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転生魔王は体育祭を謳歌する

大役の二人

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 体育祭は、始まった。
 それぞれが、今日に向けて練習してきたことを、全力でぶつけていく。

 競技の出場者ももちろんそうだし、応援する者も全力だ。
 特に、こうしたお祭り騒ぎが好きな連中にとっては、思いっきり叫んだりしている。

 様々な競技が進んでいく中で、あっという間に俺が出場する競技がやって来る。

「さて……そろそろ行くか、さな」

「は、はい!」

 プログラム順に進み、次の競技がアナウンスされ……俺はゆっくりと、腰を上げる。
 次の競技は、二人三脚……俺とさなが、ペアで出るものだ。

「お、ふたりとも頑張れよー」

「さなちゃん、しっかり」

「う、うん。行ってくるね」

 鍵沼とあい、それに他のクラスメートからも声をかけられ、俺たちはテントを発つ。
 さなは、わかりやすく緊張しているようだ。

 元々、さなは人前に出るタイプではない。これだけの生徒の前で、というのはそれだけで、不安にもなるのだろう。
 おまけに、さなは運動が苦手だ。

 これまでの練習でだって、さなのミスでわりと失敗した面が大きい。
 俺は気にすることはないと言うのだが、本人としては、そういうわけにもいかないようだ。
 俺だって、失敗したことはあるというのに。

「さな、落ち着け。練習を思い出せ」

「は、はい……!」

 初めの方こそ失敗続きだったが、練習を続けることで、だんだん上達していった。
 失敗の一番の理由は、お互いの密着に照れてしまって、というのが大きかった。
 要は、慣れた、のだ。

 二人三脚では、息を合わせることが重要だ。
 また、男女では体格や歩幅の違いも関わってくる。

 そうした点も、徐々に克服できたはずだ。

「だ、大丈夫です。あんなに、練習したんですもんね」

「……あぁ」

 指定の場所に待機し、次の番がまだかと、今か今かと待ち焦がれる。
 他の生徒は、さなと同じように不安そうな者、逆に自信満々である者、様々だ。

 この二人三脚はお互いの絆も試される、と俺は思っている。
 俺とさなの絆は、ここにいる誰にだって負けていないはずだ。

「今は……こっちが、負けているのか」

 ふと、スコアボードを確認する。赤組と白組の現在の点数が表示されている看板だ。
 その内容は……赤組が、負けていた。

 とはいえ、まだ体育祭も序盤。まだまだ取り返せる点差だ。

『続きましては、二人三脚です……』

「お、もう出番か」

「で、ですね!」

 若干、さなの声が震えている。大丈夫だろうか。
 これまでにも、人前で走ることはあった。だが、それもせいぜいが二クラス分の人数だ。

 全校生徒の前で、となると、勝手も違うだろう。

「こ、光矢くんは……」

「ん?」

「光矢くんは……緊張、しないんですか?」

 入場していく最中、さなはそんなことを聞いてくる。
 緊張しないのか……俺は、緊張していないように、見えるのか。

 確かに、俺が魔王だった時代は、うん千うん万の魔族の軍勢を率いていた。
 その記憶に比べれば、たかだか数百の人間相手に、なにを委縮することがあるだろう。

 ……まあ、こんなこと言っても、どうしようもないわけだが。

「……緊張してるぞ、俺も」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ。表情に出していないだけだ」

 だから俺は、こう答えた。
 まあ……嘘では、ない。魔族相手に堂々立ち回ったおかげだが、今は心なしか、少し緊張しているらしい。

 それは、あの時から十数年と時が経ち、その上でこの人間の体に精神が染まっているから……なのかもしれない。
 普通の年頃の子なら、この人数相手は緊張するはずだ。多分。

「そのポーカーフェイス、うらやましいです」

「ポーカー……まあ、そんなところだ」

 よくわからない単語が出てきたが、深く突っ込むことはしない。
 そうこうしている間に、二人三脚の準備が始まる。
 互いの足首に、布を結ぶ。

 二人三脚は三組が出場する……俺とさなは、なんとアンカーを務めることになった。

『俺らの中じゃ、二人が一番息合ってるしさ』

『頼んだぜ、お二人さん』

 とは、同じく二人三脚に出場する男子二人の言葉だ。
 その際、意味深な表情を浮かべていたのが気になる。

 さなもさなで、女子に応援されていた。
 その際、なぜか俺の方を見た女子たちが「キャー」と言っていたのは、なぜだろうか。

「光矢くん……?」

「いや、なんでもない。
 ともかく、全力でやろう」

「は、はい!」

 この大人数の中で走ること、さらにアンカーという大役を任されたのだ。
 もちろん、大役だからって緊張して、固まってしまうことは避けなければならない。

 さなは、やはりまだ緊張しているらしい。
 俺には、どうやってその緊張をほぐしたらいいか、わからない。
 言葉であれば、なんとでも言えるが……

 俺は、さなの手を握っていた。

「こ、光矢くんっ?」

「肩の力を抜け。
 安心しろ、俺がいる」

「……は、はい」

 この言葉が、さなにとってどれだけの意味を持ったが、俺にはわからない。
 しかし、わずかに揺れたさなの瞳は、強く輝き……力強く、俺の手を握り返した。

 すでに準備を終えた俺たち……他の者も、順次終えたようだ。
 そして……ついに、二人三脚その競技が、スタートした。
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