死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

文字の大きさ
177 / 263
死に戻り勇者、因縁と対峙す

なかったことにする

しおりを挟む


 気絶したままであったゲルドが、ついに目を開いた。


「ん……あぁ……ここ、は……?」


 小さく、しかし確かに意識が覚醒したことを知らせるように言葉を紡ぐ。そして、開かれた目で右を左を、キョロキョロと見回す。

 俺は、なにを言うでもなくゲルドへと近づいていく。ゲルドは今、手足を拘束している。いきなり襲いかかられることはない。

 一歩一歩と、距離を縮めていき……ゲルドの目の前へと、立つ。

 ゲルドの視線が、俺に向いた。


「おはよう、ゲルド」

「お、まえ……」

「目覚めがよさそう……とは、言えないけど」


 相変わらずゲルドの顔面はボコボコだ。俺がそうしたんだけど。

 俺の姿を確認すると、ゲルドの目が思い切り見開かれた。


「てめぇ、よくも俺を……っ!? っんだ、こりゃ……!」


 そのまま俺に飛びかかってこようとするが、後ろ手に手を、そして足を縛っているため、自由に動くことはできない。

 さらに、先ほど口の中に針を仕込んでいたのを注意し、体に他に武器を隠し持っていないかはすでに確認済みだ。


「くそっ……離しやがれ!」

「嫌だよ、だってそうしたら俺を殺そうとするだろ?」

「あたりめぇだ……!」


 自分を殺すと堂々宣言する相手を、自由にしてやるわけにもいかない。さて、どうしたものだろうか。

 ずっとこのままというわけにも、いかないだろうしな……


「ほっほ、ここにおったかエフィ、アーロ」

「! お、おじいちゃん!?」

「や、ヤタラさん!?」


 ゲルドをこれからどうすべきか……考えていたところで、ふいに声をかけられた。

 背後にいつの間にか立っていたのは、ヤタラさんだった。考え事をしていたためか、まったく気づかなかった。びっくりした……!


「ど、どうしたの?」

「いやなに、そろそろ朝飯の時間じゃ。呼びに来ただけよ」

「そ、それはどうも……」


 なんとも、のんきな人だ……まあ、状況を掴めていないのだから、それも当然ではあるか。

 もう、そんなに時間が経っていたのか。こりゃ、他の村人もすぐに外に出てくるぞ。


「てことは、早くなんとかしないとな……せめてこのうるさいのをどうにかしないと」

「誰がうるさいだぁ!?」

「もう一度気絶させるのはどうでしょう」

「!?」


 こうもゲルドに騒がれては、騒ぎを聞きつけた村人に見つかってしまう。むしろ、これまで見つかっていないのが奇跡みたいなものだ。

 もうエフィの言うように、強制的に黙らせてしまおうか……


「いったいなにを、そんな悩んでおるんじゃ?」

「実は……」


 事情のわかっていないヤタラさんに、簡単に説明をする。ゲルドに、俺がここで生きていることを国で喋られるとまずいこと。なんとか口を塞がせたいこと。

 ヤタラさんに話してもなんとかなるとは思えないが。俺の事情を知ってる人だ。なら、考える人数は多いほうがいい。


「ふむ……つまり、この方がアーロのことを国で喋ったら、いろいろとまずいと」

「はい」


 一通りの説明で、ヤタラさんにも理解してくれたようだ。

 人の口を塞ぐ……これが、簡単なようで案外難しい。そりゃ物騒なことをすればできなくもないけど、それだとそれでまた別の問題が出てくるし。

 バングーマさん含めた兵士の人たちはともかく、口約束でも心配だしなぁ。


「ふむ……なら、ここはわしが一肌脱ぐとしようかのぅ」

「へ? ……や、ヤタラさん!?」


 おもむろに、ヤタラさんは服を脱ぎ始めた。いや、一肌拭って物理的な意味で!?

 上半身を脱ぎ、ヤタラさんの年齢にしてはなかなかに鍛えられた肉体が露になる。これ、そこいらの兵士よりもいい体してるんじゃね?


「さて……ゲルド殿、と言ったか」

「な、なんだ爺」


 ヤタラさんは、一歩一歩とゲルドに近づいていく。


「言っとくが、力づくで俺の口を封じようったって無駄だぞ」

「……」

「それに、爺がなにしたところで俺をボコれるかよ」


 ゲルドは歪んだ表情でヤタラさんを睨みつけるが、ヤタラさんはなにも言わない。

 やがて、ゲルドの目の前に立つ。そして、手を伸ばして……


「!? な、なにを……」

「じっとしておれ」


 普段、おとなしい……というか、温厚なヤタラ。そんな彼から、初めて圧のようなものを感じた。

 ゲルドの頭に手を置き、目を閉じる。なにか集中しているようだ。ゲルドは初め体をよじり抵抗していたが、次第にその力が抜けていき……まるで眠ったように、目を閉じた。

 それを確認し、ヤタラさんは手を離した。


「ふぅ……これでいいじゃろ」

「や、ヤタラさん? 今いったいなにを……」


 今ヤタラさんがやったことと言えば、ゲルドの頭に手を置いたくらいだ。だが、それだけでゲルドが寝てしまうとは思えない。

 あのとき、なにをしていたのか。


「ほっほ。これは、わしの『スキル』によるものでな」

「『スキル』?」


 ヤタラさんの『スキル』……そういや知らないな。

 ほっほっほと笑いながら、ゲルドさんは言葉を続けた。


「あぁ。わしの『スキル』は【記憶操作】というものでな」

「!? き、記憶……!?」


 明かされたヤタラさんの『スキル』……それは、予想の斜めをはるか上にいったものだった。

 【記憶操作】……なにそれ怖い。


「文字通り、対象の記憶を操作するというもの。彼が、このラーダ村でアーロと出会った一切の記憶を、なかったことに操作した、というわけじゃ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...