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言葉とは、カネのようなものである。
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言葉とは、カネのようなものである。
意味が分かればだれでも使うことができる。
「もの」(実物に限らない)のやり取りをカネで行うように、私たちは心のやり取りを言葉で行う。
自らの心を削いで言葉にし、それを使って相手の心を買う。買った心は自らの空いた部分に埋め込み、熟成、風化、または腐敗させる。
やがて他人から買った心は自らの心となる。それはもはや元の人のものではない。移植された臓器が新たな宿主に馴染んでいくように、取り込んだものが自らの血肉に変わっていくように、手に入れた心は自分の心とまじりあい、自分の色に変わっていく。
カネがそうであるように、言葉は無価値である。言葉自体には何の意味も重みもない。単なる空気の振動であり、無限に生み出すことができる。
しかしそれが言葉とわかる者が聞けば、その者には言葉に価値を見ることができる。逆に、言葉を持たぬものに話しかけても猫に小判である。
愛がカネで買えないように、言葉でも愛を買うことはできない。
例えば男が女にプロポーズをするとする。
二人は付き合って数年。二人とも、最近結婚を意識しだした。
そしてお互いに、互いが結婚の意思があることはわかっている。こういう状況だとしよう。
そんな時にプロポーズをする。ほとんどの場合は成功するだろう。一方が重大な勘違いをしていない限りは、ということに注意せねばならないが。
とにかく、ここで重要なのは、二人の結婚が決まったのはプロポーズによるものではない、ということである。
プロポーズが成功したのは、二人がこれまでに相当な時間をかけて心のやり取りを行ってきたからである。
プロポーズはいわば契約書に捺される印鑑である。会社同士の契約と何ら変わりはない。
言葉は心の代替品に過ぎない。独りよがりの告白をする者は、その気がない人に商品を売りつけようとするセールスマンと同じである。当然、受け入れられることはない。
以上のように、言葉は心に成り代わることはできない。
言葉ですべてを伝えることは不可能だ。カネは「もの」と全くの等価ではない。カネは「もの」の価値がどれくらいであるかを示す指標にすぎない。
心をつなげることのできる者たちは、やり取りすべてを言葉に任せるわけではない。彼らは直接的な対価を払おうとする者たちではなく、相手にふさわしい価値の「心」を持つことができる者たちなのだ。
そしてその心は言葉だけでなく、表情や態度など、その人の表面にも表れる。それらを感じ取り、人は想いを受け取るのだ。
真の心のやり取りとは、言葉に頼らぬ心と心の物々交換なのである。
意味が分かればだれでも使うことができる。
「もの」(実物に限らない)のやり取りをカネで行うように、私たちは心のやり取りを言葉で行う。
自らの心を削いで言葉にし、それを使って相手の心を買う。買った心は自らの空いた部分に埋め込み、熟成、風化、または腐敗させる。
やがて他人から買った心は自らの心となる。それはもはや元の人のものではない。移植された臓器が新たな宿主に馴染んでいくように、取り込んだものが自らの血肉に変わっていくように、手に入れた心は自分の心とまじりあい、自分の色に変わっていく。
カネがそうであるように、言葉は無価値である。言葉自体には何の意味も重みもない。単なる空気の振動であり、無限に生み出すことができる。
しかしそれが言葉とわかる者が聞けば、その者には言葉に価値を見ることができる。逆に、言葉を持たぬものに話しかけても猫に小判である。
愛がカネで買えないように、言葉でも愛を買うことはできない。
例えば男が女にプロポーズをするとする。
二人は付き合って数年。二人とも、最近結婚を意識しだした。
そしてお互いに、互いが結婚の意思があることはわかっている。こういう状況だとしよう。
そんな時にプロポーズをする。ほとんどの場合は成功するだろう。一方が重大な勘違いをしていない限りは、ということに注意せねばならないが。
とにかく、ここで重要なのは、二人の結婚が決まったのはプロポーズによるものではない、ということである。
プロポーズが成功したのは、二人がこれまでに相当な時間をかけて心のやり取りを行ってきたからである。
プロポーズはいわば契約書に捺される印鑑である。会社同士の契約と何ら変わりはない。
言葉は心の代替品に過ぎない。独りよがりの告白をする者は、その気がない人に商品を売りつけようとするセールスマンと同じである。当然、受け入れられることはない。
以上のように、言葉は心に成り代わることはできない。
言葉ですべてを伝えることは不可能だ。カネは「もの」と全くの等価ではない。カネは「もの」の価値がどれくらいであるかを示す指標にすぎない。
心をつなげることのできる者たちは、やり取りすべてを言葉に任せるわけではない。彼らは直接的な対価を払おうとする者たちではなく、相手にふさわしい価値の「心」を持つことができる者たちなのだ。
そしてその心は言葉だけでなく、表情や態度など、その人の表面にも表れる。それらを感じ取り、人は想いを受け取るのだ。
真の心のやり取りとは、言葉に頼らぬ心と心の物々交換なのである。
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