史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十五章 最高の魔導士編

1172話 ただぎゅーってするだけ

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 ラッヘにとって、記憶を失くす以前の自分を取り戻すかどうかと言うのは、非常に重大な問題だ。
 他学年試合ではその一端を覗かせる形になったことも、悩みのタネだ。正直、記憶を失う前と後じゃラッヘの性格は全然違う。

 それこそ、記憶を失う前は私を殺そうとしていたくらいだ。一応は魔大陸で仲良く……とまではいかないけど、少しは話し合える関係にはなったけど。
 でも、いざこれから仲良くなろうって時に、ラッヘは記憶を失った。

 そういう意味じゃ、私は本当の意味でラッヘと仲良くなれていないのではないか。

「これまでの自分がわからない、空っぽで……怖い。
 でも、以前の自分を思い出すのも……怖い」

「ラッヘ……」

「それに……もし以前の記憶を取り戻したら、"今の"私はどうなるの? ちゃんと残ったままなの? それとも……」

 ……記憶を取り戻すか。それは、記憶を取り戻すことで嫌なことまで思い出してしまうから……という問題だけではない。
 記憶喪失中に培った性格、記憶……それらはいったい、どうなってしまうのか。

 今のラッヘは、おとなしく優しい子だ。一方、以前のラッヘは荒々しかった。
 もしも記憶を取り戻し、二つの性格や記憶が混ざり合うならいいだろう。

 でも……そうじゃなかったら?

「消えちゃうのは……イヤだよ」

 ラッヘにとって、記憶を失って……この学園で過ごした時間は、長くない。むしろ、以前のラッヘから見ればすぐに過ぎ去ってしまうような時間だろう。
 それが、エルフだ。

 でも、その中でも……大切な記憶ができた。友達ができた。
 それらが、全部なくなってしまうかもしれない……改めて、その可能性を突き付けられた。

「ラッヘ……」

「ラッヘさん……」

 同じ状況ではある私だけど、正直そんなに深く考えたことはなかった。それは根底に、私はこのままでいいという思いがあったからだ。
 でも、これが私以外の誰かのことだと思うと……もっと真剣に考えておけばよかったと思う。

 もっとも、考えたところで答えの出る問題かはわからないけど。
 以前の記憶を取り戻して今の記憶が消えるのかなんて、経験した人じゃないとわからないのだから。

「ごめんね……せっかく、私の記憶を取り戻す手がかりを持ってきてくれたのに」

「! ラッヘが謝ることじゃないよ。むしろ私が、考え足らずだった」

 ラッヘに謝らせてしまった。これも、軽く考えていた結果だ。
 単純に、ラッヘが記憶を取り戻したいかどうか……うわべしか見てなかった。ラッヘの問題は、もっと深い所にあるのに。

 こんなことを今更思っても仕方ないけど、アスィーに聞いておけば……いや、いくらなんでもわからないか。

「ごめん……すぐに答え、出せそうにない。いっぱい考える時間あったのに……ごめん」

「だから、ラッヘが謝る必要は……」

「正直、言うとね。私のお母さんって人には……興味は、あるんだ。自分が何者かもわからない。こんな私を生んでくれたのは、どんな人なんだろうって」

 ……それは、ラッヘの本心だろう。母親という人物に、会いたい気持ちがないわけじゃない。
 でも、会ってしまえば……そんな二つの思いに、挟まれている。

 なにか、いい方法はないのか……

「ねーねー、ラッヘおねーちゃんはおかーさんに会いたいの?」

 すると、今までもふもふと戯れていたフィルちゃんが急に会話に入ってきた。
 難しい話だから、聞いていないと思った。でも、これくらいならわかるのか。

「え? う、うん……会いたいと言うか、興味があると言うか……」

「だったら、会いに行けばいいのに。そんで、ぎゅーってするの。こうやって、ぎゅー」

 フィルちゃんが、私の腰に抱き着いてくる。
 会いたければ会えばいい……それはそうなんだけど、今しているのはそういう話ではなくて……

「でも、会ったら……私は、私じゃなくなっちゃうかもしれない……」

「? そうなの? 会って、ただぎゅーってするだけじゃダメなの?」

 こてんと首を傾げるフィルちゃんは、やはりなにもわかっていない様子だ。
 これは、単純に会いに行けばいいという問題じゃない。ラッヘの記憶が、母親に会えば戻るかもっていう……

 ……あれ?

「……母親に会うのと、記憶を戻す手がかりは別物……」

 ふと、気付いたことがあった。というか、ごっちゃにしていることがあった。

 ラッヘの記憶は、ラッヘの母親に会えば戻るかもしれない。それは、試してみなくちゃわからないけど……
 ラッヘの母親に会ったからって、必ず記憶を戻さなきゃいけないわけじゃない。

「母親に会うことと、記憶を戻すことが一緒になってた……」

 二つの問題は、それぞれ別のものだ。それがこんがらがって、ややこしくなってしまっていた。

「ええと……つまり……」

「ラッヘ」

「! は、はい?」

「お母さんに、会ってみたい?」

「……」

 ラッヘの記憶を戻すかどうか。戻す決断をしたらもちろんのことだけど、戻さない決断をしたからって母親に会いに行っちゃいけないわけじゃない。
 むしろ、ラッヘの気持ちは……

 ラッヘは、きょとんとした様子でまばたきを繰り返していたけど……

「……会ってみたい、です」

 はっきりと、こう言った。

 記憶の件については、まだ正直どうしたらいいのか、どうするのが正解なのかわからない。正解があるのかもわからない。
 でも、ラッヘがこう決めた……もしかしたら、母親に会うことで、新しい道が開けるかもしれない。
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