36 / 263
死に戻り勇者、軌跡を辿る
新たな『スキル』
しおりを挟む……時間の経過というのは、存外に早いものだ。
俺たちは、魔王を討つための旅に出るため、訓練を重ねていた。そのかいあってか、自分でも以前よりたくましくなったのではないかと思う。
ゲルドもドーマスさんもミランシェもシャリーディアも、それぞれたくましく成長していた。それぞれが『スキル』とうまく付き合い、コンビネーションを育み、時には捕まえてきた魔物と戦う。
魔物との戦いは、一対一のものから、実戦を想定しての多人数または多数魔物と、バリエーションを増やしていった。魔王復活が近づいているためか、捕まえてくる魔物の数も増えた。
そう、あれからもう、三年の月日が経った。俺がこの国に来て、みんなと出会って……長いようで、あっという間だった。
そして今日は、記念すべき日でもある。その理由は……
「……これが、『スキル』」
そう呟くのは、十五歳になったばかりのリリーだ。今日ら彼女は『スキル』を授かった。
頭の中に、あの声が聞こえたのだろう。不思議そうな表情を浮かべつつ、自分の手を開いたり閉じたりしている。
「リリーちゃん、おめでとう!」
「おめでとう、リリー」
シャリーディアとミランシェが、我先にとリリーにお祝いの言葉を贈る。
これでようやく、大人の仲間入り……そう理解したリリーは、照れたように笑っていた。その笑い顔は、以前のような子供っぽさを残しつつ、大人の色気のようなものがあった。
背中まで伸ばした髪は、自分を大人に見せたいからだろうか。短い髪も似合っていたが、長い髪もこれはこれでありだ。それに、体も女性として確かに成長している。
「うんうん、なんかこう……妹の成長を見守る、兄貴ってこんな感じなのかな」
「なに言ってんだお前は」
呆れたようにゲルドに反応されてしまった。ちょっと気持ち悪かっただろうか。
国王やドーマスさんも、リリーを祝福している。国王はともかく、ドーマスさんは完全に親の顔になっている。
「しかし、ガキだガキだと思っていたが、なかなかいい女に育ったじゃねぇか。特にあの長く伸びた藍色の髪……ぜひとも愛でたいねぇ。男を知らない純粋な瞳ってのも、いい」
「お前こそなに言ってるんだ」
「冗談だよ」
お前が言うと冗談に聞こえないんだよ。
とにかく、リリーの成長具合も大切ではあるが、今気にするべきはそこではない。リリーが授かった『スキル』についてだ。
「おめでとうリリー。それで、『スキル』は……」
「ロア兄ちゃん。うん……声が、聞こえたよ。私の『スキル』は、【絶対防御】だって。お祖父様の言った通り」
リリーの授かった『スキル』の名は、【絶対防御】。その名の通り、あらゆる攻撃を寄せ付けない、鉄壁の壁だ。
その力は、おそらくは今リリー本人が考えているよりも、凄まじい。
「じゃあ、早速で悪いけど、その『スキル』見せてもらえるかな」
「わかった」
俺たちはリリーから少し離れる。リリーは、目を閉じ集中力を高めていく。俺は【勇者】を得たとき、その能力の使い方がなんとなくわかった。
リリーもそんな感じなのだろう。両手を前に出し、深呼吸を繰り返す。そして……
「えいっ」
その掛け声と同時に、リリーを包み込むように、円状の壁が出現する。透明であるが、光の反射でそこに壁があると、わかる。
「おぉ、あれが……」
「【絶対防御】か」
「わ、わー!」
驚くドーマスさんたちを尻目に、リリーはめちゃくちゃ喜んでいる。おそらく、初めて『スキル』を使用したことで、興奮してしまっているのだろう。
よし、『スキル』の発動は、これで問題ない。後は、その性能を、本人に、そしてみんなに実感してもらうことだ。
「じゃ、次はその壁が本当に攻撃を弾くのか、確認させてもらわねぇとな」
同じことを考えていたゲルドが、言う。【絶対防御】、その名に偽りがないのかを確かめる。
問題は、なにを攻撃手段として確かめるかだ。ここは無難に、まずはミランシェの弓矢のような軽いものから、シャリーディアの精霊術と……
「ならその役目、私が引き受けよう」
「へ?」
まずはミランシェに、頼もう……そう思っていたところで、意外な人物が名乗りを上げた。
……なぜか、ドーマスさんだった。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる