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第六章 魔大陸編

406話 魔力の暴走

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「ルリーちゃん……!?」

「かっ、あぅ……うぅ!」

 私を睨みつける、ルリーちゃん。とっさに退かなければ、やられていた……
 左手で頭を押さえて、右手が黒く光っている。いや、魔力が纏っている。

 すごい力を感じる。髪がちょっと切れただけなのは、運が良かったと言えるかもしれない。

「まさか……魔力暴走か!」

 様子がおかしいルリーちゃんを見て、ラッヘが叫ぶ。
 魔力暴走……それって、もしかして……

「"魔死事件"と同じ……!?」

 魔力が暴走する現象。それを私は、知っている。
 だって、ベルザ王国を騒がせた事件。友達のノマちゃんが、死にかけた事件。

 人は生まれながら、体内に魔力が流れている。その魔力が、魔石の魔力を取り込んだことで体内で魔力が暴走し、やがて死に至る……それで死んでしまったのが、魔死者。
 ノマちゃん以外の被害者は、みんな死んでしまったという。

 それと、おんなじだっていうなら……

「このままじゃ、ルリーちゃんが死んじゃうってこと……!?」

「おい、てめえの考えてることは察しがつくが、そいつとは違うな」

 私が例の事件のことを思い出していると、ラッヘが首を振る。
 エルフの彼女だけど、あんな大騒ぎになった事件のことは知っている。それを私が思い出していることも。

 その上で、あの事件とは違うと話す。

「どういうこと!?」

「言葉は似てても、意味はまったく違うってことだ。
 あのダークエルフ、魔大陸の魔力にでもあてられて、おかしくなってやがる」

 似た言葉で違う意味……私が考えていたのは魔力が暴走して死んでしまうもので、ルリーちゃんの身に起こっているのは魔力が暴走して自我を失っているってことか。

「それ、大丈夫なの!? 元に戻るんだよね!」

「知るかよ。ただこのまま放置してたら……おっと」

 次の瞬間、魔力の塊が飛んでくる。
 複数の魔力弾は、私たちの足下に当たる。外した……いや、外れたのか?

 魔力を飛ばしてきたのは、やはりルリーちゃんだ。

「放置してたら、あいつに私らがぶっ潰されるってこった」

「……っ」

 思いもよらない、ルリーちゃんの異変。彼女を放っておくわけには、いかない。私がなんとか……
 さっき、私の魔力でルリーちゃんの苦しみを、和らげられたように……

 あぁでも、上ではクロガネが……!
 いくらクロガネでも、動けない状態にされたら、どうなっちゃうかわからないし……!

「行けよ」

「え?」

 上も下もと、視線を上げ下げしている私に、ラッヘは言う。

「そんな上も下も気にしてちゃ、どっちにも集中できねぇだろ。そのダークエルフは私に預けとけ」

「……ラッヘって、私のこと嫌いって言ってなかったっけ。ツンデレ?」

「誰がデレたんだ誰が。ここで二人で足踏みしてるより、二手にわかれたほうが効率的だってことだ」

 ラッヘの言うことは一理……というか、正しいしかない。
 私とラッヘで、二手にわかれたほうが効率的。そして、わかれるとなれば……

 私がクロガネのところへ。ラッヘがルリーちゃんを、となる。その理由は……

「あのダークエルフ一人だけなら、私でもなんとかなる。
 上の四人は、悔しいがてめえじゃないとどうにもできねえだろうからな」

 魔大陸の環境では、ラッヘは充分な力を出せない。
 それでも、エレガたち四人とルリーちゃん一人を相手にするの、どちらが勝率が高いかと言えば……後者だろう。

 それに……私は、クロガネと近くにいたほうが、魔力がさらに上昇する。
 魔法陣に戻そうにも、結界のせいで無理だ。やっぱり、あの四人を倒さないと。

「なら、ルリーちゃんのことは任せるけど……あんまり、無茶しちゃだめだよ!」

「はっ、ったりめぇだ」

 この場はラッヘに任せて、私は浮遊魔法で上へと飛ぶ。
 ルリーちゃんのことは、ひとまずラッヘに任せる。口は悪いけど、ラッヘは結構優しい……きっとルリーちゃんのことも、大丈夫だ。

 私は、クロガネを助けることに集中しろ!

「クロガネー!」

「!」

 クロガネは、結界の中で暴れていた。クロガネの力でも割れない結界なんて、すごい力だ。
 私も、外から力を加えれば……いや……

「戻ってきたぁ、お姉ちゃん♪」

「! ビジーちゃん!」

 クロガネを助けるために、まずはあの四人を、倒さなければ。
 クロガネと近づいたおかげで、私の体には魔力が満ちていく。これが、契約したモンスターとの証……!

 私の前に立ちはだかるのは、空中に立っているビジーちゃん。
 その姿に攻撃するのは、心苦しいけど……

「せぇい!」

 こいつらを倒さないと、クロガネを助けられない。クロガネを助けられなければラッヘの手助けにもいけない。ルリーちゃんを元に戻さないとここから動けない。
 エレガたちがここにいる以上、あの場でなんらかの動きがあったのは確かだ。

 みんな、無事でいて……!
 その思いを込めて、私は魔力弾をぶっ放す。今の私の魔力なら、その威力は絶大。

 ……そのはずなのに。

「アーン!」

 ビジーちゃんは大きく口を開け……思い切り、閉じる。
 その瞬間、ビジーちゃんに迫っていた魔力弾が……弾けて、消えた。

 これって……魔力を、喰われた……!?
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