513 / 1,141
第八章 王国帰還編
501話 同じ異世界転生者だけど
しおりを挟むさあて。地下牢から脱出して、地下から地上に出た私たちは、目的地を定めて進む。
ここじゃ、新しい国王とやらのせいで黒髪黒目の人間は問答無用で捕まえられる。
だから、誰にも見つからないように移動しないといけないわけだけど……
「……別に、変わった様子はないよなぁ」
こそこそと移動している最中、町中を観察しているわけだけど……正直、おかしなことが起こってるって印象は受けないんだよね。
なにも言われなかったら、なにも起きてないと信じてしまいそう。
そもそも、ベルザ王国に入るときに門番のおじさんと話をしたけど、おじさんから別に注意されなかったもんなぁ。
やっぱり、黒髪黒目の人間の件は一部の兵士にしか知られていないんだろう。
……だからって、町中を堂々と歩いても問題ないだろって結論にはならないけど。
それに、黒目の人間に対してみんながどう思っているかは、わからないんだから。
もしかしたら、魔導大会の件で……悪い印象を持たれているかも、しれない。
「まさかまた、こんなことをするはめになるとは……」
「こんなことー?」
「な、なんでもないです」
建物の影に隠れ、物陰を移動しながら……ぼそっとルリーちゃんが、ささやいた。
それに対して首を傾げるラッヘだけど……ルリーちゃんの気持ちは、なんとなくわかる。
この国に来たばかりのルリーちゃんも、今と同じように隠れながら移動していたんだろう。
認識阻害の魔導具を身に付けていても、気になってしまうものだ。
「なんだか、ニンジャってものみたイ! ニンニン!」
「お、リーメイってば忍者なんて知ってんの? この世界にないものでしょ」
「ずっと前、たまたま人間が話してるの聞いたノ」
「へー。やっぱ転生者って昔もいたんだ」
リーメイとヨルは、よくわからない話をしている。
まあ、仲良くなっているのならなによりだ。
普通に歩いて移動すればそこまで時間はかからないけど、さすがに身を隠しながらというのは時間がかかってしまう。
「なあエラン、その……ペチュペチュにはまだ着かないのか?」
「ペチュニアね」
「なんかこう……ワープとか使えないのか? そうそう、エランたちが魔大陸まで転送されたって言う、あれと同じような魔法とか」
「ないよそんなの」
転送魔法と言う存在は、あるにはあるらしいけど……それは私どころか、師匠も使えないものだ。
もしそんなのが使えれば、いろいろと楽にはなったんだろうけどね。
ま、私にはそんなものはいらないけどね。もしそんな魔法が使えて、魔大陸からあっという間に帰って来てたら……会えなかった人も、いるわけだし。
「あ、見えたよ」
いつもより時間はかかったけど、『ペチュニア』が見えた。
もはや懐かしい気さえするな……あの屋根に、壁に、風景も。
クレアちゃんの実家で、私がこの国に来てからお世話になっていた場所だ。
「わぁ……」
ルリーちゃんも、目を輝かせて建物を見ている。
そうだよな。懐かしいよな。ルリーちゃんだって、そこに泊まってお世話になったんだから。
ただ、ルリーちゃんも不安だろう。あんなに仲良くしていたクレアちゃんが、ルリーちゃんの正体を知った途端あの態度なのだ。
タリアさんたちだって、どう思うかはわからない。
それは、感情の問題ではないのかもしれない。ダークエルフはどうやら、そういう呪いを受けて……
「あ、そうだ。ヨルに聞こうと思ってたことがあったんだ」
「? 今じゃないとダメか?」
「ホントは会ったらすぐ聞こうと思ってたんだけど」
大事なことだったはずなのに、あんまりいろんなことが起こったからすっかり忘れていた。
ヨルに聞こうと思っていたこと。それはダークエルフについてだ。
「ダークエルフは、人々から嫌われる呪い……っていうのが、カミによって本能に刻まれているらしいの。
で、こいつらが言うには……テンセイするときに、メガミがそんなことを言ってたって」
話した内容をできるだけ思い出し、私はエレガたちを指差した。
確かエレガたちは、こう言っていたよな。
その言っていることは、ほとんど意味がわからなかったけど……
「ヨルも私と会った時、テンセイとかメガミとか言ってたよね」
「お。俺と初めて会話した時のこと覚えてくれてるのか!」
「ちっ。それはいいから」
「舌打ち!?」
覚えていた……というか、忘れたくても忘れられないというか。
師匠と暮らしていた家を出て、こんな大きな国に来て人と会うのも物珍しかったのに……初対面の男の子にあんな迫られ方されたら、残念なことになかなか忘れられないよ。
ヨルは、自分の顎に手を当てた。
「うーん……そいつらも、異世界転生者っぽいんだよな。でも、俺はそんなことは聞いてないなー。
俺とそいつらが会った女神が一緒の存在かも、わからないし」
「ふぅん……」
同じ境遇のヨルなら、なにかわかると思ったんだけどな……
残念ながら、そうもいかなかったみたいだ。
「あと俺、自分が異世界転生することになるなんてテンション上がっちゃってさー。もしかしたら説明されたかもしれないけど、聞いてなかったかもしんない!」
「……」
こいつ……聞いたのが間違いだったかな。
カミとやらのせいで、人々にはダークエルフを嫌えという呪いが本能に刻まれている。
それについて、なにか手がかりでわかることがあれば対策でも立てられるんじゃないか……と思ったけど。
結局は、まだ認識阻害の魔導具に頼るしかないわけか。
1
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
【完結】大魔術師は庶民の味方です2
枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。
『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。
結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。
顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。
しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる