未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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魔王

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 マホブルーであるホーリーは叫んだ。

「そんな! 魔王が来たら! この国にも被害が!」

「何としてでも止めなきゃな!」

「ふえぇ~!」

 空間の小さな穴を押し広げるようにして転移してくる禍々しい悪魔を見て、魔法少女の三人は技を繰り出すのか、一か所に集まった。

「今のところ、リーダーのクリミティが全く役に立ってないな・・・」

 シルビィが頬を掻く。

「ふえぇ~、しか言っていないね・・・」

 タスネも呆れる。

「彼女の魔力は高い。恐らくはマナタンクの役目をしているのでは」

 イグナの分析どおり、何か魔法を繰り出そうとしているレッドとブルーの後ろで、イエローは二人の肩に手を置いていた。

「激しい情熱は愛への道標! 高まれ! 愛の力!」

「祈る心は乙女の叫び! 高まれ! 清らかな力!」

「ふ、ふえぇぇ~! ふえぇ~~! 優しさの力!」

「いっけぇぇ~~~!! 【希望の矢】!」

 赤青黄色の三色の光が溶け合って光り、太い一閃となって、転移してこようとする魔王共々悪魔を薙ぎ払った。

「やったか?」

 マホレッドが爆発の煙が収まるのを待つ。

「やったか? とか言ってしまうと、大概やれていないのがセオリーだ」

 ヒジリがアニメのお約束の話をすると、現実はその通りになっていた。

 カッドスとサデレは、連携防御魔法で魔法少女隊の攻撃を防ぎ、ニヤニヤと笑っている。

「事前に君たちの魔法の情報は掴んでいたと言ったはずだ」

「そ、そんな! ありえないっち!」

 夢をかなえる妖精モカロンは、ふわふわと地面に降り立って絶望に跪いた。

「ふえぇ~!」

 マホイエローも尻餅をついて怯える。

「君たちの希望のパワーより、我らの絶望パワーの方が上回っていたと言う事です」

「残念ねぇ。それに・・・。あ~あ・・・。貴方の使い魔が、迂闊にも転移の道を開いちゃったから、この国もとばっちりを受けちゃうわぁ。モカロンだったかしら? 貴方が私達を導いたせいで、この国の人も苦しむ羽目にになるのよ?」

「しまったっち! 俺っち、マホイエローを探すのに必死で、その事をすっかり忘れていたっち!」

 ヒジリはどういうことだという顔をした。すかさずシルビィが、息継ぎをせずに解説する。

「暗黒大陸は スイーツ魔法国の強力な結界で覆われているから、内からその結界を破って転移でもしない限り、悪魔たちは大陸の外に出られないのだよ、ダーリン。なので我々外国人が滅多に入ることも出来ないし、スイーツ魔法国の者が、許可なく結界を破って外に出る事も禁止されている。スイーツ魔法国の人たちは、我が身を盾にして悪魔から世界を守っているとも言えるのだ。だから諸外国は黙って見ているしかないわけなのだよ」

「では修羅の国の如く、常に魔法少女たちは暗黒大陸で戦っているというのかね?」

「そうなるな。四六時中、悪魔と戦って、尚且つ外国との関わりから隔絶されていれば、自然と魔法や文化が独自進化するものさ」

「なんだか可哀想だな。主殿よりも若い女の子が、青春を謳歌出来ないとは」

「ねぇヒジリ。加勢しなくていいの? 何かとんでもなく怖そうな悪魔が出てこようとしているんだけど」

 タスネは恐怖が限界に達し、口を鯉のようにパクパクし始めた。

 もう既にデーモンロードは肩まで出てきている。

「十八メートルくらいあるか? でかいな」

 絶望に打ちひしがれて跪く魔法少女たちの横を、ヒジリはスタスタと歩いて通り過ぎ、魔王を間近で観察する。

「何です? オーガ。今頃になって怖くなり魔王さまに媚を売りに来ましたか? ハハハ!」

 勝ち誇った顔でカッドスはヒジリの肩に手を置いた。

 ビシュと音がして肩に置いた手が溶ける。

「ヒッ!」

 カットスは手を差擦りながら仰け反った。さっき殴られたお腹も溶けており、少しずつマナが漏れ出している。

 マナ依存度が高ければ高いほど、ヒジリの魔法をかき消す力は強くなる。

 樹族や地走り族はヒジリに触られてもほぼ影響を受けないが、魔人族は徐々にマナを減らされる。マナを依代にするむき出しの精霊や幽霊などは、ヒジリに触れられただけで掻き消えてしまのだ。

