死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、第二の人生を歩む

逃亡の手助け

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「まさか……国王、様が……」


 シャリーディアの告白に、メラは珍しく表情を崩し混乱を露にする。それも当然のことだろう。

 自分が住んでいるこの国の、トップに立つ男。国王が、ロアに殺人の罪を着せ、その件で指名手配をしているのだから。


「ですが、なぜ、そんなことを……」

「勇者としての力を恐れたから、でしょう。自分の地位を脅かされると、思ったのでしょうね」

「そんな……」


 もしそんな理由でロアの命を狙ったのなら、それはとても理解しがたいことだ。本当にそんな理由で、命を狙えるものなのか。


「これが、私が知るロアさんが手配されている真実です」

「……なぜ、そのことを公表しないのですか?」


 疑問は、あった。その場にいた他の兵士は国王の手中だろうし、ロアの命を狙ったというゲルドも同じくだ。

 だが、シャリーディアだけは白。ならばシャリーディアが、ロアの無実を訴えれば、疑いも晴れるのではないか。


「シャリーディア様ほどのお方ならば、きっとみんな、耳を傾けてくれます」


 シャリーディアは、大神官だ。彼女の言葉には、確かに人を惹き付ける力がある。

 彼女がロアの弁明をするならば、人々だって無視はしないはずだ。


「……そうしたら、この国は、おしまいです。それは、避けたい」

「……おしまい?」

「えぇ。だって、そうでしょう。私利私欲で、人を……それも勇者として祀り上げた人間を、殺そうとした。その事実は、国民の不安を煽り、やがて暴動が起きます」


 シャリーディアの言葉は、真理だった。ここで、国王の罪を暴けば……不満を抱いた国民による暴動が、起こる可能性がある。

 それは、シャリーディアの望むところではないのだ。


「だから、逃亡を手助けするに至ったと」

「えぇ。あの人は、誰も殺していないから」

「……ですが、実際に数人の兵士が亡くなっています。それは……」

「……ロアは、誰も殺してない。それだけは、確かなことよ」


 シャリーディアの口調は、固い。そして、確かな説得力がある。

 これは、考えたくないことだが……ロアが兵士を殺した。それを事実として広めるために、偽装工作として国王が、兵士数人を殺すよう命じたのではないか。

 ロアが犯人でない以上、そうなる。


「しかし、そのために……実際に、兵士の命を……?」


 国王であるザーラは、前王に比べればいろいろとお粗末なところはある。だが、国を思う気持ちは負けていないはずだ。そのような人物が、まさかそんなことを……

 信じられない、信じたくない。それは、ザーラの人柄以上に、リリーの父親だからと、考えるところが大きかった。


「リリーちゃんに伝えるなら、ロアさんは私が逃げる手助けをした……それだけで、いいでしょう」

「……」

「わざわざ父親や、共に旅をした仲間がロアさんを殺そうとしたなど、言わなくていい」


 それは、シャリーディアなりの慈悲なのだろう。彼女だって、リリーにつらい現実を打ち明けたくはない。

 そう、リリーからの頼みは、ロアのことだ。事件の真相ではない。彼が、生きていること……それを伝えるだけでも、リリーの重荷はだいぶ軽くなるはずだ。


「……ロア様は、どちらに行かれたのです?」

「そこまでは、わかりません。私は、ともかく国の包囲網が固まる前に逃げるようにと、進言しただけですから」


 ロアの行き先、それはシャリーディアも知らないようだ。嘘をついている様子はないし、本当に知らないのだろう。

 ということは……シャリーディアは、ロアの命が危ないのを知り、自身の立場が危うくなるのも構わずにロアを逃した。現に、ロアを逃がしたと疑われている。

 疑われても、そしてロアがどこに逃げたのかわからなくても……それでも、彼の逃亡を手伝った。行き先がわからないということは、もう会えないかもしれないのに。


「なぜ、そこまで……」


 気づけば、口をついて出ていた。その言葉が。

 どうしてそこまでして、ロアに尽くすのか……メラには、わからない気持ちだったから。
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