未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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女になった王二人

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 アワアワと目を虹色に光らせて右往左往するウメボシは黒髪ポニーテールの女性オーガを見て「まさか!」と叫んだ。

「そんな!マスターまで!ああ、なんてことでしょうか!シュラス陛下もマスターも女体化するなんて!」

 ウメボシは口からぶくぶくと泡のホログラムを出してテーブルの上に落ちて気絶した。

「のじゃぁぁ!体から垢が大量に出たと思ったら、いつの間にか女になっておったわぃー!」

 清潔な厨房に似つかわしくない垢だらけのシュラスは、体をぼりぼりと掻きながら目を白黒させている。

「見事なロリ少女になったものだ。いや、年齢が二百歳以上だからロリババァというべきか?シュラス王は何故厨房にいたのかね?お供も連れずに」

 ヒジリは自分のCカップほどの乳房に萎びたレタスを付けて乳首を隠せるか試みた。

「誰じゃ!貴様は!」

「お初にお目にかかります、シュラス国王陛下。私は神国ヒジランドで王をやっているオオガ・ヒジリというものです。以後お見知りおきを」

 ヒジリはふざけてお辞儀をするが、胸のレタスが剥がれ落ちそうになったので慌てて頭を上げて胸を押さえる。

 胸が露わになるのは恥ずかしい事なのだなという気持ちが徐々に強くなってきたヒジリは顔を赤くし、嬉しそうにこちらを見ているスカーをむぅと睨み付ける。

「なんじゃ、ヒジリか。そうか・・・お前もか。ワシはお前さんの料理が待ちきれなくてな、こっそりと厨房に来てつまみ食いしようとしたんじゃ。で、小皿にあったサラダを少し食べたら数分後には、これこの通りロリロリ女子に変身してしまったんじゃよ!」

「では私と同じ果物を食べたのだな。サラダの中にシャッキリポンとした味わいのものがあっただろう?私はあれが原因だと考えているのだ」

「あれか・・・。食べると口の中が山奥の清流を飲んだ時の様な爽やかな感じになって美味しかったのじゃが・・・」

 栗毛で猫っ毛のショートヘアーを揺らして体中を掻くシュラス王の絹のシャツははだけており、ちらちらと小さい胸元が見える。

 最初こそヒジリやシュラスの胸や尻を見てニヤニヤしていたスカーだったが、段々と気味が悪くなり呪い除けのお守りを胸ポケットから出すと握りしめた。

「ちょっと怖くなってきたぞ。まさか呪いじゃねぇだろうな?」 

「いや、違うなスカー。あの切り口の斑点模様を見ろ。ヒジリが言った果物とはテーブルの上にあるアワビマンゴーだ」

 ベンキはゴーグルのような形のビン底眼鏡の位置を直して、テーブルの上を指さす。

「げぇぇ!あれは・・・!」

「知っているのか!雷電!」

「誰がライデンだよ。俺の名はスカーだぜ?性転換の実のせいで頭もおかしくなったか?ヒジリ」

「性転換の実?」

「そう。食べると真逆の性に変わる魔法の実。主に頭の中と体の性が一致しない者が高い金を払って買う高級果物だ」

「珍しい物なのかね?」

「ああ、天然物しかないからな。性転換目的で買わない奴もいるがその場合は珍しいという理由で観賞用として買っているみたいだぜ。きっとここのもそのつもりだったんじゃねぇの?何かの手違いで食材の中に紛れ込んでしまったんだと思うわ」

