161 / 1,198
第四章 魔動乱編
157話 ルリーの過去④ 【対極】
しおりを挟むそこに倒れているのは、おそらくエルフ……
自分たちダークエルフ以外の種族を初めて目にしたルリー、リーサ、ネルの三人は、その光景にしばし固まっていた。
「……エルフ、だよね」
一番に我に返ったネルが、つぶやく。先ほどのリーサの驚きを、確認するかのような言葉。
それを受け、リーサは小さく肩を震わせて……動く。倒れている人物へと、手を伸ばした。
そして、今度こそその体に触れ、ゆっくりと体を反転させる。うつ伏せだった状態から仰向けになったことで、その顔が露わとなった。
その顔は、思わず惚れ惚れしてしまうほどに、美しかった。
「うわ、すごいきれいな人……女の人かな」
「え、男の人じゃない?」
美しい顔にため息を漏らす彼女らは、それぞれ別意見だ。
美しい顔は、言ってしまえば中性的。男とも女とも取れる、顔立ちをしていた。その上、見た感じその体つきもまた、男とも女とも言い難いものだった。
凹凸のない、スレンダーな体つき。服装はといえば、上下が一緒になっているタイプで、下はスカートのよう。さすがに捲って性別を確かめようとまでは思わないが。
あまりに、防御力の面が心配になる服装だ。まあ自分たちが言えた義理ではないが。
……ともあれ、だ。
「この人がエルフで、お、男の人でも、女の人でも……」
「ん、放置はできないね」
エルフの側に屈んで様子を伺っているリーサは、一番離れたところから見ているルリーの言葉に賛成する。
彼あるいは彼女が何者であれ、倒れている人を放置しておくことはできない。
見た感じ、ルランやリーサよりも年上だ。ラティーアくらいだろうか。まあ、エルフの見た目と中身年齢などあまりあてにはならないが。
とりあえず、誰かを呼んでこなければいけないだろう。自分たちだけで判断することはできない。
彼もしくは彼女が目を覚ましたときのために、リーサはここに残ることにした。
ルリーとネルは、今来た道を戻っていった。
「ん、どうしたルリー」
「お、お兄ちゃん!」
真っ先に向かったのは、ルランたちの待つ場所だ。リーサにより男子女子と別れたが、近くに居た彼らにまずは助けを求める。
ここまで全速力で来たためか、息を乱している。早く要件を伝えたいのに、言葉が出てこない。
「ど、どうしたんだ。とりあえず、落ち着いて……」
「あっちに、エルフが倒れてたの」
ルリーを心配するルランだが、横から言葉を挟むのはネルだ。
彼女も息を乱してはいるが、ルリーよりは軽度のようだ。
ネルの言葉に、ルランたちは言葉を失う。それもそうだろう……言っている意味が、わからないのだから。
「エル……フ?」
「そう」
首を傾げるアードに、ネルは再度答える。なんとも自信満々な姿だ。
後ろでは、ルリーもこくこくとうなずいている。三人は顔をあわせるが……
「リーサは?」
「そのエルフを見てる」
「……なら、ルリー、案内してくれ。
ネルは、アードとマイソンと、大人を呼んできてくれ」
「あーい」
ルランの指示に、それぞれが別れる。
ルランは道のわかるルリーと共にリーサの下へ。同じく道のわかるネルは、アード、マイソンと共に大人を呼びに。
先導するルリーに続けて走っていたルランだが、視界の先にリーサの姿を見つけ、駆け寄る。
彼女の側には、仰向けに寝かせられた何者かがいる。若干の警戒をするが、リーサが無事なことを考えると杞憂だろうか。
眠っているように見えるその人物は、見たことのない金色の髪をしていた。さらに、色白の肌……尖った耳さえなければ、きっと自分たちと含めて総称される『エルフ族』だとは思わなかっただろう。
ルランは、リーサの側に屈む。
「ネルたちは?」
「ネルたちは、大人を呼びに行ってる
俺はルリーに案内を任せて、先に来た」
「そっか」
見たことのない種族……そもそも、この森に、自分たちダークエルフ以外が足を踏み入れていること自体が初めてのことだ。
モンスターならまだしも、他の種族だなんて。
その人物は、見た感じ外傷は見られない。が、ただ眠っているだけというのも考えにくい。なにかしら病に倒れている可能性だってある。
エルフがここにいる理由がわからないことには、ルランたちにこの先行動の仕様がない。やはり、大人が来るまで待つべきだろう。
そう、判断をつけたときだ……
「ん……」
「!」
ふと、小さな声が漏れた。それはリーサのものでも、ルリーのものでも、そしてルランのものでもない。
三人の視線は、自然と同時に、同じ方向へと向いた。
それと同時に、視線を向けられたエルフは……そのまぶたを動かし、ゆっくりと目を開いた。
「ぅ……」
漏れる声は、果たして男のものかそれとも女のものか。しかしこの際、それはどうでもいい。
目覚めたエルフに、リーサは心配そうな表情で顔を覗き込み……
「あの、大丈夫……ですか?」
そう、声をかけた。
自分にかけられた声に気づいたのだろう、エルフはパチパチと何度かまばたきをして……視線を、動かした。
開かれた目は、ルリーたちと同じ緑色をしていた。その特徴も、やはりエルフという確証を得るに足るものだ。
その瞳を見て、きれいだな、とルリーは感じた。
エルフは、目を開いて、その瞳が自分を覗き込む、リーサの姿を映し出す。
……その、直後だ。
「ひっ……」
エルフの口から、まるで喉の奥から絞り出したかのような、悲鳴のようなものが聞こえた。
それは、いったいなんなのか。理解するよりも先に、エルフが口を開いた。
「ぎ、銀色の髪……か、褐色の肌……尖った、耳……
だ、ダーク……エルフ……!?」
「……」
口にしたその特徴は、間違いなくダークエルフのものだ。どうやらこのエルフは、ダークエルフという存在は知っているようだ。
だが……問題は、そこではない。エルフの、態度だ。
目は見開かれ、視線をさ迷わせ……なにより、唇が、体が、声が震えていた。
その態度には、間違いなく……恐怖が、滲んでいた。
11
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ
蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。
とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。
どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。
など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。
そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか?
毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク
両親は村を守る為に死んでしまった
一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る
シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい
すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。
神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。
そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!
夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。
彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。
価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い!
これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる