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死に戻り勇者、因縁と対峙す
厄介なモンスター
しおりを挟む目の前で、地面の中から現れたのはワモ二グラというモンスターだ。こいつは、見上げるほどの巨体でありながら、驚くほど素早いのが特徴だ。
「プルルル……!」
「おい、なんか鳴いてる……鳴いてるのかこれ?」
「あぁ、めっちゃ威嚇してる」
「なんで!?」
俺たちを見るその目は、敵意に満ちている。普段は温厚なモンスターであるはずなのだが……
これまでのモンスターの活性化の異変と関係あることは、間違いなかった。
「普段温厚なはずなのに、いったいどうしたんだ……」
「温厚!? あれでか!?」
「あの血と牙と爪で!?」
「いや、普段ならだって」
そもそもワモ二グラは、そのほとんどを地中で暮らしている。こうして人前に姿を現すこと自体、あまりないのだ。
地中の中で、自分だけの部屋を作り……地中の中で、他の生き物を食べて、生活しているモンスター。それが、ワモ二グラだ。
「まあ、なんでもいいや。こいつ、俺たちに威嚇してるってことは、敵意があるってことだな?」
「まあ、そうなるが……って、おい!?」
俺がなにを言うより先に、ヨルガが飛び出す。向かう先はもちろんワモ二グラ。今の問答から、攻撃する気満々のようだ。
自分たちに敵意を持つモンスター、だからこそすぐに排除する。そういうつもりなのだろう。今までだってそうしてきたし、ここで放置しておく理由などない。
「たぁー!」
ヨルガが、その拳をワモニグラの胴体に叩きつける。
ヨルガの『スキル』は【形状変化】だが、なにも『スキル』に頼り切りというわけではない。その肉体も、ちゃんと鍛えている。
そんな、ヨルガの拳は……
「……なん、だ?」
「プルル……」
その違和感に、ヨルガは間の抜けた声を漏らす。そして、ワモニグラはびくともしないままにヨルガを見下ろしている。
ヨルガの拳は、まったく通用していなかった。
「俺の、拳が……」
「そいつに打撃は効かない! 全部吸収されるんだ!」
「なに! 早く言え!」
「言う前に駆け出したんだろ!?」
そう、ワモニグラに打撃は通用しないのだ。一切の打撃が、その体の前では無力。
どういう原理かは知らないが、打撃の衝撃を吸収してしまうみたいだ。どんな打撃も、ワモニグラには通じない。
なんせ……【獣化】したドーマスさんでさえ、打撃ではダメージを与えられなかった。
「ちっ、なら……」
打撃が通用しないならば、他の方法で攻撃すればいい。その考えに至ったヨルガは、ワモニグラから距離を取る。
そして、地面に落ちている小石を手に取り、『スキル』を発動させる。
「これなら、どうだ!」
鋭い棒状の武器へと、小石を【形状変化】させた。打撃が通用しなくても、斬撃なら……そう考えるのは、当然のことだ。
無防備なワモニグラの胴体へと、武器を振り抜き……
「っ、なに……!」
目にも見えぬ早さで、武器が折られた。ワモニグラが、その鋭い爪で石の武器を切断したのだ。
ワモニグラが素早いのは、なにも地中の中だけではない……全身の動きが、速いのだ。
「くそっ、こいつ!」
「!」
「あ……厄介だな」
次いでヨルガは、折れた武器を投げる。しかし、それはワモニグラに当たる前に、ワモニグラは地中へと潜り攻撃を回避する。
そう、ワモニグラには打撃も通用しない、素早い、そして思いの外頭がキレるのだ。こちらの攻撃を回避する方法も、よくわかっている。
おまけに、地中へと潜られてはこちらからは手出しできない。
「あ、アーロさん……」
「大丈夫……倒せる方法なら、ある」
厄介なモンスターではある。しかし決して倒せない相手ではない。
どこから来るのか、地面の中に集中しつつ……俺は、エフィの肩を叩く。
「エフィ、キミの『スキル』が頼りだ」
「……へ? 私、ですか?」
唖然とするエフィだが、俺は真剣だ。エフィの『スキル』こそ、この場における逆転の手だ。
エフィの【放水】こそが。
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