 高位の悪魔たちも、マナの依存度が高い。そして強力な悪魔ほど膨大なマナエネルギー維持を必要とする。それはかなり困難な事だ。

 今回の場合、ギガーンという特別な能力を持つ魔王の力で可能となっているが、普通は贄と依り代を用意してくれる召喚士と契約する事となる。

 ヒジリはマナ依存度の高いをよく見ようとしたが、大きい事以外なにも分からなかった。

 仕方がないので門を見る。

(門と呼ぶにはお粗末な穴だが・・・。この転移門も、マナ依存度が高いのだろうか?)

 ヒジリは好奇心から、魔王が出てこようとする転移門の縁に触れた。

 その途端―――。

 門は消え、肩から上しかない魔王がドサリと地面に落ちて息絶えた。

「むむっ? すまない・・・。ん? なにっ? し、死んでいる? 馬鹿な」

 ヒジリはてっきり門の向こうに押し戻されると思っていたが、予想に反して、モザイクの魔王は体の切断面を見せて、地面に物のように転がっていた。

「転移を遮ると、恐ろしいことになるのだな・・・」

 悪魔の幹部二人は突然、頭を押さえて苦しみだす。

「ぎゃあああ! ギガーン様ぁぁぁ!」

「よくも・・! よくもぉ! ハァハァ! 駄目だ! 体を維持することができない! うぎゃあああ!!」

 二人の悪魔は灰となってこの世界から消え去った。

「うそ・・・・! このオーガ、あっさりと魔王を倒しちゃったよ!」

 マホブルーのホーリーはヨタヨタと歩いて来て、ヒジリの顔と魔王の死体を交互に見つめた。

「やった・・・! やったぁぁぁぁ!!」

 マホレッドのアケミィがホーリーに抱きつく。

「ふぇええ!? 凄いですうぅ~! これで千年にも渡る長い戦いが終わったですぅ~!」

 胸をボインと弾ませて、クリミティが小さく飛び跳ねて喜んだ。

「ああ! 今頃、暗黒大陸中の悪魔も塵になってるぜ!」

「やったっち~!」

「もう・・・、もうこれで私たちは、何度も転生して悪魔と戦わなくて済むのね」

 ホーリーは顔を押さえて泣き崩れた。

「ああ。転生が出来ると言っても、仲間が何度も死ぬところを見るのは辛いからな」

「普通に暮らして普通に結婚して、子供を生んで幸せに暮らして寿命で死ねる・・・」

「魔王を倒すまで転生だと? 恐ろしいな。なんだその魔法は」

 シルビィはスイーツ魔法国の独自魔法に驚く。

「魔法というか・・・。呪いに近いかも。魔王ギガーンを倒すまで解けない呪い・・・。死んだら、また生まれ変わって、十四歳になると突然使命を思い出すの・・・。私達三人だけが特別にかけられた呪い」

「だとしたら死んでも、即生き返る我々は呪われている事になるな、ウメボシ」

 ヒジリはヒソヒソとウメボシに言う。

「そうですか? 永遠の命を持つ地球人は生きる事を止めて、次の世代に希望を託す事が出来ますが、彼女たちはそういった選択肢がありません。強制的に生き返り、十四歳になったら使命を思い出して、戦いに身を投じるのです。ウメボシは彼女たちのこれまでの人生を思うと可哀想でなりませんし、やはりこの魔法は呪いと言っても過言ではない気がします」

