180 / 1,198
第四章 魔動乱編
176話 ルリーの過去⑭ 【記憶】
しおりを挟む………………
………………
………………
「ルリー、ルリー!
……くそ!」
抱えたルリーの、今まで聞いたこともない叫び声……それがしばらく続いたあと、唐突にルリーの声はやみ、動かなくなってしまった。
どれだけ呼びかけても、反応がない……それも、当然と言える。
目の前に立ちふさがる人間……いや敵、ジェラ。彼女が手に持ち、地面に放り投げたのは、ダークエルフの……ラティーアの、首だった。
首から下は、ない。それは、目を背けたくなる光景だ。
ラティーア……村の若者の中のリーダー的存在で、よくルランたち子供の相手をしてくれていた。遊んだり、モンスター討伐に付き添ってくれたり。
それに、ルランの妹ルリーが、彼に淡い恋心を抱いていたことも、知っている。いや、ルリーだけではない。
村のダークエルフの若い女性たち。それに、一年ほど前からここに住み始めた、エルフのリーフェル。
女性人気だけでなく、同性からも慕われ、若者のリーダーとしてだけではなく、村の中心人物と言っても過言ではない人物。
そんな、彼が……
「ったく、うるっさいガキだねぇ。そんなに、この男のことが大事だったのかい?」
ラティーアの命を奪ったであろうジェラが、ケラケラと笑っている。
こんな、簡単に命を奪っておいて……なにが、楽しいというのだろうか。
ルランは、あふれる怒りを抑えることができない。
……だが。
「……ルラン」
「わかってる……!」
相手は、どうあれラティーアでも敵わなかった相手だ。ルランたちが敵う道理がない。
それに、気を失ってしまった妹を庇いながら戦うというのは、現実的ではない。
悔しいが、ここはやはり逃げるしかない……のだが……
「んん?」
「……」
一見隙だらけ……に見えて、実は隙が見当たらない。それくらい、ルランやリーサにもわかった。もしくは、隙があったとしても二人では敵わない……そう、思わせる雰囲気があった。
身構える二人を見て、ジェラは笑った。
「なぁんだ、なにも考えずに飛び込んでくるのかと思ったが、そこまでバカじゃないか。
それとも、戦うことは諦めて逃げる隙を見つけてるのかい?」
「くっ……」
考えていたことを読まれ、ルランは歯を食いしばる。これでは、逃げようにも逃げられない。そんな隙も、見せてはくれないだろう。
だが、ここでにらみ合いを続けていても、状況は悪化していくだけ。となれば……
「リーサ、俺が……」
「ワタシが囮になるから、その間にルリーちゃんを連れて逃げて、ルラン」
「……はっ?」
自分が囮になり、なんとか逃げる隙を作る、その間に……そう考えていたルランだったが、その言葉をリーサに取られて唖然とする。冗談かと疑いたくなる。
対してリーサは、真剣な表情を浮かべたままだ。冗談などでは、ない。
しかし、そんなこと受け入れられるはずもない。
「バカ言え、俺が囮になる。お前は……」
「アンタはルリーちゃんの、たった一人のお兄ちゃんでしょ。
最後まで、守ってあげないとダメよ」
本当ならば、妹は自分の手で守りたい。だけど、それは難しい……だから、こうしてリーサに頼もうとしているのに。
リーサは、最初から聞く耳を持たない。
「アイツは、ワタシたち相手に油断してる。わかるでしょ、問答している時間はないの」
「……っ」
ジェラが、余裕を見せている今こそがチャンス……時間を逃せば、森の中にいるエレガもやって来るかもしれない。
一人だけなら、逃げられる。どちらかが囮になれば、その隙にルリーを抱えて。
しばしの葛藤のあと、ルランはうなずいた。
「すまん……」
「いいよ。となったら、魔法でなんとか……」
子供であるリーサに、まだ魔術は使えない。だから、魔法で気を散らすことしかできない。
それが通用しなくても、ルランたちが逃げられる隙さえ作れれば、充分だ。
覚悟を決めたリーサは、自身の体内に流れる魔力に集中する。
もう、この森はダメだ。森を壊さないように、手を抜く必要もない。
一気に、最大火力をぶつけて……
「ねー、まだおわらないのー?」
「……!」
直後に聞こえた、自分たちのものではない声……ジェラのものでもない。
その声の主は、ガサガサと草木を揺らし……姿を、現した。
その姿に、ルランもリーサも、目を見開いた。少なくとも、その人物は、今もっともこの場にいてほしくない特徴の人物だ。
「子供……?
だが、黒髪、黒目……」
「人間……!」
「んー?」
姿を見せたのは、小さな女の子だ。まぶたを擦り、ふぁ、とのんきにあくびなんかしている。
一見、無害に見える少女。だが、その耳は尖ってはいない。おまけに、黒い髪に黒い目を持っている。
この状況で、そんな人物が現れれば……二人の警戒心が上がるのは、必然だった。
ジェラと同じ特徴。現に……
「――――――……なんであんたまでここに。
あんたは、森から逃れたダークエルフを狩る役割だろうが」
「えー、待ってばかりでだってつまんないんだもん。誰も出てこないしさ」
ジェラは、少女と親し気に話している。それも、かなり物騒なことを。
その内容に、ルランもリーサも冷や汗を流す。もしも、リーサが囮となり、ルランがルリーを連れて逃げていたとしたら……外で待っていたあの少女に、見つかっていた。
人間の子供だ、ルランならば突破できるかもしれない……彼女の白い服が、真っ赤な血に染まっていなければ、そう楽観することもできただろう。
「いち、に……さんにん、かぁ。……じゅるり」
「おい、ダークエルフの子供は貴重なんだから、食うんじゃないよ」
「わかってるってぇ……でも、あは……
……オイシソウダナァ」
――――――
「……っ、頭痛い」
変な夢を見て、私は目を覚ました。
今日は、放課後にダルマスの稽古をして……帰ってきて、疲れたからいつもより早く寝て。
まだ、暗い……夜だ。夢で、起こされるなんて……前にも、似たようなことがあったな。
あれは確か、ルリーちゃんの過去が、夢に出てきた感じだったな……
「今のも……」
ルリーちゃんの話にはなかった。でも、ルリーちゃんの過去の……あの子が気を失った後の、先の光景のように思えた。
ルラン、リーサ、ジェラ……聞いた名前も、おんなじだ。シチュエーションも。
ただ、なんで……聞いてもいない、本人が見てもいない、ルリーちゃんも知らないものが夢に出てきたんだ?
それとも、今のは私の妄想?
「にしては、リアルだよなぁ」
頭が痛いのは、夢のせいだろうか。なんなんだ、この夢……それとも記憶か。なんで、ルリーちゃんも知らない人物が出てくるんだ。
最後、ジェラとは別の人間が出てきた。顔はよく見えなかったし、名前もそこだけわからなかった。
でも……私と同じ、黒髪黒目か。
それに、最後に笑ったあの子の、歯……牙だったよな。口の周りにも、血みたいなものが……
「っ、やめやめ、寝よ」
このまま考えこんだら、変になってしまう。私は、布団に潜り込む。
そのまま、私は目を閉じて、必死に寝ようと意気込んで……気づいたら、朝になっていた。
12
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!
夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。
彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。
価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い!
これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる