984 / 1,198
第十二章 中央図書館編
971話 知らないことはワクワクする
しおりを挟む「おや、もうこんな時間ですね」
と、イルスさんが口にする。
私もその言葉に反応して窓の外を見ると、空はすっかりオレンジ色だ。
「わ、いつの間に」
オートラインさんに誘われた時はまだ、お昼時って感じだったのに。
そうだよなぁ、午前中はお城行ってたんだ。すっかり昔のことみたいだなぁ。
「そろそろ帰った方がいいかなぁ。もぐもぐ」
「菓子摘まみながら言うんじゃねえよ」
結局、お茶にお菓子にとあれこれ出してもらっちゃった。おかげでお腹いっぱいだ。
「申し訳ありません。ご主人の変な趣味に付き合わせてしまって」
「いかがわしいことしてるみたいな言い方やめろ」
「いやあ、いいですよ。どうせ今日はあの時もう暇だったし」
なにしようかなってときにオートラインさんと会って誘われたんだし、いい暇つぶしにはなったって感じだよ。
そろそろ帰宅しようと準備を始める。まあ荷物なんて荷物もないんだけど。
「フィールド嬢、これを」
「え? わっ、お菓子だ」
イルスさんから、袋詰めにされたお菓子を渡される。
透明な袋で、中身が見える。さっき食べたおいしいお菓子だ!
それにリボンでかわいらしく包装もされている。わぁ、なんかすごい。
「どうぞ、本日のお礼です」
「えぇ、えへへ。お礼なんて」
「こちらが無理やり引き留める形になってしまいましたから。帰ってからお食べください」
うーん、別にお菓子とかいいんだけどなぁ。でもまあ、善意で渡してくれるならありがたくもらっておこうかなぁ。
えへへへへ。
「お菓子好きとか、少しは女らしいとこあんじゃねえか」
「女だよ!」
「ま、そんなんで喜ぶとかまだまだガキだけどな」
「そのガキに求婚なさっていたのは誰でしたっけ」
「だ、だからあれは違うっての。俺とあんなにやり合えるなんてそんなにいねえから、度々俺と手合わせしに来いって意味でなぁ」
二人の軽口を見ていると、なんだか和むなぁ。
結局二人の関係はわからずじまいだったけど。こうして遠慮なく言い合いが出来る相手ってのはいいもんだよね。
さて、荷物も持ったしお菓子も持ったし。帰るとしますか。
「それじゃ、私帰りますね」
「えぇ。ぜひまたいらしてください。あ、この人に無理に付き合う必要はないので」
「あはは」
二人とお別れを告げてから、私は家の外に出る。
最後までイルスさんは見送ってくれたけど、オートラインさんは部屋の中に……
「おい」
「ん」
振り向くと、さっきまで部屋の中で寝転がっていたオートラインさんが立っていた。
ちなみに傷口については、充分に反省したと判断されてイルスさんさんに治してもらった。ずっとあのままっていうのもつらいだろうしね。
てか、見送りとかしてくれるタイプだったんだ。
「まー……なんだ。また来い」
「……ふふっ」
なんか、ぶっきらぼうだな。でも、らしいっちゃあらしい。
私はぶんぶんと手を振って、二人に笑ってみせる。
少し家から歩いていったところで、再び振り返る。こうして見ると、普通の家と変わらない。
まさか家主は武術のエキスパートが住んでいて、地下にはあんな部屋があるとは思わないだろう。
「それにしても、オートラインさんとも仲良くなるとはなー」
初めて見かけたときは、私はこの人と関わることはないんだろうなと思っていたけど。
いつの間にか、手合わせまでしちゃって。私もまだ知らないことを知れて。
いい勉強になったよ。
「マーチさん、アルミルおじいちゃん、オートラインさんか……」
それぞれ、開発研究のエキスパート。魔術のエキスパート。武術のエキスパート。
分野の違いのせいか、アルミルおじいちゃんとオートラインさんはそりが合わないみたいだけど。
マーチさんはノマちゃんの身体のことをいろいろ調べてくれているし。アルミルおじいちゃんは、ナタリアちゃんの祖父だ。
学園祭じゃ、二人だけでちゃんと話が出来たはずだ。あの後ナタリアちゃんにもお礼を言われちゃったしね。
そんで、オートラインさん。荒々しい感じだけど、脳筋ってわけでもない。多分。
「ひひっ」
『嬉しそうだな』
「そりゃ、まだまだ知らないことがいっぱいあるって知れたから! 今からワクワクしちゃって!」
今日知ったことだって、おそらく武術のエキスパートであるオートラインさんだからたどり着いたことだ。
強い魔力がなくても、使い方によって大きな力にも対応できる。それも、身体強化の魔法として。
オートラインさんの段階的な身体強化については、オートラインさん個人のものだからマネはできないけど。それでも、得たものは大きい。
「やっぱさー、自分が知らないことがあるってことは、まだ自分が強くなれる余地があるってことじゃん? それってすっごい……ワクワクするよね!」
『興奮しすぎて語彙力が吹き飛んでいるな。契約者は、生粋の魔導好きなのだな』
「そりゃもう!」
まあ、たまに戦闘狂とか呼ばれることについては勘弁してほしいんだけどね。
「あ、クロガネもこのお菓子食べる? おいしいよ」
『いや、我には小さすぎる。それでは腹は膨れん』
「そっかー、残念」
そんな会話をしながら、学園の寮へと戻っていく。
11
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!
夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。
彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。
価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い!
これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。
昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ
蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。
とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。
どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。
など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。
そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか?
毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について
水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】
千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。
月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。
気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。
代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。
けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい……
最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。
※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる