気になるな・・・)




 数日振りに来たアルケディアはいつも通りお洒落で華やかだった。

 戦いに備えて鎧と大盾を装備していたヤイバはまず宿屋を探し、預り所も兼ねている宿屋のカウンターに装備を預けると帝国の制服姿で妹と街に出る。

「帝国の制服ってお洒落だからいいな~。お洒落な樹族達に負けてないもん」

 黒いロングコートのような帝国の制服は、筋肉質の体を細く見せてくれる。襟には自由騎士を表すグリフォンの紋章のバッジが付いていおり、街で出会った騎士達は簡易敬礼をしてヤイバに敬意を示した。

「騎士達が敬礼するから何も知らない一般人は不思議がってるね。ほら!子供が真似して敬礼しているよ!お兄ちゃん!」

 樹族の子供たちが笑いながら、胸を叩く仕草をする。

「ははは!可愛いな。そう言えばマサヨシさんは何処にいるんだろう?まだアルケディアにいるはずだけど・・・」

 突然空気の揺れがヤイバの鼓膜を叩く。遅れて音が聞こえてきた。

―――ドドーン!―――

 近くから爆発の煙が上がった。

「ぐう!」

 マサヨが建物の陰から爆風によって飛ばされてヤイバの足元に倒れた。

「マサヨシさん!」

 爆音と爆風の割にダメージを負っていないマサヨを見てヤイバは安心する。

「ごめん!マサヨちゃん!フォースシールドが少し間に合わんかったわ!」

「何処行ってたんだよ、クロスケ・・・」

「すんまへん、なんか面白い絵草紙があったから立ち読みしてました。まさかマサヨちゃんが襲われるとは思わんかったから」

「何があったんですか?マサヨシさん!」

「ヤイバ・・・。気をつけろ。エルダーリッチが現れたぞ。俺の巻物は囮で本物はたまたま入った魔法店のオーナー兼ウィザードが持っていたんだ。目の前でそいつが巻物を開いた途端、エルダーリッチが現れて実力不足だとかなんとか言って店主は魔法で殺されてしまった」

 魔法店の前には見たこともない豪華な魔法のローブを着た皮と骨だけの男が立っていた。背も高く、ヤイバと変わらない。

 黒ローブの骸骨のようなメイジは天を仰いで叫んだ。

「何故、私ばかり召喚されるのだ!主から受け賜った仕事は山ほどあるのだぞ!神は悪戯が過ぎる!」

 エルダーリッチが癇癪を起こした途端、光りがヤイバ達の前で炸裂して爆発が起きる。

「あいつに、俺は魔法は効かないぜ?って言ったら、爆発魔法を炸裂させやがった!二次的な攻撃でダメージを与えてくるから気を付けろ!」

 クロスケのフォースフィールドに守られながらも爆風から顔を腕で防いでマサヨはヤイバそう忠告する。

「爆発の切っ掛けだけを魔法で構成し、爆発自体は本物って事ですね。つまり魔法無効化能力のある相手とも戦い慣れているって事か・・・流石は最強のメイジ」

 エルダーリッチの光る目が、瞬時に魔法の仕組みを見抜いたヤイバを捉えた。

「ほう、お前は・・・。少し雰囲気が変わったな?闘技場でお前が捧げたあの玩具を主はとても気に入っておられた。お前に会ってみたいとも言っておられた」

「・・・?闘技場?多分それは僕じゃない。父上の話だ」

「何?して、お前の父親はどうした?」

「・・・・死んだよ!邪神から世界を救ってな!」

「そうか・・・・。あの男は我が主と同じ匂いがして嫌いでは無かったのだが、死んでしまったか・・・。実に残念な話だ。お前の父親が生きていたならば、今私に課せられている契約を更新できたかもしれんが・・・。いないのであれば仕方あるまい・・・。この国とその周辺国を破壊し尽くすとしよう。悪いな、若者。私とて好きでやっているのではないのだ。世界の理がそうさせる」

 そう言ってエルダーリッチは魔法の指輪が沢山はめられている骨だらけの指を天に向けた。

 指先にはどんどんと爆発を起こす光りが集まっていく。

「おいおいおい!フリー○様かよ!ここでデスボール放つ気か!小さな子供もいるんだぞ!」

 路地の隅で母親に縋って怯えるように光球を見つめる樹族の子供を見たマサヨは、意を決したようにエルダーリッチに向かって走り出していた。

(何やってんだろ、俺。逃げちまえば良いのに)

「待ちなはれ、マサヨちゃん!今攻撃モードに切り替えますよってに!」

「そのモードになったら皆を守れないだろ!いいから見とけ!」

 うぉぉぉぉ!と叫んでマサヨは光球に飛びついた。

 光球とマサヨの体の間から黒い霧が発生して魔法を霧散させていく。

「か弱い女の身でありながら見事なり。我が渾身の【超爆発】を消したことは褒めよう。だが次はどうする?私には幾らでも打つ手があるぞ」

 エルダーリッチは腰の短剣を抜くと、素早くマサヨの脇腹を深く突き刺した。
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ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

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