未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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最初の任務

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「なぬ? 吸魔鬼を倒したじゃと? 封印ではなく?」

 小さな王シュラスは、王座から落ちるのではないかというぐらいに前のめりになって、ジュウゾの話を聞いた。

「はい。あのオーガメイジが狂気の吸魔鬼を虚無の渦に追いやったのです」

「馬鹿な・・・。一体どうやってマナや能力を吸われずに吸魔鬼に触れたのじゃ?」

「かのオーガはどうも吸魔鬼のエナジードレインすら受けつけないようで、平然と触れておりました。シオ男爵も同様でしたが、彼は強力な杖や貴重な護符に守られております」

「シオはともかく、ヒジリはマジックアイテムを持てんはずじゃ。アンチ魔法が干渉するのでな。それにしても、魔法無効化は直接触れられる魔法に滅法弱いはずじゃぞ。魔法無効化の障壁は薄く体を覆っているだけじゃからな。【雷の手】やら【死の手】は効くはずじゃ。吸魔鬼のエナジードレインも同じように効く」

「私はウィザードではないのでそこまでは。チャビン様に聞いてみては如何でしょう?」

「うむ、後ほど聞いてみよう。それにしてもなんというオーガだ。ここまで強力なオーガが、樹族国にやってくるまで無名だったというのは有りえん。のう? リューロックよ」

 リューロックはそのオーガに心底惚れてしまった娘の事を考えていたので、王の呼びかけにハッと我に返った。

「む、娘が言うには彼は大陸の極東にあるオーガの国からやって来たという話です・・・」

「そこそこ地理に詳しい者にしてみれば、それは嘘だと解る。大陸の東には海岸沿いに細長い沼地が広がるだけじゃ。その先には海をまたいでノームの島しかない。お前だって知っとろう?」

 王に対し適当な返答をした事に後悔しつつも、リューロック大元帥は髪と同じ赤色の反り返った髭を撫でて提案する。

「あのオーガは幾度となく樹族国を救ってくれはしたが、まだまだ怪しいところも多い。そこでです、陛下。敢えて英雄子爵と別行動をさせて、様子を見るというのは如何でしょうか? あのオーガは主と魔法印での契約をしておりませんが、何故か英雄子爵の言うことはききます。恐らく英雄子爵の化け物使いの素質によるものでしょう。なので王国冒険者認定証を持たせ、子爵のいない状態で任務を与えてみてはどうでしょうか? 主がいない状態であれば何かボロをだすやもしれません。既に監視の者はつけてあります。良からぬ企みがあればすぐに解りましょうて」

 ジュウゾもその提案に頷いている。

「リューロック様の提案に私も同意見です、陛下。あの者は力がありすぎます。あれ程の力があれば、有無を言わさず樹族国を滅ぼす事ができますが、あの者はそうしません。この国へやってきた動機と素性を知っておく必要がありますな。私にも情報を集める機会を頂きたい」

 跪いていたジュウゾが顔を上げると、シュラス王はニヤニヤしていた。

「ほう? いつも仲の悪いお前たちが、今日は珍しいのう? いいじゃろう。リューロックよ、お前とジュウゾで仲良く事を進めるが良い。しかしのう・・・。もしヒジリが何かを企んでいるとしたら、一体誰が彼を止める事が出来ようか?」

 リューロックはゴホンと咳払いをすると、ちらりとジュウゾを見てから王を見た。

「意地が悪いですな、陛下。それからあのオーガが暴走した場合は・・・。今、樹族国に来ている自由騎士に、莫大な依頼料を払って退治を頼むしかありませんな」




 シルビィは幽霊屋敷と名高いタスネの屋敷を訪れていた。

 もっとオンボロだと思っていた屋敷は、調度品こそ無いがシンプルかつ小奇麗で好感が持てる。

「思ったよりか綺麗で新しいではないか。いい買い物をしたなタスネ」

 タスネはそう言われて焦る。

「最初はボロボロで本当にオバケが徘徊してそうな屋敷だったんですよ。でもウメボシが、マスターのマスターがこんなオンボロ屋敷に住むことは許せません! と言って、目から光を出して少しずつ修復してくれたの」

 後ろ手に組んで部屋中を舐めるように見ていたシルビィは、反り返って笑った。

「ハハハ! 流石はウメボシ殿。でたらめな魔法を使う。おっと! あれは魔法じゃなかった。魔法じゃないからこそか・・・。【食料創造】の魔法とよく似ているが。とにかく凄いな。ダーリンの使い魔だけはある」

