死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

文字の大きさ
148 / 263
死に戻り勇者、因縁と対峙す

噂の話

しおりを挟む


「セント町かー、どんな所だろうな」

「さあな……」


 他のみんなが寝静まったあと、見張り当番であるタンリーとへヴァは適当な岩に腰掛け、会話を交わす。

 陽気なタンリーと、物静かなへヴァ。一見正反対なこの二人であるが、実は馬が合うようで、よく一緒にいる。

 二人は焚き火を囲うように座る。火を起こせば自分たちの居場所を知られてしまう危険はあるが、モンスターは火を嫌う生き物だ。それに、夜に焚き火もなしに過ごすというのは、冷える。


「でよ、さっきの話の続きだけど」

「まだ続けるのか」

「そりゃー、なにか話でもしてないと退屈すぎるじゃんか!」


 身振り手振りで、やたらとリアクションの大きなタンリー。そんな彼を若干冷ややかな目でへヴァは見つめながらも、タンリーは話をやめる気配はない。


「リリー様に踏まれたいってやつか?」

「だから、冗談だっての。お前だって、ザーラ様よりリリー様に治めてもらいたいと思ってるだろ?」

「……本音を言えばな」


 はぁ、とため息を漏らし、へヴァは答える。このようなこと、兵士が……いや、国民が言おうものならば即打ち首だろう。

 タンリーはそれをわかっているのかいないのか、へヴァの言葉にうなずいていた。


「だろ? ザーラ様は、ザラドーラ様に比べたら……国民よりも、自分たちのことばかりを考えている感じがするんだよな」

「それに、妙な噂も聞いたぞ」

「噂……?」


 噂、と気になる単語を漏らしたへヴァに、タンリーは首を傾げた。それを見て、へヴァは口を開く。


「お前も聞いたことくらいあるんじゃないか? ……ザーラ様が、勇者様を暗殺しようとしたって話」

「あぁ……確かに、聞いたことあるかもな」


 ザーラの、良からぬ噂……それはいろいろ聞きはするが、ここ最近で真新しい噂は、それだ。

 しかし、それは噂でなくてはならない。国王が、国を、世界を救った勇者を殺そうとしたなどと……とんでもない、ことだ。


「国ん中じゃ、勇者様が兵士を殺して、国外へと逃亡したって話になってるが……」

「その実、ザーラ様が勇者をハメようとしたんじゃないかってやつな」


 実際に、殺された兵士は存在する。それは、タンリーもへヴァも知らない兵士だ。国に仕える兵士は、数多くいるから、全員の顔を覚えるなど不可能だ。

 知り合いでなくてよかった、と言っていいのか。もしこれが、知り合いであったら……とても、こうしてのんきに考えることは、できなかったかもしれない。


「どっからそんな噂が出てきたのかはわからないけど……」

「ま、否定できないのがそれだけ現国王の人望ってことだよな」

「勇者様は、今もどこかで生きてるかもしれないってことだ」


 もちろん、勇者の生死など、彼らにとっては関わりのないことだ。見張りとは言っても基本的には暇なもの、せめて興味のある話題を膨らませて時間を潰したいものだ。

 タンリーもへヴァも、勇者と会ったことはない。遠目から見ただけだ。しかし、それでもわかるほどに……いい人そうで、あった。

 そんな人物を殺害しようと考えるなどと……


「ザーラ様は、なにを考えているのか」


 ボソッと、へヴァはつぶやく。勇者であろうとなかろうと、国王が誰かを殺害しようとするなどと、おかしな話だ。

 その真意はわからないし、考える必要もないことではあるが……


「そういや、こういう噂もあったよな。国王の命令を受けて、実際に勇者様を殺そうとしたのは、ゲ……」

「ふぁあ……よく寝た」

「!」


 タンリーが続きを話そうとしたが、それを中断させる声……今しがた、話題に出そうとした男が、こちらに歩いてきていた。

 ボサボサの髪をかき乱し、あくびをしている男……


「ゲルド様……おはようございます」

「おぅ。おめぇらもご苦労だな」


 気づけば、すでに夜明けが近い。随分と、話し込んでいたようだ。

 今の一瞬だけで、徹夜の疲れも吹っ飛んでしまった。顔に出さないよう、冷静に努める。

 ともあれ……目的地、セント町まで、あと少しだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...