史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

幕間 悩み事はなんですか

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 ……エランさんのことをママと呼ぶ女の子、名前をフィルちゃんというらしい。
 
 その子と出会ったのは、昨日のこと。
 食堂で、エランさんたちと楽しくお話をしていたとき、その瞬間は訪れた。

 席を外したエランさんが連れてきたのが、白髪黒目の小さな女の子。
 どうしてこんなところにこんな子供が、と思ったけれど。その子を見てなんてかわいいらしい女の子なんだろう、とも思った。

 困った様子のエランさん、おそらくこの子はどこかから迷い込んだんだろう。
 警備のしっかりしているこの魔導学園に、子供が迷い込むなんて考えられないけど、実際にいるのだから仕方ない。


『えっと……お嬢ちゃん、お名前は? どこから来たのかな?』


 私は、その子をなるべく怖がらせないように努め、話しかけた。
 エランさんが困っているなら、助けたい。だから私は、人見知りではあるけど率先してその子に話しかけた。

 そして……


『フィルは、ママのこどもだよ!』


 ……その瞬間、私の頭の中は真っ白になった。

 それからのことは、正直よく覚えていない。
 ただ、後にクレアちゃんに話を聞いたところ、フィルちゃんはエランさんから離れなかったため、仕方なしにエランさんは午後の授業を休んだみたいだ。

 つまり、フィルちゃんはその日あれから、エランさんと部屋でずっと一緒だったということになる。
 なんてうらやましいのだろう。

 放課後になって、エランさんの部屋に行かないかという話になったけど、大勢で押しかけても迷惑だろうという話になり、同室のノマさんに任せることになった。
 それから、私は眠れぬ夜を過ごした……

 その、翌日。つまり今日。

「はぁあー……」

 私は教室でうなだれていた。机に突っ伏し、盛大にため息を漏らす。

「どしたっしょ、ルリー」

 と、私の前の席から私に声をかける子がいた。

「……タラさん」

 顔を上げると、前の席に座った子が反転して、私に話しかけていた。
 この子の名前は、タラ。私と同じ平民で、平民同士ってことで仲良くなった子だ。

 おどおどしている私に話しかけてきてくれて、とても優しい人だ。それと、いろいろと大雑把な部分もある。

「まーたお前はさん付けなんかしてからに。いいんだって、同い年で同じ平民同士、呼び捨てでさ……」

 ……同い年では、ないんだよな。言えないけど。私エルフ族だから。

「……あの……そんな、脚開いたら、見えちゃいますよ?」

「んん? あー、別にあっちのこと見てくるやつなんかいないっしょ」

 ……彼女はそう、大雑把すぎるのだ。
 前の席に座り、反転して私の方を向いている……椅子はそのままに。つまり、背もたれをかける部分に胸を押し付けている。

 なので、椅子の構造的に……その、脚を開かないと後ろを向いて座れないわけだ。
 スカートはそんなに長いわけではないので、脚を開いたことで健康的な肌色が見えてしまって、下手をしたらその奥まで見えてしまいそうだ。

 本人は、まるで気にしていないけど。いや、本人の自覚とは別に、タラさんはかわいいから他の男子もチラチラ見ているけどなぁ。
 癖っ毛のあるふわふわの茶髪は思わず触りたくなっちゃうし、半開きの目もなんかこう、ゾクゾクするものがある。

「敬語は、その、クセで」

「ふーん。ま、あっちはいいけどさ」

 そして、自分のことを『あっち』と言う。なので、たまに向こう側を指さして「あっちだよあっち」と言われると、自分のことを言っているのか向こう側のことを言っているのかわからなかったりする。
 エルフ族だけの間じゃわからなかったけど、いろんな人間がいるんだなぁ。

 ……このクラスで一番仲のいい子にも、私はダークエルフだということを隠している。それが、今はちょっと心苦しい。

「で、悩み事はどうせエラン・フィールドのことっしょ?」

「! な、なな、なんで!?」

「ルリーがそんな風に悩むなんて、彼女以外のことじゃありえないっしょ。
 口を開けば、エラン、エラン、エランさぁん、なあんたが」

「わぁー!」

 エランさんのことで悩んでいるのを当てられた。それは本当のことなんだけど、私そんなにエランさんの話をしていたかな?
 私ってそんなにわかりやすい?

 タラさんは、にしし、といたずらな笑みを浮かべていた。

「もー」

「で、なに悩んでたん。あっちに言ってみ?」

 悩んでいた内容……それは、フィルちゃんのこと。
 エランさんのことを、ママと呼んだあの子のことだ。

 本当にエランさんの子供でないことは、わかっている。年齢的にも合わない。エランさんがエルフなら、見た目と年齢は違うからまだしもだけど。
 それに、エランさんがそんな、子供を作るような、そんな相手が、いるなんて思いたくない!

「ん……」

 ……別にこの問題を、一人で抱え込んでいるわけではない。相談できる相手はいる。同室のナタリアさんがそうだ。
 でも、常に一緒なわけじゃない。現に、クラスは別だ。

 となると、他にも悩み事を分け合いたい人はほしいけど……あいにく、あの場にいた人で同じクラスの人はいない。
 かといって、エランさんをママと呼ぶ女の子、の話はおいそれとできないし。

「その……ちょっと、話しづらいというか。もう少しまとまったら、話します」

「ふーん、そっか」

 結局、うやむやにごまかすことしかできなかった。
 それを聞いても、タラさんは嫌な顔ひとつしない。私が言えるようになるまで、待ってくれる。

 タラさんは私に親身になって話しかけてくれるけど、私が言いたくないことを無理に聞き出そうとはしない。
 一線は超えない……私にとっては、ありがたいものだった。

「……ママかぁ」

 私は、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
 エランさんがママ……その響きに、ちょっと胸の中できゅんとくるものがあった。
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