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死に戻り勇者、軌跡を辿る
変わりゆく人間関係
しおりを挟むリリーの『スキル』が発現し、いよいよ旅の時が近づいていく。改めて『スキル』の訓練や、心身ともに鍛えていく。
コンビネーションも、着々と育まれている。ゲルドは憎まれ口を叩いたりするが、それは表面上のもので、実際にはちゃんとみんな仲を深めている。
……ただ、仲を深めすぎる、というのも、問題というもので……
「よぉ、ミランシェ」
「! お、おはようございます」
ある朝、ゲルドが妙に爽やかな表情で、ミランシェに声をかけた。いつもなら、なにか企んでいるような悪人面であるはずなのに。
一方のミランシェは、挨拶は返すもののそれだけで、そこから会話が弾むようなことはあまりない。基本、間にリリーが入ったりする。
だが……今日は、いつもと様子が違った。どこか、ミランシェの態度がよそよそしいというか……妙に、頬を赤らめているというか……
「これは……」
俺の脳裏に、一つの可能性が浮かぶ。ゲルドとミランシェの関係が、大きく変わる時期が、実はあったのだ。
その理由は、なにか……当時、俺はわからなかった。シャリーディアとドーマスさんはなにやら気づいたようだったが、俺とリリーは変わった二人の態度に、ただただ首を傾げていた。
その後、ゲルド本人から、教えられるまでは……
「もう、そんな時期か……」
俺は小さく、呟く。二人の間になにがあったのか、今の俺は知っている。
ミランシェに軽々しくスキンシップを計るゲルド、そんなゲルドからどこかもじもじしながら逃げるミランシェ。
うん、間違いない。これは……
「ヤッたな……」
二人は、つまり、男女の関係になった、ということだ。正確には、そこに恋愛感情はなく、まあ、言ってしまえば身体だけの関係、ってやつだ。
当時、ゲルドは妙に、自慢げに話してきたものだ。
『あの堅物だった女が、俺の腕の中で泣いてる姿は……なかなか、そそるものがあったぜ』
そこまで聞いて、俺はようやく二人の間になにがあったか、気づいた。
ミランシェは、ゲルドを嫌っていた……までとは言わないが、女性にだらしないゲルドいい感情は抱いていなかったはずだ。
そんなミランシェが、どうしてゲルドとそういう関係になったのか。そこまでは、聞き出せなかったが。
「二人とも、どうしたんだろ」
「リリーはまだ知らなくていいよ」
離れたところで二人の様子を見ていたが、ミランシェはゲルドから逃げていった。それをおかしそうに見送り、次にゲルドはこちらに向かってくる。
リリーは、退避させておく。
「よぉロア、相変わらず難しそうな顔してんな」
「そういうゲルドは、機嫌良さそうだね」
俺の肩に腕を回し、ゲルドが顔を寄せてくる。こうも上機嫌なのは、ミランシェが意中の相手でようやく振り向いてくれたから……ではない。
単純に、堅物だったミランシェの硬い扉を一つ、開けたからだ。いわば攻略できたからだ。
「あぁ、元気も元気。やっぱ、女ってのはいいもんだぜ」
「朝っぱらからすごい話してくるんだな」
「ははっ。おめえもよ、いっぺん女の身体を味わったらわかるぜ。この解放感、スッキリした状態の気持ちよさってやつがな」
ゲルド、悪いやつじゃないんだけど……こういった、下世話な話にはやっぱり慣れない。
「まあ、機会があれば、ねぇ。今はそんなこと考えられないし」
「かーっ、おかてぇなぁ。いいか、俺たちはもうじき旅に出る。旅に出たら、ヤりてぇ事も満足にヤれなくなるんだぜ? だったら、思い残すことがないようにいろいろやっとくべきだろうが」
旅に出て、なにが起こるかわからない。だから、やれることは今のうちに、か……わからないでもないけど。
そういうことも、戻ったらいろいろできる。そのために生き抜く。そう、考えていたんだよな前世の俺は……
結局、その未来はゲルド本人に、断ち切られてしまったわけだが。
「なんなら、今日にでもいい店、紹介してやろうか?」
……本当、悪いやつじゃ、ないんだけどな。
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