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第十章 魔導学園学園祭編
732話 ゴールへ
しおりを挟む「こ、こっちであってるの?」
「うん、間違いないよ」
私は、理事長室で見た肖像画のことを思い出す。
そこには、歴代の理事長の絵と名前がそれぞれ飾ってあった。そして、その中には当然初代理事長のものも。
理事長室に最後に入ったのはいつだったか。でも、なぜか覚えている。何度見たわけでもないのに。
だから私の足に、迷いはなかった。
真ん中の道を進んで、進んで、進んで……
その先に、つい……
「ゴール!」
景気のいい掛け声とともに、私たちはゴールした。
ゴールに待っていたのはナタリアちゃんで、パチパチパチと拍手をしている。
残り時間は、三分。いやあ、ギリギリだった。
「おめでとう。今日はエランくんたちが初めてのゴールだ」
「お、そうなの? やった」
「まだお昼前だしね」
時間帯はわりと早い方だし、まだそれほど参加者は多くない……のかもしれない。
それでも、初めては初めてだ。なんだか、気分がいいね。
これまで、魔導具を試したり喫茶店だったりといろんなところに行ったけど、こうした参加型の出し物はまた違った楽しさがある。
すごい楽しかった。
「それにしても、すごいよね! 異空間に転送、そこに迷路作るなんてさ」
内容もそうだったけど、まずはそこにいたるまでの発想。そして実際にやったのがすごい。
魔法はイメージ……つまり発想力が大事だけど、そういう意味ではナタリアちゃんの発想力は私より上かもしれない。
「考えたのはみんなで、だよ。ボクはただ、それを実践したにすぎない」
「実際に実践できるのがすごいのよねぇ」
なんでもないように言うナタリアちゃんだけど、クレアちゃんの言うように簡単にできることじゃない。
教室の扉を境に、その先に異空間を作り出す。そこに迷路を作って罠を設置して……どれほどの魔力が必要なことか。
しかも、これを維持するんだ。ヨルもまた、教室内で魔法による種族変化の空間維持をしてたし……
さすが、二人とも魔導学園の新入生で【成績上位者】に選ばれただけある。
え、私も【成績上位者】ですけどね? ま、自慢じゃないけども?
「それにしても、あの罠……ミミックとかどうしたの」
「ダンジョンにツテのある知り合いがいてね。借りたんだ」
……モンスターって借りられるものなのか……
ダンジョンの関係者……冒険者の知り合いがいるのかな? 私で言う、ガルデさんたちみたいなものだ。
そういえばガルデさんとフェルニンさん、ちゃんとデートを楽しめただろうか。フェルニンが自由なのは昨日だけだって話だったけど。
まあ、あの様子じゃガルデさんはなんとも思ってなさそうだったけど。
「借りたものだから、ゴーレムみたいに壊されなくてよかったよ」
ははは、とナタリアちゃんが笑う。
なんかちょっと違和感のある言い方だな……
「もしかして、ゴーレム壊しちゃだめだった?」
「……だめ、とは言わないけど」
私の言葉に、ナタリアちゃんは笑いを止める。
そして、視線をそらして……非常に言いにくそうな雰囲気を出していた。
「ゴーレムは、壊される想定じゃなかったから……」
「え、でも罠だったんでしょ?」
「罠というか……行き止まりにぶつかったお客さんを驚かせるくらいの役割だったよ」
「……それだけ?」
「それだけ」
あれぇー……そうだったのか。
そういえばあのゴーレム、ゴーレムなりの迫力はあったけど、出現した以降動く素振りもなかったな。
人を驚かせるためだけなら、それも合点がいく。
「道理で、手応えのないゴーレムだと……」
「手応えがなくて悪かったね……」
「コロニアちゃん!?」
後ろから声が聞こえ、私は弾かれたように振り向く。
そこには、ゴーレムを召喚したであろう本人……コロニアちゃんが、頬を膨らませて立っていた。
今の言葉……やっぱり、コロニアちゃんがゴーレムを召喚したのか。
いつもはマイペースでなに考えてるかわからないところもあるコロニアちゃんが、頬を膨らませて不満げにしているのは珍しい。
「えっと……コロニアちゃん?」
「どうやら、脅かし用として設置しただけのゴーレムが破壊されたことが悔しいやら悲しいやらだったらしくてね」
「えぇえ!? ご、ごめん!」
私がゴーレムを破壊したことで、コロニアちゃんが不機嫌……っぽい感じになってしまったらしい。
なんてこったい。そりゃ、言われてみればあの位置にゴーレムがいたのはおかしかったけどさぁ。
妨害用なら、道の途中に置けばいいだけの話だし。
「いやぁ、ゴーレムに驚いちゃってつい……お、驚いたって意味じゃ、成功だと思うよ!?」
「驚いただけでゴーレムに立ち向かってあまつ破壊する人なんていないだろうけどね」
「ぅぐ!」
クレアちゃんめ、痛いところを突いてくるじゃないか。
そりゃあ、あの時ちょっとは、ゴーレムだわーい倒すぞー、って気持ちもなくはなかったけど……ちょーっとだよ?
とはいえ、実際に破壊してしまったのも事実。
「ご、ごめんコロニアちゃん。ホントに。お詫びになんでもするから」
「ん?」
ん? ってなんだよナタリアちゃん。
同じように、コロニアちゃんも私を見ていた。
「……なら、パフェ奢って」
それは、なんともかわいらしい要求だった。
まさか王族にたかられるとは思ってなかったけど、しょうがない。いくらでも奢ってやろうじゃない!
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