1,026 / 1,198
第十三章 黒髪少女の軌跡編
1013話 感覚
しおりを挟む急所を狙い、確実に貫いた一撃。太い氷のトゲは、まじゅうのうなじから喉にかけて貫通し、突き刺した。
まじゅうの身体はまもの以上に硬いと言っていたけど……あんな、あっさりと……
それだけ、ししょーのまりょくの質が高いということなのかも、しれない。
「ル、ゴ……!」
「……」
大きな口を開け、まじゅうは苦悶の声を漏らす。そして……赤く光っていた目は、その輝きを失っていく。
それは、まじゅうの命が尽きたということだろうか? そう考える暇もなかった。
……まじゅうの身体が、黒いきりみたいになっていったから。黒いもや……あるいは、砂が風にさらわれていくような。
その現象には、見覚えがある。ついさっきのことだ。
まものを倒し……そのまものが絶命した時のこと。
「死んだら……死体も、残らない……」
まものもまじゅうも、死んだら死体は残らずにその場から消えてしまう……と、ししょーは言っていた。
この現象はつまり、こういうことだ。
死体が残らないから、まものやまじゅうの生態に謎は多い。
でも死んだら消えてしまう……ということは、まものやまじゅうが死んだふりをしている可能性もない、ってことだよね。
ししょーは、まじゅうを倒したんだ……!
「ふぅ……さて。そろそろ出てきたらどうだい、エラン?」
「!」
やっぱりししょーはすごい……そんなことを思っていたけど、地面に着地したししょーがため息をつき、言葉を漏らした。
そして首を動かして……私が隠れている場所を、見ていたのだ。
その声は、顔は、完全に私に気づいていた。
「……えへへ」
これは隠れてごまかすのは無理だな、と思った私は、身体を小さくして草陰から出た。
背筋を曲げて、頭をかきながらなるべく笑顔を浮かべて。
「まったく……家に戻っているよう言ったろう」
「き、気づいてたんだ?」
「当然だ」
いったいいつから……って、最初からかな。
でも、すでにまじゅうと対峙していたから私に構う余裕がなかった……ってところか。
ししょーの言いつけを守らなかったのは、悪かったと思ってるけど……
「ご、ごめんなさい。でも、ししょーすごかった。あんな一方的にまじゅうを倒せるなら、私を無理に遠ざける必要もなかったんじゃない?」
「……魔獣はエランに気がついていなかったからね。もしも最初からエランが隣にいたら、魔獣は執拗にエランを狙っただろう」
……まじゅうは、私には気づいてなかった。それはししょーを前にしていたからだろう。
もし最初から私がししょーの隣にいたら。そう考えたら、確かに……ししょーの心配もわかる気がする。
そう思うと、私が遅れて来たのは……ほんと、ぎりぎりだったのかもしれない。反省。
「……まあ、精霊も着いてきてくれたんだ。エランに危害が加わることはないと、わかってはいたけどね」
そう言ってししょーは、まるでせいれいさんにお礼を言うかのように笑いかけた。
せいれいさんがいてくれたから、私がここにいても心配することはなく……ってことか。
そうだね……せいれいさんが、私に危害が加わらないように結界を張ってくれたり。おかげで私は無事だ。
「ありがとうね、せいれいさん!」
改めて、せいれいさんにお礼を言う。私のことを守ってくれて、嬉しい。なんだか、私もせいれいさんになにかお返ししたいな。
とはいえ……私がせいれいさんにできることって……? 料理……いや、せいれいさんってなにか食べるのか?
うんうんと考えていると、ししょーに頭に手を置かれる。
「! ししょー」
「魔獣は倒した。もうこの森は安全だ……戻ろうか」
「……うん」
私はこくりとうなずいて、ししょーと手を繋ぐ。
あとに残っているものは……なにもない。まじゅうの死体も、まじゅうを仕留めたししょーのまほうも。どちらも同じように、消えてしまった。
それにしても……どうして、森にあんなまじゅうが現れたんだろう?
「ねえししょー、どうしてまじゅうが現れたんだろう?」
「……わからない。魔獣は魔物が変化した姿だ……だから、まず魔物の気配があるはず。それも、もう魔獣になってしまうような魔物は、それだけ魔力の気配も濃いはずなんだが……」
うむ……と考えるように、ししょーは顎を触る。
そうだよなぁ。まものと対峙したときのあの感覚。あの感覚が他にもあれば、気づけると思うし。
それがまじゅう一歩手前だったというのなら、ししょーなら気づかないはずがないだろうしな。
いきなり、まじゅうが現れた? あんなの、まりょくを感じないなんてありえないだろうし。
「うーん、わかんないや」
「はは、そうだね。考えたってわからないし、それはまたにしよう」
……ししょーの言う通りだ。考えてもわからないことは、考えたってわからない。当たり前の事だけど、割り切るのは大事だ。
「そうだ、ししょー。まじゅうの攻撃が当たらなかったり、まじゅうが動かなくなったり……あれは、なんだったの?」
「ん? あれは言葉に魔力を乗せて……いや、今のエランになにもかも教えるのは、詰め込みすぎて逆効果かな。
まあ、いずれ教えてあげるよ」
「えー」
いじわる、とあかうわけではないんだろうけど、結局あの力のことは教えてもらえず。
ししょーと手をつないだまま、家に戻ったのだった。
11
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク
両親は村を守る為に死んでしまった
一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る
シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい
すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。
神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。
そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する
もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。
だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く
無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!
夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。
彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。
価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い!
これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる