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死に戻り勇者、因縁と対峙す
噂の話
しおりを挟む「セント町かー、どんな所だろうな」
「さあな……」
他のみんなが寝静まったあと、見張り当番であるタンリーとへヴァは適当な岩に腰掛け、会話を交わす。
陽気なタンリーと、物静かなへヴァ。一見正反対なこの二人であるが、実は馬が合うようで、よく一緒にいる。
二人は焚き火を囲うように座る。火を起こせば自分たちの居場所を知られてしまう危険はあるが、モンスターは火を嫌う生き物だ。それに、夜に焚き火もなしに過ごすというのは、冷える。
「でよ、さっきの話の続きだけど」
「まだ続けるのか」
「そりゃー、なにか話でもしてないと退屈すぎるじゃんか!」
身振り手振りで、やたらとリアクションの大きなタンリー。そんな彼を若干冷ややかな目でへヴァは見つめながらも、タンリーは話をやめる気配はない。
「リリー様に踏まれたいってやつか?」
「だから、冗談だっての。お前だって、ザーラ様よりリリー様に治めてもらいたいと思ってるだろ?」
「……本音を言えばな」
はぁ、とため息を漏らし、へヴァは答える。このようなこと、兵士が……いや、国民が言おうものならば即打ち首だろう。
タンリーはそれをわかっているのかいないのか、へヴァの言葉にうなずいていた。
「だろ? ザーラ様は、ザラドーラ様に比べたら……国民よりも、自分たちのことばかりを考えている感じがするんだよな」
「それに、妙な噂も聞いたぞ」
「噂……?」
噂、と気になる単語を漏らしたへヴァに、タンリーは首を傾げた。それを見て、へヴァは口を開く。
「お前も聞いたことくらいあるんじゃないか? ……ザーラ様が、勇者様を暗殺しようとしたって話」
「あぁ……確かに、聞いたことあるかもな」
ザーラの、良からぬ噂……それはいろいろ聞きはするが、ここ最近で真新しい噂は、それだ。
しかし、それは噂でなくてはならない。国王が、国を、世界を救った勇者を殺そうとしたなどと……とんでもない、ことだ。
「国ん中じゃ、勇者様が兵士を殺して、国外へと逃亡したって話になってるが……」
「その実、ザーラ様が勇者をハメようとしたんじゃないかってやつな」
実際に、殺された兵士は存在する。それは、タンリーもへヴァも知らない兵士だ。国に仕える兵士は、数多くいるから、全員の顔を覚えるなど不可能だ。
知り合いでなくてよかった、と言っていいのか。もしこれが、知り合いであったら……とても、こうしてのんきに考えることは、できなかったかもしれない。
「どっからそんな噂が出てきたのかはわからないけど……」
「ま、否定できないのがそれだけ現国王の人望ってことだよな」
「勇者様は、今もどこかで生きてるかもしれないってことだ」
もちろん、勇者の生死など、彼らにとっては関わりのないことだ。見張りとは言っても基本的には暇なもの、せめて興味のある話題を膨らませて時間を潰したいものだ。
タンリーもへヴァも、勇者と会ったことはない。遠目から見ただけだ。しかし、それでもわかるほどに……いい人そうで、あった。
そんな人物を殺害しようと考えるなどと……
「ザーラ様は、なにを考えているのか」
ボソッと、へヴァはつぶやく。勇者であろうとなかろうと、国王が誰かを殺害しようとするなどと、おかしな話だ。
その真意はわからないし、考える必要もないことではあるが……
「そういや、こういう噂もあったよな。国王の命令を受けて、実際に勇者様を殺そうとしたのは、ゲ……」
「ふぁあ……よく寝た」
「!」
タンリーが続きを話そうとしたが、それを中断させる声……今しがた、話題に出そうとした男が、こちらに歩いてきていた。
ボサボサの髪をかき乱し、あくびをしている男……
「ゲルド様……おはようございます」
「おぅ。おめぇらもご苦労だな」
気づけば、すでに夜明けが近い。随分と、話し込んでいたようだ。
今の一瞬だけで、徹夜の疲れも吹っ飛んでしまった。顔に出さないよう、冷静に努める。
ともあれ……目的地、セント町まで、あと少しだ。
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