未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件

藤岡 フジオ

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バステトのテトとバガ―兄弟

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 父は既に家宝がなくなった事に気が付いているはずだ。なのにいつもと変わらない態度でいる。役職がそうさせているのだろうか?となると父は家の事よりも仕事を優先させるタイプだと言える。

「どうした?さっきからずっとワシを睨んでおるようだが」

 リューロックは娘の視線を気にせず黙々とサボテンステーキをナイフとフォークで切り分けている。

「父上は例の件を気にしていないのですか?」

「例の件?ああ、能力吸いの短剣か?ガッハッハ!心配するな」

「裏側でも追跡させているのですか?父上」

 対策が既に取られている事を期待してシルビィは椅子から少し腰を浮かせ立ち上がろうとした。

「いいや。そんな事をジュウゾに頼んでみろ。ずっとネチネチと皮肉のネタにされるだろうが」

「では・・・」

「心配するな、シルビィ。そもそもあの家宝は盗まれておらん」

「どういう事です?!」

 椅子に座りかけていたシルビィが勢い良く椅子から立ち上がる。

「ゴルドンが最近珍しい魔法書を買ったと言っていただろう?」

「それとこの件に何の関係が?」

「なんだ、魔法名をゴルドンから聞いてないのか?【偽装】という名前を聞いた事がないか?」

「まさか!」

「そう。そのレアな魔法で普通の短剣に能力吸いの短剣の情報を貼り付けた。あまり知られていない魔法だから対策方法を知る者も少ない。同じ術者が三回【知識の欲】を唱えて初めて見破れる」

「わぁぁ!凄い!父上!」

 シルビィは食事中のリューロックの首に抱き着いた。

「こ、こら!食事中だぞ!はしたない!」

「まぁまぁ、お母さん、焼きもち焼いちゃうわぁ」

 シルビィの母親のサフィーがおっとりした声で言う。

「しかしなんだ、娘に抱き着かれたのは何十年ぶりだろうか?ガッハッハ!」

「あ・・・でも父上。盗んだ相手は魔族旅団の可能性が高いのですが・・・」

 リューロックはそれを聞いて髭を撫でて片目を閉じ、険しい顔をする。

「ふむ、きゃつらはまた盗みに来るだろうな。しかし来ると解っているのだ。対策は幾らでも取れる。なにせ我が家には王国近衛兵独立部隊の隊長がいるからな」

「それはダメですよ、父上。我が隊をウォール家の私兵のように扱うなんて以ての外」

「相変わらず堅物だな。冗談じゃ・・・」




 馬車の中で人差し指を噛んで怒りと悔しさに呻く悪魔がいた。その悪魔を二人のオークが冷ややかな目で見ている。

「キィィィ!!やりやがりました!やりやがりましたよぉ!許せない!ウォール家の糞ども!私を騙すなんてやるじゃないですか!」

 悪魔バステトは一見すると猫人にしか見えない。しかしこの悪魔は獣人が不得意とする魔法をスタミナが続く限り無詠唱で無限に唱える事が出来る。

「何であんた達気が付かないのよぉ!このダガーが偽物だってこと!」

 バステトは拳を胸の前で握って情けない顔で訴える。

「それは我らの仕事ではないな、兄者」

「そうだな、弟者。そういうことだ、バステトのテト」

 おかっぱのオークの兄弟はまるで感情が無い。

「なによ!仕事って言ったって屋敷の下男を一人殺しただけでしょうが!」

「殺しは我らの仕事だな、弟者」

 面長で下唇の分厚いオークは腕を組んで弟を見る。

「そうだな、殺しは我らの仕事だな、兄者。人数は関係ない。我らの存在に気が付いた者を殺すのが契約内容だった。そういう事だ。バステトのテト」

 目の周りに眼鏡のような痣がある四角い顔の弟はテトを見る。

「一々種族名を言わなくてもいいですよ!オークのバガー兄弟!ああ、他のメンバーにまた馬鹿にされる!ダガー一本すら盗めないのかって!」

「まだ契約時間は残っている。引き返してまたダガーを盗りに行ってもいいな、弟者」

「そうだな、兄者」

「馬鹿じゃないですか?!いくら私が無限に魔法を使える悪魔ったって相手は樹族国一の貴族ウォール家なのですよ!次行けばワラワラと私兵が出てきて捕まるに決まっているでしょうが!」

「我ら兄弟は私兵如き何人いようが負けない。そうだな?兄者」

「その通りだ、弟者」

「いい?あそこには憤怒のシルビィがいるし、永久機関っていう魔法の金棒を持った筋肉達磨だっているのですよ!旅団員の半分ぐらいを向かわせないと無理!それに背後には現人神までついているって噂ですよ!」

「現人神・・・。一度戦ったな、弟者」

「ああ、力試しに襲ったら投げ飛ばされたな、兄者」

「何故かそのままモティまで飛ばされたな。あの空の旅は愉快だったよ、弟者」

「現人神に攻撃を仕掛けるなんて頭がおかしいのですか?ヒジリは旅団のお得意先である魔王を倒した男ですよ!貴方達が敵うわけないでしょうが!」

「それよりどうする?契約時間いっぱいまで護衛でいいのか?テト」

 バガー兄弟の兄は突き出た下唇をモソモソと動かし尋ねる。

「このまま帰るわけにもいかないし、仲のいい旅団員に助けを求めてから樹族国領内で待機するです。貴方達はその間の護衛を頼みます」

 テトは御者に引き返すよう言うと、使い魔のコウモリを飛ばした。

「では契約延長はしないのだな?テト」

 鋭い顔つきの兄と違って柔和そうに見える弟は感情のない声で喋るので、ギャップで不気味だと悪魔は思う。

「そうですよ!仲間が来たらあんた達なんて要らないですから!」

「了解した」

「はぁ・・・。浮かれて焚火の周りで太鼓を叩きながら踊ってた自分が恥ずかしいです」

 昨日の夜に焚火の周りで一人踊っていた自分を思い出してテトは下唇を噛んで顔を赤らめた。

 ヒーハー!と調子に乗って叫び、無感情な兄弟の前でオラオラと挑発するように踊って見せたり、挙句の果てには酒に酔って自分語りを始めたり。

「あれは間抜けだったな、弟者」

「ああ、間抜けだった。誰の興味も引かないチンドン屋のようだったよ、兄者」

「うるさいです!」



 オーガの酒場はいつも通り混雑している。巨人が十人寝転んでも平気なほど広いので混雑していてもスペースはあり問題はないが。

(さてさて、次は日照りの続く地方の農村でどうやって水を確保するかだ・・・)

 夏が始まった途端、ミト湖から離れた地方で深刻な水不足が続いている。ざっと調査したところ、住民は山の木を燃料に使い、植林をする事を知らないので水源が枯れてしまっているのだ。木が無いと山は水を貯える事が出来ない。

「取りあえず、水を配給して植林の大切さを住民に教えて山に緑を復活させるか・・・。いずれ水路も作らなくてはな・・・」

 カウンターの端でマサヨシとオンブルとイチャイチャしている。

「ふむ、ここまでフェロモンが匂ってきそうだな、あの二人は」

 ヒジリの独り言をウメボシが拾う。

「一日三回はしてますよ、あの二人」

「やめたまえ、ウメボシ。他人のプライバシーを覗くのは」

「ウメボシだってそんな事はしたくありませんが、耳が良いウメボシは二人の行為中の声が聞こえてしまうのです!マスターだって聞こえているでしょう」

「私は他人のプライバシーな物音は意識から外すようにしているがね」

 自分の言葉にヒジリはタスネの顔が浮かんだ。枕に顔を埋めて足をジタバタさせながらホッフに会いたいと言っているのをよく聞いているからだ。

「ウメボシは二十一世紀の女性の人格がインプットされてますから、そういう事ができません!あー!ウメボシはムラムラしますぅ!」

 ウメボシはヒジリの頬にスリスリした。カウンターで皿を拭いているヘカティニスの目が怖い。タヌキ顔の丸い目が半眼になっている。怖いがこれはこれで可愛いなとヒジリは思う。

「私もムラムラしますぅ!」

 ボンと音がして煙が立ち上るとウメボシの声真似をするウェイロニーが現れた。

「今日は何だね、ウェイロニー」

「ヴャーンズ様が貸しを返してほしいと」

「つまり何かの依頼かね?」

「はい。実は帝国鉄傀儡部隊の隊長が行方不明なんです」

「なに?ムロが?ビコノカミはどうしたね?」

「一緒に見た事もない魔法生物に転移魔法で飛ばされたそうです。彼らを飛ばした後、その魔法生物は『モンゲル!』と叫んで消えてしまったのだとか。なので私はその魔法生物をモンゲルと名付けました」

「そで、おでを樹族国へと飛ばした奴と同じだど。そいつもモンゲルって叫んでた。タヌキみたいな奴だろう?」

「ええ、ムロの母親曰くタヌキの顔に短い手足が生えた不気味な生き物だったと言っていました」

「そういえばヘカは一度樹族国に飛ばされたんだったな。飛ばされた街道で当時は冒険者だったエリムスを叩きのめした」

「そんな事もあっだな」

 ヘカティニスにとっては退屈な戦いだったのであまり記憶にない。

 ヒジリも本来この記憶はなかったはずだが、魔法の箱庭に修正された世界の記憶が自分の中に入り込み、現実世界の古い記憶はどんどんと抜けていっている。だが、これを知るのは運命の神ヤンスだけである。

「で、ヴャーンズ皇帝は私にムロを探してほしいと。簡単な事だな。これで借りを返せるならお安い御用だ」

「はい、お願いします。ムロはヴャーンズ様の数少ない親戚の一人ですし、帝国の鉄傀儡の軍事機密が他国に漏れるのを恐れていますから」

 ヒジリはカプリコンにムロを探させる。ウメボシの付着させた追跡ナノマシンを追えば直ぐに居場所が解るだろう。

 五秒ほどして紳士的な声が頭骨に響いた。

「ヒジリ様、ムロ様の居場所が解りました。樹族国の南部にあるノームの施設、ロケート団の砦です。しかし急いだほうがいいかもしれません。何者かと交戦中だと思われます」

 ヒジリは立ち上がると首を回して体をほぐした。

「彼に何かあるとロロム殿が悲しむな。では転送を頼む、カプリコン」

「畏まりました」
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