未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

文字の大きさ
9 / 373

酒場でお祝い

しおりを挟む
 いつも行っても不在の領主に書類を届けようとカンデが冒険者ギルドの扉を出ると、人集りが出来ていた。

 彼等の興味は、百五十センチメートルを超える体高の大トカゲである。

 ギルド長カンデは憎々しげに人集りを一瞥し、その横を通り過ぎながら悪態をつく。

(くそっ! 邪魔な野次馬ども! なに? ・・・土喰いトカゲだと?)

 誰が捕まえたのか知らないが、珍しい魔物を見たからには地走り族の血が騒ぐ。捕獲難易度はドラゴンの次くらいに難しいトカゲである。

(凄いな・・・。糸でぐるぐる巻だ。確か・・・・、土喰いトカゲの尻尾が提出されていたな。だが、捕獲の報告は聞いていないぞ。その辺の冒険者に聞くか? いやいや、今は仕事優先だ。領主直々のクエストはギルド長が報告に行かないといかんしな。実に面倒くさい事だ。規則を変えるよう、あの召使いの騎士に頼むか)

 如何に楽をするかばかりを考えながら、カンデはエポ村を後にした。



 同族は好奇心いっぱいの丸い目を、もっと大きくして土食いトカゲを観察している。

 新しい野次馬の一人が周りの仲間に尋ねる。誰が捕まえたのかと。

 すると村一番の貧乏人、親無しのタスネが捕まえてきたのだと返事があった。

 オークの小隊を降参させたタスネのオーガならば、捕まえる事が出来ても不思議ではないと、返事を聞いた者は皆納得するのだった。

 土喰トカゲは尻尾が切れていても(もう既に生えかけているが)全長三メートル程の大きさになる。かなりの大きさだ。

 ずんぐりむっくりで見ようによっては可愛らしく見えるが、気性が荒い事で有名で誰も近づこうとはしない。縄張り意識が高く、生命力も高い。一年ぐらい絶食させても平気な顔をしている上に、土を主食としているので中々死なない。

 捕獲した魔物はテイマーギルドか、冒険者ギルドが買い手が付くまで有料で宣伝やら世話をしてくれる。

 世話が大変な場合はこの費用がぐっと跳ね上がるが、土喰いトカゲは殆ど世話の必要がない。

 野次馬が集るギルド前にタスネの大きな声が響いた。

「そ、そんな~。折角闇ドワーフを鉱山から退けたのに・・・」

 ギルド窓口付近からタスネの落胆する声が聞こえてきた。申し訳なさそうに窓口の男性職員が対応している。

「土喰いトカゲが現れてドワーフが逃げて行ったと聞いていますし、依頼は達成していますね。でも、こればっかりは契約ですからねぇ・・。気の毒には思いますが・・・。報酬は毎月の鉱山収入の一分です。元々実入りの悪い鉱山でしたし、いつ閉山してもおかしくなかったのです。最後の鉱山収入の一分である金貨二枚をお渡ししますね」