 タスネは居間にある背の低い本棚から、一冊のボロボロの本を取り出した。

「ウメボシを見ているとね、この本をいつも思い浮かべるんだ」

 シルビィがその本を手に取り、掠れたタイトルを読む。

「『奥様はグレートウィッチ』。どんな話なんだ?」

「異世界からやってきた魔女が、騎士の男性に惚れてお嫁さんになるんだけど、正体を隠して魔法でいつも旦那様を陰から守るの。異世界の人だから、この世界の魔法と違う系統のデタラメな魔法を使うのよ。ウメボシと同じように、壊れた物をすぐに直したり、魔法防御を無視する【魔法の矢】を使ったりして大活躍するんだけど、結局異世界から来たという事がバレて、周りから迫害されてしまうの」

「何だか悲しい結末だな。私はそういう物語は苦手かな。どんな話もハッピーエンドがいい」

 タスネはニンマリする。

「ところがどっこい! ハッピーエンドなんだな、これが。異世界に帰ろうとした妻を追いかけてきた旦那様は、そのまま一緒に異世界への扉に飛び込んじゃったの! で、二人共、異世界で末永く幸せに暮らしたんだよ」

 それを聞いてシルビィは笑顔で拍手した。

「素晴らしい! やはり物語はハッピーエンドに限る。そう! それは私とダーリンの未来のようにな! さて、ダーリンの様子でも見に行くか」

「私はお手洗いを済ませてから行きます」

「いっトイレ」と下らない駄洒落を言ってシルビィは屋敷から出て裏庭に回った。そして目の前の見たこともない建築様式の建物に驚く。

「な、なんだ?!」

 オーガ三人くらいが住めそうな広さの建物はタスネの屋敷よりは小さいが、その異様な外観は周りの景色から浮いており存在感が大きい。

「一体・・・何の素材でできているのだ? ミスリル銀か?」

 白銀の壁は太陽に照らされているが反射はなく眩しくもない。入り口に近づくとドアが自動的にスライドして開いた。

「ひょっ? ドアが勝手に開いたぞ! ははぁん? さては裏側に召使いインプがいて開け閉めしているのだろう?」

 そう言って中に入りドアの裏側に回るが誰もいなかった。

「一体どういう仕組だ? ノームの技術でも使われているのだろうか?」

 シルビィがキョロキョロしながら驚いていると、どこからかウメボシの声が聞こえてくる。すぐにヒジリの声も聞こえてきた。

 どうやら会話をしているようだが、その声が何故建物内に響いているのかは、シルビィにはわからなかった。

「先日の吸魔鬼退治は後味が悪かったですね、マスター」

「うむ、死に際で正気を取り戻した彼女を虚無の渦に追いやるのは正直きつかった。私には、あそこで蹴るのを止めて彼女を説得する選択肢もあったような気がするのだ」

「それはどうでしょうか? 正気に戻ったからといって憎しみを捨て去る事ができたかどうかは別問題です。彼女はあのまま復讐を続行した可能性が高いです」

「しかしだな、ん? おい、ウメボシ。何故、館内放送とリンクしているのだ? 声が響き渡っているぞ」

「きゃ! ウメボシとしたことが!」

 プツと音がして声は途切れ、建物内はとても静かになった。

「ハハッ! ウメボシ殿もそそっかしいな。それにしても吸魔鬼を思いやって心を傷めるなんて、ダーリンは優しいな! 益々惚れたぞ!」

 背後でドアが開きタスネが建物に入ってきた。

「驚いたでしょう? シルビィさん。この建物は外から見ると窓がないんだけど、中に入ると好きな所に窓を作ることが出来るんだよ」

 そう言って、ドアの横の外壁にもなっている壁を指で四角くなぞると外が見える。

「ほわっ! なんだこれ!」

 シルビィも星型に窓を作ると、外で元気に遊ぶコロネが蝶を追いかけているのが見えた。

「しかも外からは中が見えないの!」

 シルビィは外に出て、星を描いた壁を見て驚いた。

「ほんとだ! 中を覗けない!」

