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第十章 魔導学園学園祭編
812話 昔の記憶
しおりを挟むルリーちゃんの知り合いと同じ名前をしている女性、リーフェルさん。どうやら顔立ちや声も似ているみたいだけど、決定的に違うところがある。
それは、リーフェルさんが人間だということ。ルリーちゃんの知り合いはエルフなのだから、どれだけ似ていても違うってことだ。
だけど……
「記憶……ないんですか?」
あっけらかんと言うものだから、思わずスルーしそうになってしまった。
でも、それは聞き飛ばせないことだ。
昔の記憶がない……と、リーフェルさんはそう言った。
「えっと、うん。そうなの」
「それって……」
「あ、でも気にしないで。記憶がないって言っても、日々の生活に支障があるわけじゃないし……」
どうやら、自分が記憶喪失だということを知った私たちが気に病むかもしれないと思ったのか、手を振りながら気にしないでと言う。
その姿は、明るく振る舞っている……だけのようにも見えるし、本当に本人も気にしてないように見える。
実際、記憶がないことを気にしてない人だっているだろう。私がそうだ。
「……いつから、記憶がないってわかったんです?」
一歩前に出て、クレアちゃんが聞く。
記憶喪失だとわかったのは、いつなのか。私は十年前に記憶喪失だとわかり、以降はそのまま過ごしている。一方ラッへは、記憶を失ったばかりなので幼児退行みたいになっている。
リーフェルさんは、言われなきゃ記憶喪失だとわからないほどにしっかりしているから、記憶喪失になって結構経つのだろうか。
「そうねぇ……気がついたら自分が何者かわからなかったのよ。でも、名前だけは覚えてて。記憶喪失のまま旅を続けて……かれこれ五十年くらいになるかしら」
「へぇ、そうなんですか」
気がついたら記憶がなかった……か。それは、怖かっただろうな。
私はまだ小さかったから、それほど深刻には受け止めてなかった。ラッへは幼児退行するほどすべてを忘れているから、本人がどう思っているのか……思えているのか、わからない。
リーフェルさんはまた別……自分の名前以外を忘れてしまっていた状態。名前だけ覚えているというのは、ある意味全部忘れているよりも怖いのかもしれない。
どうせなら一部だけ覚えているより、全部忘れてしまったほうが精神的に楽なのかも……
「……ん?」
あれ、でもちょっと待って。リーフェルさん今、なんて言った?
名前以外忘れていた。それは大変、なんて言葉では言い表せない。
問題はその後だ。記憶喪失のまま、旅を続けて……
……五十年……?
「ねえ、聞き間違いかな……私、リーフェルさんが今五十年って言ったように聞こえたんだけど」
「奇遇ね、私もよ」
「わ、私も……」
クレアちゃんとルリーちゃんに確認をするけど、二人とも私と同じように聞こえたらしい。
どうやら、私の耳がおかしくなってしまったわけではないようだ。
「ええと……私、今なにか変なことを言ったかしら?」
当のリーフェルさんは、きょとんと首を傾げている。
自分が言ったことの意味に、気づいていないのか?
「ええと……リーフェルさん、今何歳ですか?」
「……ごめんなさい、名前以外のことは覚えてないから、記憶喪失だってわかってからの年数しか数えられないわ」
頭を抱えるリーフェルさん。そりゃそうだ、名前以外わからないって言うんだから、旅をした五十年以前何年生きてきたかなんてわかるわけがない。
私だって、師匠に発見されたなんにもわからない状態だったんだし。ただ、見た感じ六歳くらいだったみたいだ。
だから、覚えてないことを責めるつもりはないけど……
「……私が 、おかしいのかな」
五十年……五十年だよ? それだけあれば、その人の見た目は大きく変わる。
例えば幼児でも、立派な大人になるはずだ。もしかしてリーフェルさんは、かなり小さい頃に記憶を失ったのか?
……いや、ないな。そもそも、リーフェルさんはどう見ても二十から三十代。多めに見たとしても四十代前半ってところだ。
とても、五十年生きてきた人の容姿じゃない。
すごい若作りしている? それとも、五十年っていうのはお茶目な嘘か?
「……三人共、どうかした?」
……その可能性が高いな。だってそんなあからさまな嘘、誰も信じるはずがない。
「やだなー、もうリーフェルさんったらこんなときに冗談言わないでよ」
「冗談は、なんにも言ってないけど……」
……なんだろう、この反応は。
「リーフェルさん、もしかしてすごくその……失礼だけど、美容に気を遣ってる? じゃないと、そんなきれいじゃいられないでしょ」
「いや、特には……」
……リーフェルさんは、冗談も嘘も……なにも言っていない。真実しか。
そして、本人はなにもしていないと言う。若作りに見せるとか、そんなことは。
……というかリーフェルさん、仮に記憶喪失になってから五十年生きてきたとして。記憶喪失になる前は、子供だったのかそれとも大人だったのか?
もしも、記憶喪失になる前に大人だったとして……つまり、それから五十年生きてきて容姿がまったく変わっていないとしたら……
そんな種族はもう……エルフ族、しか……
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