「そうか・・・」

 ヒジリは切ない顔で少女たちを見ていたが、それも今日までと解ると嬉しくなった。

「良かったな、魔法少女の諸君」

 ヒジリの爽やかな笑顔が場を照らす。魅力値18が場を明るくした。

「ふえぇぇ~!」

 最後まで「ふぇぇぇ~」としか言わなかったクリミティが、いきなりヒジリに抱きついてきた。ヒジリは驚いたが、彼女をそのまま抱っこする。

「ありがとうございます、オーガさん~」

 クリミティは泣きながらヒジリの頬にキスをしている。

 鼻の下を擦ってアケミィがお礼を言いにヒジリの近くにやって来た。

「お前、強いな! カッドスの腹にワンパンを決めた時はスカっとしたぜ!」

 ホーリーもやって来て、青いストレートの髪をサラサラと零しながら、ヒジリの手の甲にキスをした。

「これで千年にも渡る悪魔との戦いは終わりました。なんとお礼を申し上げればいいのか! 女王様にも笑顔で報告ができます。もしよろしければお名前をお聞きしてよろしいですか?」

「転移門を触っただけなのだがな・・・。まぁいい。私の名を知るがいい。我が名はオオガ・ヒジリ。樹族国のクロス地方の行政官である、タスネ・サヴェリフェ子爵様が所有するオーガだ!」

 ヒジリは芝居がかった演技でそう言った。

「まぁ・・・! この国にはまだ奴隷制度があるのですか・・・。ところでタスネ様は?」

 タスネに挨拶をしようとオーガの主を探すホーリーだったが、タスネは手を上げてそれを拒んだ。

「タスネはアタシだけど、アタシは何もしていないから挨拶しなくていいよ。ぜ~んぶヒジリのお陰だから」

「うふふ、面白いお方。では私たちは急いで女王様に報告に戻ります。スイーツ魔法国が落ち着いたら、使節団を樹族国に派遣し改めてお礼をしたいと思います。その時までご機嫌よう! 偉大なるオオガ・ヒジリ様!」

「ああ、さようなら」

 モカロンが転移門を開くと、レッドとブルーはその中に飛び込んだ。

「ふええぇ~。ヒジリさん、ありがとうございました。それから・・・。だいしゅき」

 クリミティは別れ際にヒジリの口にディープなキスをし、顔を真赤にして転移門まで走っていった。

「ど、ドン臭い癖に! ここ一番で! どエライことしたな! こら~! 貴様~! 逮捕だ~!」

 シルビィが転移門までクリミティを追いかけたが、彼女は「ウホホ~イ!」と叫んで、門と呼ばれる穴に飛び込んだ。

 そしてシルビィの鼻の先で転移門はスッと閉じて消えてしまった。

「全く、とんでもないビッチだ! あのクリミティとやらは! ってダーリン?」

 感情制御チップの壊れてしまったヒジリは、顔を真赤にしてぼんやりしていた。

「凄く濃厚なキスだった・・・。皆の前でこれは恥ずかしい・・・」

「ダーリン・・・。何か様子がおかしいぞ? というか、あのビッチのキスは私が上書きをしてみせる! 私の勇ましきキッスをッ! 皆刮目せよッ!」

 粋がってそう言うと、シルビィはびょーんとヒジリにジャンプして飛びつこうとした。

 ―――その時・・・。

「誰が刮目するかー!」

 とイグナとフランの魔法がシルビィを捕らえ、身動きできない彼女を足でゲシゲシと蹴りだした。

「ちょ! 私は・・・一応上位貴族なんだが? ちょっ!」

「なにやってんだか・・・。大丈夫? ヒジリ。急に口にキスなんかされたら驚くよね」

 珍しく自分を気にかけてくれる主の言葉にヒジリは我に返った。

「主殿が私を気にしてくれるとはな。明日は猛吹雪だな」

「なによ! アタシだってヒジリのことはいつだって気にかけているわよ! もう!」

 狭量なる主にハハハと笑って、まだ蹴られているシルビィを止めるかどうかヒジリは迷った。

 止めて抱き上げれば、彼女はキスしてくるだろうし、彼女を庇えば姉妹が拗ねる。

 ウメボシはニヤニヤしながら蹴られるシルビィを撮影していた。

 後日、悲しく切ない音楽の中、スローモーションで蹴られるシルビィのシュールな動画が、魔法水晶で出回る事となった。
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