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第十章 魔導学園学園祭編
698話 ははーん
しおりを挟む「……くそっ、どこに……」
周囲を探しても、それらしい人はいない。
学園祭で来場者も多い……一度見失えば、探し出すのは簡単ではない。
写真を握る手に、力が入る。
「……っ」
この写真を落としたのは、師匠。……その確証はないけど、それは可能性がかなり大きい。
だって、私と師匠が映った写真を持っているなんて……師匠以外に、考えられない。
しかも、日常の一コマを切り取ったような写真。
第三者に写真を撮ってもらった記憶なんてないし、もしそうならこんな自然な表情にはならないだろう。
二人とも、楽しそうに笑っている。そんな日常の、何気ない……
「こっちか……いや、あっち……?」
右を見ても左を見ても、目的の人物は見当たらない。さっき肩がぶつかった人が師匠だとして、振り向いたら誰もいなかった。
どんな格好をしているかも、わからないのだ。
それに……エルフを見つけ出すのは、容易ではない。
「……いないっ」
考えてみれば、エルフが素顔を晒していれば、たとえどんなに人が多くてもわかる。騒ぎになる。あの髪の色と白い肌の色は目立つ。
でも、そうならないってことは……
ルリーちゃんと同じように、認識阻害の魔導具を使っている可能性が高い。
私は、ルリーちゃんは最初からルリーちゃんと認識していたから、魔導具の効果はなかったけど……なにも知らない人ならば、魔導具の効果は絶大だ。
クレアちゃんに、その顔を晒すまでバレなかったように。
「じゃあ、どうしようも……いや」
もしも魔導具を使われていたら、どうしようもないのではないか。そんな気持ちが湧いてきたけど、引っかかることがあった。
魔導具……魔導具のことをわかる人なら、どうだ?
魔導具に詳しい人なら、認識阻害の魔導具を見破る方法、なんてことを知っているんじゃないのか。
そう考えて……
「ピアさんに……あれ」
魔導具に詳しいピアさんに話を聞こうと、踵を返したけど……足が止まった。
ここ……どこだっけ。
いや、学園内であることは間違いないんだよ。でも、写真の落とし主を探すのに夢中で、とにかく走っていた。
その結果、どこだかわからない場所に来ていた。普段なら、いくら広い学園内でも居場所の見当はつくけど……
学園内のためあちこちに屋台が並んだり飾り付けされたり……しかも人の数も全然違うといったいつもとは違う装いに、道がわからなくなってしまった。
「あぁもうっ……」
冷静に考えれば、校舎の位置とか形とかで、現在地を予想することはできる。でも、それができてもピアさんの屋台がどこにあったか覚えてないし、道もわからない。
適当に走ってきたせいで、どの道を通ってきたかもわからないし……
私としたことが、師匠を見つけたかもって気持ちでいっぱいになってた。ネクちゃんは体調崩してたのに置いてきちゃったし。
「……一旦落ち着こう」
そうだ、一旦落ち着こう。師匠が来ているのなら、それは私に会うためじゃないだろうか?
つまり師匠も、私を探しているはず……私だけが必死になって探さなくても、師匠も探しているのならきっと会える。
なにも、私に見つからないように逃げているわけでもないんだし。
「ふぅ……ちょっと休憩」
近くにあったベンチに、腰掛ける。
改めて、周りを見る。……この中から人探しってのは、ちょっと難易度が高い。しかも、もしかしたら魔導具を使ってるるのかもしれないのだ。
私から師匠を探すのはなかなか難しい。でも師匠から私を見つけるなら、そう難しくはないはずだ。
なんてったって、私はめいど服を着ているんだから。他に着ている人はいないし、目立つよね。
とはいっても、私がこの服を着ているって事前に知ってないと、意味ないんだけどね……
「はぁーあー、どこにいるんだろう」
「誰がだい?」
「うひゃっ」
空を見上げ、独り言のつもりで呟いていたら、それに答えられて思わず変な声が出てしまった。
後ろには背もたれがあるから良かったけど、なかったら驚いて後ろに倒れていたかもしれない。
私は上に向けていた顔を、正面へと戻した。
「が、ガルデさん?」
「よっ」
そこにいたのは、Bランク冒険者であるガルデさんだった。
それに……
「フェルニンさんも」
「お久しぶり」
Aランク冒険者であり、ガルデさんの幼馴染だというフェルニンさんがいた。後ろで結んだ白髪が眩しい。
二人とも、会うのは冒険者としてが多かった。まあガルデさんは、『ペチュニア』でちょいちょい会っていたけど。
二人が私服で並んでいるのは、なんだか珍しい光景だった。
「二人とも、学園祭来てたんだね」
「あぁ、せっかくだからな。エランちゃんたちにも会えるだろうと思ってな」
ガルデさんとは、授業の一環でちょいちょい会っていたが……それでも、魔導大会の件からだからずいぶん久しぶりな気がする。
その魔導大会で、フェルニンさんは決勝にまで勝ち残っていたもんな。相当な実力者だ。
さて、いつもならばガルデさんと同じパーティーを組んでいるケルさんとヒーダさんが、いるはずなんだけど……
「今日は、二人だけなの?」
「あぁ。ケルもヒーダも別件で今日は外してる」
ふぅむ、いつも三人セットだったから変な感じだ。
それに、幼馴染の男女二人が学園祭に訪れているなんて……
「ははーん、デートか」
「ち、違う!」
私の指摘に、フェルニンさんの白い肌はほんのり赤く染まっていた。
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