「ふむ、ついてないな。で、その魔法の実はどこで売っている?もう一度食べれば元に戻るのだろう?」

「まぁポルロンドに行けば何だって揃っている。取り寄せも出来るだろうけど、現地で買う方が確実だろうな。取り寄せの客は大抵後回しにされる」

 砦の戦士ギルドの知恵袋ベンキは意外と物知りだった。

「ポルロンドか・・・」

「あのモティの傀儡国家は今頃は混乱しておるじゃろうな。行きたくないのう」

「誰か使いの者にでも頼むか・・・」

 ヒジリは誰に頼もうか考えていると、ベンキがテーブル脇の籠の中にあった何でもない林檎を手に取って齧った。

「それは止めといた方が良いな。ヒジランドや樹族国に性転換の実の目利きがいるとは思えない」

「どういう事かね?君たちは簡単に見抜いていたじゃないか」

「そりゃあな。性転換の実は切ると断面にハートマークの斑点が浮かぶからな」

「ではそれで目利きできると思うが」

 スカーはテーブルの上に置いてあったバナナに手を出して美味しそうに食べる。

「ところがどっこい!そのマークが浮かんだら性転換の効果が切れましたよって合図なんだわ。切って三十分から一時間ぐらいで効果はなくなる。しかも厄介なのが性転換の実は色んな果物の形に擬態している寄生型の植物なんよ。林檎の木なら林檎に。アワビマンゴーの木ならアワビマンゴーに」

 スカーは半分になった珍しい果物、アワビマンゴーに擬態した性転換の実を手に取って暫く怪訝そうな目で見つめた後、バナナの皮と一緒にゴミ箱へ放り投げた。

 ヒジリはその話を聞いて首を傾げる。

「そうなると採取者にも性転換の実かどうか判らないな」

「木に生っている間だけ表面にハートの斑点が浮かぶから解るのだ」

 ベンキは二個目の林檎を齧って答えた。

「では今君達が食べている果物もその可能性があるわけだ」

「まぁそうだが、味で解るらしい。甘みが薄く高原の石清水を飲んだような爽やかさがあると聞いた」

「・・・。間違いないの、ワシらは間違いなく性転換の実を食べてしまったようじゃ」

「うむ。参ったな。手っ取り早い解決法は再構成だが・・・。その場合は蘇生扱いでオリジナルの私やシュラス王はこの世から消える事になる・・・。やはり性転換の実を探すしかないようだな、シュラス王よ」

「何を言っているかはわからんが、実を探すのが解決法なのは間違いないの。ん?待てよ?そうなるとワシはヒジリと旅が出来るんじゃな?それは凄い事じゃ!現人神の戦いが間近で見れるかもしれんのじゃぞ!うひゃぁぁ!」

 喜んではしゃぐシュラスの横のテーブルからピピ!っと音がしてウメボシが負荷から回復し、テーブルの上から浮き上がる。

「大丈夫かね?ウメボシ」

 ヒジリがウメボシを抱き寄せて胸の谷間に挟む。

「ヒェッ!柔らかい!マママ、マスターは女になられてもとても綺麗ですね。でもやっぱり・・・」

 ウメボシはやはり男のヒジリがよかったのか、オロローンと泣き出した。

「ポルロンドに行って性転換の実を食べれば元に戻せるらしいぞ、ウメボシ」

「え!そうなのですか?では行きましょう。転送で直ぐに行きましょう。ハイ決まり~!」

「転送はダメだ。今回も馬車で行く」

「えー、イヤダー!早く男のマスターに戻ってください。女のマスターはレロレロしたくないですぅー!」

「レロレロ?」

「ギクリ!いや、その・・・スキャニングです・・・。体をスキャニングする事をウメボシはレロレロと呼んでいるのです。別に他意はありません」

「そうかね。まぁでもこれからは転送は緊急時だけだ。解ったな?ウメボシ」

「はい、マスター」

 ふぃ~と心の中で冷や汗を拭いてからウメボシはガッカリする。

(毎日マスターの味を味わうのが楽しみでしたのに・・・)

「なぁ俺たちもついて行ってやってもいいぜ?女二人旅、いや三人旅か」

 スカーはウメボシを見て訂正する。

「いくらヒジリが無敵だといってもよ、さっき俺に地面に叩きつけられてただろ?多分、力は弱くなっていると思うぜ?俺たちを雇っておけよ」

「ベンキはともかく、君はなぁ・・・。さっきからイヤラシイ目で私を見ているではないか。身の危険を感じるのだよ」

「う、自惚れんじゃねぇぜ?ヒジリ。確かにお前は糞美人だけどよ、俺がお前とそんな関係になったら、後々互いに黒歴史しか残らねぇだろうが。肉食系男子である俺も今回ばかりはがっつくのを封印するわ」

「まぁマスターに変な事すればウメボシの極太レーザービームがスカー様のお尻を貫きますから、安心してください」

「そうだな。ではよろしく頼むよ、スカーとベンキ。シュラス王もよろしく。まぁポルロンドまで馬車で行って帰って来るだけだろうから何も起こらないとは思うが」

「よろしくの、ヒジリ。ではワシはリューロックに・・・って、この姿でどうやってあやつに説明すればいいんじゃぁぁ!超絶可愛いワシをシュラスだとは信じてはくれんじゃろう?」

 突然、ヒジリの影から紺色の影が現れる。

「ジュウゾか。いつからいた?」

「ヒジリ陛下が女体化する辺りだ。プッ!フハハハハ!」

 シュラス王がいる手前ヒジリの事を陛下と呼ぶが、それでも無礼な物言いな事には変わりない。

「こら!ジュウゾ!無礼だぞ!なんじゃ!その口の利き方は!」

 シュラスが嗜めるとジュウゾは下手くそな演技で答える。

「はて?貴方は誰ですかな?私はシュラス国王陛下を探しているのだ。薄汚い垢塗れの樹族の女ではない。そう言えばシュラス陛下はかくれんぼがお好きでしたな。元老院の翁共に遠回しの皮肉を言われた時、奥方と喧嘩した時、政策に失敗した時、陛下は二、三日はどこかに隠れてしまわれる。きっと今回も何かしらのヘマをしでかしてどこかに隠れているのでしょうな。さて・・・リューロック様には、陛下はいつものアレでかくれんぼから出てこないと伝えに行かねばな」

 そう言ってジュウゾはシュッと消えてしまった。

「もっと気を使った言い方があるじゃろうが!ジュウゾめ!」

 ヒジリはジュウゾの皮肉たっぷりな優しさにフフッと笑う。

「ほう、シュラス王は何かに失敗すると隠れてしまうのか。しかしそれをジュウゾが知っているという事は、隠れ場所も既にバレているという事だな。彼らは居場所がわかっているからこそ気を使って探そうとせず、シュラス王は引き籠る事が出来るのだ」

 シュラスは落ち込んだ時や一人になりたい時は私室の隠し部屋に篭る。あそこには親友のゲルシが持ってきた同人誌や精巧につくられた木のフィギュアが沢山飾ってあるのだ。それがジュウゾやリューロックに知られている事を知り顔を赤くする。

「のじゃああああああ!!恥ずかしいのじゃぁぁぁあ!」

 天を仰いでからシュラスはヒジリに慰めてもらおうと飛びついた。

「うぉっぷ!く、臭い!シュラス王の垢を取り除いてくれ、ウメボシ!」

「は、はい!」

 ウメボシはシュラスの老廃物を除去すると二人に似合いそうな平服を用意した。

「よし、これで裸で落ち着かない気分はなくなった」

 ヒジリにはノースリーブのタイトな黒いワンピース、足には動きやすいスニーカー。

 シュラスにはサーモンピックのロングティーシャツに濃い灰色のスパッツ、頭には大きな赤いリボンが付いていた。

「のわぁぁ!こんなガキンチョみたいな格好は嫌じゃぁぁ!」

「でも似合っているな。違和感がないというか。あまり高そうな服は着ない方が良いだろう。余計なトラブルに巻き込まれる可能性もある」

「まぁヒジリがそう言うならそうするが・・・。ワシはもっとセクシー系がいいんじゃがの。ヒジリみたいに」

「ハハッ!身の程をしれよ、オッサン!おっと!」

 スカーは王相手にいつも通りの口の悪さが出てしまい、口を押えた。

「おまえ、スカーとかいったな?あまり無礼な口を利くようじゃと、お前のトレーディングカードの絵が巻き糞になるぞ?気を付けろ」

「巻き糞は嫌だな。っていうか巻き糞だった場合、カードの効果はなによ?」

「糞尿への関心が高まり糞尿系カードの効果が倍になるんじゃ。しかしそんなカードはないので効果はない。ただただ糞尿好きになるだけ。スカーだけにスカトロじゃ!のじゃははははは!」

 大概の事には笑うスカーだが今回はツボにはまらなかった。

(しょうもね)
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