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死に戻り勇者、軌跡を辿る
自分の意志で
しおりを挟む「……戻って、きましたね」
「そうだね……」
……俺たちは、戻ってきた。ファルマー王国国王……俺たちが旅立った、王国にだ。
魔王を討つために旅に出て、決して短くない時間を費やした。道中では魔物や魔族と戦い、何度も命のやり取りをした。
そして、ついに魔王城へと到達し……魔王と対峙した。……ただし、魔王の死体と。
「なんつーか、やり遂げた感ねぇなぁ」
「複雑な気分ね」
本来ならば、俺たちが魔王を討つはずだった。実際、前世ではその通りの展開であった。
魔王を討つ。そのために旅を、いやそれ以前から三年もの時間をかけて、準備してきた。全ては、このときのために。
だが、結果として魔王は、マーチと名乗る別の人物に殺された。魔王が倒されたこと自体は、いいことのはず……だが、なんともやりきれない。
「! 皆様、お帰りなさいませ!」
王国の入口に近づく俺たちを、門番が見つけ嬉しそうに駆け寄ってくる。この人、見送りの時もいてくれたな。
すぐに、俺たちの帰郷は王国中に知らされる。まずは、城へ……つまり、王子の下へだ。
あまりへこんでばかりも、いられない。俺にとっては、ここからが本当の戦いと言っても過言ではないのだから。
「ドーマス様、ご家族がお待ちのようです!」
「ミランシェ様も、冒険者ギルドの方からお呼びがかかっています」
王都へと入ると、兵士たちによってドーマスさん、ミランシェが別々の場所へ。これは、前世の展開通りだ。城に、俺たち三人以外を行かせないための。
「リリー様は、こちらにお伝えしたいことがあります」
「? わかった」
リリーとも別れ、俺たち三人は城への道を歩く。
すでにこの国には、ザラドーラ・マ・ファルマー国王はいない。この一年の間で、病気により死去している。
国王の息子である王子……名前なんだっけな……そいつが、今はこの国のトップだ。とはいえ、まだ国王でないあたり、いろいろと国の中でも忙しいのだろう。
……というか、あの王子は国王の息子。そしてリリーは国王の孫、ということは……あの王子は、リリーの父親なのか。
「なんか、すげーヤだな」
「?」
その王子の命令で、俺は殺される。それは、王の間で起こる……油断していた俺に、ゲルドが剣を向けるのだ。
いくら油断しなければいい……とはいえ、自分からわざわざ逃げ場のない場所に、行くつもりはない。
考えてみれば、魔王を倒したのが俺たちではないと報告すれば、俺を脅威に感じないのかもしれないが……そんな賭けに出るつもりは、ない。
「では、お三方。王子がお待ちですので、こちらに……」
「いや、俺はやめとくよ」
「……はい?」
そう、城へは行かない……単純かもしれないが、これが一番の最適解のはずだ。
他の兵士は、ただ俺たちを連れてこいと言われただけだろう。悪いが、その使命に俺は従わない。
「いえ、しかし王子からは……」
「行かない。行くなら、ドーマスさんやミランシェが帰ってきてからだ」
勇者パーティーの力を半減させるのが、王子の狙いなのか。ドーマスさんやミランシェがいれば、あんな悲劇も起こらなかっただろう。
もしもこれをかわしたあとも王子が俺をしつこく狙うなら、この国を出る覚悟だってある。
「……おいおい、なに言ってんだロア。王子さんのご指名だぜ?」
「悪いゲルド。俺は行きたくない」
「……そうかよ」
なぜかと理由を聞かれても、頑なに行かないと答える……その、つもりだった。
だが、ゲルドのとった行動は意外なもので……同時に、どこか納得するものでもあった。
「っ、と!」
「ちっ」
気づけば、ゲルドは短剣を振るい……俺はそれを、避けていた。
反射神経で避けたのか。それとも、王都に戻った時点で、気を張っていたのが幸いしたのか。
しかし、今はそれよりも……
「ゲルド……」
「あーぁ、外しちまった」
「げ、ゲルド、さん?」
ゲルドは、舌を打つ。今のは、確実に俺の命を狙った動きだった。
そして、ここに来て俺はようやく、気づいた……ゲルドが、あのゲルドが王子の指示に従って、俺を殺した。その僅かな違和感に。
ゲルドは、国王にさえ態度を変えず、接していた。それを、なぜ王子の命令は、聞いたのか。それも、俺を殺せという内容のものを。
それ以前に……国王が死んで王子が表舞台に立ってから、ゲルドと王子は面識がないはず。そんな、いくら王子とはいえ会ったばかりの相手の言うことを、ゲルドが聞くだろうか。
「ゲルド、お前……」
「気づいてたのか? 俺がお前の命を狙ってたってよ。見事な避けっぷりだったぜ」
ゲルドは……自分の意志で、俺を殺そうと、していた?
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