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第十五章 最高の魔導士編
1160話 足手まとい
しおりを挟むそんな中、黒装束に動きが見える。
私たちを囲って微動だにしていなかったけど、腕を動かして……懐から、武器を取り出した。
それは、ギラリと光る短剣だった。それを、一人一人が同じように取り出している。
普段であれば、相手がどんな武器を取り出そうと必要以上に警戒する必要はない。近接の武器なら、遠距離の魔法で対応できるからだ。
でも……今は魔法を使えないんだ。
「……っ」
これまでだって、ダルマスの長剣や魔物といった鋭い武器を前にしてきた。
それを思えば、短剣なんて……リーチも短いし、危険度も少ないと思うのに。
どうしてこうも、手に汗握ってしまうのだろう。
「エランちゃん、下がってな」
「ヒーダさん……」
剣を構えたまま、ヒーダさんは私に下がるようにと言う。
それは、内容自体はあのちょびひげ騎士と似たものだけど、私を気遣ったものだとわかる優しい口調だった。
多分……というかほぼ確実に、魔力の使えない私を安全に守ろうとしてくれている。
ヒーダさんたちとは一緒にダンジョンに潜っているし、私の実力はよくわかってくれているはずだ。
でもそれは……魔力ありきの、私の実力だ。
魔力の使えない非力な状態では……身も蓋もない言い方をすれば、足手まといだ。
それに、それは私だけでなくルリーちゃんやフィルちゃんも。特にフィルちゃんは、その魔力には目を見張るものがあるけど、魔力がなければ小さな子供だ。
「ここは俺たちに任せて、エランちゃんは彼女たちやヨークリア様を守ってくれ」
「……わかった」
まったく、言い方がうまいなぁ。
こんな私でも、ルリーちゃんたちを守ることはできる……いや、そういう言い方をして戦線を離脱させるんだ。
ルリーちゃんとフィルちゃんは、そっと馬車へと移動している。だから私は、ヨークリアさんへと駆け寄る。
「! おいお前、なにをしている!」
「なにって……あんたが下がってって言ったんでしょ。だからヨークリアさんも連れて……」
「ならさっさとしろ! それと、気安くヨークリア様に触れるな!」
……このくそちょびひげめ。一発ぶん殴ってやろうか。
……っと、それどころじゃないか。
「こっち!」
「わっ」
「おい貴様……っ、く!」
咄嗟にヨークリアさんの手首を掴み、引っ張る。
それに文句を言いたげなちょびひげ騎士だけど、飛びかかってくる黒装束の攻撃を無視はできない。
振るわれる短剣に対し、長剣を持って防いでいく。それは、彼だけじゃない。
「こいつら……!」
「うぉおお!」
そこかしこで、金属音が鳴り響く。
ガルデさんたちも、それぞれ黒装束とぶつかり合っている。
ガルデさんたちは魔導は元々使えない。だからこの状態でも、わりと冷静に対処することができる。
あの騎士たちも、おそらく同じだろう。中には魔導を使える人がいるかもしれないけど、不測の事態に備えて剣を振るってきた。
「ママー!」
「よしよし、怖かったね」
場所の近くまで戻ると、フィルちゃんが泣きながら駆け寄ってくる。
もふもふが消えてしまったことがよほど悲しかったらしい。魔力を使えないせいで、頭の中で使い魔と話すこともできないもんな。
さぞ不安なことだろう……
「ま、ママって……え、エラン……?」
「だぁー、違くて!」
なに考えてるかわからないヨークリアさんにさえ、初めてフィルちゃんと私の関係を見た時にほとんどの人が驚いてしまう反応されちゃったよ!
私本当のママじゃないから!
と、弁明したいところだけど……今は、それどころではない。
「あいつら、強い」
謎の黒装束は、一人一人が強い。
ガルデさんたちや護衛の騎士合わせて十人……ちょうど黒装束と一対一で戦える形だ。
一対一なら純粋に力が強いほうが勝つ……それを体現するように、黒装束は鍛えられた冒険者や騎士を徐々に押していっている。
大きい体格をしているわけでもない。魔法を使ってるわけでもない……って、魔力は感じられないんだけど。
そんな状態で、一対一なら確実に黒装束が有利だ。
「ガルデさんたちはBランクの冒険者だし、あのおっさんたちだって護衛を任されるくらいだから強い……んだよね?」
「あぁ、もちろん。実力は保証するよ」
そりゃ、貴族を護衛するんだもん。生半可な実力じゃ足りない。
にも関わらず、あいつらは……護衛騎士と互角にやり合っている。
……いや。
「ぐぁああ!」
「!」
拮抗していたうちの一人が、黒装束に弾き飛ばされる。
そのまま追撃……をするのではなく、飛ぶようにしてこっちに迫ってくるのだ。
やっぱり、狙いはヨークリアさんか……!
「ヨークリア様!」
「エランちゃん!」
ちょびひげ騎士とガルデさんが、それぞれ叫ぶ。その先の未来を予見して、彼らはなにを思っているのだろう。
ギラリと鋭く光る短剣。私はそれを睨みつけ、咄嗟に足が動いていた。
迫りくる脅威に、ヨークリアさんたちを背にかばうようにして……私は……
「おりゃあああ!」
「!?」
飛び上がり……黒装束の顔面へと膝蹴りをお見舞いする。
「……!!?」
それを食らった本人は、それはそれは驚いた様子だった。
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