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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する
予想もしてなかった出来事
しおりを挟む探していたロアが見つかったこと。そしてゲルドの護衛としてついていった五人の兵士のうち四人が、なんらかの理由で死んだこと……
あまりに両極端な報告を受けたリリーは、頭の中がごちゃごちゃになるのを感じていた。
望んでいた報告と、望んでいなかった報告。こんなにも落差の激しい報告を受けた経験など、初めてのことだ。
「……ふぅ……うん。大丈夫、落ち着いた」
「そうですか?」
あまり無理に落ち着く必要はないと思うが……と、リリーを心配そうに見つめていたメラは思う。
それでも、心を落ち着かせる。でないと、メラにいらぬ心配をかけてしまうだろう。
もっとも、メラ自身そのようなことは気にしていないし、むしろ無理に気丈に振る舞おうとしている方が心配だが。
「それにしても……いろいろ、あったみたいだね」
「えぇ」
深く息を吐きながら、リリーは椅子に座り直す。いろいろなこと……では済まされないだろうが、他に表すべき言葉が見つからない。
元々、リリーとメラはゲルドの動向に不信感を抱いていた。ロアが国を出ていった際、その場にいたのは彼とシャリーディアだと聞く。
ゲルドがロアに対して、なんらかの感情を抱いていることはリリーも知っていた。そしてあの日……メラはシャリーディアに会い、ゲルドがロアになにをしたのかを知った。
そんなゲルドが、見知らぬ地へ赴くという。なにか不審な行動をしないか、その調査を含めて数人の兵士を、護衛として同行させたが……
「まさか、その先でロアお兄ちゃんを見つけるなんて。予想もしてなかったよ」
「まったくですね」
まさか、個人的にロアの生存を調べていたこちらよりも先に、モンスターの生態調査で見知らぬ地に向かったゲルドたちが見つけるとは。
……そこで、リリーは引っかかる。
「ロアお兄ちゃん、大丈夫なのかな? だってゲルドさんは、ロアお兄ちゃんの命を……」
兵士がロアと出会った。ということは、ゲルドもロアと会っている可能性が高い。
ゲルドはロアの命を狙っていた。そんな男が、ロアと会ってロアが無事で済むとは思えない……
「それは、大丈夫なようです」
「そうなの?」
「えぇ。これも詳細は伏せられましたが、ゲルド様がロア様のことを覚えて帰ることはないそうです」
……なにそれ怖い。リリーはただそう思った。
覚えて帰ることはない、とはなんとも物騒だろうか。その言い回し的にまさかゲルドを殺して口を封じる、なんてことはしないとは思うが。
とはいえ、ロアが大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。リリーは無理矢理納得することにした。
「じゃあ……ともかく、ロアお兄ちゃんは無事なんだね?」
「そのようです。元気で暮らしているから心配しないで、とも言っていたようです」
「そっかぁ」
ひとまず、ロアに命の危険がないことがわかり、一安心だ。
ロアがチュナールを通じ、メラに、そしてリリーに己の生存を伝えてくれた。その気になれば、内密にすることもできただろうに。
それは、自分たちのことを信頼してくれてのものだ。むやみやたらに、このことを口外するわけにはいかない。たとえドーマスやミランシェでも。
「でも……お姉ちゃんになら、いいよね」
リリーの頭の中に浮かんだ人物……優しく、強くきれいなお姉ちゃん。シャリーディア。彼女になら、ロアのことを知らせてもいいのではないかと思う。
彼女だって、ロアのことは気がかりだったはずだ。自ら協力して逃したのだから。
それに、多分シャリーディアはロアのことが好きだ。そんな相手が、生きて元気に暮らしていると知れば、彼女も喜ぶことだろう。
「お姉ちゃんなら口も固いし、大丈夫だよね!」
「リリー?」
「メラ! ディアお姉ちゃんにもロアお兄ちゃんのことを伝えるのよ!」
「……いいのですか?」
「お姉ちゃんなら大丈夫! それに、お兄ちゃんだって本当はお姉ちゃんに伝えたいはずだよ!」
今回リリーの耳にロアの生存報告が入ったのだって、兵士チュナールを通じたメラを通じて、というものだ。直接本人から聞いたわけではない。
だが、ロアだってきっと、直接シャリーディアに伝えたいはずだ。自分を逃してくれた相手に、自分の無事を伝えるために。
「メラなら、またお姉ちゃんに会えるよね?」
「まあ、できなくはないですが……」
「じゃあ、よろしく!」
本当は、リリーが直接伝えたいのだろう。だが、お互いの立場もある……王女と大神官。会おうと思って会える簡単な関係ではない。なくなってしまった。
なので、こっそりとシャリーディアに会いに行けるメラの存在は、リリーにとってありがたかった。
「きっとお姉ちゃんも喜ぶよ! ふふっ」
シャリーディアの喜んだ顔を思い浮かべているのだろうか、リリーも嬉しそうだ。先ほどは両極端な報告を受け不安定になってしまったと思ったが、どうやら本当に落ち着いたらしい。
精神的に大きく成長したなと、メラは一人感心する。そんな、少しだけ大きくなった少女を見ながら……
「わかりました。では、行ってまいりますね」
己の『スキル』【分身】を使い、シャリーディアの下へと分身体を、向かわせた。
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