 タスネは自分が発明したかのように自慢げな顔をしている。

「凄いでしょ~? 窓は手でさっと擦れば消えるし不思議でしょ?」

 そう言って窓をさっと一擦りして消した。

 二人が窓を描いたり消したりして遊んでいると、ウメボシとヒジリがやってきた。

「二人共楽しそうでなによりだな」

「ダーリン!」

 シルビィはこの頃になると、もうヒジリに対して好意を一切隠そうとしなくなっていた。

 ヒジリも好意を寄せられるのはまんざら悪くないと思っているのか、抱きついてくるシルビィを笑って抱き上げる。

 そうなるとウメボシが顔を真赤にして、ヤキモチを焼くのがいつものパターンだ。

「シルビィ様! マスターが埃で汚れます! 降りて下さい!」

「細かいことはいいんだよ、ウメボシ殿。それに今日は意味なく遊びにきたわけではない。陛下直々の任務を伝えにきたのだ」

 樹族国の体制に組み込まれたヒジリは内心で「早速来たか」と呟いた。

「ほう? どんな任務かね?」

 シルビィは抱きかかえられたまま、居間のソファーに座るヒジリの横顔にさり気なくキスをした。

「あ! シルビィ様! 今、マスターにキスしましたね!」

「揺れて唇が当たっただけだ! 無礼なことを言うな!」

「いーえ! 当たりました!」

 顔を真赤にして一つ目で睨むウメボシを見て、騎士は逆ギレする。

「しつこいな! ウメボシ殿は! それ以上言うと決闘だぞ!」

「決闘とは穏やかではないな。ウメボシ来たまえ」

 ヒジリはウメボシを呼び寄せると頬にキスをした。

「これでいいだろう?」

 ウメボシの顔がパァァと明るくなる。

「はい! ウメボシは大満足です!」

 嬉しさのあまり、目を細めてゆっくりと回転するウメボシを見て今度はシルビィの顔が曇った。

「私には? 私はダーリンにキスをしたが、してもらってはいない!」

「ほら! やっぱり自らキスをしたのではないですか!」

「おぎゅ!」

 うっかりキスをしたことを白状してしまいシルビィは言葉に詰まる。

(なんなのこの二人・・・。確かにヒジリはハンサムだけど、そこまでかなぁ・・・?)

 エポ村自警団団長のホッフに好意を寄せるタスネには、ヒジリの魅力がいまいち理解出来なかった。

「で、任務内容は何ですか? シルビィさん」

 一生懸命ヒジリに頬を差し出して、キスをしろアピールをしていたシルビィだったが、タスネに任務内容を聞かれたのでキスは諦めてソファーに腰を掛けた。

「実はだな。樹族国の西に領主不在の僻地があるのだが、最近そこに鉄傀儡に乗って悪さをする盗賊が住み着くようになったのだ。なのでダーリンが出向いてその盗賊たちの根城を叩いてくれ。ある程度攻撃して占拠したならば、後は独立部隊と裏側で何とかする」

「それはお安い御用だが、何故冒険者に頼まないのかね?」

 シルビィとタスネはそれを聞いて「ヘ?」という顔をする。

「マスター、鉄傀儡の魔法防御力の高さは帝国に多く住むエリートオーガ並です。ですからメイジばかりの樹族国の冒険者では歯が立ちません。素早い上に攻撃力が高く、生命力の低い樹族にとって天敵といえましょう」

「ほう、では私向きの敵だな。乗っているのは樹族かね?」

「樹族や獣人など色々だよ、ダーリン。彼らはロケート団と名乗って近くの村や街を荒らし回っている。どうも鉄傀儡のような古代兵器を見つけ出すのが目的みたいなのだが、そうそう見つかるものでもないので、普段は盗賊をやっているらしい。実に迷惑な集団だ」

「ロケート団? 何だかんだと聞かれたら、とか言いそうだな。まさかな・・・」

 ウメボシが「ウフフ」と笑った。

「ほんとうにマスターは二十一世紀のサブカルチャーが好きですね。古代兵器を探しているとなるとロケート団はこの星の歴史に関する情報を持っているかもしれません。行く価値は十分にあります」

