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転生魔王は青春を謳歌する

達観してる

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「ほら、なにもなかっただろ」

「う、うん」

 雨の降る中、相合い傘をしていた鍵沼と小鳥遊。
 結局鍵沼は、小鳥遊を家まで送っていった。家の方向は途中まで同じだったようだな。
 その後、鍵沼は小鳥遊の傘を差して自宅へと帰宅していく。おそらく、次会ったときに返すつもりなのだろう。

 ちなみに俺とさなは、傘を買う暇もなかったので濡れながら尾行している。
 大雨でないのが幸いしたか。

「ったく、なんで俺がこんなこそこそと」

「案外ノリノリだったくせに。楽しんでたりして」

「そうだな、なぜか居たあいが慌てふためく様は、見ていて楽しかったな」

「ぅ……」

 俺の指摘に、あいはバツが悪そうに顔をしかめる。
 面白い顔だ、あいもこんな表情が出来るのだな。

 さて、小鳥遊を送り届けた鍵沼は、自分の家へと帰っていく。
 もう、あいつを尾行する必要もない。

「じゃ、俺たちも帰るか。送ろう」

「え、いやいいよ。光矢クンの家すぐそこじゃん。ボクの家まで行ってたら、無駄に濡れちゃうよ」

「今更だし気にするな。それに、一人で帰すわけにもいかんだろう。
 行くぞ」

「……うん」

 尾行が終わり、ほっと一息。これで闇野も満足しただろうか。
 俺も尾行された経験はあるが、鍵沼は俺とは違って尾行には気がつかなかったようだ。

 あいを送る道中。まばらな雨が、体を濡らしていく。
 会話という会話もなく、ただ歩いていた。

「あの……光矢クン」

「なんだ」

「今日のことなんだけど……鍵沼には、その……」

「……言わんよ」

 尾行していたことは鍵沼には言わないでくれ、か。んなもの言えるはずもない。
 わざわざ、俺から尾行をバラす必要性はないし。

 まあ……俺の知らないところで、闇野が小鳥遊に尾行していた件を話しているかも、しれないが。
 小鳥遊にならまあ、問題ないだろう。

「それにしても、あいがそこまで鍵沼のデートが気になっていたとは」

「! ち、違うし! たまたまだって!」

「はいはい」

 まさかあの時間帯に、隠れるようにしていてたまたまもないだろう。
 とはいえ、深く追及してもこれ以上に得られるものはないだろう。

 あいが鍵沼になにかしらの感情を抱いているのは、間違いなさそうだが。
 それを突っつくほど、俺は野暮ではない。

「ま、この場にさなまでいなくてよかったよ」

「それは同感」

 さなまで、尾行なんていう真似をしてほしくはないからな。

「ねえ、さなちゃんのどこが好きなの?」

「……なんだ藪から棒に」

「誰かを好きになるって、どんなのかなって」

 突然の、あいからの質問。
 さなのどこが好き、か。悩むな……

 どこが好きなのかわからないという意味ではあるが、もちろんいい意味でだ。
 好きなところが、あり過ぎてわからない。

「って、光矢クンはさなちゃんに一目惚れして告白したんだっけね」

「……そう考えると、顔、容姿、になるのか?」

「じゃあ、その頃より好きなところは増えた?
 って質問に変えるってことで」

 好きなところは増えたか、か。
 そりゃあ、何日も一緒に過ごすうちに、いろんな面が見えてきて……

「もっと好きになった、な」

「おぉ」

 それを聞いたあいは、顔を赤らめる。
 頬に手を当て、どうしようどうしようといった具合にあちこちに視線を送っている。

「なんでお前が照れる」

「や、だって……
 ボクが言われたわけじゃないのはわかってるけど、そんな堂々と好意を口にするなんて」

 恥ずかしい! と、あいは顔を覆う。

「好意を伝えることのなにが恥ずかしいんだ」

「……光矢クンってすごいよね。
 ホントに同い年の人間?」

 雨なのに熱くなったのか、自分の顔をパタパタと手で扇ぐあい。
 その、何気ない言葉に俺はハッとする。

 まさか、俺が元は魔王で、人間ではないことがバレた……!?

「なんか達観してるっていうか、大人っぽいよねー。
 いいなー、私もそんな風になりたい」

「そうか?」

「そうだよー。実のところ、大人っぽくて良いよねって言ってる子、結構いるよ?」

 大人っぽい……か。俺は、普通の高校生として振る舞っているつもりだったが。
 考えてみれば、鍵沼やクラスの連中は、もうちょっと馬鹿やってたかもしれない。

 あそこまで馬鹿やる必要はないとしても……
 今後もう少し気をつけなければ。

「しかし、そうか。そう思ってもらえるのは悪い気はしないが……」

「さなちゃん一筋?」

「あぁ」

 悩む必要などない。誰になにを思われたところで、俺の気持ちは変わらない。
 その気持ちを受け入れてもらうために、いろいろアプローチを考えているわけで。

 こんな気持ち、魔王だった頃は考えもしなかった気持ちだな。

「まったく、さなちゃんは一途に想われて羨ましいよー。
 男性経験がないからよくわかってないけど、あとひと押しだと思うんだよね」

「ひと押し……ね。
 やっぱり、一途に想われたいものか」

「そりゃー、女の子なら憧れちゃうよ」

 まるで恋する乙女のように、あいは頬を染めうなずく。
 その点で言うなら、俺はさなに高評価を貰えていることになるが。

 あとひと押し、か。
 ううむ、なかなか難しいな。

「ここまででいいよ、すぐそこだから」

「ん、そうか」

 話し込んでいるうちに、あいの家の近くまで来ていたらしい。
 あまり濡れてはいないとは思うが、念のためにちゃんと暖まったほうがいいだろう。

 それから一言二言話して、あいは自宅へと歩いていった。
 さて、俺も帰るか。
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