未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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喜びのタスネ

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「じゃあね! タスネ子爵・・・。いやタスネ!」

 終始にへらと笑って鼻の下を伸ばしているタスネは、ホッフが屋敷の門から見えなくなるまで見送った。

 夕日がタスネの頬を染めているのか、自らが赤い頬をしているのかは判らないが、タスネの顔は赤い。

「むふふ! 今日は良い日だった。まさかホッフが訪ねて来るなんてね!」

 入れ替わりのようにして、ハーハーと荒く息をするウメボシが帰ってきた。

「どうしたの? 息を切らせて。疲れ知らずのウメボシが疲れているなんて珍しいわね! あら、その帽子は祭りの日限定の警備ボランティアベレー帽・・・」

 ウメボシは頭にベレー帽を被っている。激しく戦ったせいか、ホコリや土に塗れていた。

「ええ、ウメボシは今日一日中ずーっと、街道警備をしていたものですから(ホッフ様の代わりに!)」

「ふーん、大変だったね。お祭りの警備に参加するなんて、ウメボシも物好きねぇ?」

「(好きで参加しているわけじゃありませんよ! 誰のためにホッフ様に休みを与えたと思っているのですか!)もう大変でした。今日に限って森から魔犬やら鬼イノシシやら、終いには滅多に見かけないレアな魔物やらが出てきて、通行人を襲おうとするのですから! ウメボシは何度も防御エネルギーが尽きかけて、ヒヤヒヤしました。ボランティアにはシルビィ様も参加していましたので、攻撃面では助かりましたが」

「ふーん」

 興味無さそうにそう言うとタスネは、ホッフとの楽しい時間を思い出してニヤけだす。

「ねぇねぇ。今日、屋敷に誰が来たと思う?」

「さて? だれでしょうか?(知ってますけどね!)」

「教えな~い!」

「(あぁ、イラッとします!)そんな事を言わずに教えてくださいませ、タスネ様」

「仕方ないにゃ~! じゃあ教えてあげるよ! なんとね! ホッフが訪ねて来たんだよ! テデーン!」

「ええ~! それはスゴ~イ!(CV:フグ田マスオ)」

「え? ウメボシ、なんで急に男の人の声になったの? まぁいっか・・・。急に時間が出来たからって遊びに来てくれたんだよ。じゃあ降臨祭に行きましょうって誘ったんだけど、人混みが嫌だっていうから・・・、その・・、ずっと部屋でお話をしてたの」

