死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁と対峙す

戦闘慣れした男

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 ヨルガに決闘を申し込まれ、俺はそれを受け……エフィを審判に、ついに決闘が始まった。

 観客は、いない。


「行くぞ!」


 決闘開始の宣言の直後、ヨルガが動き出す。手に武器は持っていないが、ヨルガの『スキル』にかかれば武器なんてそこら中から調達できる。

 注意すべきは、ヨルガの両手。あの手に触れたものは、形状を変化させるはずだから。


「まずは、これだ!」


 走りながら姿勢を低くし、右手と左手それぞれに小石を握りしめる。そして、それを【形状変化】。

 小石は、みるみる短剣の形へと、形状を変化させていく。


「……!」


 短剣、か……思い出すな、ゲルドのことを。

 主とする得物は短剣で、己の『スキル』と組み合わせて敵を倒していた、あの男のことを。


「てゃ!」

「!」


 短剣の射程内に入ると、ヨルガは右手左手を交互に繰り出す。ただ振り回すわけではなく、的確に俺の顔へと狙いを定めている。

 いい狙いだ……だが、俺にはそのくらいじゃ通じない。


「! なら、これで……!」


 上体をそらし、二刀の短剣を避ける。それに驚いたヨルガが、さらに何度も短剣を振り回す。

 ただ乱暴なものではなく、やはり俺の体を的確に狙ったもの。ヨルガはモンスターを追い払うくらいしか戦闘経験がないはずだが、いい戦闘能力を持っている。

 ヨルガは、筋がいいのかもしれない。


「よっ、ほっ」

「くそ、当たらねぇ!」


 しかし俺は、それらを簡単に避けていく。相手が普通の人ならばこれで勝負がつくだろう猛攻だが、残念ながら俺は普通の人ではない。

 【勇者】により身体能力が大幅に上昇している。また、上昇しているのは動体視力や、反射神経も同じだ。


「ほっ」

「なに!」


 そして俺は、冷静に攻撃を見極め……右手から振り下ろされる短剣を、受け止める。短剣とはいえ材質は石だ、受け止めるのにそこまで苦労はない。

 驚いたヨルガだが、すぐに切り替え左手に構えた短剣を突き刺すように俺の顔へと放つ。しかし、それも俺は手首ごと掴んで動きを止める。


「チッ……なかなか、やるじゃないか!」

「どうも」

「ならこいつは、どうだ!」


 ヨルガは両手から短剣を放つ。そして素早く、その両手で俺の服を触る。

 すると、俺の服は形を変えていき……まるで、ロープのように細長くなり、俺の両腕ごと体を縛った。


「! こんな、ことまで……」

「これで動けないだろ!」


 うまいやり方だ。得物を受け止められたのを、それが短剣を押さえられたと取るんじゃなく、逆に俺の両手を封じると取るとは。

 俺の手が塞がっているその間に、俺を両腕ごと縛る。やはり、戦闘能力が高い。以前、どこかでそういった経験でもあるんじゃないかと、疑いたくなるほどだ。


「おらぁ!」

「よっと!」

「!」


 ヨルガは、鋭い蹴りを放つ。両腕ごと体を縛られている俺には避けられないと思ったのだろう……だが、甘い。

 こうして縛られたからといって、まだ足がある。足さえ動けば、飛んで避けるのは容易い。


「っ、ミノムシかよ!」

「ひどい言い草だな」


 ヨルガの拳を、蹴りを、ぴょんぴょんと飛んで避けていく。とはいえ、このまま避け続けているのも芸がない。

 俺は、足を滑らせた……というのを装い、体勢を前へと落とし……ヨルガの額に、頭突きをくらわせた。


「いっ……つ! この、石頭が!」


 もろにぶつかってしまったためか、ヨルガはふらふらと額を押さえながら後退している。

 ヨルガは、俺を睨みつけたままだ。……しまったな、俺が余裕でヨルガの相手をしているというのが、勘付かれたか?


「なら……こいつで、どうだ?」

「?」


 急にうつむいたかと思ったヨルガは、その場にかがみ……地面に、両手を置いた。

 その直後……地面が、揺れる。まさかまたワモニグラが……!?


「いや、違う……」


 揺れるは揺れるでも、先ほどの地中の底から響くような、揺れではない。

 これは……まさか、地面が……


「柔らかく、なってるのか……!?」


 地面が、柔らかくなり……まるでトランポリンのように、周囲が揺れていた。地面が、【形状変化】したのだ。
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