「うむ。ではいつから西の僻地に行けばいいかね? シルビィ殿」

 何となく喉の乾いたシルビィは、ウメボシに差し出された茶色い飲み物をストローから勢い良く吸った。

「(ぐわ! また炭酸か! ウメボシめ!)ゲホホッ! それはダーリンの都合に合わせるが、なるべく早いほうがいいかな・・・」

「随分と勢い良くコーラを飲んだな? 大丈夫かね?」

 ヒジリはシルビィを心配して抱き寄せると背中を優しく擦った。

「す、すまない、ダーリン。ケホケホ!」

 背中を擦られながらシルビィはニマァと笑い、白々しい咳をしてウメボシを見た。

 ウメボシの見た赤髪の騎士の顔は、これ以上ないほど憎たらしい変顔だった。シルビィの苦手な炭酸飲料を飲ませるという嫌がらせをして、内心ほくそ笑んでいたウメボシだったが、行動が裏目に出てしまい「ムキーっ」と悔しがって顔を真赤にする。

 と、その時。

 ―――グボォォォ! グポホホォォ!! ブゲラブシャハラァ!―――

 突然、野獣の咆哮が部屋中に響き渡る。

 ヒジリもタスネも何処からか怪物が侵入したのかと思いキョロキョロとするが、その音の出処がシルビィの口からだとすぐに気がついた。

 シルビィは顔を真赤にして手で隠す。

「わぁぁぁぁ! 恥ずかしい! ゴポポポポ! まただぁ!」

 恥ずかしがりながらもゲップは漏れ出る。

 それを見たウメボシの顔は怒りから喜びに変わり、女騎士の周りを嬉しそうに飛び回って歌いだした。

「やんやんやんやーやーやー♪ シルビィ様がゲップしたー♪ 大きな大きなゲップしたー♪」

 その歌がとどめを刺したのか、ヒジリの感情を抑える防波堤が一気に決壊してしまった。「ブハーーー!」と噴いて思わず笑いだす。

「グォッ! グハハハハッ! すまない! シルビィ殿! 笑ってはいけないと解っているのだが、ど、どうしても堪えられなくて! ブハハハハハ!」

 シルビィは真っ赤な顔で長い耳を下げて「フエェェ」と嘆き、涙目になった。

 笑い転げるヒジリを見て、タスネが腰に手を当てて叱る。

「ちょっと! レディのミスを笑うなんて最低だよ!」

「す、すまない! でもこないだのゲップも思い出してしまって・・・。プスーーー!」

 悪いと思っているのか、ヒジリは必死に口を押さえて笑いを堪えている。

 あまりに感情が高ぶると感情制御チップが作動して冷静になるように地球人の体はできているが、どうもその効果が薄いとウメボシは気がついた。

「(感情制御チップが働いていない?)マスター?」

「解っている。今、気持ちを落ち着かせる。少し待て」

 ヒジリは深呼吸をして、目を瞑った。数秒後には普段通りの凛々しい顔に戻っていた。それからしょげるシルビィの頭を撫でて頬にキスをする。

「ビャッ!?」と変な声を上げてシルビィは飛び上がる。大好きなオーガにキスをしてもらえたのだから嬉しくないはずがない。ゲップの事など綺麗サッパリ忘れて喜んだ。

 喜ぶシルビィを見て微笑むと、ヒジリはタスネに確認した。

「では明日にでも出発しよう。それでいいかな? 主殿」

 タスネはまだ慣れていない仕事があったが、仕方ないねと溜息をついて頷く。

「王様からの命令だもんね。行くしかないよ」

「それなんだが、タスネ殿。今回はダーリンとウメボシ殿に向かってもらう。タスネ殿は役所の仕事を優先してほしい」

 タスネは驚いた。大型奴隷の主は、なるべく近くにいなければならない決まりだからだ。

「え? いいんですか? ヒジリだけだと、樹族国に侵入してきたオーガだと間違われるんじゃ・・・」

「それは問題ない。陛下直筆の冒険者認定証と、それを示すワッペンを持たせるので単独で自由に往来出来る」

「それって異例中の異例ですよね? 凄いね! ヒジリ! 樹族国でオーガの冒険者なんて初めてだよ!」

 タスネはヒジリの腕に抱きつくと、ムニッと主の大きな胸が当たるがヒジリは何とも思わない。

「まぁ公認になったとはいえ、以前から単独行動はしていたがね」

「それはダーリンだから許されていたのだよ。有名なオーガなので皆、黙認していたのだ。その辺の奴隷オーガがダーリンの真似をすれば、あっという間に騎士や冒険者の餌食になっていただろう」