 ウメボシの目が妙な形になる。ヒジリがいれば「ドラえもんの恋バナを聞いた時の、のび太君のような目だ」と言ったかもしれない。

「え~! お話だけですか~? 誰にも喋りませんから、どこまで進展したのか、ウメボシにこっそり教えて下さいませ!」

「ひ、膝枕よ・・・」

「え! 膝枕をしてあげたんですか? やるぅ~!」

「ううん、膝枕をしてもらったんだよ」

「へ? ホッフ様に?」

「う、うん。疲れてる顔しているからって・・・」

「はぁ・・・。確かに最近はお仕事で相当疲れていましたからね、タスネ様は。それからどうなりました?」

「膝枕の時にホッフの方を向いたら、目の前に股間があってドキドキしたよ。ちょっと男子っぽい匂いがしたわ・・・」

「はぁ?(何言ってるのでしょうか、タスネ様は。ちょっと変態チックな事を言っていますね・・・)」

 上気した顔で劣情を露わにするタスネを不審に思い、ウメボシは辺りをスキャニングした。

 すると近くの木の枝にコウモリがぶら下がっている事に気が付く。

 外側はコウモリだが中身は真っ黒だ。それはウメボシが見る事が出来ないマナで満たされている、という事なので悪魔の類だと予想した。

 人の心を劣情で満たす悪魔――――。

「またインキュバスですか!」

 ビー! と目から光線を出してコウモリを仕留めると、それは小さなインキュバスの姿に戻って消えていった。

「全く油断も隙もない。低レベルのインキュバスで良かったですよ。このあいだのレベル百ぐらいありそうなインキュバスだったら、ウメボシは死んでしまいます」

 タスネが我に返って自分の言動を思い出し、顔を赤くした。

「あわわわ、アタシ変なこと言った?」

「いいえ。膝枕の話をした後、ぼんやりとなされておりましたが」

 タスネの恥ずかしい話を聞かなかった事にした。

「よ、良かった・・・」

「口づけなどは、しなかったのですか?」

「ししし、しないよ! そんなの!」

「そうですか・・・。でも良い気晴らしになったでしょう? これで明日から頑張れますね! また会う約束もしましたよね?」

「うん、また来るって言ってくれた!」

「良かったですね! では一つ忠告しておきましょう。タスネ様は酒癖が悪いので、ホッフ様の前では絶対にお酒を飲まないようにしてください」

「それは自覚してるから大丈夫だよ。でも心配してくれてありがとう、ウメボシ」

「どういたしまして。そろそろマスターが帰ってきます。フラン達も一緒ですね」

 我が家に帰る準備をしていた門番が門を開けると、サヴェリフェ家の紋章が付いた馬車が入ってきた。

「どうどう!」

 御者のヘゴッソが馬を玄関前で止め、皆を下ろすと、屋敷の主であるタスネに帽子を取って、軽く挨拶してから近くの厩舎まで走らせていった。

「おかえり」

「ただいま~! あ~楽しかった! タスネお姉ちゃんもお祭りに行けばよかったのに」

 コロネはヒジリに貰ったネコキャットの仮面をつけて、楽しかったアピールをしている。

「いいのよ、お姉ちゃんも良い事あったから。さぁさぁ、もう食事の用意が出来ているから屋敷にお入り! ヒジリ、イグナの面倒を見てくれてありがとうね!」

 抱いていたイグナを降ろし、狭量なる主の機嫌が良い事にヒジリは満足する。

「どういたしまして。それでは皆、また明日」

「また明日!」

 姉妹たちは手を振って、屋敷の中へと入っていった。

「ウメボシもよく頑張った。帽子が汚れているところを見ると、余程魔物が手強かったのだな」

「街道に人通りが多いと、それだけ餌が多いという事ですからね。ウメボシは気を張りすぎて疲れました。癒やして下さいまし、マスター」

 甘えた声を出すウメボシは主に擦り寄った。

「では、久々にアレをしてやろう」

 一つしか無い目が、興奮で大きく見開かれる。

「嬉しいです! ウメボシは! めくるめく快楽が押し寄せてくるアレが大好きです!」

「誤解されるような言い方をするな、ウメボシ。ただコアを布で磨くだけだろう」

 恥ずかしそうにする主に、ウメボシは違和感を覚える。

「あら? マスター・・・。とうとう感情抑制チップが壊れてしまいましたか?」

「そのようだ。様々な感情が渦巻いてい心の中が煩い。私は今、擦り寄ってきたウメボシですら可愛いと思ってしまったのだ。どうやら可愛いものに弱いようだ」

「まぁ! なんてことでしょう! ウメボシが可愛い!? まぁまぁ! もっと撫でても良いんですよ? マスター!(来ました! ウメボシの時代がやって来ました! ウメボシティック・ドーン・なう!)」

「ふむ・・・やはり今日は感情を制御する修行をする。アレをするのはまた今度だ。一人にしてくれ。禅をするのでね」

「しょ、しょんなぁ~!」

 がっかりするウメボシの頬に、笑ってキスをするとヒジリは、さっさと部屋に入ると閉じこもってしまった。
 
 ウメボシは質量のあるホログラムの手を出し、追い出された子猫のように部屋の扉をカリカリする。

「修行は後でいいじゃないですか~。今はウメボシを構って下さい~、マスター! マスターぁ!」

 すると扉が開いた。

 ウメボシが嬉しそうに中に入ると廊下にヒジリの声が響く。

「こ、こいつめ~! そんな甘い声を出したって構ってはやらんぞ!」

「構ってくれているじゃないですか~!」

「しゃ~しゃ~しゃ~」

「ムツゴロウさんですかっ!」

 他人が見れば間違いなくドン引きする――――、二人のキャッキャウフフな時間は夜遅くまで続いた。

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