死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星

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死に戻り勇者、因縁の地へと戻る

音沙汰なし

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「大丈夫かリリー、ここで待ってても……」

「ううん、私も行く」


 リリーの部屋に行くにあたって、リリー本人を連れていくかどうか……悩んだが、本人の強い意志で連れていくことになった。

 自分を守ってくれたメラさんの心配もあるだろう。それに、殺し屋がいたことを思えば、リリーを一人残して行くのも、気が引ける。

 リリーには、俺の側を離れないように強く念押しする。


「よし、行くぞ」

「うん。じゃあ、入り口はあっちだから……」

「しっかり掴まってろよ、リリー。あと、口閉じといた方がいいぞ」

「え? え、ちょ……まさか、いや、え、きゃあぁあああああ!?」


 リリーを腰に抱き着かせ、俺もリリーを離さないように肩を抱き……その場で、勢いよくジャンプ。このまま、リリーの部屋まで飛んでいく!

 腰に抱き着き、きゃあきゃあと声を上げているリリーは、普通に入り口から入るものだと思っていたのだろう。

 それが正当な進入方法ではあるが、俺はそうするわけにいかない。なにより、中からリリーの部屋まで行くより、こっちのほうが断然早い。

 舌を噛まないため、リリーのは途中から黙り込んだ。


「よっ、と」


 なんの邪魔もなく、俺たちはベランダへと着地する。

 腰にしがみつくリリーは、いつの間にか目も閉じた状態で、ぷるぷると震えていた。

 その姿はかわいらしいものがあるが、いつまでもそうしているわけにもいかない。俺はリリーを離し、部屋の中へと足を踏み入れる。


「……」


 ぱっと見、部屋の中に異常は感じられない……だが。

 なんだろう、この違和感は。いつものリリーの部屋を俺は知らないが、多分、これはいつものリリーの部屋とは違う気がする。


「め、メラ……いないの?」


 俺の後ろに引っ付いたリリーが、探し人の名前を口にする。

 そう、リリーの記憶では、この部屋にはメラさんがいるはずなのだ。


「部屋にさっきの殺し屋が現れ、それをメラさんが守ってくれた……だったよな」

「う、うん」


 部屋に突然、リリーの命を狙う者が現れた。その結果、メラさんがとる行動は一つだろう。

 主を、いや単純にリリーという女の子を守る……それこそ、命を懸けて。

 メラさんは殺し屋からリリーを守る。気絶したリリーが部屋から落ち、それを殺し屋が追ってくる。この二つの事実の間に、なにがあった。

 殺し屋に立ち向かったメラさんが、敵わなかったとしよう。現に殺し屋は俺の前に現れたのだから。

 ならば、メラさんはどこに消えた?


「……争った形跡は、あるな」


 部屋の中は、惨劇……というほどでもなかったが、確かに争った形跡があった。

 だが、血が飛び散っているとか、そんなのではない。流血沙汰にはなっていないということだ。


「……」

「大丈夫だ、そんな顔するな」


 不安げな表情のリリーを見て、俺はなんとか落ち着けようと、優しく声をかける。

 目の前で、自分を守るメラさんの姿を見ているのだ。その不安は、俺が考えている以上だと思う。


「いったいどこに……」


 あの殺し屋は、容赦はしないと思う。こう言ってはなんだが、自分の邪魔をしたメラさんを、放置しておくとは思えない。

 立ちはだかるメラさんを倒し、リリーを追いかけた……そう考えるのが自然ではあるが。

 ……いや。確か殺し屋は、リリーが落ちてきた直後に、現れたよな。


「とりあえず、部屋の中を探そう」


 動けず、声も出ない状態にされている可能性もある。俺とリリーは、手分けしてメラさんを探す。

 物置の中、布団の下、ベッドの下……あらゆるところを探すが、しかしメラさんは見つからない。

 そもそも、部屋の中に人の気配がないのだ。


「メラ……」


 大切な人が見つからない……その気持ちは、俺にもわからんでもない。

 今にも泣きそうな顔で、スカートを握りしめるリリー。その、震えている肩をそっと叩く。


「メラさんのことだ、きっとどこかに身を隠しているだけだ」

「……うん」


 そう、あの人はかなりしっかりした人だ。それに、彼女の『スキル』は【分身】……その力を使えば、早々遅れを取ることもないだろう。

 加えて、聞いた話ではメラさんは元は怪盗だったとかなんとか。実際その身体能力には目を見張るものがある。

 そんな彼女が、室内で満足に動けないだろうとはいえ、滅多なことになるとは思えない。


「……そういや、ディアは?」

「ディアお姉ちゃんは、別に部屋をとって、休んでもらってる」


 この場にいない、ディアの行方を問う。俺とは違い、ディアは正当にこの城を、いやこの国を大手を振って歩ける。

 だから、ディアは俺とは違ってこの城に泊まることもできたわけで。


「なら、ディアのところに行こう。なにか、異変を感じているかもしれない」

「うん」


 まだ朝早い……とはいえ、なにかしらの異変を感じ取ったディアが、警戒している可能性はある。

 俺はリリーに案内を頼み、リリーが使っている部屋へと移動する。もちろん、移動の間人に見つからないように注意してだ。


「リリー、俺だ、ロアだ。入るぞ」


 ドアをノックし、中に呼び掛ける。応答は、ない。

 もしやまだ寝ているのだろうか。その可能性もある。

 少し、躊躇しつつ……俺はドアを、開けた。


「おーい、ディア……」


 ……部屋の中には、誰もいなかった。
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