「おおっぴらに動けるのは嬉しいな。どこにでも行けるのかね?」

「ああ、侵入禁止区域じゃなければどこでも行ける。制限ばかりだと認定証の意味がないからな。普通の冒険者ギルドが配布する認定証と違って特権が多いぞ? 宿屋の割引やら高レベルクエストの優先権やら。まぁ陛下お抱えの冒険者だから当然だけど」

「では明日はウメボシと二人だけで西の僻地へ向かえばいいのだな?」

「お目付け役のエリムスも一緒だがな。なんだったら、冒険者ギルドで仲間を集めてもいいぞ? 彼らへの報酬も国から支払われるので、喜んで仲間になってくれるだろう。そういえばツィガル帝国から自由騎士のオーガが来ている。誘ってみたらどうだ?」

 ヒジリは「ナニ?」と驚いた。

「オーガは敵だから、樹族国には入ってこれないのではなかったのかね?」

 シルビィは、時折見せるヒジリの無知さが愛おしく見える。

「お坊ちゃまは何も知らないのだな。自由騎士は所属や種族に関係なく国を行き来出来る。それだけ何かしらの偉業を成し遂げており、自由騎士認定をした国も、威信とプライドをかけて世界に送り出す事になるので、中途半端な人選はできない。ゆえにその数は少ない。政治的介入も基本的にはしないので、どこへ行っても歓迎されるのだ」

 光側や闇側という枠組みや種族を超えた存在がいることに、ヒジリはとても興味を持った。一種の大使館か外交官みたいなものかと考える。

「何をしてそこまでの存在に登りつめたのかは知らないが、よほどの人格者で且つ腕前の立つ者なのだろう。私は少し自由騎士とやらに興味が出てきたよ。もし明日、アルケディアの冒険者ギルドで会うことがあれば誘ってみる」

「ああ、会ってみるといい。ただ肩書ばかり先行してどういう経緯で自由騎士になったかは、わからない者が多いから最初は怪しく見えるかもな。あと強引に誘うと莫大な報酬を請求されるので無理して誘わないように。なにせ世界的英雄だからな」

 ヒジリは眉をしかめた。話に矛盾があるからだ。

「偉業を成し遂げた者なのに、何を成し遂げたかわからないとはおかしいな」

「国の秘密に関わる事で偉業を達成している事が多いからな。達成後、その人物が自由騎士になりたいと望むと国の審査が始まる。秘密を喋らない誠実さがあるかとか、性格に問題はないかとか、外国に出しても恥ずかしくない品性の持ち主かどうかなど。そうして厳しい審査をクリアした者がようやくなれるのだ。他にも自国以外で貢献した国から自由騎士の称号が贈られる事もある。とにかく会ってみる事だな。自由騎士がもしダーリンに興味をもってくれれば、最高の仲間となるだろう。あの煩いお目付け役も、自由騎士の前では静かになると思う」

 徐ろにシルビィはソファーから腰を上げる。

「結構長居をしたな。私はそろそろ城へ戻るとしよう。今日はダーリンの顔が見れてよかったよ! ほっぺにもキスをしてもらえたしな! 次会う時は、ダーリンがロケート団の根城を粉砕した時だと確信している! ではさようならだ。急ぐので見送りは要らん」

 そう言って手を振るとシルビィは部屋から出ていった。

「自由騎士か。かなりの大人物なのだろう」

 顎を擦りながらどんな人物かをヒジリは想像する。漫画だと逆に大人物ほど変人だったりするが、審査でそういった者は弾かれるだろうから、それはないかと考え直す。

「少なくともヒジリみたいな変わり者じゃないとは思うよ?」

 タスネが「フヒヒ」と意地悪に笑うので、ヒジリはジリジリと主ににじり寄った。

「私は変人なので、今から主殿に猛烈なキスをするかもしれんな」

「はぁ? 何言ってんの? って! わぁ!」

 瞬間移動でもしたかのようにヒジリはタスネの目の前に立って、手をワキワキとさせている。

「ヒジリのアホバカ変態!」

 タスネは一目散に白銀の建物から飛び出して逃げていった。

 壁に作った窓から外を覗くと、タスネが必死に逃げていく姿が見えた。ヒジリは「フフフ」と笑いゆっくりと伸びをする。

「では、明日の準備でもするか。ウメボシ」

「そうですね」

 ヒジリは明日の出発に向けて、ヘルメスブーツのメンテナンスを始めた。
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