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死に戻り勇者、因縁と対峙す
なかったことにする
しおりを挟む気絶したままであったゲルドが、ついに目を開いた。
「ん……あぁ……ここ、は……?」
小さく、しかし確かに意識が覚醒したことを知らせるように言葉を紡ぐ。そして、開かれた目で右を左を、キョロキョロと見回す。
俺は、なにを言うでもなくゲルドへと近づいていく。ゲルドは今、手足を拘束している。いきなり襲いかかられることはない。
一歩一歩と、距離を縮めていき……ゲルドの目の前へと、立つ。
ゲルドの視線が、俺に向いた。
「おはよう、ゲルド」
「お、まえ……」
「目覚めがよさそう……とは、言えないけど」
相変わらずゲルドの顔面はボコボコだ。俺がそうしたんだけど。
俺の姿を確認すると、ゲルドの目が思い切り見開かれた。
「てめぇ、よくも俺を……っ!? っんだ、こりゃ……!」
そのまま俺に飛びかかってこようとするが、後ろ手に手を、そして足を縛っているため、自由に動くことはできない。
さらに、先ほど口の中に針を仕込んでいたのを注意し、体に他に武器を隠し持っていないかはすでに確認済みだ。
「くそっ……離しやがれ!」
「嫌だよ、だってそうしたら俺を殺そうとするだろ?」
「あたりめぇだ……!」
自分を殺すと堂々宣言する相手を、自由にしてやるわけにもいかない。さて、どうしたものだろうか。
ずっとこのままというわけにも、いかないだろうしな……
「ほっほ、ここにおったかエフィ、アーロ」
「! お、おじいちゃん!?」
「や、ヤタラさん!?」
ゲルドをこれからどうすべきか……考えていたところで、ふいに声をかけられた。
背後にいつの間にか立っていたのは、ヤタラさんだった。考え事をしていたためか、まったく気づかなかった。びっくりした……!
「ど、どうしたの?」
「いやなに、そろそろ朝飯の時間じゃ。呼びに来ただけよ」
「そ、それはどうも……」
なんとも、のんきな人だ……まあ、状況を掴めていないのだから、それも当然ではあるか。
もう、そんなに時間が経っていたのか。こりゃ、他の村人もすぐに外に出てくるぞ。
「てことは、早くなんとかしないとな……せめてこのうるさいのをどうにかしないと」
「誰がうるさいだぁ!?」
「もう一度気絶させるのはどうでしょう」
「!?」
こうもゲルドに騒がれては、騒ぎを聞きつけた村人に見つかってしまう。むしろ、これまで見つかっていないのが奇跡みたいなものだ。
もうエフィの言うように、強制的に黙らせてしまおうか……
「いったいなにを、そんな悩んでおるんじゃ?」
「実は……」
事情のわかっていないヤタラさんに、簡単に説明をする。ゲルドに、俺がここで生きていることを国で喋られるとまずいこと。なんとか口を塞がせたいこと。
ヤタラさんに話してもなんとかなるとは思えないが。俺の事情を知ってる人だ。なら、考える人数は多いほうがいい。
「ふむ……つまり、この方がアーロのことを国で喋ったら、いろいろとまずいと」
「はい」
一通りの説明で、ヤタラさんにも理解してくれたようだ。
人の口を塞ぐ……これが、簡単なようで案外難しい。そりゃ物騒なことをすればできなくもないけど、それだとそれでまた別の問題が出てくるし。
バングーマさん含めた兵士の人たちはともかく、口約束でも心配だしなぁ。
「ふむ……なら、ここはわしが一肌脱ぐとしようかのぅ」
「へ? ……や、ヤタラさん!?」
おもむろに、ヤタラさんは服を脱ぎ始めた。いや、一肌拭って物理的な意味で!?
上半身を脱ぎ、ヤタラさんの年齢にしてはなかなかに鍛えられた肉体が露になる。これ、そこいらの兵士よりもいい体してるんじゃね?
「さて……ゲルド殿、と言ったか」
「な、なんだ爺」
ヤタラさんは、一歩一歩とゲルドに近づいていく。
「言っとくが、力づくで俺の口を封じようったって無駄だぞ」
「……」
「それに、爺がなにしたところで俺をボコれるかよ」
ゲルドは歪んだ表情でヤタラさんを睨みつけるが、ヤタラさんはなにも言わない。
やがて、ゲルドの目の前に立つ。そして、手を伸ばして……
「!? な、なにを……」
「じっとしておれ」
普段、おとなしい……というか、温厚なヤタラ。そんな彼から、初めて圧のようなものを感じた。
ゲルドの頭に手を置き、目を閉じる。なにか集中しているようだ。ゲルドは初め体をよじり抵抗していたが、次第にその力が抜けていき……まるで眠ったように、目を閉じた。
それを確認し、ヤタラさんは手を離した。
「ふぅ……これでいいじゃろ」
「や、ヤタラさん? 今いったいなにを……」
今ヤタラさんがやったことと言えば、ゲルドの頭に手を置いたくらいだ。だが、それだけでゲルドが寝てしまうとは思えない。
あのとき、なにをしていたのか。
「ほっほ。これは、わしの『スキル』によるものでな」
「『スキル』?」
ヤタラさんの『スキル』……そういや知らないな。
ほっほっほと笑いながら、ゲルドさんは言葉を続けた。
「あぁ。わしの『スキル』は【記憶操作】というものでな」
「!? き、記憶……!?」
明かされたヤタラさんの『スキル』……それは、予想の斜めをはるか上にいったものだった。
【記憶操作】……なにそれ怖い。
「文字通り、対象の記憶を操作するというもの。彼が、このラーダ村でアーロと出会った一切の記憶を、なかったことに操作した、というわけじゃ」
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