86 / 263
死に戻り勇者、第二の人生を歩む
踊り子様とお友達
しおりを挟むその後、逃げようとした俺をラニーが捕まえたまま、動けないままにその場に拘束されてしまった結果……踊り子、リーズレッテに捕まってしまった。
「あぁ、やっぱり! ロア様じゃないですか!」
「ちょっ、その名前は……!」
俺の姿を見つけるや、そう手を振って近づいてきたリーズレッテ。ただでさえ、ついさっき踊りを終えたばかりの彼女に人々の視線が集まっているのだ。
当然、俺にもその視線が集まる。
だから、俺の正体を知ってる彼女に見つかる前に、去りたかったのに。なんで踊りを最後まで見つめていたんだ俺のバカ!
「し、しー!」
「?」
「ロア? あれ、アーロじゃ……うーん? その名前、どっかで聞いた……あ! もしかしてゆうし……」
「ノォー!」
くそっ、俺と勇者時代に会った疑惑のあるラニーさんにも、なし崩し的にバレてしまった!
なんだこの望んでない連鎖!
「と、とりあえずこっちに!」
「あら」
「みなさーん、ありがとー!」
ここで騒がれるのだけは避けたい。ラニーさんとリーズレッテの手を取り、この場から脱出。人がいない場所へと、移動する。
リーズレッテは、去り際に人々に手を振っていた。
「はぁ、はぁ……」
「ロア様ったら、大胆ですね」
「そ、その名前は……」
こんなに息を切らしたのはいつぶりだろう。普通に走っただけなのにかなり疲れた感じ。
リーズレッテは、俺の正体を知っている。そしてラニーさんにも気づかれた……これはもう、隠し通しておくのは無理だな。
「ねぇねぇ、ロアじゃなかったの? なんでアーロなんて名乗ってるの?」
「え、今アーロって名乗ってるんですか? なら、アーロ様ですね!」
「わっ、お、踊り子様が隣に……い、いいにおい……!」
……忙しいなこの二人!
とりあえず二人を落ち着かせ、簡単にこれまでの経緯を話す。人生二周目とか、ゲルドに命を狙われたとか、そういったややこしい話は当然抜きにしてだが。
「なるほど……勇者の旅が終わったから、お役目から解放された人生をエンジョイしようと、ラーダ村までやってきたと」
「まあ、そんなところ」
かいつまんで説明した結果、理解はしてもらえたようだ。嘘はついていないし。
「じゃあ、踊り子様とアーロは知り合いなんだね?」
「えぇ、以前ロア様……いえアーロ様率いる勇者様一行と、密な時間を過ごさせていただきましたわ」
「み、密な時間……」
「私のことは、リーズレッテでよろしいわよ、ラニーさん」
「お、おぉ! 憧れの踊り子様が、私の名前を……!」
ラニーさんは、これまでの姿が嘘のように、恍惚とした表情を浮かべて喜んでいる。それほど、リーズレッテと仲良くなれたのが嬉しかったらしい。
まあ、憧れの人とお近づきになれる喜びは……理解できる。
「アーロ様は、今お隣のラーダ村にいらっしゃるんですね?」
「あぁ。隣ってほど近くはないけど」
「なら、私次はそこに行きます」
リーズレッテは、目を輝かせながら言う。マジか~。
いやぁ、踊り子であるリーズレッテが次どこに行くか、俺が嫌と言える立場じゃないから嫌とは言わないけどね。
それに、ラニーさんのようにリーズレッテのファンがいるかも、しれないし。
「いいけど、俺の正体は秘密にしててくれよ」
「もちろんですよ、アーロ様!」
「……その、様っていうのもやめてほしいんだけど」
「えぇー、でもぉ」
なぜか、リーズレッテは初めて会ったときから俺のことをロア様と様付けで呼ぶ。まあ、俺だけでなくディアやゲルドたちも様付けで呼んでたから、俺が特別ってわけでもないんだろうが。
とはいえ、様付けは目立つ。勇者でもない、ただの人間なら、なおさらだ。
「俺からのお願いだよ、頼む」
「……わかりました。じゃあ、アーロさんで」
なぜか渋々といった感じで、リーズレッテは受け入れた。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる