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死に戻り勇者、魔王の娘と対峙する
お食事の時間
しおりを挟む「部屋は、とりあえず好きに使ってくれ。空いてるとこならあるから」
「私は、別にロアと同じ部屋でもいいけど?」
「っ、だ、ダメに決まってるだろ」
俺も風呂を済ませ、晩御飯の最中……就寝場所を考えている俺に、ディアがまたとんでもないことを言い始める。
ディアのやつ、こんな感じだったっけ? なんかいろいろ積極的すぎないか。
「んー、それにしてもロアの料理、おいしい!」
「それはどうも」
そんなディアは、俺が作ったものを実に美味しそうに食べてくれている。表情がコロコロ変わってくれて、見ていて飽きない。
ガリーは、いつも無表情だからなぁ……なんか、新鮮だ。エフィたちにもたまにご馳走することはあるけど、あくまでおすそ分けって形だから……
こうやって、食事中の反応を見るのは、あまりないなぁ。
「むー……」
「どうしたディア、微妙にブサイクな顔して」
「ぶ、ブサイクじゃないもん!」
先ほどまで満面の笑みを浮かべていたかと思えば、途端に眉にしわを寄せ唸る。言うほどブサイクではないし、なんならかわいいが……こうしてからかえるのも、シャリーディアとしてなら無理だっただろうな。
コホン、とディアは咳払いをして。
「その……女として、なんか負けた気分っていうか……」
「……」
その考え事は……俺のほうが、料理がうまいらしいことに対する、複雑な感情から来るものだった。
かわいいこと考えるんだな。
「ディアは料理、苦手なのか?」
「苦手っていうか……あんまり、しないかな」
バツが悪そうに、食事を続けていくディア。そういえば、旅の最中は料理は、基本的にミランシェかまさかのドーマスさんが担当していたなぁ。
ま、大神官というディアの立場を思えば……わざわざ料理をする必要性すらも、ないのだろうが。
「うぅー、なんか悔しい……」
「あはは、完璧だと思ってたシャリーディア様にも、苦手なことがあったんだな」
「むー、その呼び方やめてよ。嫌味?」
どうやらディアは、俺にはシャリーディアと呼ばれたくはないらしい。そこには特別感があって、なんというか照れくさいが。
大神官シャリーディアといえば、それはもうとんでもない美人で苦手なことなどない完璧な女性……といった印象を持たれている。
それが、料理のことで悩むとは……こんなことを知っているのは、ごくわずかだろう。
「まあまあ拗ねるなって。久しぶりにディアと話せて、ちょっとからかいたくなっただけなんだから」
「……もう」
考えてみれば、俺が彼女を、ディアとして話をするのは……あの時、村で別れて以来だ。その後再会こぞしたものの、情けないことに俺はシャリーディアの正体に気づけなかったわけだし。
ゲルドに命を狙われ、ディアに助けられ……その後、ようやくディアのことを思い出したが、話ができたのはたった数分。それも、そのほとんどがディアが俺を軸に時間を戻した、というネタバラシだった。
なので、こうしてゆったりとした時間で話をするのは、突然ディアが村から消えた、あの日以来……
「あぁ!」
「! ど、どうしたのよいきなり!?」
ふと、聞こう聞こうと思っていて忘れたことを思い出し、声を上げる。ディアは当然、ガリーも肩を震わせて驚いた。
「いや、ごめんごめん。ディアに聞きたいことがあって、それを思い出してさ」
「聞きたいこと?」
「そう。……なんであの日、なにも言わずに村からいなくなったんだ?」
ディアは、隣村からちょくちょく遊びに来ていた。それが、ぱったり来なくなった。
その理由を大人たちに聞いてもはぐらかされるばかりで、結局、ディアがいなくなった真相は、わからずじまいだった。
「あ、そっか。あのときは他のこと話せる雰囲気じゃなかったもんね」
「そうそう」
国から逃げるために、時間がなかったタイミングだ。あのときは、他のことは話せる余裕はなかった。
だけど、今なら時間はたっぷりあるし。聞きたいことは聞いておこっと。
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