 その様子を見て後ろで指をさして「ハハハ」と笑うヒジリを見て、タスネは拳を掲げて怒った。

「何が可笑しいのよ! 貴方にも関係ある話でしょうが!」

「いや、すまない。まるでギャグ漫画みたいなオチだったものでつい・・・。それに私は功績を冒険者に譲ると鉱山前で言ったが? 主殿」

「でもあの大きなトカゲを売るまでお金がかかるんだよ? やっぱり報酬を貰わないと! 金貨二枚あれば随分とマシになるし。それにギャグ漫画ってなに?」

「滑稽な人物や出来事を描いた絵草子の事ですよ、タスネ様」

 ウメボシが即答する。

「あーあれね、意外だわ。ヒジリってノームの如く賢いのに、あんな低俗な読み物が好きだなんて・・」

「漫画を読むのに賢いも賢くないもないよ、主殿。ただ楽しむだけだ」

「そ、それにあれ少しエッチィのもあるじゃない・・」

「ほう、ここの絵草子は性的描写も有るのかね?」

「そ、そうよ。見た事ないけど!」

「見た事も無いのにどうして解るのですか? タスネ様」

 ウメボシが意地悪な目をしている。

「他の人から聞いたのよ・・・。よ、読んだことはないんだからねっ! それより報酬はどう分ける? あたしあまり役に立ってないから、全部貰うのは気が引けるわ・・・」

「何を言うのかね?我が主殿、その報酬は全て貴方様のもの」
 
 視線をそらさずに恭しくお辞儀をするヒジリに、タスネはどうしたらいいのかわからない。

「もー! またそうやってからかうー!」

 困って口をタコみたいして拗ねるタスネが可愛いくて、ウメボシは思わず「うふっ!」と笑う。

「どうしてもと言うならば、その報酬から給料という形で我々に渡してくださいな、タスネ様」

「ウメボシの意見に賛成だな。主殿は一応役に立ってはいた。マギンとの件、我々だけでは上手くいかなかっただろう。光側の住人である主殿がいたからこそ話が進展したのだ」

「えへへ、そうかな? じゃあ単純に三等分という事で」

「端数が出て面倒なので金貨一枚を主殿に、もう一枚を我々に渡してくれればいい。土喰いトカゲの費用は我々が払っておく」

「え! いいの わかった! じゃあそうする! やったぁ! 金貨一枚が我が手の中に!」

 タスネは初めて得た報酬である金貨を見て、嬉しさを隠さない。

 何度もまじまじと裏表ひっくり返しながら金貨を見つめる。

 暫くすると見ている金貨がジワジワと滲んで見えた。頬を伝ってぽたぽたと滴が垂れ、それは今まで心の奥底で抱えていた将来への不安や、現在の生活の苦しさが少し和らいだ事に対する涙だった。

「これでやっとあの子達を学校に通わせることが出来る・・・。下級魔法学校にすら通わせることが出来なくてアタシ辛かった・・・。何もしてやれなくて・・・」

 ウメボシは泣きだすタスネに驚いて慰めようと近づく。

「ああ、タスネ様! 泣かないでくださいまし。何もしていないなんてことはないですよ! タスネ様はしっかりと妹たちの面倒を見ていたではありませんか。この地に来てタスネ様と暮らすようになってから数日しか経っていませんが、ウメボシはタスネ様の事をよく観察していました。妹達の為に魔法の基礎や勉学を一生懸命教えていたのを知っています。私はこの村の書物を全てインプットしてありますので解ります。あれなら途中編入でも問題なく授業についていけますよ」

 ウメボシもぽたぽたと涙をこぼし、タスネに頬ずりをした。

 そんな二人に水を指すように、平坦で抑揚のない囁き声が邪魔をする。

「湿っぽい話はそれくらいにしてもらおうか。どうせなら皆で喜んだ方が良い。今夜は私が奢るから外食にでも出かけようではないか。ウメボシの料理も良いが、やはり口に馴染んだ地元の料理の方が、主殿や妹君達には良いだろう」

「ううん、ウメボシの料理は世界一だよ! でも折角ヒジリがそう言ってくれるならそうしよっか! 楽しみだな~!」

 タスネは涙をごしごしと袖で拭いて二カッと笑った。

「アタシ、早速妹達の編入手続きをしてくる! 金貨一枚あれば、一年間は余裕で通う事が出来るから!」

「はい、いってらっしゃいませタスネ様!」

 嬉しそうに学校へ走っていくタスネを見送った後、ウメボシはヒジリに甘えるように言う。

「ねぇマスター。フラン、イグナ、コロネの為に新しいお召し物や、文具などを購入してプレゼントしてはどうでしょうか?きっと喜びますよ」

「それは構わんが、一金貨と五銀貨と千銅貨が九枚で足りるのかね? 土喰いトカゲの預かり賃等を差っ引いても?」

「はい、足ります。高級なお召し物が一人一銀貨。文具は三人諸々合わせても三千銅貨です」

「それなら問題無い。それにしても通貨システムというのも中々面白いものだな。買い物をする時にワクワクするというか。地球だと大体の物はデュプリケイトで事足りるし、高度な技術を脳に直接ダウンロードする時だけ、ボランティアでポイントを稼いで支払うくらいだったからな。毎回、お金のやり取りをするのはゲームみたいで楽しい」

「マスターもこの星に馴染んできましたね。元々順応力の高いお方でしたが」

「そんな事より、どんな服がいいかね。制服だったら毎日着ても変に思われないだろうから制服にしよう」

「あ、それなら三人の身長や体重も既に知っておりますので、仕立て屋で作るのもありですね! 出来上がるまで時間がかかりますがきっと喜びますよ!」

 ウメボシは三姉妹の驚き喜ぶ顔を今から想像しているのか嬉しそうである。

 二人は三姉妹についてあれこれ喋りながら村の仕立て屋に向かうのだった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

処理中です...