234 / 263
死に戻り勇者、因縁の地へと戻る
戻ってきた勇者
しおりを挟むリリーの危機……それを聞きつけ、俺は因縁の地、ファルマー王国へと戻ってきた。
リリーの侍女であるメラさん曰く、寝室でリリーは何者かに刺されていた。以降彼女に被害は及んでいないが、内部犯である可能性が高い。
いつまた、リリーに危害が及ぶかはわからない。俺は、メラさん、そしてディアと共に、ファルマー王国へと戻ってきたわけだ。
「さて、ここからどうするか……」
国への入り口、大門が見える位置で待機し、俺たちはここからどう動くかを改めて確認する。
国に着いてからの動きはいろいろ確認してはいたが、まずはやはりどうやって、国の中へ入るかだ。
「やっぱり、壁を超えるのが一番だと思うんだけど」
「でも、それじゃあ目立つんじゃない?」
俺が考えていたのは、国を囲っている壁を飛び越える、というものだ。
人が飛び越えるのは不可能な高さではあるが、俺ならば問題ない。問題があるとすれば、誰かに見つかる可能性もなくはないということだ。
「壁を超えるやつがいるなんて思わないだろ。大丈夫だって」
「うーん……」
「入るのはそれでよくても、国内での行動はどうしますか? 国を追われたはずのロア様が歩いていては目立つのでは?」
俺が国を出た後、指名手配のように国中に扱われているらしい。なので、国中の人間が俺の顔を知っていると考えていい。
人間ってのは、知った相手でも意外に気付かないものだ……とはいえ、さすがに国中の人間を欺ける自信は、ないしなぁ。
「隠れて移動する、しかないよ。あいにく、隠れて移動するのには慣れてるしな」
「……では、それで行きましょう」
「いいの!? それでいけるの!?」
結局、いろいろと考えてもこれ以上にいい案は出てこなかったのだ。ま、最悪俺とディア、メラさんは無関係だってことにできればいいさ。
ディアとメラさんは、堂々と正面から帰る。俺は、壁を登って国内に入る……合流地点を決めておいて、あとで合流すれば問題はないだろう。
「じゃ、とりあえずここで別れよう」
「えぇ。危なくなったら、ロアだけでも逃げてよ。私たちならどうとでもなるんだから」
「はいはい」
大神官であるディア、リリーの侍女であるメラさん……二人の立場なら、妙な疑いを持たれても、その気になれば力押しで通すことができるだろう。
俺は、指名手配犯という扱いだ。バレて大騒ぎになったらアウト、慎重に行動しなければ。
まずはディアとメラさんが、正面門の門番に国へ入る手続きをする。そして、門番の注意がそれている間に、俺は国内に入る。
「よ、っと」
こんな高い壁、ちゃんと超えられるかは自分でも半信半疑だったが……うん、問題はなく、飛び越えられた。
なんだかんだで、鈍ってはいないな。
「えっと、合流地点は……」
人が通っていない道を選び、合流地点である教会の裏側へと移動する。
教会には普段人は通らない。なので、誰かに見つかる可能性も少ないというわけだ。
「ここを通って……こっちか」
久しぶりのファルマー王国、それも教会なんて、国に住んでいた時でさえ行ったことがない場所だ。
道に迷いつつも、目的地に近づいていく。教会自体は、わかりやすい……なので、目印を見失うことはないだろう。
今のところ、人に見つかってはいない。時間帯は朝方なので、まだ寝ている人も多いのかもしれない。
「リリー、待ってろよ……!」
はやる気持ちを抑え、俺は合流地点へ。このまま城へと走っていってしまいたいが、そこまで無鉄砲に行くことはできない。
合流地点には、すでにディアとメラさんが待っていた。
「二人とも、早いな」
「ロアこそ。回り道してくるから、もうちょっとかかるかと思ってたのに」
「急いできたからな」
なんとか誰にもバレずに、国内に侵入できた。あとは、城の中へとどう忍び込むか。
城を見上げて……考え込んでいた、そのとき。
「……てめえ……ロア、か……?」
一番聞きたくない声が、聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる