749 / 1,142
第十章 魔導学園学園祭編
737話 怖いものなし
しおりを挟むアルミル・カルメンタール……サプライズゲストとして学園祭に来た彼の魔導講義は、時間にして三十分程度のものだった。
"四柱魔導士"ってやつの一人で、魔導のエキスパートと呼ばれる人物だ。
彼の話は知識もそうだけど、声の迫力からして人を離さないなにかがあるようだった。
「はぁあ、素敵な時間だったわ」
話が終わり、人々が解散していく中で、クレアちゃんは興奮冷めやらぬ雰囲気だった。
かなりの有名人だし、そんな人の話を聞けるのは貴重だもんな。
「クレアちゃん、熱心に聞いてたもんね」
「そりゃあそうよ、むしろエランちゃんはなんでそんな冷静なのよ。
あの聡明なアルミル・カルメンタール様を前にして」
クレアちゃんが、私をジト目で見てくるけど……
そう、めい? あのおじいちゃんが?
確かに、話している姿は立派だったし、かなりの貫禄が見て取れた。でも……
「……」
「なによ、その渋い顔は」
私、あのおじいちゃんがオールバックの若者と口喧嘩みたいなのしてるとこ見ちゃったからなぁ。
おじいちゃんが魔導のエキスパートで、若者が武術のエキスパートだったっけ。
仲が良くないのは一目瞭然だったけど、あんな姿見ちゃったら……聡明なんて、ねぇ。
「あ、そうだ、わたしちょっと挨拶してくるよ。クレアちゃんも行く?」
「…………はっ?」
ぱん、と手を叩く私を、なに言ってんだこいつみたいな目を向けてくるクレアちゃん。
最近辛辣な視線向けてくることが多いなぁ。それだけ気を許してくれてるってことなんだろうけど。
「いや、え、は? 挨拶って……いやいや、無理でしょ!」
「行けるって。ほら、私会ったことあるし」
「なんの根拠もない!」
行けると思うんだけどなぁ。
クラスでの出番まで、もう少し時間はあるし……おじいちゃんに挨拶してから、お昼食べて教室に行こう。
よし、そうしよう。
「じゃ、行こうか!」
「ちょっ……なんでこう、思いきりがいいのよエランちゃんは!?」
周囲の人たちがあちこちに歩き出す中、私は舞台の方へ。
クレアちゃんも、どうしようか迷っているようだったけど、結局ついて来たみたいだ。
「なんだ、やっぱりクレアちゃんも行きたいんじゃん」
「エランちゃんが無礼を働かないか心配なのよ! というか、なんで雲の上の存在にそんなほいほい会いに行こうって思えるのよ!」
「なんでって……」
うーん、あんまり深く考えたことはなかったなぁ。
みんなにとっては、雲の上の存在……か。そりゃすごい人なんだろうけど。
私はあのおじいちゃんより、すごい人を知ってるし……
「私ってほら、王様に呼び出されること多かったじゃない? だから……偉い人に会うの慣れちゃってるのかも」
「……慣れるものなの、それって」
「多分?」
アルミルおじいちゃんが"四柱魔導士"でも魔導のエキスパートでも、この国の国王はそれよりも偉いんだろう。
そんな人と結構会ってるから、偉い人と会うありがたみが薄れているのかも。あんま緊張しない。
なにより……アルミルおじいちゃんが世の中に四人しかいない"四柱魔導士"でも、私の師匠はそのてっぺんの"魔導賢者"なんだ。
一番すごい人と暮らしてたんだから、それ以上に緊張することなんてない。
「クレアちゃんはビビり過ぎなんだよー。なにも取って食われやしないって」
「……その肝の据わり方、見習うべきかどうか悩むところね。
いや、そんな域に行ったらもう戻れなくなる気がする」
ぶつぶつとなにかを言っているクレアちゃん。
まったく、ルリーちゃんに刺々しかったあの態度を少しは出せばいいのに。
「それに、相手は凄腕の魔導士かもしれないけど、ナタリアちゃんのおじいちゃんだよ? お友達として挨拶するだけでも、変なことじゃないでしょ」
「……ちょっと待って。ナタリアちゃんとアルミル様ってそうなの? いや、カルメンタールって同じだからそうじゃないかとは思ってたんだけど」
おっと、口が滑ってしまった。いかんいかん。
ともかく、そうやって話している間に、舞台の近くへ。
とりあえず、裏へ回ってみましょ。
「お疲れ様でした、アルミル氏」
裏へと回っていく……その最中、声が聞こえた。タメリア先輩のものだ。
やっぱり、こっちで合っていたみたいだ。
「いや、私などの力でよければ、いくらでもお貸ししよう。もっとも、私でなくても誰にでもできることだ。こんなおいぼれでも、必要としてくれるならばありがたいがな」
「そんなご謙遜を。アルミル氏の代わりなんて他に居ませんよ……」
「こんにちはー」
「……」
タメリア先輩とアルミルおじいちゃん、二人が話している中に、私はできるだけ元気な声を出して挨拶をする。
私の後ろから、クレアちゃんが申し訳なさそうに出てくるのが見えた。
二人とも、しばし目を丸くして……
「え、エランちゃん……?」
驚いた様子で、タメリア先輩が私を見た。
お、その表情珍しいね。なんかラッキーな気分。
対してアルミルおじいちゃんは、私の顔をじっと見て……
「あぁ、あの時の。国王様に一目置かれている、エラン・フィールド殿……だったかな」
どうやら、名前も覚えてくれていたようだ。
この髪の色だ、特徴を覚えてもらっている自信はある。でも、名前も覚えてくれていたなんてね。
ろくに自己紹介もしなかったのに、それだけ印象的だったってことかなー?
10
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる