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暗殺者と第四王女
二十四話 強襲
しおりを挟む例の日……俺が第四王女を暗殺するために城に侵入し、失態を犯してしまったあの日。眠っているはずの第四王女は起きていて、見つかってしまった。それだけでなく、何者かによる放火の件。
何より……
『私が、貴方を買います!』
その一言が、俺の運命を狂わせた。いや、自分から選んだんだ。今まで、仕事のためにそのほとんどを殺ししかしてこなかった俺が。
殺しではなく、守ることを選んだ。なぜそんな決断をしたのか、今でも疑問に思うことがある。そのせいで、俺はこうして第四王女を連れ、国を出て逃亡する道を選ぶ羽目になった。
「あの……?」
「ん……あぁ、悪い」
ふと、話しかけられたことで意識を戻す。目の前には、第四王女……ティーラ・テル・アルクドの美しい顔がある。どうやら、何度も話しかけていたようだ。
「あの、お疲れなのですか? 少しお休みになった方が……」
「いや、俺に睡眠は必要ない。少し考え事……、いや思い出していただけだ」
「そう、ですか……」
そう、俺は別に眠いから意識を別に向けていたわけではない。ふと、思い出してしまっただけだ。
そしてその理由はというと……
「それにしても……なにも起こっていない、ですか」
「……あぁ」
先ほど、国の現状を確認しに行き、その情報確認も兼ねて隠れ家に戻ってきたところだ。隠れ家というよりは、一時的に身を隠すための拠点、というべきか。
そして、国に戻って得た情報を第四王女にも話したところだ。別に必要ない情報ならば話さなかったが、少しややこしい話になっている。
……例のあの日、なにも起こっていないことになっている。
「正確には、確かに城で火事はあった。だがそれは放火ではなく、住み込みの使用人のちょっとしたミスが原因でぼやが広がった、ってことだ」
「……アルフォードさんは、放火だと思っているんですよね?」
「単なるぼやにしてはタイミングが良すぎるし、なにより火の回りが早い。……ま、それはたいした問題じゃない」
実際に放火だとして、あの様子はまず内部の人間によるもの。城には基本的に侵入不可能なため、必然的に内部の人間の仕業になる。
あの火は、俺を狙ったものである可能性が高い。その場合放火でしかないわけだが、正直それはたいした問題じゃない。
なんせ……
「でも……まさか私が、失踪していないことになっているなんて」
そう、第四王女は失踪しておらず、未だ城にいるものとされている。表に出てこられない理由として、病気ということになっているが。
あの後何人かに情報収集を行ったが、返ってくるのは同じもの。どうやら王族は、第四王女の失踪を隠し、平然と国民を欺いている。
それがどのような理由によるものかわからない。国民を心配させないための優しい嘘の可能性もある。だがそうでない場合……
「なぜ、そんなことを……」
それを疑問に思うのは、第四王女に任せておこう。俺には関係のない話。存分に頭を悩ませればいいさ。
それより……そろそろ、誰が第四王女を狙っているのか明らかにしないとな。いつまでも逃亡生活を続けるわけにもいかないし、情報収集でわかったこともあるし……
「! 伏せろ!」
「へ……?」
その時だ……いやな気配を感じ、とっさに第四王女を抱きしめるようにして壁から距離をとる。次の瞬間、壁が爆発……いや、拠点が破壊される。
「ぐっ……」
「アルフォードさん!?」
拠点が破壊された……壊れたのではなく、破壊された。つまり、狙われたということだ。
少し反応が遅れたせいで、背中に少し火傷を負ったが……それどころじゃない。
「狙われてる! 一旦離れ……」
「あぁ、やっぱり生きてた」
狙われている以上、ここから離れるのが先決……しかし、それは新たな第三者の声によりかき消される。俺の者でも、第四王女のものでもない、第三者の声に。
それは、女の声だ。その声を聞いた瞬間、第四王女が息を呑んだのがわかる。そして……
「うそ……おねえ、さま……?」
この爆発を起こしたであろう人物に、驚愕した。
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